上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む
 私、春が好きなの。

 自然の中に新しいものが芽生えてくる季節。
 生命の神秘を感じられる。

 だから春が一番好きなの。

 でも、今年の春は、あまり笑っていられるようなものではなくて……。

「アンナ、君とはもうやっていけないよ。君と夫婦になって生きても幸せになれる気がしない。だから婚約は破棄するね。じゃあ、さようなら」

 優しい婚約者フォルマンは突然そんな風に告げてきて、それによって私と彼の関係は終わってしまった。

 フォルマンはいつも紳士的で優しかったわ。だから好きだった。強い恋愛感情かというとはっきりしないけれど、彼と生きてゆけることを嬉しく思っていたし、彼が婚約者であることを誇りに思っていたわ。

 でも……どうやらすべて気のせいだったみたい。

 私は夢を見ていたのね。
 何もかも、自分にとって都合のいい夢でしかなかった。

 ……悲しくはある、それは事実よ。

 でもいいわ! こうなったら気にせず生きるわ!

 きっとそれが一番幸せになれる方法だと思うの。
 だから前を向いて進む。

 婚約破棄された私は、取り敢えず実家へ戻って、それから今後のことを考えることにしたわ。
しおりを挟む

処理中です...