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前編
しおりを挟む編み物が好きだった私は、百メートル以上の長さのマフラーを編みきり婚約者ハーデルに贈ったのだが。
「何だこれ、長すぎだろどうかしてるわお前」
冷ややかな目で見られたうえそんなことを言われてしまい。
「こんなん作るとか、しかも贈り物にしてくるとか、キモすぎ」
さらにそこまで言われ、ロングマフラーを両手で引き裂かれてしまって。
「お前おかしいわ。てことで、婚約は破棄! 二度と俺の前に現れるな、いいな? じゃ、永遠にさよなら」
さらには関係の解消まで宣言されてしまった。
確かに少し調子に乗り過ぎた感じはある。マフラーが長くなりすぎた、という意味では。編んでいると楽しくて、彼に贈れると思うと嬉しくて、長くなってしまって。使いづらいだろう、その程度は想像できるし理解してもいるつもりだ。
だが「どうかしてる」なんて言うのはさすがに言い過ぎではないか?
私は正気だ。
誰だってそんなことは知っている。
なのに敢えてそんな言葉を投げつけるなど、あまりにも心ない。
ちょっと変だな、と思ったとしても、だ。
マフラーが長かった程度でそこまで言う必要があるものか?
――とはいえ、今さらあれこれ考えたり言ったりしても無意味だということは事実。
なので私はハーデルとの関係を修復することは諦めた。
もう壊れてしまったものはどうやっても取り戻せない、それはこの世の理であり仕方のないことなのだ。
今はそれよりも未来を見据えよう。
絶望に溺れるのは時間の無駄だ。
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