他の女に夢中のようですので、婚約破棄させていただきます。

前編

　婚約者エルベールはとにかく女が好きだ。

　だから、私という婚約者がいるにもかかわらず、他の女にすぐ夢中になる。

　最近もそう。
　ここのところエルベールが夢中になっているのは、街のパン屋の娘リリカだそうだ。

　手紙交換しているようだし、予定が合えば二人であって深い関係にまで至っている。路地裏で口づけをしたり抱き合ったりするのみならず、大人の宿泊所へ入っていっている目撃情報もある。

　恐らく二人はもう一線を越えているのだろう。

　それを察した私は、自腹で調査員を雇い、エルベールとリリカの関係について調べてもらうことにした。

　なるべく早くはっきりさせたいというのもあるし、婚約破棄のための証拠を集めたいというのもある。いずれにせよ、専門の人による調査は必要だったのだ。

　私とて何もしてこなかったわけではないが、私一人でできることなんて限られている。


　——ひと月半後、調査員による調査は完了した。

　証拠品がたくさん集まった。
　エルベールとリリカが大人の関係にまで発展しているということも本格的に判明した。

　十分な成果だ。

「調査、ありがとうございました」
「いえいえ！」
「助かりました。それでは、今回はこれにて」
「はい！　何かありましたらまた！」

　いよいよ私自身が動く時だ。