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「な、何なのかしら。そんな言い方。へ、変よ!」
ミリアムは頬を林檎のように染め上げつつ慌てた調子で発する。
声はうわずってしまっていて、もはや偉大さなんて欠片ほども感じられない状態だ。今の彼女を見て『エトランジェの女神』とまで呼ばれた女性だと理解できる人がどのくらいいるだろうか。今のミリアムは、ただの初々しい乙女のようだ。
「ミリアムさん? なぜそんなに慌てているのですか」
ロゼットはまだ上半身を起こすことはできていないが、目つきはいたって普通の状態だ。意識の状態がおかしい、ということはなさそうである。そんな彼は、急にあたふたし始めたミリアムを見て何が起こっているのか理解できなかった様子。疑問符が脳内に溢れてきているような顔をしていた。
「そ、そんなことを聞かないで!」
ミリアムは反射的に鋭い言い方をしてしまう。
冷静さを欠いていたから、きちんと思考して言い方を決めることができなかったのだろう。
ただ、ミリアムは本来無礼な人物ではない。彼女は、己の言い方が若干失礼なものであったことを、誰かから言われずとも自覚しているようだった。
「失礼だったのなら謝罪します。余計なことを尋ねて失礼しました」
「あっ……い、いえ。こちらこそごめんなさい。変だったわね、急に慌てたりして……」
ミリアムは素直に謝った。
失礼な物言いをしたという自覚がしっかりとあったのだろう。
「改めて言うわ。助けてくれてありがとう」
頬を赤く染め妙に慌てていたミリアムは、その頃になってようやく冷静さを取り戻した。
横たわるロゼットに真剣な眼差しを向けて、口を動かす。
「それで、これからのことなのだけれど」
「はい」
「ロゼット、貴方はこれからは……こちらについてくれるの?」
菖蒲色の瞳は、ロゼットをしっかりと捉えている。
決して目を逸らしはしないという強い思いがミリアムの中に存在しているかのようだ。
「……はい。そのつもりでいます。どのみち……向こうには帰れませんし」
「それは、帰ることができるなら帰りたいということなのかしら」
「いえ。そうではありません。これからは真の意味で、貴女の力になりたいと思っています」
一度嘘をつかれたのだ、彼の言葉をそのまま受け取って信じることは簡単ではない。もちろん、これまで嘘をついたことがない人が絶対嘘をつかないという保証はないけれど。ただ、既に嘘をついた人の言葉を信じるのは、決して簡単なことではない。また騙されるのでは、という考えが、どうしても常につきまとってしまう。
ミリアムはロゼットのことを嫌ってはいない。いや、むしろ、好ましく思っているくらいだ。それゆえ、できれば信じたいというのが本音である。だが、信じたければ信じられる、というわけでもない。
一度起きたことに対する警戒心が強まる、それは、人間である以上やむを得ないことだ。
「……それは、本気で言っているのかしら」
「本気です。同じ境遇の人間は二人いれば十分、なのです」
「そういえば、そんなことを言っていたわね。でも、あれは適当に言っただけではなかったの? 私を騙そうとしたのではなかったの」
驚いた顔をしつつ言われたロゼットは、ふっと小さく息を吐き出して、視線を一旦何もない方へと向ける。それから少しして、目を細めたまま視線だけをミリアムへ向ける。
「それは本当のことです。一人で馬鹿にされ続けるより貴女の後を歩く方が良いのです。……このようなことを言うのは自分勝手かもしれませんが」
◆
それからもミリアムは毎日のようにロゼットに会いに行った。
病室で二人は色々なことを話す。改めて互いのことを知るために。一度崩れた信頼関係を元の状態に戻すのは簡単なことではなかった。が、ミリアムはロゼットと二人でいると楽しくて。二人の時間は確かに意味のあるものだと感じていた。
ロゼットが刺客の攻撃によって受けた上半身の前面の傷はそこそこ深く、致命傷になるほどのものではないものの、すぐには治らない。
それでも、彼の体は少しずつ回復へと向かっていっていた。
病院側が施すケアがあってこそではあるけれど。
そうして徐々に回復するロゼットを見守りながら、ミリアムは様々なものを届けた。花や本、食べ物など。持ち込み可能な範囲で色々持っていったのは、まだ豪快には動けない彼が退屈しないように、である。
◆
「おはよう、ロゼット。調子はどう?」
ミリアムがケーキを持って病室へ入っていくと、ロゼットはすぐに上半身を縦にした。
「あ。ミリアムさん。おはようございます。調子はそれなりです」
今朝は快晴。エトランジェの上空に雲はない。
「ケーキ買ってきたわよ」
ミリアムはケーキが入った箱をテーブルに置きつつ述べる。
「本当ですか……!」
「前に気に入っていたでしょう? フルーツのロールケーキ」
先日、ふと思いついて、ミリアムは近所のケーキ屋に立ち寄った。ロゼットに買っていこう、と考えたのだ。ケーキ屋で数種類のケーキを購入し、ロゼットのところへ持っていった。そして二人で食べたのだが、その時、ロゼットはフルーツのロールケーキを物凄く気に入っていた。それで、また購入することにしたのだ。
「あのケーキですか。美味しかったですね」
ロゼットは数日前の記憶を思い出すように瞼を閉じ、うっとりしながら呟く。
そんな彼を見たミリアムは、ふふっと柔らかく笑う。
「ちゃーんと買ってきたわよ」
「あ、ありがとうございます。しかし……その、代金は?」
「それは心配しなくていいわ。私が払っておくから」
「そんな……! それはなりません」
「いいのよ。私、お金には困っていないわ」
ミリアムは頬を林檎のように染め上げつつ慌てた調子で発する。
声はうわずってしまっていて、もはや偉大さなんて欠片ほども感じられない状態だ。今の彼女を見て『エトランジェの女神』とまで呼ばれた女性だと理解できる人がどのくらいいるだろうか。今のミリアムは、ただの初々しい乙女のようだ。
「ミリアムさん? なぜそんなに慌てているのですか」
ロゼットはまだ上半身を起こすことはできていないが、目つきはいたって普通の状態だ。意識の状態がおかしい、ということはなさそうである。そんな彼は、急にあたふたし始めたミリアムを見て何が起こっているのか理解できなかった様子。疑問符が脳内に溢れてきているような顔をしていた。
「そ、そんなことを聞かないで!」
ミリアムは反射的に鋭い言い方をしてしまう。
冷静さを欠いていたから、きちんと思考して言い方を決めることができなかったのだろう。
ただ、ミリアムは本来無礼な人物ではない。彼女は、己の言い方が若干失礼なものであったことを、誰かから言われずとも自覚しているようだった。
「失礼だったのなら謝罪します。余計なことを尋ねて失礼しました」
「あっ……い、いえ。こちらこそごめんなさい。変だったわね、急に慌てたりして……」
ミリアムは素直に謝った。
失礼な物言いをしたという自覚がしっかりとあったのだろう。
「改めて言うわ。助けてくれてありがとう」
頬を赤く染め妙に慌てていたミリアムは、その頃になってようやく冷静さを取り戻した。
横たわるロゼットに真剣な眼差しを向けて、口を動かす。
「それで、これからのことなのだけれど」
「はい」
「ロゼット、貴方はこれからは……こちらについてくれるの?」
菖蒲色の瞳は、ロゼットをしっかりと捉えている。
決して目を逸らしはしないという強い思いがミリアムの中に存在しているかのようだ。
「……はい。そのつもりでいます。どのみち……向こうには帰れませんし」
「それは、帰ることができるなら帰りたいということなのかしら」
「いえ。そうではありません。これからは真の意味で、貴女の力になりたいと思っています」
一度嘘をつかれたのだ、彼の言葉をそのまま受け取って信じることは簡単ではない。もちろん、これまで嘘をついたことがない人が絶対嘘をつかないという保証はないけれど。ただ、既に嘘をついた人の言葉を信じるのは、決して簡単なことではない。また騙されるのでは、という考えが、どうしても常につきまとってしまう。
ミリアムはロゼットのことを嫌ってはいない。いや、むしろ、好ましく思っているくらいだ。それゆえ、できれば信じたいというのが本音である。だが、信じたければ信じられる、というわけでもない。
一度起きたことに対する警戒心が強まる、それは、人間である以上やむを得ないことだ。
「……それは、本気で言っているのかしら」
「本気です。同じ境遇の人間は二人いれば十分、なのです」
「そういえば、そんなことを言っていたわね。でも、あれは適当に言っただけではなかったの? 私を騙そうとしたのではなかったの」
驚いた顔をしつつ言われたロゼットは、ふっと小さく息を吐き出して、視線を一旦何もない方へと向ける。それから少しして、目を細めたまま視線だけをミリアムへ向ける。
「それは本当のことです。一人で馬鹿にされ続けるより貴女の後を歩く方が良いのです。……このようなことを言うのは自分勝手かもしれませんが」
◆
それからもミリアムは毎日のようにロゼットに会いに行った。
病室で二人は色々なことを話す。改めて互いのことを知るために。一度崩れた信頼関係を元の状態に戻すのは簡単なことではなかった。が、ミリアムはロゼットと二人でいると楽しくて。二人の時間は確かに意味のあるものだと感じていた。
ロゼットが刺客の攻撃によって受けた上半身の前面の傷はそこそこ深く、致命傷になるほどのものではないものの、すぐには治らない。
それでも、彼の体は少しずつ回復へと向かっていっていた。
病院側が施すケアがあってこそではあるけれど。
そうして徐々に回復するロゼットを見守りながら、ミリアムは様々なものを届けた。花や本、食べ物など。持ち込み可能な範囲で色々持っていったのは、まだ豪快には動けない彼が退屈しないように、である。
◆
「おはよう、ロゼット。調子はどう?」
ミリアムがケーキを持って病室へ入っていくと、ロゼットはすぐに上半身を縦にした。
「あ。ミリアムさん。おはようございます。調子はそれなりです」
今朝は快晴。エトランジェの上空に雲はない。
「ケーキ買ってきたわよ」
ミリアムはケーキが入った箱をテーブルに置きつつ述べる。
「本当ですか……!」
「前に気に入っていたでしょう? フルーツのロールケーキ」
先日、ふと思いついて、ミリアムは近所のケーキ屋に立ち寄った。ロゼットに買っていこう、と考えたのだ。ケーキ屋で数種類のケーキを購入し、ロゼットのところへ持っていった。そして二人で食べたのだが、その時、ロゼットはフルーツのロールケーキを物凄く気に入っていた。それで、また購入することにしたのだ。
「あのケーキですか。美味しかったですね」
ロゼットは数日前の記憶を思い出すように瞼を閉じ、うっとりしながら呟く。
そんな彼を見たミリアムは、ふふっと柔らかく笑う。
「ちゃーんと買ってきたわよ」
「あ、ありがとうございます。しかし……その、代金は?」
「それは心配しなくていいわ。私が払っておくから」
「そんな……! それはなりません」
「いいのよ。私、お金には困っていないわ」
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