上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

 私エルフィナと婚約者の彼セタスは学園時代に知り合った。出会いのきっかけはセタスがやたらと声をかけてくるようになったこと。それをきっかけとして、私たちは時折関わるようになった。当時の彼は私のことを凄く気に入ってきて、ことあるごとに私の前へ現れては「将来を誓いあいたい」とか
「結婚してほしい」とか言ってきていた。最初は真面目に相手していなかったのだが、卒業の時になってプロポーズされ、親が喜んでいたこともあって婚約することになった。

 が、婚約期間中にセタスは中期留学に行くことになった。

 彼はその留学中に女を作って。
 深い関係となったようであった。

 で、留学終了後。

「俺、彼女と生きることにしたから、お前との婚約は破棄する」

 女性を連れてきて、そう告げてきた。

 栗色の艶のあるセミロング、長い睫毛、アーモンド型の目にベージュの瞳。身長は低めで、小動物的なわざとらしい動作を徹底している。

 セタスが連れてきたのはそんな女性だ。

「本気で言っているの?」
「うん。ごめんな、エルフィナ」
「他の女を好きになったから、そんな理由で婚約破棄できると思っているのかしら」
「お前が何を言っても無駄だ。俺の心はもう決まっているから。俺は彼女――リリシアと共に生きる。真実の愛を見つけたなら、もう、お前と偽りの関係を続けることはできない」

 セタスの答えは少々ずれていた。

 真実の愛だと?
 ふざけている。
 婚約者がいる身で他の女性に気を移しておいて真実の愛などと言えるという心理が理解できない。

「いいな? エルフィナ。分かってくれ。大人しく去ってくれ」
「それは契約違反よ。償いのお金を支払ってもらうことになるわ。それでもいいのかしら」
「いい! それでも、俺は真実の愛を信じ、そのために生きるんだ!」
「分かったわ。じゃ、それでもいいわ。償うのなら」
「ああ!」

 セタスに迷いはないようだった。

 金より彼女を優先する、ということか……。

 でも、そういうことなら、私が何を言おうとも無駄だろう。
 彼のしたいようにすればいい。
 どうでもいいと思われつつ婚約者でいるのもそれはそれで悲しい。
しおりを挟む

処理中です...