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17.水浴び
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ミリアムはロゼットにシャワーを浴びることを勧めた。
頭から何から水浸しで気の毒に思ったからだ。
彼女が最初にシャワーを浴びるよう言った時、ロゼットは「そこまで世話になるわけにはいかない」と返した。が、ミリアムが「風邪をひかれたら困る」と言ったので、ロゼットは仕方なく風呂場へと向かった。
ロゼットが入浴している間に、ミリアムはリビングで着ている服を脱ぐことにした。彼がシャワーを浴びている間が、確実に一人になれる時間だからだ。
コルセットのようなものと合体しているスカートを下ろす。ストッキングも脱ぐ。そして、近くにあったティッシュでいやに湿った素足を拭う。それから、ソファのところに置いていた家着のズボンを穿いた。
風呂場の方からはシャワーの乾いた音が聞こえてきている。
ロゼットはまだ出てきそうにない。
下半身の着替えは終わった。次は上半身を着替える。ということで、ミリアムは早速ブラウスの前の小さいボタンを外し始めた。女性の指先でも扱いづらいほど小さいボタンなので、数個外すだけでも時間がかかる。が、心を落ち着けて、少しずつ外していく。
「いたっ」
ボタンを外す途中、指がすべってしまった。その拍子に爪がボタンに擦れてしまい、指先に痛みが走る。そのことに驚いて、ミリアムはうっかり声を出してしまったのだった。
「良かった、何もなってない……」
爪が割れているだとか剥げているだとか、そういうことは特に何もなかった。
そんな時だ、風呂場の方でそれまでとは違った音がしたのは。
扉が開く音——いつも使っているミリアムにはそれが分かる。
もう出てくる、と焦ったミリアムは、半ば無理矢理のような形でブラウスの前面を開く。そして、生地が肌にへばりついて脱ぎづらいことに苛立ちつつもブラウスを脱ぎ捨てる。
ここまでできたら、着替えは完了したも同然。
素早く家着のトップスの袖に腕を通し、前面を閉じる。
「よし……!」
ロゼットが出てきたタイミングはミリアムの予想より早かった。が、着替えが間に合わないというほどではなかった。
風呂場の方からは、まだ人が動く音が聞こえてきている。ロゼットが動いていることによる音だろう。それはつまり、まだすぐにはこちらへ来ないということ。ミリアムは内心ホッとする。既に着替えは終わっているのだけれど。
それから数分が経過して、ロゼットがリビングへやって来た。
彼が着ているのはミリアムが貸した服。父親が泊まりに来た時のために一応置いていたパジャマである。海のような色の上下だ。
「風呂場お借りしました。ありがとうございました」
ロゼットの体からはまだ微かに熱が発生している。
風呂上がりだからだろうか、頬まで赤らんでいた。
「その服、着づらくなかった?」
「はい。問題ありません」
「なら良かったわ」
「ありがとうございます。しかし……借りてしまって良かったのでしょうか」
「いいのよ。使って」
父のためのパジャマを他の男に着せて良いものか、ミリアムは多少悩んだ。だが、風呂上がりに濡れてしまっている服を着せるわけにもいかないので、パジャマを一時的に貸すことにしたのだ。
「じゃ、私も入ってくるわ」
ミリアムは立ち上がる。
雨に濡れたのはミリアムも同じだ。先に入るのはロゼットに譲ったが、だからといって自分が入らないというわけではない。
「お待たせしてしまってすみません」
「いいのよ。あ、その辺に適当に座っていて問題ないわよ」
「分かりました。待っていますね」
そんな風に言葉を交わして、ミリアムは風呂場へと向かう。
「お待たせ。終わっーーえ?」
シャワーを浴び髪も体もすべてを流したミリアムは、髪を乾かし終えてからリビングへと戻った。そして、何も思わず声をかけ、それから気づく。ロゼットが床に倒れていることに。
「ロゼット!?」
床に横向けになって倒れているロゼットにミリアムは駆け寄る。
彼のすぐ近くへ腰を下ろし、胴体に手を乗せて、ロゼットの名を呼ぶ。
一度目に呼んだ時は反応しなかった。それによって動揺したミリアムは、声を大きくしてもう一度呼ぶ。それには反応があった。ロゼットが僅かに瞼を開いたのだ。
「大丈夫なの!?」
「……はい。少し疲れたので寝ていました」
その言葉を聞いてロゼットが意識不明になっていたのではないと知ったミリアムは胸を撫で下ろす。
「よ、良かった……。倒れたのかと思ったわ……」
「すみません。心配させてしまって」
「杞憂で本当に良かった……。貴方にもし何かあったら……」
その時、ミリアムはふと違和感に気づき、手のひらをロゼットの額に当てる。そして、何かを察したように目を見開いた。
「待って! 額が熱いわ!」
ミリアムは目をぱちぱちさせながら慌てたような声を発する。
薄めの白いカーテンをかけた窓の向こうはまだ雨降りなのだろう。
今でも室内にまで湿気が伝わってくる。
「……額?」
ゆっくりと上半身を起こしつつロゼットは怪訝な顔をする。
「熱があるんじゃないかしら。体温計を取ってくるわ」
「いえ、そんな……」
「貴方はソファに横になっていて?」
「……はい」
ミリアムはその場から速やかに離れていく。
体温計を取るために、である。
一方ロゼットは、重苦しい動作で立ち上がり、ソファに尻をつける。それから、遠慮がちな顔をしながら体を横に倒していく。腕で体を支えながら、慎重に体を横向けた。天井を見上げ、小さな息を吐き出す。顔はまだ心なしか赤らんでいる。
ソファの上で体を横に来たロゼットは、片手の手のひらを自身の額に当ててみる。
「……幸か不幸か」
リビングはそこそこ広いが、その中にいるのはロゼットとミリアムの二人だけ。
室内に漂うのは、僅かに湿気を帯びた静かな空気。
頭から何から水浸しで気の毒に思ったからだ。
彼女が最初にシャワーを浴びるよう言った時、ロゼットは「そこまで世話になるわけにはいかない」と返した。が、ミリアムが「風邪をひかれたら困る」と言ったので、ロゼットは仕方なく風呂場へと向かった。
ロゼットが入浴している間に、ミリアムはリビングで着ている服を脱ぐことにした。彼がシャワーを浴びている間が、確実に一人になれる時間だからだ。
コルセットのようなものと合体しているスカートを下ろす。ストッキングも脱ぐ。そして、近くにあったティッシュでいやに湿った素足を拭う。それから、ソファのところに置いていた家着のズボンを穿いた。
風呂場の方からはシャワーの乾いた音が聞こえてきている。
ロゼットはまだ出てきそうにない。
下半身の着替えは終わった。次は上半身を着替える。ということで、ミリアムは早速ブラウスの前の小さいボタンを外し始めた。女性の指先でも扱いづらいほど小さいボタンなので、数個外すだけでも時間がかかる。が、心を落ち着けて、少しずつ外していく。
「いたっ」
ボタンを外す途中、指がすべってしまった。その拍子に爪がボタンに擦れてしまい、指先に痛みが走る。そのことに驚いて、ミリアムはうっかり声を出してしまったのだった。
「良かった、何もなってない……」
爪が割れているだとか剥げているだとか、そういうことは特に何もなかった。
そんな時だ、風呂場の方でそれまでとは違った音がしたのは。
扉が開く音——いつも使っているミリアムにはそれが分かる。
もう出てくる、と焦ったミリアムは、半ば無理矢理のような形でブラウスの前面を開く。そして、生地が肌にへばりついて脱ぎづらいことに苛立ちつつもブラウスを脱ぎ捨てる。
ここまでできたら、着替えは完了したも同然。
素早く家着のトップスの袖に腕を通し、前面を閉じる。
「よし……!」
ロゼットが出てきたタイミングはミリアムの予想より早かった。が、着替えが間に合わないというほどではなかった。
風呂場の方からは、まだ人が動く音が聞こえてきている。ロゼットが動いていることによる音だろう。それはつまり、まだすぐにはこちらへ来ないということ。ミリアムは内心ホッとする。既に着替えは終わっているのだけれど。
それから数分が経過して、ロゼットがリビングへやって来た。
彼が着ているのはミリアムが貸した服。父親が泊まりに来た時のために一応置いていたパジャマである。海のような色の上下だ。
「風呂場お借りしました。ありがとうございました」
ロゼットの体からはまだ微かに熱が発生している。
風呂上がりだからだろうか、頬まで赤らんでいた。
「その服、着づらくなかった?」
「はい。問題ありません」
「なら良かったわ」
「ありがとうございます。しかし……借りてしまって良かったのでしょうか」
「いいのよ。使って」
父のためのパジャマを他の男に着せて良いものか、ミリアムは多少悩んだ。だが、風呂上がりに濡れてしまっている服を着せるわけにもいかないので、パジャマを一時的に貸すことにしたのだ。
「じゃ、私も入ってくるわ」
ミリアムは立ち上がる。
雨に濡れたのはミリアムも同じだ。先に入るのはロゼットに譲ったが、だからといって自分が入らないというわけではない。
「お待たせしてしまってすみません」
「いいのよ。あ、その辺に適当に座っていて問題ないわよ」
「分かりました。待っていますね」
そんな風に言葉を交わして、ミリアムは風呂場へと向かう。
「お待たせ。終わっーーえ?」
シャワーを浴び髪も体もすべてを流したミリアムは、髪を乾かし終えてからリビングへと戻った。そして、何も思わず声をかけ、それから気づく。ロゼットが床に倒れていることに。
「ロゼット!?」
床に横向けになって倒れているロゼットにミリアムは駆け寄る。
彼のすぐ近くへ腰を下ろし、胴体に手を乗せて、ロゼットの名を呼ぶ。
一度目に呼んだ時は反応しなかった。それによって動揺したミリアムは、声を大きくしてもう一度呼ぶ。それには反応があった。ロゼットが僅かに瞼を開いたのだ。
「大丈夫なの!?」
「……はい。少し疲れたので寝ていました」
その言葉を聞いてロゼットが意識不明になっていたのではないと知ったミリアムは胸を撫で下ろす。
「よ、良かった……。倒れたのかと思ったわ……」
「すみません。心配させてしまって」
「杞憂で本当に良かった……。貴方にもし何かあったら……」
その時、ミリアムはふと違和感に気づき、手のひらをロゼットの額に当てる。そして、何かを察したように目を見開いた。
「待って! 額が熱いわ!」
ミリアムは目をぱちぱちさせながら慌てたような声を発する。
薄めの白いカーテンをかけた窓の向こうはまだ雨降りなのだろう。
今でも室内にまで湿気が伝わってくる。
「……額?」
ゆっくりと上半身を起こしつつロゼットは怪訝な顔をする。
「熱があるんじゃないかしら。体温計を取ってくるわ」
「いえ、そんな……」
「貴方はソファに横になっていて?」
「……はい」
ミリアムはその場から速やかに離れていく。
体温計を取るために、である。
一方ロゼットは、重苦しい動作で立ち上がり、ソファに尻をつける。それから、遠慮がちな顔をしながら体を横に倒していく。腕で体を支えながら、慎重に体を横向けた。天井を見上げ、小さな息を吐き出す。顔はまだ心なしか赤らんでいる。
ソファの上で体を横に来たロゼットは、片手の手のひらを自身の額に当ててみる。
「……幸か不幸か」
リビングはそこそこ広いが、その中にいるのはロゼットとミリアムの二人だけ。
室内に漂うのは、僅かに湿気を帯びた静かな空気。
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