最強の女戦士ここにあり

田仲真尋

文字の大きさ
130 / 132

裏切りの結末

しおりを挟む
フォックスとモルドスの間に入ったのはサーシャ様でした。

いったいどうするつもりなのでしょう。

いや、サーシャ様のことだから、きっと何の考えもなく飛び込んだのでしょう。


「サーシャ。貴女はいったいどうしたいのですか。もしも二度とこのフルガイアへ戻らず、人間界で暮らすのならば今回は見逃しても構わない。だがディミトリは駄目だ。彼の影響力は未だこのフルガイアでも大きい。彼を倒してこそフルガイアの統一が果たされるのだ。」


「あなたって馬鹿なのね。」


「なに?」


「あんな凄い戦いの終幕を、あなたみたいなのが汚しちゃ駄目でしょ。」


ほう、珍しくサーシャ様の言葉に重みを感じました。

さっきのレジェスとモルドスの戦いは二度と見れるようなものではありませんでした。

しかも最後はモルドスが潔く負けを認めるという、清々しささえありましたからね。

きっとその戦いに泥を塗る真似をしているフォックスに腹が立っているのでしょう。


「どうやら死にたいみたいですね、サーシャ。」


「私はあんたになんか負ける気がしないわ。」


これはとんだ場外戦が始まりました。

しかし、サーシャ様は剣を持っていません。

サーシャ様にレジェスのような戦いは当然出来ません。

ならば――。


「サーシャ様、これを使って下さい。」


僕は自分の剣をサーシャ様に放り投げました。


「こ、これは黒銅。使っていいの?」


僕は親指を立てて、こくりと頷きました。


「サンキュー、ピート。」


「俺に勝つつもりなのか、サーシャよ。」


「あんたにはシグレ島で世話になったからね。ここでお返しするわ。」


以前二人が戦った時はサーシャ様にはまだパープルアイズがありませんでした。

それにフォックスも本気ではなかったはず。

まず、サーシャ様にパープルアイズを使えるほどの力が残っているかどうかが勝負のポイントとなりそうですね。


「いくわよ!」


剣を構えるサーシャ様の瞳にはうっすらと紫がかかっていました。


「やっぱり前のモルドスとの戦いが響いてますね。パープルアイズが弱い。」


「ピート君。違うよ、そうじゃない。」


ディミトリさんの言葉に僕はすぐさま反応しました。


「どういうことですか?」


「サーシャのパープルアイズの力の半分は君の剣に宿っている。残りは全身を淀みなく一定に流れているようだ。こんなことが出来るなんて。」


僕にはいまいち良く分かりません。

するとシエルさんが驚くべきことを言いました。


「魔力を繊細にコントロールしてパープルアイズの力を上手く分散させているのよ。これはきっと、さっきレジェスがやっていたやつね。」


これにはびっくりしました。

サーシャ様はレジェスの戦い方をずっと見ていたのです。

もちろん僕らも見ていました。

ですがおそらく見方が違ったのでしょう。

僕らはレジェスを応援するように見ていましたが、サーシャ様はそのレジェスから何かを吸収しようと貪欲に見ていたに他なりません。


まったく、レジェスといいサーシャ様といい、どれだけの成長を見せてくれるんですか。


「悪いがサーシャ、お前がいくらパープルアイズを覚醒できたとはいえ俺の相手ではない。しかもお前はモルドスとの戦いで全てを出し尽くした。もはや俺の足元にも及ばないぜ。」


「剣士は剣にて語る。お喋りはいいからかかって来なさい。」


「ちっ!小娘が!」


フォックスは苛立ち、サーシャ様へと襲いかかりました。

これまでのフォックスの戦いを見る限り、彼は強いです。

それが本来の力を隠していたならば簡単な相手ではありません。

どう戦いますか、サーシャ様。


まずはフォックスが先手をとります。

左右の手に五本ずつ、小刀ほどの刃が生えています。

これがフォックスのフルガイアの民の能力です。

計十本の刃の攻撃を雨霰のように降らせていきます。

サーシャ様は後退しながらそれを避けていく。


「どうしたサーシャ、手も足も出まい!」


フォックスの攻撃にサーシャ様は防戦一方です。

しかし、サーシャ様の口元にはうっすら笑みが浮かんでいるように見えます。


「それがあなたの実力ってことね――全然大したことないわね。」


「な、なに!?ふざけるな!」


フォックスは怒りに震え、更に攻撃が激しくなります。

その時でした。

これまで後退りしていたサーシャ様が突如として前へ出ました。

そして、フォックスの左手の刃、五本全てを剣でスパン!と切り落としたではありませんか。


「ぐっ!お、おのれ!」


フォックスは残った右手で斬りかかります。

それをサーシャ様は僕の愛剣、黒銅で内側から巻き込む様に斬りました。

さらに体を一回転させ剣を持ち替えてフォックスの胴体を斬りました。

僕の黒銅は片側しか切れない仕様になっているので逆手から正手へと持ち替えなければ、あの態勢からはフォックスを切れませんでした。

それを瞬時にやってなのけるなんて、サーシャ様も剣士として一流になったのだと感じました。


「う、うそだろ。この俺がこんな小娘に殺られるなん……て。」


フォックスはその場に倒れました。

おそらくあの深手では絶命しているでしょう。

そしてサーシャ様はそのままレジェスの元へ。


「立てる?」


サーシャ様は手をレジェスへと差し伸べて言いました。

その華奢な手をレジェスは掴み立ち上がり、

「全然余裕だ。」と、強がってみせました。


なにはともあれ、これでこの戦いは終わったみたいですね。


「人間――レジェスよ。」


レジェスを呼び止めたのはモルドスでした。


「最強はお前だった。これからは最強の男を名乗るがいい。」


「なっ!私は元から最強だ。貴様に譲ってもらったような言い方はやめろ!」


「ちょっと待って最強を名乗るのは私を倒してからにしなさいよ。」


そこにサーシャ様も参戦です。


「サーシャ、お前はこいつに負けたではないか。その男に私は勝ったのだから私こそが唯一無二の最強だ。」


「違うわよ、レジェス。あなたがモルドスを倒せたのは私が、あいつの力を削いでやったからでしょう!」


なんか不毛な戦いが始まっていますが、僕らは関わらないほうがよいでしょう。


「我はこれまで神に仕えていると言っていたが、あれは幻想なのだと悟った……いや、最初から分かっていたのかも知れぬ。」


突然、モルドスは語り始めました。

それを機にサーシャ様とレジェスも言い争いを止めました。


「ここにいるのは神などではない、亡霊だ。ここはフルガイアの民やテルミナに住まう者たちが最後に行き着く墓場なのだ。」


「な、なんだと!?ここはパンドラではないのか?」


ディミトリさんも驚きの声を上げました。


「正直なところ、何も分からん。ここがパンドラなのかも知れぬし違うのかも知れぬ。我は亡霊たちに憑かれていたのだろう。その証拠に今はこれまで感じたこともないほどに清々しい気分だ。憑き物がとれた、といったところだろう。」


そんな話を聞いていると、モルドスもアイスも思ったほど悪人ではないのかも知れません。


モルドスはゆっくりと立ち上がり、アイスの元へと歩きました。


「兄上――。」


「アイス、我が弟よ。我はここにとどまる。お前はその者たちと共にフルガイアへ戻れ。」


「ふっ、何を言われるかと思えば。何故、兄上を置いていけましょうか。私も共にここに残ります。」


「本当にそれでよいのか。」


「ええ、私は今、自分の気持ちに正直に答えている。私は残ります。ディミトリ……様。どうかお元気で。」


アイスはやはりディミトリさんを敵視することが辛かったのだと思います。

しかしそれは今、この一瞬に解放されました。

アイスにとっては最高の幕引きだったのかもしれませんね。

僕らは去っていくモルドスとアイスの後ろ姿を、ただ見守りました。


「よし、それでは我々も帰るとしようか。」


ディミトリさんの言葉で僕ら全員、頷きました。


「えっと……皆さんちょっといいですか。」


「なによ、ピート。トイレにでも行きたいの?」


まったくサーシャ様は年下のくせに子供扱いしないで欲しいです。

それよりも皆、すっかり忘れている大事なことがあります。

というより僕もたった今、思い出したのですけどね。


「――どうやって帰るんです?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...