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4話「彼の家に到着すると」
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流れに乗るようにして、ローフミール家に到着した。
「着きましたよ」
「あ、はい」
こんなことになるなんて想定外だった。
けれども運が良かったということだろう。
ちなみに、このことを母に伝えるのは、トレットがしてくれた。
母は不快そうな顔をしていたそうだ。
だがトレット相手では駄目とも言えなかったようで。
話は無事通った。
「すみませんでした、母に伝えていただく役までさせてしまって……」
「いえいえ、いいんですよ」
しかし、トレットの自宅は立派だ。二階建てのようだが、お屋敷、という言葉がよく似合うような建物。しかも、土地自体もかなり広そうで。領主というのはやはりお金持ちなものなのだろうか。
「お礼をしたいところですが、私には返せるものがなくて」
「貴女を貰う、とか?」
「えっ」
「いえいえ冗談です。何も取引したいわけではないので」
「そうですか……」
いつかはこんなところに住んでみたいなぁ。
そんな風に思うのは自然なこと。
「ではどうぞこちらへ」
「あ、はい!」
歩いてゆくトレットの背を追うように私も歩いてゆく。
◆
「ええっ、トレット、この子と結婚することにしたの!?」
家に入って一番最初に遭遇したのは冷静な使用人だったが、その次に出会ったのは妙にテンションの高い女性だった。
「母さん、やめて。まだそんなんじゃない。事情があるんだ」
母親か……しかし、それにしてはかなり若い見た目だ。
「事情?」
「彼女、家で虐げられていたみたいで」
「どうして? こんなに可愛らしい方なのに」
「髪色だってさ」
「髪の毛の色?」
「緑じゃないと駄目らしくて」
「そう……」
トレットに母さんと呼ばれているその女性は不思議なものを見たかのような顔をしていた。
きっと彼女の世界にはないのだろう。
髪色による差別なんて。
髪色のせいで虐げられることなんて。
「でも、ならうちで過ごす方が良いわね!」
「だよね」
「ええ! そう思うわ!」
それから女性は私の方へと歩いてきた。
「初めまして! トレットの母です。どうぞよろしく!」
「メリア・オフトレスと申します、よろしくお願いします」
「あらぁ、緊張しないでいいんですよ? もっと楽に楽にっ。私とも、トレットとも、仲良くしてくださいね!」
「もちろんです」
「ふふ、嬉しいわ!」
こうしてトレットの母親との挨拶も済んだところで。
「メリアちゃん、お茶でもどうかしら?」
いきなりの申し出。
でも罪悪感が大きい。
そんな良くしてもらったら……どうやってお返しをすれば良いのか分からない。
「え……そんな、申し訳ないですし、結構です」
取り敢えず言ってみるけれど。
「あらあら、遠慮しなくていいのよ。ここでは貴女は一人の人間なのだから。ここでは虐げられはしないのよ」
トレットの母親は下がってはくれない。
「ですが……そんなことまで、申し訳ないのです」
「もうっ。じゃ、勝手に淹れるわね~」
いきなり家に入れてもらったうえ、お茶まで出してもらって、とても申し訳なかった。が、出されたお茶は香りが良く味わいも深く、驚くくらい美味で。言葉が出なくなるくらい美味しくて、無意識のうちに涙までもこぼしてしまった。
「メリアちゃん、泣かないで~」
「す、すみませんっ、こんなつもりじゃ……」
「辛かったのね」
「……本当に、すみませんっ、でも……お茶、美味しくて……」
あの家ではお茶をゆっくり飲める機会なんてなかった。
たとえ淹れることはあったとしても。
飲む許可なんてもらえなかった。
「ま、メリアちゃん、ゆっくりしていってね」
彼女は私の灰色の頭を撫でてくれる。
その手つきはとても優しげで。
温かさを感じ、優しさが染みて、さらに涙が出そうになる。
「はい……」
「何ならずっとここにいていいわよ」
「すみません……」
「そういう時はね、ありがとう、でしょう?」
「……はい。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして!」
ずっとここにいたい。
そう思ってしまう。
これは夢か何かだろうか。
でも――それでもいい。
たとえ夢だとしても、いつか覚めるのだとしても、それでも。
今だけはこの優しい世界に浸っていたい。
「着きましたよ」
「あ、はい」
こんなことになるなんて想定外だった。
けれども運が良かったということだろう。
ちなみに、このことを母に伝えるのは、トレットがしてくれた。
母は不快そうな顔をしていたそうだ。
だがトレット相手では駄目とも言えなかったようで。
話は無事通った。
「すみませんでした、母に伝えていただく役までさせてしまって……」
「いえいえ、いいんですよ」
しかし、トレットの自宅は立派だ。二階建てのようだが、お屋敷、という言葉がよく似合うような建物。しかも、土地自体もかなり広そうで。領主というのはやはりお金持ちなものなのだろうか。
「お礼をしたいところですが、私には返せるものがなくて」
「貴女を貰う、とか?」
「えっ」
「いえいえ冗談です。何も取引したいわけではないので」
「そうですか……」
いつかはこんなところに住んでみたいなぁ。
そんな風に思うのは自然なこと。
「ではどうぞこちらへ」
「あ、はい!」
歩いてゆくトレットの背を追うように私も歩いてゆく。
◆
「ええっ、トレット、この子と結婚することにしたの!?」
家に入って一番最初に遭遇したのは冷静な使用人だったが、その次に出会ったのは妙にテンションの高い女性だった。
「母さん、やめて。まだそんなんじゃない。事情があるんだ」
母親か……しかし、それにしてはかなり若い見た目だ。
「事情?」
「彼女、家で虐げられていたみたいで」
「どうして? こんなに可愛らしい方なのに」
「髪色だってさ」
「髪の毛の色?」
「緑じゃないと駄目らしくて」
「そう……」
トレットに母さんと呼ばれているその女性は不思議なものを見たかのような顔をしていた。
きっと彼女の世界にはないのだろう。
髪色による差別なんて。
髪色のせいで虐げられることなんて。
「でも、ならうちで過ごす方が良いわね!」
「だよね」
「ええ! そう思うわ!」
それから女性は私の方へと歩いてきた。
「初めまして! トレットの母です。どうぞよろしく!」
「メリア・オフトレスと申します、よろしくお願いします」
「あらぁ、緊張しないでいいんですよ? もっと楽に楽にっ。私とも、トレットとも、仲良くしてくださいね!」
「もちろんです」
「ふふ、嬉しいわ!」
こうしてトレットの母親との挨拶も済んだところで。
「メリアちゃん、お茶でもどうかしら?」
いきなりの申し出。
でも罪悪感が大きい。
そんな良くしてもらったら……どうやってお返しをすれば良いのか分からない。
「え……そんな、申し訳ないですし、結構です」
取り敢えず言ってみるけれど。
「あらあら、遠慮しなくていいのよ。ここでは貴女は一人の人間なのだから。ここでは虐げられはしないのよ」
トレットの母親は下がってはくれない。
「ですが……そんなことまで、申し訳ないのです」
「もうっ。じゃ、勝手に淹れるわね~」
いきなり家に入れてもらったうえ、お茶まで出してもらって、とても申し訳なかった。が、出されたお茶は香りが良く味わいも深く、驚くくらい美味で。言葉が出なくなるくらい美味しくて、無意識のうちに涙までもこぼしてしまった。
「メリアちゃん、泣かないで~」
「す、すみませんっ、こんなつもりじゃ……」
「辛かったのね」
「……本当に、すみませんっ、でも……お茶、美味しくて……」
あの家ではお茶をゆっくり飲める機会なんてなかった。
たとえ淹れることはあったとしても。
飲む許可なんてもらえなかった。
「ま、メリアちゃん、ゆっくりしていってね」
彼女は私の灰色の頭を撫でてくれる。
その手つきはとても優しげで。
温かさを感じ、優しさが染みて、さらに涙が出そうになる。
「はい……」
「何ならずっとここにいていいわよ」
「すみません……」
「そういう時はね、ありがとう、でしょう?」
「……はい。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして!」
ずっとここにいたい。
そう思ってしまう。
これは夢か何かだろうか。
でも――それでもいい。
たとえ夢だとしても、いつか覚めるのだとしても、それでも。
今だけはこの優しい世界に浸っていたい。
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