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前編
しおりを挟む婚約者レーゼンは酒癖が悪い。
少し酔っ払うとすぐに女に手を出すのだ。
彼のそういうところにこれまで色々迷惑を被ってきた。
私自身は意外と手を出されたことはないのだが。彼が周囲に手を出したことで私まで笑われたり悪く言われたりと散々だったのだ。私にまで脅迫まがいの文書が届いたこともあるくらいだ。
そんな彼が、ある日、自宅へ呼び出してきた。
若々しい色の草木が生い茂る季節のことだ。
「今日は伝えなくてはならないことがある」
「はい」
「お前との婚約を破棄する」
え、やったー。
それが本心だった。
彼への想いなんてなかったから。
でも言わない。
「お前はなかなか乗ってくれないだろう、いつも。触ろうとしてもさりげなう去っていってしまうし。そんな女、傍に置いておいても意味がない。遊べないからな」
女を何だと思っているのか……。
「顔は大嫌いではないのだが、そういうこともあって、もうお前とは生きないことに決めた」
「そうでしたか」
「だが、泣いて謝るなら許してやってもいいんだぞ?」
「すみませんがそれは無理です、私は謝るようなことはしていませんから」
婚約しているから触らせなくてはならないのか?
おかしな話だ。
婚約者にはそのような義務はない。
婚約者なら触らせて当然――そんなもの、レーゼンの勝手な理解でしかない。
「ではさようなら」
「い、いいのか!? 謝れば許すと……」
「婚約破棄、ですよね。それで構いませんので私は去ります。さようなら」
笑顔で別れを告げ。
その場から立ち去る。
もう振り返らない。
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