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後編

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「アナベルさんが婚約者の方と上手くいっていないと聞いたのですが本当ですか?」

 尋ねると、奥さんは驚いた顔をした。
 どこでそんな話を知ったの!?とでも思っているのだろうね。

「どうしてそれを?」
「少し噂を聞きまして……失礼でしたらすみません」
「いや、いいのよ。そうなの、実はね」
「大丈夫でしたら詳しく聞かせていただけませんか……?」

 こうして僕は奥さんから話を引き出すことができた。
 婚約者と同居し始めたアナベルは、婚約者の母親からよく思われず、虐められてしまっているらしい。

 あんな可愛らしい娘を虐めるなんて! 許せん!

 姑と嫁の間のいさかい、なんてものは、比較的ありふれているものだ。姑は自分のテリトリーに入ってこられたような気がして嫁の存在を鬱陶しく思い、嫁は口出ししてくる姑の存在を不愉快に思う。それは何ら珍しいことではない。

 ただ、アナベルはとても親切かつ魅力的な娘だし、姑を不快にするような行動は取らないと思うんだ。あるとしたら、その善良さを不快に思われているというパターン。これなら考えられる。

「アナベルを不幸にしてしまったと悩んでいるの……私たちの紹介だったから……」

 奥さんは辛そうだった。
 熟女好きではないけれど、奥さんが辛そうだと僕も辛くなってしまう。

「あ、あの!」
「何かしら」
「よければ僕が連れ戻してきます!」
「えっ」

 この時の僕は少しどうかしていた。
 普通では到底考えられないようなことを平然と言ってのけてしまっていた。

「待っていてください! アナベルさんは僕が助け出します!」
「そ、そう……?」
「奥さん! すべて僕に任せてください!」

 こうして僕はアナベルのもとへ行けることとなった。

 人助けだけが理由かと問われればそうだと頷くことはできないかもしれない。いや、一応頷くことはできるのだけれど。ただ僕の中にある良心がそれを許さないので、多分、頷くことはしないと思う。邪な考えがあったのでは、と疑われたら、そういう要素も多少含まれていたかもしれないと答えてしまう気がする。

 それでも、邪な考えだけで動くよりかは、ずっとずっと動きやすい。

 アナベルが苦しんでいるなら僕は行く。アナベルのところへ。そして、彼女を苦しみの海から救い出すんだ。

 たとえ愛されないとしても、それでも、苦しんでいる彼女を放っておくことはできない。


 ◆


 五年後。

 僕はアナベルと結婚した。

 奥さんから事情聞いた日から準備を開始し、僕はアナベルの婚約者の家へと向かった。そして、アナベルがいる部屋へ忍び込んだんだ。彼女はかなり驚いていたけれど、苦労しているという話を聞いたことを説明すると、理解してくれた。

 それからもかなりいろんな問題が発生していたような気がする。

 でも、アナベルの両親と共に戦い抜き、婚約は無事破棄された。

 その頃には僕たちはすっかり仲良くなっていた。男女と仲というよりは同志というようなイメージにちかいけれど。でも絆は確かだった。

 以降、数年にわたり恋人同士のような生活を続け、ついにゴールイン。

 僕は最高の幸せを手に入れた。


◆終わり◆
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