最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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グリフォンブルー 死闘編~Ⅰ部~

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私はアンダーヘアーと共に走っていた。


「レジェス様、もう少しでグリフォンブルー領ですぜぃ。急ぎやしょう――うわっ!」と、アンダーヘアーは小石に躓き派手に、こけた。


「いってぇ!」と、痛がるアンダーヘアーに私は、

「やれやれ。」と、手を差し伸べた。


「レジェス様、すいやせん。」


アンダーヘアーを起こし、ふと来た道を振り返った。

ゼロとディルクの身を案じながらである。


その時であった。

「あっ!いたいた。」と、私達の元へ馬に乗ったグリフォンブルーの兵士が四名、現れた。


「タ、タクティス。しまった。」


私の隣には青ざめた顔のアンダーヘアーが、いた。


「貴方がレジェスか……ふーん、どことなく国王様に似ているな。」と、タクティスと呼ばれる細身の男は言った。


「レジェス様は先に行ってくだせぇ。ここは、あっしが。」と、アンダーヘアーは剣を抜き、私の前に出た。


「お前が俺の相手をするつもりか?冗談はよせ。この六牙将軍タクティスに勝てると思っているのか?」


その言葉に、タクティスの手下の三人は大笑いした。


「お前たち、その濃い顔の奴の相手をしてやれ。俺はレジェスとやる。」



「アンダーヘアーよ。死んでしまうぞ。」と言わんばかりに、私は剣を、ゆっくり抜いた。


「レジェス様、いけやせん!あなたには、体力を温存して頂くようにディルク様から仰せ付けられているんです。」


しかし私には、彼が一人で相手を出来るとは到底思えなかった。


その時だった。

私たちの後方から声が聞こえてきた。


「ああ!見つけた!師匠こっちこっち!」

「でょこぢゃ、みゅーんょ。」


「こ、この声は――まさか!」と、私は恐る恐る振り向いた。


――トンボとムーンだ。


私は唖然とした。


「なんだ?こいつらは?」と、グリフォンブルーの兵士が二人に近づいた。


「ぐわぁ!」


不用意に近寄ったグリフォンブルーの兵士は、ムーンの一撃で倒れた。


「ここは、俺たちに任せな。」


ムーンの、その言葉に私は、どう答えていいのか分からなかった。


「……クレアから連絡があったんだ。お前を助けてやってくれってな。だから、ここは俺とトンボ師匠で何とかするから、お前たちは行け――あっ!言っておくが貸しだからな。後でメタール産チーズケーキを、たらふくご馳走してくれよ。」


私はこの時、自分がどんな顔をしていたのか想像もつかなかった。

どうして、私の為にクレアが二人に助けを求めたのか?

そして、どうして二人は、それに応じたのか?

何も分からなかった。


「レジェス様。行きましょう!」と、アンダーヘアーが私の手を掴み、引っ張った。


「死ぬなよ我が弟子、レジェス。あとチーズケーキも忘れるな。」

トンボは、いつの間にか覚醒していた。

私は二人に一礼し、その場をアンダーヘアーと共に脱した。


「トンボ?槍の達人と名高い爺か。面白い、まずは貴様らを倒してからレジェスを追うとしよう。これは、狩りだ。」と、タクティスは銀の細く長い槍を取り出した。


「ほう銀の匙か。小僧には、もったいない代物じゃな。」


「ほざけ!いざ!」




――所変わってゼロの家の前。


「大丈夫ですか、ゼロ様。」


「ああ、私は大丈夫だ。しかし、ちと敵が多いな。」


ディルクとゼロは、二十人程のグリフォンブルーの兵に囲まれていた。

その小隊を指揮するのは、六牙将軍の一人、バディである。


「こうやってグリフォンブルーの兵と戦ってみると、あの盾の凄さがよく分かります。味方の内はいいが、敵に回すと厄介ですね。」


「そうだな。六牙将軍は基本的に盾は装備しないから分からなかったが、面倒なものだ。」と、ゼロはバディを見ながら言った。


「元六牙将軍ゼロか。老いたお前では現役の俺には勝てなぜ。それに、そこのサフィアの犬よ。お前は、こんな所にいていいのか?」


バディの言葉にディルクの顔色が変わった。


「どういう意味だ?」


「知らねぇのか?サフィアの奴、王妃様から呼び出しを受けたんだ。ありゃあ恐らく殺されるな。反逆罪とかなんとか因縁つけられてな。まあ俺としては、せいぜいするけどな。」


「黙れ!」


バディの挑発にディルクは我を忘れて乗った。

無謀にも突進を仕掛けようとするディルクをゼロが瞬時にディルクの襟元を掴み引き止めた。


「冷静になるのだ、ディルク。」


「ゼロ様――すみません。」


ディルクは冷静さを取り戻し、敵を見てみた。

グリフォンブルーの兵士たちは統率がとれており、もしあのままディルクが単身突っ込んでいたならば、待ち構えていた兵たちにより、八つ裂きにされていただろう。

ディルクは己の甘さに唇を噛んだ。


「ちっ!もう少しだったのにな。」と、バディは舌打ちをした。


「なんとか、敵兵を減らさぬと、不利なままだ。」


この時ゼロは、ある覚悟を胸に秘め、決行しようとしていた。

それは、己の命と引き換えに敵の大将であるバディと刺し違える覚悟であった。


「ディルクよ。後のことは任せたぞ。」と、ゼロは全身に力を込めた。


「ゼロ様、いったい何を!?」と、ディルクが叫んだ、その直後だった。


「ぎゃあ!」

「うわぁ!」

「グハッ!」


突如として倒れるグリフォンブルーの兵士たち。

その背には矢が刺さっていた。


「なんだ!?」と、その場にいた誰もが、そう思った。


「おーい!大丈夫か。」


グリフォンブルーの兵たちの背後に現れたのは、キュロットと仲間たちであった。


「なんだ、あの娘は?」というゼロの問いかけに、ディルクは答えに迷った。


「えーっと、説明すると長くなるのですが……彼女はハーゲン・ライブの生き残りで……えっと、私の友です。」


「くそ!仲間がいやがったか!あいつらをやれ!」という、バディの命に約半分程になったグリフォンブルーの兵士たちが襲いかかる。


「きゃあ!」


真っ先に狙われ、敵に襲われたのはキュロットだ。


キィィーン!


そして、その攻撃を受け止め、キュロットを守ったのは、ゼロだった。


「ディルクの友を、殺させはせん。」


グリフォンブルーの兵士がゼロやハーゲン・ライブに気が向いているのをディルクは見逃さなかった。

素早く背後から攻撃をくわえたのだ。

堪らず、グリフォンブルーの兵たちも応戦しようと振り返る。

しかし、それは後方に構えるハーゲン・ライブに背を向けるということ。

背後から矢を放たれ、そちらに気を向ければ、ディルクに殺られる。

なす術なく、グリフォンブルーの小隊は、将軍のバディを残して、敢えなく全滅した。


「ちっ!何をやっているのだ!」


苛立つバディに今度はゼロの刃が迫る。

しかしバディは意外にも冷静に、ずっとゼロを視界に捉えていた。

完全に入ったと思われたゼロの攻撃は、あっさりと避けらてしまった。


「きれがないな、元六牙将軍ゼロよ。老いには勝てぬか。フハハハ。」


バディは大剣を抜いた。

その厚み、幅、長さ、どれをとっても通常の剣の二倍近くある大剣である。


「俺のビッグベンの前じゃあ、お前らの剣など木の小枝だ!」と、言って、バディは大剣を片手で振り回してみせた。

その剣の重みが、どれ程のものかは分からないが、恐ろしい程の腕力である。


「ゼロ様、ここは二人で掛かりましょう。」というディルクの提案にゼロも頷いて応えた。


「あの大剣の間合いは広い。気をつけろディルク。」


ゼロのアドバイスを受け、ディルクも頷いて応えた。


「では、ゆくぞ!」


ゼロとディルクは二人同時にバディに斬りかかった。

しかしバディは、たった一振りで二人を凪ぎ払った。


「なんというパワーだ。」


「ディルク。正面から行っても無駄なようだ。力では敵わん。このような相手はスピードで撹乱するしかない。対角線からの同時攻撃でいくぞ。」


「はい!」


ディルクはバディの背後に回った。

正面からはゼロ、ディルクはバディの背後から攻撃を仕掛けた。

しかし、バディは正面のゼロに向いたまま、口元に薄い笑みを浮かべていた。


「――いかん!ディルク、止まれ!」と、ゼロは危険を察知し、叫んだ。

だが、間に合わない。

ゼロも焦ってバディへ突っ込んだ。


「終わりだ!ビッグリボルバー!」と、バディは大剣を、グルン!と、自分の周りを一周させた。


ブン!


軽々と回しただけの様に見えたバディの技は、凄まじかった。

それは、剣が通り抜けた後の風圧からみても、その威力は安易に想像がつく。


「ぐっ!」


「ゼロ様!」


バディの剣はゼロの身体を捉えていた。

ディルクの方は無傷だ。

ゼロの声に反応したディルクが、一瞬止まったことでバディの攻撃を回避していたのだ。


「だ、大丈夫だ。掠めただけだ。」


そう言ったゼロだったが、想像以上の威力をみせたバディの技は、掠めただけでも致命傷になりかねない程だった。


「おや?もうギブアップかい爺さん。じゃあ後はサフィアの犬と、あの小汚ない山の連中だけか。さっさと片付けてやるから、かかってこい。」


「ディルクよ、ここは一旦退け。時間は稼いだ。まずは、今生き延びることを最優先に考えるのだ。」


ゼロは、腹から血を流していた。

ゼロの白い着衣が真っ赤に染まっていくのを見て、ディルクは迷っている様子だった。


「逃げてもいいぜ。俺は、お前みたいな犬には興味がないからな。飼い主が無能なら飼い犬も無能だってことだ。お前には、もう何も出来ないだろ?。だったら、さっさと行け!」


「――私のことなら我慢も出来るが、サフィア様を冒涜することだけは断じて許さん!」


「おや?怒ったのか?可哀想な奴だな、ご主人様からエサを貰ってないから腹を空かせて短気になっているんじゃないか?なんなら俺が飼ってやろうか?フハハハ。」


「黙れ、この筋肉馬鹿が!」と、ディルクはバディに向かって走り出した。


「やめろディルク!奴の挑発にのってはいかん!」と、ゼロは叫んだ。

バディは待ってましたと、言わんばかりに剣を振り回した。


「ビッグリボルバー!」


「許さんぞバディ――なんてね。」と、ディルクは後方に「浮き足フロートフット」を使って飛んだ。


「なに!?」


バディは驚いた。

もちろんゼロもディルクの行動を予測できていなかった。

そして、バディの大剣が止まった瞬間、ディルクは再び「浮き足フロートフット」で、バディとの間合いを一気に詰めた。


「そんな大振りの技を使えば、大きな隙ができることを貴方はご存知か……いや、分からんだろうな、無能な貴方では。」と、ディルクは仕返しとばかりに皮肉をお見舞いした。


そして、

「獅子の牙ライオンファング!」でバディへ、必殺の一撃を喰らわせた。


「グォォオ!」


バディは吹き飛び、倒れた。


バディが動かなくなったのを確認して、ディルクはゼロの元へと、駆け寄った。

「ゼロ様!」


「見事だ、ディルクよ。私まで騙されたぞ……グッ!」


ゼロの出血は酷くなっていく一方であった。


「こんな所に医者はいない。ど、どうすれば……」と、ディルクは頭を抱えた。


そこへ、

「どいて!私に見せて。」と、キュロットがディルクを押し退けてゼロの傷口を見た。


「このままじゃあ、まずいわね。あんた達、私が言うものを大至急用意して!」と、キュロットはハーゲン・ライブの仲間達に命じた。


「あ、あの?」


ディルクは、キュロットの気迫に驚きながら訊ねた。


「私たち山の民は皆、自分たちで怪我や病気を治すんだ。だから心配しないで。」


他に頼れる者はいない。

ディルクはキュロット達に任せるよりほか、なかった。


「お、お願いします。」


「なに言ってるの、貴方も手伝うのよ!まずは水を汲んできて!」


「は、はい!」と、ディルクはバケツを手に川へ走って行った。



――数時間後。

キュロットの適切な処置により、ゼロの出血は止まり、一命をとりとめていた。


「キュロットさん。ありがとう……でも何故、私たちを助けてくれたのです?貴方たちはグリフォンブルーを恨んでいる。それなのにどうして?」


そのディルクの問いかけにハーゲン・ライブの面々は、

「そりゃあ、あんたに惚れちまったからだろ。」

「そうそう。キュロットも女だったんだな。」

「ヒューッ!」

と、囃し立てた。


「う、うるさい!私があんた達を助けたのは、あんたが私を殺さなかったからだ。グリフォンブルーは敗者に情け容赦ない仕打ちをするって思っていたから、私は命を覚悟した。だけど、あんたは私たちを見逃してくれた。だから借りを返した、当然のことでしょ?」


「グリフォンブルーの人間は冷酷な奴ばかりではありませんよ。これから、きっと良い国になります。その為の戦いを行っているんです。だから、私は生きていなくてはなりません。本当にありがとうキュロットさん。」


「う、うん、まあいいけど。」と、キュロットは顔を赤らめた。


「あの、こんなことを頼むのは筋違いかもしれませんが、暫くの間、ゼロ様を看てやって頂けませんか?」


キュロットは、少し考えて、

「――分かった。その代わり貸し一つだけど、いい?」


ディルクは笑って頷いた。


「私は、これよりグリフォンブルーへ向かいます。ゼロ様を宜しくお願いします。」


「任せといて。それより、ちゃんと帰ってきなさいよ。」


「もちろん――では、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


ディルクは、すぐにゼロの家を出た。

そして、グリフォンブルーへと向かって歩きだした。


「サフィア様、レジェス様。どうか、ご無事で。」と、願いを込めながら。

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