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前編
しおりを挟む「実は、胃もたれで……」
ここはリリカの薬屋さん。
とはいえ、この店を持っているのはリリカの父である。
「胃もたれですか、どういう時に発生します?」
「え? どういう、時、ですか?」
「たとえば――食べ過ぎた時とか憂鬱とセットになっているとか」
「そうですね、どちらかというと、食後が多いです」
けれども主に働いているのはリリカだ。
彼女の脳内にはありとあらゆる薬草の情報が入っている。彼女は客が困っていることを聞いて薬を合わせ、それを売る。それによって助かった人の数は既に百以上。
「そうですか、はい、では少しお待ちください」
「お願いします」
リリカは薬草が好き。
それゆえ異様なまでに詳しいのだ。
◆
そんなリリカにも婚約者がいるのだが――なんせその独特の専門分野ゆえに理解を得られていない。
この時代になってもまだ、薬というものを悪く捉えている人間もいて。彼女の婚約者であるデイビッドもまた、そのような思想を持っている男性なのだ。
「リリカ、薬屋の仕事はいい加減辞めろ」
デイビッドがそんな風に命令するのはこれが一回目ではない。彼はこれまでにもリリカに今の仕事を辞めるように言ってきたのだ。だが、リリカは恐ろしいほど頑固で。絶対に辞めるとは言わなかった。
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