モブ令嬢は白旗など掲げない

セイラ

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学園編(初等部)

夕暮れに忠告

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「何の様です。」
イトナの問いに、生徒は答える。

「先日、転入して来た生徒が、他生徒と揉め事を起こしています。」

「詳しい状況は。」
「いじめられていた生徒を転入生が……」

「助けたのか。」
「はい、そうです。」

転入生。勿論、ヒロインの事ではない。日の国の者である。

何でも、交流を持つ条約で留学して来たのだそう。つまり、客人なのだ。

私は素早く立ち上がり、生徒に問う。
「場所は何処ですか?」

「裏庭の所です。現在、風紀委員が対処していますが留まりきらないです。」

「報告ご苦労。セシリア、俺が行く。だから、大人しく休憩……」

レオンの言葉は続かなかった。それもその筈、セシリアを止める為に言ったのだから。

しかし、本人は窓を開けて、コハクと一緒に外へ飛び降りたのだから。

軽やかに着地した姿は、絵画の如く美しく男女問わず見惚れた。

私はコハクと一緒に目的地へ向かう。その後には、レオンとアイラが続く。

「何で突っ走るんだよ!」
「そうです。セシリア様!」

止めようとする2人。自分達が行くから、戻って欲しいと。

「何を言ってるのです。日の国の御客人に何かあれば、国の問題です。」

「だけど、セシリアが行かなくてもいいだろう!」

「私はキングです。義務を果たせないのは、あってはならない事です。」

「っ!?分かったよ!だが、ついて行くからな。」

「セシリア様、私は貴方様を尊敬します。」
「ありがとうございます。」

本当はゲームに登場しなかった人物を、見たかっただけである。

日の国との干渉は、乙女ゲームになかった。転入生がいたと言う事も。

これが、私と言うイレギュラーが現れたせいなのか、それとも別の理由なのか。

確かめる義務がある。裏庭へ向かうと、風紀委員の2名が駆け寄って来た。

「セシリア様!?何故、貴方様が……。」
「セシリア様!」

2人の言葉に、皆がこちらを向く。
「状況説明をお願いします。」

「いじめられていた生徒は、ユライ・ブルースです。」

彼に視線を向けて、内心驚いた。その人物は、怪盗スティルの助手なのだから。

攻略対象ではなかろうと、怪盗スティルの攻略ルートには欠かせない人。

だから、顔も名前も知っている。今は、赤茶髪にメガネと地味目の変装をしている。

だが、顔立ちと面影は助手と似ているのだ。本来は、モブとは思えぬイケメンだ。

それにしても、怪盗スティルか。こちらのスパイなのか?

敵側に下ったのなら、見過ごす訳には行かない。私は自由と命を愛する者。

自己中と言われても、否定はしない。まあ、確かめる必要がありそうだけど。

いじめていた人の対処を行い、日の国の者に視線を向ける。

「我が国の者が失礼しました。」
「いや、構わぬ。」

背中まである髪先が青く紺色の髪を束ね上げ、シャンパン色の瞳をした美少年。

服は青い上質な着物に、青い糸で炎の刺繍がされた羽織に袖を通さず両肩にかけている。

腰には黒い2本が刀。恐らく、打ち刀と腰刀の2本だろう。

お供もいる筈だが、その子は今何処にいるのだろう?

「それにしても、其方がキングと言う初等部のトップか。会えてよかったぞ。」

「どうも。」
「ツキカゲ様!ここにいらしたのですね!」

「カムイか。」
「貴方はいつも!」

ツキカゲ様……って、現日の国の将軍の息子じゃないか!?

共の者は、ライトグレーの髪に深緑の瞳をした美少年だ。

薄紫の着物に銀の糸で鶴の刺繍がされた、グレーの羽織を着て、腰には一本の白い刀。

「主が大変お世話になりました。」
「いえ、非はこちらにありますので。」

「こちらはお気になさらず。さあ、行きますよ。ツキカゲ様。」

「あの者とまだ話したいのだ。」
「今日は用事がある事をお忘れで?」

そう言って、連れて行かれた。私はユライと名乗る少年に目を向ける。

「君は早く教室へ戻って下さい。」
「はい。ありがとうございました。」

去っていくユライに監視をつけるべきか悩む。助手が潜入して来た。

そうなれば、怪盗スティルもこの学園に潜り込んでいるのだろうか?

いや、助手が潜入しているのだし、違う任務にあたっているのか?

「どうかしましたか?セシリア様。」
「いえ、なんでもありません。」

その後、書類を片付けた。放課後に皆が帰った頃、私は最後の資料を終わらせた。

そして、帰ろうとした時だった。窓が開き、風が入って来た。

まだ夕刻で夜では無い空の色。私は美しいと考えるより、レイピアを手に取る。

窓から、ふわりと現れ窓の淵に片足をつけ、そのまま入って来た。

その後には、もう1人窓の縁に手をかけ入ってくる。

入って来た人物の正体は、怪盗スティルとその助手である。

「やあ、久しぶりですね。あの時は、ありがとうございました。」

怪盗スティルが優雅に頭を下げると、隣の助手も頭を下げた。

「あの時とは?優勝式の事でしょうか?」
私の正体がばれたのか?

「何を仰います。貴女は呪いから守ってくださったのです。」

「貴方を助けた覚えはありません。」
「そう警戒しないで下さい。お嬢さん。」

「スティル。それは無理だと思うぞ。お前は何処から見ても不審者だ。」

「その言葉は酷いと思います。女性は私を見たら頬を染めるのですよ?」

「それは、一般女性だから通用するものだ。あの人には効かないよ。」

今、軽く貶された感があるのだが。
「その言い方は酷いですよ。」

「貴方方の言っている事は、身に覚えがありません。人違いですよ。」

「いいえ。人違いではありません。我々の情報網を甘く見ないで下さい。」

我々と情報網から、やはりこの2人は反乱軍と繋がっているのだろう。

なら、隠し通すことは不可能だな。さて、どう動くかな。

「分かりました。貴方の感謝と礼は受けましょう。」

「ようやく、認めて下さいましたね。」
上品に笑う怪盗スティル。

「ご用件はなんでしょう?感謝を伝えて、はい終わりではないのでしょう?」

「ふふふふ。正解です。今日は貴女に忠告しに来ました。」

「忠告……ですか。」
口元だけしか見えないが、笑っている。

「これ以上、首を突っ込まない方がいいですよ。それを伝えに来ました。」

「私は、何かをした覚えはありませんよ?思い当たる事もありませんし。」

「無自覚とは怖いものですね。しかし、貴女に傷ついて欲しくないのです。」

そう言って、怪盗スティルは近づいて来た。警戒しないといけない事は分かる。

彼らは敵側なのだから。しかし、身体は動かなかった。

だから、近づいて来た怪盗スティルの行動を、咄嗟に防ぐ事が出来なかった。

「ちゅ。」
「へっ?」

この男は今、私に何をした?頬にキスせれた様な気がしたが?

「どうか、ご無事でいて下さい。」
彼は微笑むと、空いた窓から飛び降りた。

それに続く助手。部屋に取り残された私は、状況整理をするのに時間がかかった。



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