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激闘ブレイズ御前試合~後編~
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「それでは、第四戦目を始めたいと思います。トンボ殿、ムーン殿、前へ。」
二人は姫に一礼しステージへ。
「師匠といえど手加減しませんからね。」
「にょじょみゅ、ちょこりょじゃ。」
私には、この師弟対決の行く末が、手に取る様に分かる。
「始め!」
「ぐわぁ!俺の敗けだ。」
ムーンは転がるように、ステージから落ちた。
「やはりな。」
最初から分かっていた。
これが茶番劇だということを。
「勝者、トンボ殿。」
「まったく……相変わらずだ。」と、私はため息をついた。
ステージの下で、ムーンが会心の笑みを浮かべ、トンボに親指を立てているのが、いい証拠である。
「それでは、これより二回戦に移りたいと思います。では、二回戦の第一戦目、デザートイーグル殿、キキ殿、どうぞ前へ。」
私は、この闘いを心から待ち侘びていた。
そして、ある決心をしていた。
それは、この闘いにおいて、剣を使わないということを。
素手で闘うのだ。
しかも打撃は打たない。
どうやるかって?
寝技に持ち込むに決まっているではないか。
そして、あのキキちゃんのセクシーなバディを……おっと、失礼。
これは、私流の作戦なのである。
弓使いには寝技しかないと常日頃から、そう思っていたのだから仕方あるまい。
「さあ、やるぞ!」
私は奮い立つ。
もう何も期待していないカモミール姫に対し一礼し、いざバトルステージへ。
「きた、あれがデザートイーグルだ。」
「あれが噂の。」
会場は、にわかにざわめき出した。
「ん?なんだ?皆、私に注目しているのだろうか。一回戦では、インパクトを残すような闘いは、していないのだがな……」
私は首を捻り、対戦相手のキキを待った。
しばらくすると、ようやくキキが登場してきた。
「焦らしてくれる。」と、私は厭らしく笑みを浮かべた。
ステージへ上がったキキは、おもむろに言った。
「私は――棄権する。」と。
「なんですと!?」
ベンは、すぐさま訳を問いただす。
「正直に言えば、デザートイーグル殿に勝てる気がしないからです。伝説の男と闘えば、きっと殺されてしまうでしょう。私は、まだ死ぬわけには、どうしてもいかないのです。姫様、どうかお許しを。」
「いったい、どういう事だ?……もしかして……まさか……私は、取り返しのつかないミスを犯してしまったのでは、ないだろうか。」
それは、つまり……デザートイーグルという名の男が実在していると、いうこと。
そう考えると、これまでの私への観客たちの態度も納得がいく。
――なんてこった!
「カモミール姫よ、そんな願いを絶対に承諾しては、なりませぬぞ!」と、私は目一杯、心の中で叫んだ。
「そうか。それならば仕方ない。キキ、お前の勇気ある判断を了承しようぞ。」
「ばかやろーっ!」と、私は涙を流した。
「ありがとうございます、姫様。」
キキは、闘技場を後にした。
私の、もくろみは泡となって消えてしまった。
もうどうしょうもないので、気を取り直して、次の闘いを観戦することにした。
「この闘いは、要注目だ。」
私の予想では、トンボ優勢である。
それには、明確な理由がある。
「宜しくお願いします。トンボ殿。」
「お主、相当強いな。加減は、せんぞ。」
――トンボは覚醒していた。
「トンボ師匠が、ああなっては手強いぞ。」
「それでは始めてください!」
二人の間に異様な緊迫感が漂う。
先に動いたのは、トンボだ。
「そりゃ!」
自信の身長の二倍は、あろうかという槍を、トンボは軽々と扱い、鋭い突きを繰り出した。
「三連突き!」
私は、知らぬ間に拳を固く握りしめ、二人の戦闘に夢中になっていた。
ディルクは、盾でトンボの攻撃を防いだ。
しかし、視界を盾で一瞬だけ遮られていた間に、トンボはディルクの視界から消えていた。
「後ろか!?」
ディルクは腕を背に回して盾で防御する。
「やはり、できる。――ならば。」と、トンボが口にした時だった。
「浮き足フロートフット」
ディルクは、トンボとの間合いを一気に詰めた。
「こ、これは!確か、サフィアという男が使っていた技!」
バキン!
「なに!?」と、ディルクは驚いた。
トンボが槍の柄を地面に強く当てて、その反動で後方へ回避したからである。
「面白い技を使う、小僧じゃのう。」
「ふっ。それは、お互い様ですよ、ご老体。」
覚醒したままのトンボは、
「ハンドレットピアース」と、呟く。
「まさか、あれをやる気か!」
私には、その名の技に心当たりが、あった。
しかし、実際に見たことは一度もない。
「確か、百本の槍が見えるという、嘘くさい技だ。」
最初は一本の槍が。二本、四本と数を増していくように見えた。
「早い!このまはまでは。まずい。」
ディルクは後方に向け、再び「浮き足フロートフット」を使って、逃れようとした。
しかしトンボの槍は、どこまでも手数を増やしながら追ってくる。
「何十、何百に見えようとも、実体は一本の槍だ。」
ディルクは下がるのを止め、意を決したような顔つきに変わった。
「残像剣スペクトルソード!」
キン!キン!キン!
激しく、ぶつかり合う金属音が絶え間なく鳴り響いた。
「トンボ師匠の全ての攻撃に対応している。なんという男だ。」
私は度肝をぬかれた。
「ふぅー。これ程とはな。」
トンボは、一旦攻撃を停止した。
そして、
「ホーネット・スティンガー!」と、今度は必殺の一撃を繰り出すつもりだ。
それに呼応するかのように、ディルクも、
「ライオンファング」と、迎え打つ。
「ど、どうなるんだ。」
私のボルテージも最高潮に達する。
ちょうど、その時だった。
観客席から、若いカップルの楽し気な声が聞こえてきたのは。
「ほら見てごらん、ハニー。」
「ダーリン、なになに?」
「これは、今や大人気で入手困難になっている、メタール産のチーズケーキだよ。」
「ええ!メタール産のチーズケーキ、超嬉しい。」
その声に過敏に反応したのは――そう、トンボだ。
「めちゃりゅしゃんにょ、てぃどぅてぇいきぃ!」
突然、両手を前に突きだし、トンボはカップルの元へ、ヨチヨチと歩きだした。
そして、バトルステージを下りた。
「勝者、ディルク殿!」
……なんという幕切れか。
「皆様、お待たせ致しました。これより決勝戦を始めます。その、決勝に相応しい両者を、ご紹介しましょう。」
ベンは張り切っている様子で、鼻息も荒かった。
私は、実のところモチベーションが高かった。
まず、カモミール姫で落胆させられ、さらにデザートイーグルという既存の有名人の名を語り、一時はモチベーションが底辺まで落ちた。
しかし、もうそんなものは、どうでもよい。
私は純粋に、このディルクという男と闘ってみたい。
「こんな気持ちは久しぶりだ。」
私は心から、この闘いを望んでいた。
「まずは、砂漠の王とも呼ばれた、伝説の男。デザートイーグル殿!」
会場からは大歓声が巻きおこった。
「頑張れ、デザートイーグル。俺は、あんたのファンだ!」
「いけ、デザートイーグル!ディルクの、その綺麗な顔を潰してやれ!」
狂気の声援に、私は拳を高く上げて応えた。
「さあ、続いては武の国、グリフォンブルーより参戦の騎士、ディルク殿だ!」
こちらも、負けじと大声援が吹き荒れた。
「きゃあディルク様、頑張って!」
「お願いディルク様。どうか怪我だけは、しないで。」
黄色い声援に、ディルクは剣を上げて応えた。
「……私も、あっちの声援が、よかったな。」
「それでは、姫様。開始の、御言葉を。」
カモミール姫は頷き、そして一言。
「両者ともに力を出し、精一杯戦いなさい……頑張って、ディルク様――始め!」
私は雑音は、全く気にせず剣を抜いた。
「では、お手並み拝見。」
ディルクは、そう言って、いきなり「浮き足フロートフット」を使った。
しかし百戦錬磨の私は、彼が考えていることなど、お見通しであった。
すかさず、私も「浮き足フロートフット」にて、迎え打つ。
両者の剣が重なり、
キィーン!と、神秘的な音を奏でた。
二人の初撃は、互角だった。
「楽しいですね。デザートイーグル殿。」
屈託のない、笑顔で話すディルクは、心の底から楽しんでいるように見えた。
「では、これはどうでしょう。獅子の牙ライオンファング」
上下から同時に、ディルクの剣が襲いかかる。
「馬鹿な!剣が二本あるのか!?」
私は、その牙から何とか逃れた。
「初見で、これを避けるとは素晴らしい。では、もう一度――獅子の牙ライオンファング」
「何度も避けるのは、困難だ。ならば私も牙を使う。」
私は一旦、剣を鞘に収め、
「蛇の牙スネークファング」を、放った。
バギン!!
まるで剣が折れてしまったかの様な、鈍い音がこだました。
二人は、それぞれ自分の剣を確認した。
「よし!折れてない。」
そして、また再び激しい攻防が繰り広げられる。
「す、すごいな。こいつら。」
「すげえよ。見てる、こっちまで熱くなるぜ。」
「頑張れ、二人とも!」
歓声は、いつしか区別なく注がれていた。
「残像剣スペクトルソード!」
「血の十字架ブラッディクロス!」
再び、両者の剣技が炸裂する。
「ふう。やはり強いですね。ならば、その強さに敬意を表して、最高の技で、あなたを倒させて頂きます。」
ディルクの目には闘志の炎が燃え上がっていた。
「いきます!」
ディルクは剣を引き、突きの構えをとった。
「隼の嘴ファルコンビーク!」
私は、この時に考え事をしていた。
この闘いが終わってしまのが残念で仕方ない、と。
だが、ディルクが最高の剣技で立ち向かってくるならば、こちらもそれなりの技で迎えねば、相手に失礼となる。
「しょうがない。」と、私は大きく息を吐き、
「鷲の爪イーグルタロン」で、迎撃した。
二人の剣は幾度となく、ぶつかってきた。
そこに、この大技である。
パキン!
甲高い音を立てて折れたのは――ディルクの剣だった。
驚いた表情で、自分の折れた剣を見つめていたディルクは、
「私の剣が折れたのか……ハハハ。」と、最後は笑っていた。
そして、刃折れの剣を鞘に収め、
「降参します。剣士が剣を失っては、もうどうしようもない。」
そう言って、ステージを下りた。
「勝者、デザートイーグル殿!!よって今大会の優勝者は彼に決定致しました!」
私は、大歓声に抱かれ剣を天高く掲げた。
色々と複雑なところはあったが、そんな事はもう、どうでもよかった。
こんなに清々しい気持ちに、なれたのだから。
「さあ、それでは優勝したデザートイーグル殿には、カモミール姫様から賞金の授与があります。」
「なに!賞金が出るのか!?ラッキー。」と、私は足取り軽く、カモミール姫の元へ。
「デザートイーグルよ。お見事でした。貴方ほどの戦士に、細やかな賞金だけでは失礼かと思い、急遽副賞を用意しました……さあ、私の唇を差し上げます、ウフ。」
「い、いや賞金だけで充分です。」と、ばかりに姫とのキスを拒もうとしたが、カモミール姫は強引に私の唇を奪おうとした。
「お、おのれ、獣め!」
私は我を忘れ、低級魔法「電撃スパーク」を、思わずカモミール姫に浴びせてしまった。
「ぎょええ!」
……姫は倒れた。
その瞬間、会場は静寂に包まれた。
そして、その静寂をベンの一言が切り裂いた。
「き、きさま!姫様に、なんということを!この男を捕らえろ!」
私は兵たちに囲まれてしまった。
「し、しまった。勢いでつい――こうなったら逃げるしかない。」
私は、低級魔法「煙玉スモークボール」を唱え、兵たちを煙に巻いた。
カモミール姫は気絶した後も、
「さあ、キス、キスしてちょうだい。」と、言っていた……恐るべし、である。
こうして、ブレイズの御前試合は幕を閉じたのであった。
二日後。
私は、まだブレイズの都トレス・トライアルに滞在していた。
そして堂々と街を闊歩している。
なぜかって?それは――。
「やあ、デザート――いや、戦士殿。」
声を掛けてきたのは、ディルクだった。
彼は、私が覆面代わりに巻いていた、白い布がない状態でも私に気づいた。
そう、私は顔を覆い、偽名を使っていたため、今でもこうして逃げも隠れもせずに居れるのである。
「貴方が誰であろうと構いませんが、もしよろしければ今度、グリフォンブルーへお越しください。きっと楽しいと思いますよ。」
私は頷き、その場を逃げるように去った。
「――どうだった彼は?」
不意に声をかけられ、ディルクは驚いた。
「なんだ、いらしていたのですね――サフィア様。」
「ああ。ずっと見てたよ。」
「そうでしたか。きっと彼はグリフォンブルーへ、やって来ますよ。私には、そんな気がしてなりません。」
「そうだな。俺も、そう思う。」
その後、ブレイズ国民の間では、御前試合の決勝戦が今でも皆の話題にのぼる、ひとつの伝説になったという。
そして、もうひとつ。
カモミール姫に電撃姫という、あだ名がついたとかつかなかったとか。
私は寂れた酒場で人目を避けながら、一人で安い酒を飲んでいた。
「ああ、賞金だけでも貰っておくべきだった。ハァー。」
私は、あの空に浮かぶ雲の様に、風の気分次第で、あっちへ行きこっちへ行き。
明日も自由に生きていくので、ある。
二人は姫に一礼しステージへ。
「師匠といえど手加減しませんからね。」
「にょじょみゅ、ちょこりょじゃ。」
私には、この師弟対決の行く末が、手に取る様に分かる。
「始め!」
「ぐわぁ!俺の敗けだ。」
ムーンは転がるように、ステージから落ちた。
「やはりな。」
最初から分かっていた。
これが茶番劇だということを。
「勝者、トンボ殿。」
「まったく……相変わらずだ。」と、私はため息をついた。
ステージの下で、ムーンが会心の笑みを浮かべ、トンボに親指を立てているのが、いい証拠である。
「それでは、これより二回戦に移りたいと思います。では、二回戦の第一戦目、デザートイーグル殿、キキ殿、どうぞ前へ。」
私は、この闘いを心から待ち侘びていた。
そして、ある決心をしていた。
それは、この闘いにおいて、剣を使わないということを。
素手で闘うのだ。
しかも打撃は打たない。
どうやるかって?
寝技に持ち込むに決まっているではないか。
そして、あのキキちゃんのセクシーなバディを……おっと、失礼。
これは、私流の作戦なのである。
弓使いには寝技しかないと常日頃から、そう思っていたのだから仕方あるまい。
「さあ、やるぞ!」
私は奮い立つ。
もう何も期待していないカモミール姫に対し一礼し、いざバトルステージへ。
「きた、あれがデザートイーグルだ。」
「あれが噂の。」
会場は、にわかにざわめき出した。
「ん?なんだ?皆、私に注目しているのだろうか。一回戦では、インパクトを残すような闘いは、していないのだがな……」
私は首を捻り、対戦相手のキキを待った。
しばらくすると、ようやくキキが登場してきた。
「焦らしてくれる。」と、私は厭らしく笑みを浮かべた。
ステージへ上がったキキは、おもむろに言った。
「私は――棄権する。」と。
「なんですと!?」
ベンは、すぐさま訳を問いただす。
「正直に言えば、デザートイーグル殿に勝てる気がしないからです。伝説の男と闘えば、きっと殺されてしまうでしょう。私は、まだ死ぬわけには、どうしてもいかないのです。姫様、どうかお許しを。」
「いったい、どういう事だ?……もしかして……まさか……私は、取り返しのつかないミスを犯してしまったのでは、ないだろうか。」
それは、つまり……デザートイーグルという名の男が実在していると、いうこと。
そう考えると、これまでの私への観客たちの態度も納得がいく。
――なんてこった!
「カモミール姫よ、そんな願いを絶対に承諾しては、なりませぬぞ!」と、私は目一杯、心の中で叫んだ。
「そうか。それならば仕方ない。キキ、お前の勇気ある判断を了承しようぞ。」
「ばかやろーっ!」と、私は涙を流した。
「ありがとうございます、姫様。」
キキは、闘技場を後にした。
私の、もくろみは泡となって消えてしまった。
もうどうしょうもないので、気を取り直して、次の闘いを観戦することにした。
「この闘いは、要注目だ。」
私の予想では、トンボ優勢である。
それには、明確な理由がある。
「宜しくお願いします。トンボ殿。」
「お主、相当強いな。加減は、せんぞ。」
――トンボは覚醒していた。
「トンボ師匠が、ああなっては手強いぞ。」
「それでは始めてください!」
二人の間に異様な緊迫感が漂う。
先に動いたのは、トンボだ。
「そりゃ!」
自信の身長の二倍は、あろうかという槍を、トンボは軽々と扱い、鋭い突きを繰り出した。
「三連突き!」
私は、知らぬ間に拳を固く握りしめ、二人の戦闘に夢中になっていた。
ディルクは、盾でトンボの攻撃を防いだ。
しかし、視界を盾で一瞬だけ遮られていた間に、トンボはディルクの視界から消えていた。
「後ろか!?」
ディルクは腕を背に回して盾で防御する。
「やはり、できる。――ならば。」と、トンボが口にした時だった。
「浮き足フロートフット」
ディルクは、トンボとの間合いを一気に詰めた。
「こ、これは!確か、サフィアという男が使っていた技!」
バキン!
「なに!?」と、ディルクは驚いた。
トンボが槍の柄を地面に強く当てて、その反動で後方へ回避したからである。
「面白い技を使う、小僧じゃのう。」
「ふっ。それは、お互い様ですよ、ご老体。」
覚醒したままのトンボは、
「ハンドレットピアース」と、呟く。
「まさか、あれをやる気か!」
私には、その名の技に心当たりが、あった。
しかし、実際に見たことは一度もない。
「確か、百本の槍が見えるという、嘘くさい技だ。」
最初は一本の槍が。二本、四本と数を増していくように見えた。
「早い!このまはまでは。まずい。」
ディルクは後方に向け、再び「浮き足フロートフット」を使って、逃れようとした。
しかしトンボの槍は、どこまでも手数を増やしながら追ってくる。
「何十、何百に見えようとも、実体は一本の槍だ。」
ディルクは下がるのを止め、意を決したような顔つきに変わった。
「残像剣スペクトルソード!」
キン!キン!キン!
激しく、ぶつかり合う金属音が絶え間なく鳴り響いた。
「トンボ師匠の全ての攻撃に対応している。なんという男だ。」
私は度肝をぬかれた。
「ふぅー。これ程とはな。」
トンボは、一旦攻撃を停止した。
そして、
「ホーネット・スティンガー!」と、今度は必殺の一撃を繰り出すつもりだ。
それに呼応するかのように、ディルクも、
「ライオンファング」と、迎え打つ。
「ど、どうなるんだ。」
私のボルテージも最高潮に達する。
ちょうど、その時だった。
観客席から、若いカップルの楽し気な声が聞こえてきたのは。
「ほら見てごらん、ハニー。」
「ダーリン、なになに?」
「これは、今や大人気で入手困難になっている、メタール産のチーズケーキだよ。」
「ええ!メタール産のチーズケーキ、超嬉しい。」
その声に過敏に反応したのは――そう、トンボだ。
「めちゃりゅしゃんにょ、てぃどぅてぇいきぃ!」
突然、両手を前に突きだし、トンボはカップルの元へ、ヨチヨチと歩きだした。
そして、バトルステージを下りた。
「勝者、ディルク殿!」
……なんという幕切れか。
「皆様、お待たせ致しました。これより決勝戦を始めます。その、決勝に相応しい両者を、ご紹介しましょう。」
ベンは張り切っている様子で、鼻息も荒かった。
私は、実のところモチベーションが高かった。
まず、カモミール姫で落胆させられ、さらにデザートイーグルという既存の有名人の名を語り、一時はモチベーションが底辺まで落ちた。
しかし、もうそんなものは、どうでもよい。
私は純粋に、このディルクという男と闘ってみたい。
「こんな気持ちは久しぶりだ。」
私は心から、この闘いを望んでいた。
「まずは、砂漠の王とも呼ばれた、伝説の男。デザートイーグル殿!」
会場からは大歓声が巻きおこった。
「頑張れ、デザートイーグル。俺は、あんたのファンだ!」
「いけ、デザートイーグル!ディルクの、その綺麗な顔を潰してやれ!」
狂気の声援に、私は拳を高く上げて応えた。
「さあ、続いては武の国、グリフォンブルーより参戦の騎士、ディルク殿だ!」
こちらも、負けじと大声援が吹き荒れた。
「きゃあディルク様、頑張って!」
「お願いディルク様。どうか怪我だけは、しないで。」
黄色い声援に、ディルクは剣を上げて応えた。
「……私も、あっちの声援が、よかったな。」
「それでは、姫様。開始の、御言葉を。」
カモミール姫は頷き、そして一言。
「両者ともに力を出し、精一杯戦いなさい……頑張って、ディルク様――始め!」
私は雑音は、全く気にせず剣を抜いた。
「では、お手並み拝見。」
ディルクは、そう言って、いきなり「浮き足フロートフット」を使った。
しかし百戦錬磨の私は、彼が考えていることなど、お見通しであった。
すかさず、私も「浮き足フロートフット」にて、迎え打つ。
両者の剣が重なり、
キィーン!と、神秘的な音を奏でた。
二人の初撃は、互角だった。
「楽しいですね。デザートイーグル殿。」
屈託のない、笑顔で話すディルクは、心の底から楽しんでいるように見えた。
「では、これはどうでしょう。獅子の牙ライオンファング」
上下から同時に、ディルクの剣が襲いかかる。
「馬鹿な!剣が二本あるのか!?」
私は、その牙から何とか逃れた。
「初見で、これを避けるとは素晴らしい。では、もう一度――獅子の牙ライオンファング」
「何度も避けるのは、困難だ。ならば私も牙を使う。」
私は一旦、剣を鞘に収め、
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バギン!!
まるで剣が折れてしまったかの様な、鈍い音がこだました。
二人は、それぞれ自分の剣を確認した。
「よし!折れてない。」
そして、また再び激しい攻防が繰り広げられる。
「す、すごいな。こいつら。」
「すげえよ。見てる、こっちまで熱くなるぜ。」
「頑張れ、二人とも!」
歓声は、いつしか区別なく注がれていた。
「残像剣スペクトルソード!」
「血の十字架ブラッディクロス!」
再び、両者の剣技が炸裂する。
「ふう。やはり強いですね。ならば、その強さに敬意を表して、最高の技で、あなたを倒させて頂きます。」
ディルクの目には闘志の炎が燃え上がっていた。
「いきます!」
ディルクは剣を引き、突きの構えをとった。
「隼の嘴ファルコンビーク!」
私は、この時に考え事をしていた。
この闘いが終わってしまのが残念で仕方ない、と。
だが、ディルクが最高の剣技で立ち向かってくるならば、こちらもそれなりの技で迎えねば、相手に失礼となる。
「しょうがない。」と、私は大きく息を吐き、
「鷲の爪イーグルタロン」で、迎撃した。
二人の剣は幾度となく、ぶつかってきた。
そこに、この大技である。
パキン!
甲高い音を立てて折れたのは――ディルクの剣だった。
驚いた表情で、自分の折れた剣を見つめていたディルクは、
「私の剣が折れたのか……ハハハ。」と、最後は笑っていた。
そして、刃折れの剣を鞘に収め、
「降参します。剣士が剣を失っては、もうどうしようもない。」
そう言って、ステージを下りた。
「勝者、デザートイーグル殿!!よって今大会の優勝者は彼に決定致しました!」
私は、大歓声に抱かれ剣を天高く掲げた。
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こんなに清々しい気持ちに、なれたのだから。
「さあ、それでは優勝したデザートイーグル殿には、カモミール姫様から賞金の授与があります。」
「なに!賞金が出るのか!?ラッキー。」と、私は足取り軽く、カモミール姫の元へ。
「デザートイーグルよ。お見事でした。貴方ほどの戦士に、細やかな賞金だけでは失礼かと思い、急遽副賞を用意しました……さあ、私の唇を差し上げます、ウフ。」
「い、いや賞金だけで充分です。」と、ばかりに姫とのキスを拒もうとしたが、カモミール姫は強引に私の唇を奪おうとした。
「お、おのれ、獣め!」
私は我を忘れ、低級魔法「電撃スパーク」を、思わずカモミール姫に浴びせてしまった。
「ぎょええ!」
……姫は倒れた。
その瞬間、会場は静寂に包まれた。
そして、その静寂をベンの一言が切り裂いた。
「き、きさま!姫様に、なんということを!この男を捕らえろ!」
私は兵たちに囲まれてしまった。
「し、しまった。勢いでつい――こうなったら逃げるしかない。」
私は、低級魔法「煙玉スモークボール」を唱え、兵たちを煙に巻いた。
カモミール姫は気絶した後も、
「さあ、キス、キスしてちょうだい。」と、言っていた……恐るべし、である。
こうして、ブレイズの御前試合は幕を閉じたのであった。
二日後。
私は、まだブレイズの都トレス・トライアルに滞在していた。
そして堂々と街を闊歩している。
なぜかって?それは――。
「やあ、デザート――いや、戦士殿。」
声を掛けてきたのは、ディルクだった。
彼は、私が覆面代わりに巻いていた、白い布がない状態でも私に気づいた。
そう、私は顔を覆い、偽名を使っていたため、今でもこうして逃げも隠れもせずに居れるのである。
「貴方が誰であろうと構いませんが、もしよろしければ今度、グリフォンブルーへお越しください。きっと楽しいと思いますよ。」
私は頷き、その場を逃げるように去った。
「――どうだった彼は?」
不意に声をかけられ、ディルクは驚いた。
「なんだ、いらしていたのですね――サフィア様。」
「ああ。ずっと見てたよ。」
「そうでしたか。きっと彼はグリフォンブルーへ、やって来ますよ。私には、そんな気がしてなりません。」
「そうだな。俺も、そう思う。」
その後、ブレイズ国民の間では、御前試合の決勝戦が今でも皆の話題にのぼる、ひとつの伝説になったという。
そして、もうひとつ。
カモミール姫に電撃姫という、あだ名がついたとかつかなかったとか。
私は寂れた酒場で人目を避けながら、一人で安い酒を飲んでいた。
「ああ、賞金だけでも貰っておくべきだった。ハァー。」
私は、あの空に浮かぶ雲の様に、風の気分次第で、あっちへ行きこっちへ行き。
明日も自由に生きていくので、ある。
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さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
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断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
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