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3話

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 彼はきっとこれからも普通に生きてゆくと思っていただろう。死ぬかもしれない、なんて、思ったことはなかったはずだ。けれども彼には確かに死がもたらされた。大災害や馬車による事故などでもない突然の死、なんて、きっと誰だって想像しないだろうけど。まさかボールに殺されるとは、と、今あの世で思っているのではないだろうか。

 ただ、それもまた運命である。

 他人を傷つけて生きていたらそういうことになるのだ。

 そういう意味では自業自得。


 ◆


 あれから数年、もう数えられないくらいいくつも季節が過ぎた。

「今日は何の日か覚えているかい?」
「えーと……結婚記念日!」
「正解!」
「確か、二回目よね」
「うん! あったりー。ちゃんと覚えてくれていたんだね!」

 私は今、良き夫に愛され、幸せに暮らしている。

「だからさ、今日は、お祝いの料理を作るよ」
「いいの!?」
「うん! いっつも作ってもらってるからね。たまにはお返ししないと」
「貴方の作る料理、とっても美味しいから好きなの」
「あはは、ちょっと照れるなぁ」

 オーガンディーとの道はあそこで途切れてしまった。けれども今はもう後悔はしていない。いや、後悔していないとかそういった次元の話ではない。あの時彼と離れておいて良かった、と、今は迷いなく確かにそう思っている。

 彼と離れたからこそ今の夫である彼と巡り会え結婚もできたのだ。

 あの日の絶望、悲しみ、痛みも。

 すべて無駄ではなかった。


◆終わり◆
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