宝石を生む子

さるわたりしんたに

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危機一髪

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「くまなく探せ!この素性書きにそっくりの男は必ずいるはずだ!」

御意、と辺りからたくさんの静かな返事が聞こえると影は辺りに散らばって行った。

しかしこの男は必ずどこかであった事がある。
 
灰色の髪に細身の体で長身⋯⋯。
見覚えがある。

だがいくら頭を捻らそうとしてもハッキリとは思い出すことができなかった。



だがそんなことはどうでもいい。

例の少女さえ捕まえれば良いのだ。
そんな男は殺してしまおう、たかが弐兵の下級兵士だ。

















「久々に外を思いっきり普通に歩きました!」
「そうなのか?」
「はい!」
あ、そういえば、あの死んでしまったどこぞの王子のマントの裾に隠れてたんだったけか。そりゃあんな無表情になる訳だ。

「そうか、良かったな――――――――――」


俺が言葉を言い終わらないうちに、俺は見つけしまった。

「⋯⋯っ!」
「?⋯⋯どうしました?」
「伏せろ!」
「え、え⋯⋯?」
「早く!」
そのままミレーの頭をおさえて俺も伏せた。

間違いない、「組織」の黒い制服。

それにあの後ろの紋章は上級兵士の証。
それも大勢だ。
まずい、ここまで来るとは…!!
「あ、あの人たち⋯⋯!」
ミレーも事態に気づいたようだ。
「ゆっくりでいいから、ちょっとずつ逃げるぞ」
「はい」
見つかれば俺はとにかくこいつがどうなるか分からない。

幸い、奴らはバラバラに散らばったようだ。

1人でも厄介なのに、集団ではまるで勝ち目がない。いや、1人でも勝ち目は無いんだが。



「す、すいません⋯⋯ちょっと足が⋯⋯」
ミレーが足をおさえて辛そうだ。
当たり前だ、ろくに外に出てもいなかったやつが長いこと屈んだまま歩けるはずが無い。

「ああ、クソ!ミレー、乗れ!」
「え、あ、はい!」
ミレーは俺の差し出した背中に飛び乗った。

意外と軽いな⋯⋯。

いやそんな事を考えてる暇はない。
奴らはかなり遠い。
逃げ切る。

そのまま走り出した。







しかし、迂闊だった。
「組織」の構成員は無数。

そこらにいてもおかしくない。

そして上級兵士には色んな能力を使うやつがいる。そのことをすっかり忘れていた。

なぜか先程まであちらにいたはずの長い髪を束ねた男の上級兵士が俺の前に立ちはだかった。顔のあちこちに傷がある。強そ⋯⋯。

くそっ、認識が甘かったか⋯⋯。

「見つけた、灰色の髪に細めの体で長身、そして右頬の傷。」
機械のように淡々と俺の見た目を述べていく⋯⋯。
「お前だな」
そして持つ長い刀剣を俺に向けた。

「くそっ⋯⋯!」
「そして背中に背負うのは⋯⋯」
言わせるものか。そう思って前に突進した。
「どけっ!」
そいつの体を押しのけようとした。
そしたら意外と呆気なくそいつは倒れた。

なんだ、あいつ。

「逃がさんぞ!」
「いたぞ!逃がすな!」
後ろから多くの声が聞こえる。

くそっ、くそっ!

俺が外に出ていいなんて言わなければ⋯⋯!

少しふらり、とした。

近ごろ貧血気味なのが今出たか⋯⋯。

だが今ぶっ倒れる訳にはいかない。

力を無理やり出して走る。


曲がり角の死角に隠れる。
ミレーがやたらと静かなので、顔を見るとまたあの無表情になっていた。気になったが今はそれどころじゃない。

「どこへ行った!?」
よし、一人来た!
階級はおそらく壱兵程度か。

いける!

片足をそっと出す。
見事に敵兵がやたら甲高い悲鳴を上げて転んだ。

そのままそいつに飛びかかって喉をぶん殴ってそこから45度でチョップ!

相手は気絶。

そのまま角から飛び出して走り出す。







案外ちょろいもんだ!


しばらく行くと、どうやら逃げきれたみてぇだ。

やっぱり逃げ足だけは上級兵士並だな、と1人苦笑したのだった。





続く
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