最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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激闘ブレイズ御前試合~後編~

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「それでは、第四戦目を始めたいと思います。トンボ殿、ムーン殿、前へ。」

二人は姫に一礼しステージへ。

「師匠といえど手加減しませんからね。」

「にょじょみゅ、ちょこりょじゃ。」

私には、この師弟対決の行く末が、手に取る様に分かる。

「始め!」


「ぐわぁ!俺の敗けだ。」

ムーンは転がるように、ステージから落ちた。

「やはりな。」

最初から分かっていた。

これが茶番劇だということを。

「勝者、トンボ殿。」

「まったく……相変わらずだ。」と、私はため息をついた。

ステージの下で、ムーンが会心の笑みを浮かべ、トンボに親指を立てているのが、いい証拠である。


「それでは、これより二回戦に移りたいと思います。では、二回戦の第一戦目、デザートイーグル殿、キキ殿、どうぞ前へ。」

私は、この闘いを心から待ち侘びていた。

そして、ある決心をしていた。

それは、この闘いにおいて、剣を使わないということを。

素手で闘うのだ。

しかも打撃は打たない。

どうやるかって?

寝技に持ち込むに決まっているではないか。

そして、あのキキちゃんのセクシーなバディを……おっと、失礼。

これは、私流の作戦なのである。

弓使いには寝技しかないと常日頃から、そう思っていたのだから仕方あるまい。

「さあ、やるぞ!」

私は奮い立つ。

もう何も期待していないカモミール姫に対し一礼し、いざバトルステージへ。

「きた、あれがデザートイーグルだ。」

「あれが噂の。」

会場は、にわかにざわめき出した。

「ん?なんだ?皆、私に注目しているのだろうか。一回戦では、インパクトを残すような闘いは、していないのだがな……」

私は首を捻り、対戦相手のキキを待った。

しばらくすると、ようやくキキが登場してきた。

「焦らしてくれる。」と、私は厭らしく笑みを浮かべた。

ステージへ上がったキキは、おもむろに言った。

「私は――棄権する。」と。

「なんですと!?」

ベンは、すぐさま訳を問いただす。

「正直に言えば、デザートイーグル殿に勝てる気がしないからです。伝説の男と闘えば、きっと殺されてしまうでしょう。私は、まだ死ぬわけには、どうしてもいかないのです。姫様、どうかお許しを。」

「いったい、どういう事だ?……もしかして……まさか……私は、取り返しのつかないミスを犯してしまったのでは、ないだろうか。」

それは、つまり……デザートイーグルという名の男が実在していると、いうこと。

そう考えると、これまでの私への観客たちの態度も納得がいく。

――なんてこった!

「カモミール姫よ、そんな願いを絶対に承諾しては、なりませぬぞ!」と、私は目一杯、心の中で叫んだ。

「そうか。それならば仕方ない。キキ、お前の勇気ある判断を了承しようぞ。」

「ばかやろーっ!」と、私は涙を流した。

「ありがとうございます、姫様。」

キキは、闘技場を後にした。

私の、もくろみは泡となって消えてしまった。


もうどうしょうもないので、気を取り直して、次の闘いを観戦することにした。

「この闘いは、要注目だ。」

私の予想では、トンボ優勢である。

それには、明確な理由がある。

「宜しくお願いします。トンボ殿。」

「お主、相当強いな。加減は、せんぞ。」

――トンボは覚醒していた。

「トンボ師匠が、ああなっては手強いぞ。」


「それでは始めてください!」

二人の間に異様な緊迫感が漂う。

先に動いたのは、トンボだ。

「そりゃ!」

自信の身長の二倍は、あろうかという槍を、トンボは軽々と扱い、鋭い突きを繰り出した。

「三連突き!」

私は、知らぬ間に拳を固く握りしめ、二人の戦闘に夢中になっていた。

ディルクは、盾でトンボの攻撃を防いだ。

しかし、視界を盾で一瞬だけ遮られていた間に、トンボはディルクの視界から消えていた。

「後ろか!?」

ディルクは腕を背に回して盾で防御する。

「やはり、できる。――ならば。」と、トンボが口にした時だった。

「浮き足フロートフット」

ディルクは、トンボとの間合いを一気に詰めた。

「こ、これは!確か、サフィアという男が使っていた技!」

バキン!

「なに!?」と、ディルクは驚いた。

トンボが槍の柄を地面に強く当てて、その反動で後方へ回避したからである。

「面白い技を使う、小僧じゃのう。」

「ふっ。それは、お互い様ですよ、ご老体。」

覚醒したままのトンボは、

「ハンドレットピアース」と、呟く。

「まさか、あれをやる気か!」

私には、その名の技に心当たりが、あった。

しかし、実際に見たことは一度もない。

「確か、百本の槍が見えるという、嘘くさい技だ。」

最初は一本の槍が。二本、四本と数を増していくように見えた。

「早い!このまはまでは。まずい。」

ディルクは後方に向け、再び「浮き足フロートフット」を使って、逃れようとした。

しかしトンボの槍は、どこまでも手数を増やしながら追ってくる。

「何十、何百に見えようとも、実体は一本の槍だ。」

ディルクは下がるのを止め、意を決したような顔つきに変わった。

「残像剣スペクトルソード!」

キン!キン!キン!

激しく、ぶつかり合う金属音が絶え間なく鳴り響いた。

「トンボ師匠の全ての攻撃に対応している。なんという男だ。」

私は度肝をぬかれた。

「ふぅー。これ程とはな。」

トンボは、一旦攻撃を停止した。

そして、

「ホーネット・スティンガー!」と、今度は必殺の一撃を繰り出すつもりだ。

それに呼応するかのように、ディルクも、

「ライオンファング」と、迎え打つ。

「ど、どうなるんだ。」

私のボルテージも最高潮に達する。

ちょうど、その時だった。

観客席から、若いカップルの楽し気な声が聞こえてきたのは。

「ほら見てごらん、ハニー。」

「ダーリン、なになに?」

「これは、今や大人気で入手困難になっている、メタール産のチーズケーキだよ。」

「ええ!メタール産のチーズケーキ、超嬉しい。」

その声に過敏に反応したのは――そう、トンボだ。

「めちゃりゅしゃんにょ、てぃどぅてぇいきぃ!」

突然、両手を前に突きだし、トンボはカップルの元へ、ヨチヨチと歩きだした。

そして、バトルステージを下りた。

「勝者、ディルク殿!」

……なんという幕切れか。



「皆様、お待たせ致しました。これより決勝戦を始めます。その、決勝に相応しい両者を、ご紹介しましょう。」

ベンは張り切っている様子で、鼻息も荒かった。

私は、実のところモチベーションが高かった。

まず、カモミール姫で落胆させられ、さらにデザートイーグルという既存の有名人の名を語り、一時はモチベーションが底辺まで落ちた。

しかし、もうそんなものは、どうでもよい。

私は純粋に、このディルクという男と闘ってみたい。

「こんな気持ちは久しぶりだ。」

私は心から、この闘いを望んでいた。


「まずは、砂漠の王とも呼ばれた、伝説の男。デザートイーグル殿!」

会場からは大歓声が巻きおこった。

「頑張れ、デザートイーグル。俺は、あんたのファンだ!」

「いけ、デザートイーグル!ディルクの、その綺麗な顔を潰してやれ!」

狂気の声援に、私は拳を高く上げて応えた。

「さあ、続いては武の国、グリフォンブルーより参戦の騎士、ディルク殿だ!」

こちらも、負けじと大声援が吹き荒れた。

「きゃあディルク様、頑張って!」

「お願いディルク様。どうか怪我だけは、しないで。」

黄色い声援に、ディルクは剣を上げて応えた。

「……私も、あっちの声援が、よかったな。」


「それでは、姫様。開始の、御言葉を。」

カモミール姫は頷き、そして一言。

「両者ともに力を出し、精一杯戦いなさい……頑張って、ディルク様――始め!」

私は雑音は、全く気にせず剣を抜いた。

「では、お手並み拝見。」

ディルクは、そう言って、いきなり「浮き足フロートフット」を使った。

しかし百戦錬磨の私は、彼が考えていることなど、お見通しであった。

すかさず、私も「浮き足フロートフット」にて、迎え打つ。

両者の剣が重なり、

キィーン!と、神秘的な音を奏でた。

二人の初撃は、互角だった。

「楽しいですね。デザートイーグル殿。」

屈託のない、笑顔で話すディルクは、心の底から楽しんでいるように見えた。

「では、これはどうでしょう。獅子の牙ライオンファング」

上下から同時に、ディルクの剣が襲いかかる。

「馬鹿な!剣が二本あるのか!?」

私は、その牙から何とか逃れた。

「初見で、これを避けるとは素晴らしい。では、もう一度――獅子の牙ライオンファング」

「何度も避けるのは、困難だ。ならば私も牙を使う。」

私は一旦、剣を鞘に収め、

「蛇の牙スネークファング」を、放った。

バギン!!

まるで剣が折れてしまったかの様な、鈍い音がこだました。

二人は、それぞれ自分の剣を確認した。

「よし!折れてない。」

そして、また再び激しい攻防が繰り広げられる。

「す、すごいな。こいつら。」

「すげえよ。見てる、こっちまで熱くなるぜ。」

「頑張れ、二人とも!」

歓声は、いつしか区別なく注がれていた。

「残像剣スペクトルソード!」

「血の十字架ブラッディクロス!」

再び、両者の剣技が炸裂する。


「ふう。やはり強いですね。ならば、その強さに敬意を表して、最高の技で、あなたを倒させて頂きます。」

ディルクの目には闘志の炎が燃え上がっていた。

「いきます!」

ディルクは剣を引き、突きの構えをとった。

「隼の嘴ファルコンビーク!」

私は、この時に考え事をしていた。

この闘いが終わってしまのが残念で仕方ない、と。

だが、ディルクが最高の剣技で立ち向かってくるならば、こちらもそれなりの技で迎えねば、相手に失礼となる。

「しょうがない。」と、私は大きく息を吐き、

「鷲の爪イーグルタロン」で、迎撃した。

二人の剣は幾度となく、ぶつかってきた。

そこに、この大技である。

パキン!

甲高い音を立てて折れたのは――ディルクの剣だった。

驚いた表情で、自分の折れた剣を見つめていたディルクは、

「私の剣が折れたのか……ハハハ。」と、最後は笑っていた。

そして、刃折れの剣を鞘に収め、

「降参します。剣士が剣を失っては、もうどうしようもない。」

そう言って、ステージを下りた。


「勝者、デザートイーグル殿!!よって今大会の優勝者は彼に決定致しました!」

私は、大歓声に抱かれ剣を天高く掲げた。

色々と複雑なところはあったが、そんな事はもう、どうでもよかった。

こんなに清々しい気持ちに、なれたのだから。

「さあ、それでは優勝したデザートイーグル殿には、カモミール姫様から賞金の授与があります。」

「なに!賞金が出るのか!?ラッキー。」と、私は足取り軽く、カモミール姫の元へ。

「デザートイーグルよ。お見事でした。貴方ほどの戦士に、細やかな賞金だけでは失礼かと思い、急遽副賞を用意しました……さあ、私の唇を差し上げます、ウフ。」

「い、いや賞金だけで充分です。」と、ばかりに姫とのキスを拒もうとしたが、カモミール姫は強引に私の唇を奪おうとした。

「お、おのれ、獣め!」

私は我を忘れ、低級魔法「電撃スパーク」を、思わずカモミール姫に浴びせてしまった。

「ぎょええ!」

……姫は倒れた。

その瞬間、会場は静寂に包まれた。

そして、その静寂をベンの一言が切り裂いた。

「き、きさま!姫様に、なんということを!この男を捕らえろ!」

私は兵たちに囲まれてしまった。

「し、しまった。勢いでつい――こうなったら逃げるしかない。」

私は、低級魔法「煙玉スモークボール」を唱え、兵たちを煙に巻いた。

カモミール姫は気絶した後も、

「さあ、キス、キスしてちょうだい。」と、言っていた……恐るべし、である。

こうして、ブレイズの御前試合は幕を閉じたのであった。



二日後。

私は、まだブレイズの都トレス・トライアルに滞在していた。

そして堂々と街を闊歩している。

なぜかって?それは――。

「やあ、デザート――いや、戦士殿。」

声を掛けてきたのは、ディルクだった。

彼は、私が覆面代わりに巻いていた、白い布がない状態でも私に気づいた。

そう、私は顔を覆い、偽名を使っていたため、今でもこうして逃げも隠れもせずに居れるのである。

「貴方が誰であろうと構いませんが、もしよろしければ今度、グリフォンブルーへお越しください。きっと楽しいと思いますよ。」

私は頷き、その場を逃げるように去った。



「――どうだった彼は?」

不意に声をかけられ、ディルクは驚いた。

「なんだ、いらしていたのですね――サフィア様。」

「ああ。ずっと見てたよ。」

「そうでしたか。きっと彼はグリフォンブルーへ、やって来ますよ。私には、そんな気がしてなりません。」

「そうだな。俺も、そう思う。」


その後、ブレイズ国民の間では、御前試合の決勝戦が今でも皆の話題にのぼる、ひとつの伝説になったという。

そして、もうひとつ。

カモミール姫に電撃姫という、あだ名がついたとかつかなかったとか。



私は寂れた酒場で人目を避けながら、一人で安い酒を飲んでいた。

「ああ、賞金だけでも貰っておくべきだった。ハァー。」

私は、あの空に浮かぶ雲の様に、風の気分次第で、あっちへ行きこっちへ行き。

明日も自由に生きていくので、ある。


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