タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  ※タイトルのせいで分かりづらくはありますが、独立した作品です。

四季

文字の大きさ
18 / 128

17.生きていれば

しおりを挟む
 エリカが去ってから。

「何だあのババア」

 アンダーは呆れ気味に呟く。

「彼女はエリカさん。私の父でもある先代国王の第二夫人だった女性だ」
「変なやつだな」
「そしてサルキアの母親でもある」

 そう聞いてアンダーは何やらハッとしたような目つきをした、が、すぐに溜め息をこぼす。

「そーかよ。……お嬢には似てねーな」

 アンダーは組んだ手を頭の下へ入れながら横になって天井を見上げる。

「アン、君は意外と、サルキアのことを気に入っているのだな」
「お嬢も口うるせーけどあそこまでじゃねーだろ」
「まぁそうだな。こう言うとエリカさんに失礼かもしれないが……サルキアには教養も経験もある。王城が生きる世界のすべてだったエリカさんに比べれば広い視野を持っているに違いない」

 するとアンダーは笑い声を発した。

「ははは! 厳しーな!」

 どうやらオイラーの発言がアンダーの笑いのツボを刺激したようである。

「いや私は事実を述べているだけだ」
「おもしれーよアンタ」
「な、なぜに? なぜそんなに面白がる?」

 オイラーは戸惑っている様子。
 だがそんなことお構いなしにアンダーは笑い続けていた。

 だが、直後。

「ッ!?」

 笑っていた顔が硬直する。

 オイラーは即座に察した。
 もう何度も繰り返していることがまた起こったのだと。

「アン、またいつものあれか?」
「……わり」
「悪くない。ただ、君のそういう姿を見ていると悲しくなる。早く解呪が済めば良いのだが」

 あの夜、受けた術は、今もアンダーを時々苦しめている。

 オイラーにとって苦しむアンダーの姿を見ることはとても辛いことであった。

「……だいぶ減ったんだ、けど、な」
「無理しなくていい、無理に喋る必要はない。何度繰り返そうとも、いつまで続こうとも、私は君に寄り添い続ける覚悟だ」

 目の前の男の身を案じるオイラーが真剣に述べれば。

「……は、アンタ……真剣な顔、しすぎ、だろ」

 アンダーは息が多く混じったような声で返した。


 ◆


 護衛の男性二人を引き連れ廊下を歩くエリカの表情は見た者を凍り付かせるような恐ろしさをまとっていた。

 こういう時、エリカに対して言葉を発せる者はいない。護衛たちでさえも彼女を恐れているのだ。ご機嫌な時であれば話は別だが、不機嫌な彼女と対等に言葉を交わせる者というのはほぼ存在しない。

 周囲がしていることは距離をおいておくことだけ。

 それが被害を受けずに済むための唯一の方法だからだ。

「害虫めが……」

 エリカは苛立っていた。

 オイラーが王となっただけでも彼女からしてみれば不愉快なことだ。なのにそこにさらにアンダーのような人間がおまけでついてきた。しかもオイラーが大切にしているときた。もはやこの場所にはエリカを苛立たせるものしかない。

「駆除してやる、絶対に……絶対に、許さぬ」

 エリカは容赦ない人間だ。

 敵意を抱けば逃がしはしない。
 どこまでも追いかけ、その毒牙で獲物を貫く。

 これまでもそうしてきたように。

 これからもそうするだろう。


 ◆


 あれから数日。

「アンダーさん、今までお疲れ様でした。解呪は完了しました。これでもう苦しみに襲われることはないでしょう」

 ついにその日が来た。

 誰もが心待ちにしていた――かどうかは定かでないが――苦痛から解放される、という意味で、待ち遠しかったその日。

「マジか」
「はい」
「そりゃスゲーな」
「褒めていただけて嬉しいです」

 ランは柔らかく微笑む。

「もし異変がありましたら改めてまたお伝えください」
「そーするわ」

 アンダーはひょいとベッドから下りた。

「ありがとな」
「どういたしまして」

 解放感に心躍らせるアンダーは短く礼を述べて気ままに部屋から出ていく。

 その背を見つめていたランは数秒の間の後に頭を深く下げた。

 そうして時が過ぎて。
 ようやく頭を持ち上げたランは次の行動へ移ろうとする。

「さて、片づけなくては」

 アンダーはもうこの部屋へは戻ってこない。
 つまりここに置かれている様々なものはもう必要ないということだ。

 治療も解呪も済んだが、まだすべきことが残っている。

 そう、それは、部屋の片づけである。

「ラン様」
「会いに、来た」

 ランが片付けようと動き出したタイミングで二つの顔が扉の隙間から覗いてきた。

「アイリーンさん……! それに、リッちゃんも……!」

 唐突に覗いてきた二つの顔が誰のものであるか気づくのに時間はかからなかった。

「部屋の整頓であればお手伝いします」
「そんな……良いのですか? アイリーンさん」
「当然です」
「ですがアイリーンさんの職務の範囲では……」
「いえ、ラン様をお支えすることが仕事ですから」

 アイリーンが協力の意思を示してくれた。
 その事実がとても嬉しくて、ランはその透明感のある面に花を咲かせる。

「ありがとうございます……!」

 そんなランに近づいてゆきその肩にそっと手を乗せるリッタ。

「リッタ、も、手伝う」
「ありがとうリッちゃん。でも大丈夫、アイリーンさんと二人でやればすぐに終わるわ」
「でも……リッタ、も、手伝いたい、リッタ、も、侍女」
「うんうん。じゃあまた別のこと頼んでもいい?」
「分かった、リッタ、ラン、支える。頑張る。海の幸、集めたり」

 やる気に満ちた顔をするリッタだが、その発言はどこかずれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...