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第一章 幼少期

絵本の中にあるエピソード

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ゲルフィンさんが私の叫びにすぐ反応してくれて私の頭に乗っかっている子犬を引き剥がそうとするも、絶対に離れてたまるかと言わんばかりの抵抗を見せる。

ガシッと掴まれ爪は立てられてないけれど、掴まれた頭はちょっと、いや結構いちゃい。

その様子にゲルフィンさんは引き剥がすのを諦めた。

「アルセイヌお嬢様、何故かフェンリルの子に好かれちゃってますね諦めて親くるまで保護と躾お願いします。」
「ほえ!? 何故に!」
「そうだね、フェンリルって一度気に入った相手だと思った人物に懐かれたら離れないって本に載ってたわ。」

だから諦めてねとか2人に言われてしまう。
ええええ! 何故、なんでやねん! とツッコミ入れる間も与えてもらえず、そうそうにお父様の所に戻る。

アルセイヌとライナリア、ゲルフィンが戻ってきたことに安堵していたお父様とお母様だったんだけど。

私の頭上にいる子犬を見てお母様は驚き、お父様はすぐに近づくなりゲルフィンから事情を聴くなり私を見てはハアーと呆れつつ優しく声をかけてくる。

「アルセイヌ...この子の世話頼めるかい? きっと迷い込んだだけだと思いたい。」

思いたい? えらく意味深で聞き返したい思いがあったが、真っ直ぐなお父様の願いに頷くと、お母様にはライナリアの説明と経緯を聞いたようで私を呼ぶなりギューっと抱きしめてくる。

「お母様?」
「アルセイヌ........大好きだからむちゃしないでね。」

ふむ、むちゃした覚えもないしフェンリル子犬と何故か仲良くなっただけなんだけど。
何かお母様のトラウマにでも引っかかるのか、アルセイヌへの心配からの思いなのかもと納得し頷く。
お母様の温もり暖かいなあーー。

散歩はそうそうにお父様のお仕事の時間となり解散することになる。

お母様も身体が弱いからむちゃしないようにと部屋に戻りライナリアは私といたがったが、お勉強の時間だと言われ私にまた絶対遊びに行くからねと言い残し連れて行かれた。

庭にはゲルフィンさんとフェンリルの子犬だけ。

「ゲルフィンさん、私も普段だったらお勉強の時間になるじゃありませんか?」

なんとなくアルセイヌの記憶でそう言ってみたら。

「普段であればですね、ですがアルセイヌお嬢様は病み上がりですし、フェンリルの子犬拾っちゃいましたから。
少々色々と教えて差し上げようかと。」

ニヤって悪役っぽく笑うゲルフィンさんの笑み。
クッ悪役顔も美形は絵になりやがりますこと。

「色々ってなんですかね?」
「それはな...。」


****

何故でしょうか? 私はまずはとゲルフィンさんの指導のもと家の書庫で魔術書の絵本【初心者の育てられる聖獣育成方法】を読まされています。

机にはゲルフィンさんの丁寧な文字でこれから行う手順書。
私は椅子に座ってお勉強スタイル。

うーむさっき病み上がりだから勉強なしではなかったのですかいゲルフィン先生!!

少々文句を心の中でつきつつページを捲っていくと聖獣とピンク髪の女の子が仲むずましいイラストが描かれていた。

ふむ、何処となく乙女ゲームのヒロインに似てる。

そういえばと思い出す。
あのエピソードを........。

むかしむかし、あるところに桃色の髪をした女の子がいました。女の子は森に住み、淡い泡が立つ湖の畔には大柄の黒い獣がいます。

互いに交わることのない両者も対向、だけど運命はその2人を交わらせるのです!
怪我をしてしまう獣に通り縋り見かけ、獣に寄り添い彼女の涙によって獣の傷を癒す。
本来ならば穢れた怪我は治すのは憚れたのだが、彼女の純粋な涙は魂の黒い呪いをも消してしまったのでした。

このエピソードは彼女=ヒロインが後に私(アルセイヌ)が神聖な獣を呪い、ヒロインを狙ったときのバッドエンドで流れたエピソード文章。
最後には黒い騎士と獣、ヒロインのスチルが綺麗だった。

でも....この絵本とは関係ないと思いたい。
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