宝石を生む子

さるわたりしんたに

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ひと時の平穏

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あれから、ボロっちい俺の家に走り込んだ。

少女を薄い布団の上に置くと、
いつの間にか少女は眠っていた。

すると、緑色を帯びたペリドットの宝石がコトリ、と落ちた。

一体こいつは今どんな感情なんだろうな。

あどけない寝顔。
 
感情が高ぶると宝石が出る、か。

きっと他の奴らに見られる訳にはいかないから、感情を殺してきたんだろう。



この少女をあの王子とやらに託されて、とうとう連れてきてしまったが、どうすればいい。

今は俺1人でも食いつなぐのに精一杯だ。

どうすりゃいい。

見たところ少女の服は綺麗で、きっとかなりの名家で暮らしてたっぽい。

そんな少女がこんな落ちぶれた俺の生活に適応できるか。

そもそも俺でいいのか。

他の奴にどうにかしてもらうことは出来ないだろうか。

俺みたいな貧乏人、こんな可愛い子が栄養が足りなくなってやつれていくのを見ることしかできないんだ。




どうすればいい。

その時、少女のあの言葉が浮かんだ。
「売ったらお金になりますよ」


かぶりをふった。

それだけは絶対にするものか。

きっとあいつは安心してる。
自分が生み出す宝石を売ったり、自分の欲のために使ったりする人じゃない人がやっと助けてくれたと。

俺はそんなキレイな人じゃない。

戦いから逃げて、仲間を見捨てた。

クズなんだ。

「むにゃ⋯⋯」

その時、少女がゴロン、と転がった。

目がぱっちりと開く。
「あ、おはようございます」
少女の寝ぼけなまこ。
可愛いなぁ。
いや、黙れ。ロリコンか。

「おう」
いや、何俺は普通にへんじしてるんだ。

さてどうする。

少女が辺たりを見渡す。
ボーッ、としている。
「すまんが、俺は見ての通り貧乏人だ。お前が前まで住んでたような暮らしは絶対に保証できない。すまない。」

「いや」
「え?嫌か?」
「あ、いや」
「やっぱ嫌だよな⋯⋯」

当たり前だ。一部屋だけの狭い部屋で誰が住みたいと思う。

「ありがとうございます!」
その時、ピンクを帯びた宝石がコロン、と落ちた。
ピンクトルマリン。

「え、は?」
意味が分からなかった。
「な、何でだ?」

「もうとても広い部屋で1人きりじゃないんですね!ていうか住まして頂けるんですか!?」

また宝石が落ちた。

「え、あ、まぁ⋯⋯。」
「ありがとうございます!!」

本当に良いんだろうか⋯⋯。

「食べ物とか⋯⋯、困るかもよ?腹減っても何にもないかも知んねぇぞ?」
「いいんです。元からそんなに食べないですし、あ、だからこんなに背が低いんでしょうか⋯⋯?」
「いや、それは知らねえけどよ⋯。ちなみに今何歳何だ?」
「14歳ですよ?」
「じゅ、14!?」
「は、はい…」
ロリだ。
「あの、ちなみにあなたは…?」
「23⋯⋯」
「そうなんですか!?えーとじゃあ9歳差ですね!」
「は、ははは⋯⋯」
笑うことしかできん。
兄妹かよ。




「あ、改めて自己紹介しますね。名前はミレーと申します。この度はお世話になります、よろしくお願いします!!お手伝い、なんでもします!」

あ、また宝石が落ちた。

「あ、よろしく⋯⋯。俺はシャルミー。敬語使わなくて大丈夫だぞ。多分、ていうか絶対贅沢は出来ないけど、よろしく頼むな。」

「いえ!お世話になる身として、私語は話せません。敬語のままでいさせていただきます!」
「じゃあ別にいいけど⋯⋯」
俺は押されっぱなしだった。あの感情のない目をしていた少女とこの子が同一人物とは思えなかった。
「あなたの事をなんと呼べばいいでしょうか?」
「え、ああ、普通にシャルミーでいいけど⋯⋯」

「そうですか。ではお兄さんと呼ばせてもらいますね!」

「いやなんでそうなるんだよ!?」



こうしてなんか勢いのある少女との暮らしがスタートした。

この時だけは、「組織」のことを忘れていられた。



続く
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