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第5話 ハルタン学園へ行く

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――学校が始まり、俺はご主人様が心配でカバンに着けるキーホルダー代わりに小さなたぬきのマスコット人形に変体し、学校へ付いて行くことにした。

ご主人様が校門へ入った時、ご主人様へのヒソヒソ話が聞こえてきた。

「メスオークがまた来てるわよ」
「魔法も使えないオーク女の癖に」
「いつ襲われるか私、心配!」
「あの豚、あれでも公爵家のご令嬢かしら?」

出るは、出るはご主人様への侮辱的な言葉を…… この時点で俺は怒りに震えていた。
ご主人様の顔を見ると目に涙を浮かべ我慢をしていた。ご主人様が我慢しているのであれば、俺も我慢することにした。しかし、俺の怒りの防波堤は決壊ギリギリだった。

「君たち! その辺で止めて貰おうか!」
 
「――!? ロッシュウ王太子様、これは…… その……」

後から若い男の声がし、ご主人を侮辱した女子生徒どもは、その男を見た瞬間怯えていた。

「君たちには貴族としての品位ないのか? このような事をしている前に己を磨いたらどうだ!」


その言葉を聞き、女子生徒どもは蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。


「エリス。大丈夫かい? また、いじめられていたのかい? いい加減、フォンティーヌ卿に話したらどうなんだい?」」

この男は、俺のご主人様に馴れ馴れしく近づいて来た。 ――俺の中で敵認定した。

「助けていただき、ありがとうございます。ロッシュウ王太子殿下」

「エリス。いつも言ってるだろ。僕の事は『シュウ』と呼んでくれ!」

「しかし、王太子殿下そのようにお呼びするのは不敬にあたります」

「はぁ~、僕と君は小さい頃からの幼馴染みなんだよ! 僕の言うこともたまには聞いてくれても良いんじゃないのか?」

「そういう訳には参りません」

「エリス。君の頑固さはどこから来たんだい? 昔、王宮で一緒に遊んでた時は、『シュウ様! シュウ様!』って呼んでたじゃないか?」

「昔と今では違います! 王太子殿下にはお立場という物をお考え下さい」

ご主人様は、小さい頃の話しをされ、恥ずかしかったのか耳が赤くなっていた。

「エリス。お願いだから自分の事も考えて欲しい。僕は君を心配しているんだ。いつでも一緒に居てあげたいと思うが、それは、中々難しいものがある。僕がいない時、君を守ってくれる人はいないんだよ。」

「私は…… 大丈夫です。それに、あの方たちもいつかは……」

「ふぅ~、 ホントに君って…… 優しすぎるというか、お人好しというか。あぁ、わかったよ。エリスの好きなようにすればいいよ。困ったことがあれば僕に相談してくれ! ただ、僕はずっと君の味方だと言うことは忘れないで欲しい……」

「ロッシュウ王太子殿下、ありがとうございます。その時は、お願いします」

「だから、『シュウ』で良いって!」

ロッシュウってヤツはご主人様の頑固さに半分諦めたような顔をしてエリスを見つめていた。

「さぁ、エリス。教室に急ごう」

「ハイ」

そして、二人は教室へと向かった。

あとで、ロッシュウってヤツを調べてみたが、名前は『ロッシュウ・ルーン・アルパトス』、16歳。ティーファンド王国第三王子で皇太子だった。顔は、俺よりは落ちるが中々のイケメンだ!
兄が二人いるみたいだが、病弱だという事でほとんど表舞台には姿を見せない。
ロッシュウは、自分が皇太子になるよりも兄上たちの方が国王として相応しいと周囲に愚痴をこぼしている。あまり、国王とかには興味が無いらしい。

ご主人様とは学年が一つ上だが小さい時からの付合いでよく遊んでいたらしい。今では遊ぶことが無くなったがご主人様の事を心配して頻繁に顔を見せている。
あまり傍に寄り過ぎると周りからの嫉妬でご主人様の状況をさらに悪化させるのではと悩んでいる。ご主人様には『お父上であるセトリック様、マリーヌ様に早く今の状況を相談し何らかの対策を講じた方が良い』と伝えているみたいだが、ご主人様は首を縦には振らないと嘆いていた。 ――やはり俺よりは劣るが顔も性格もイケメンみたいだ! まぁ、ヤツの事は信用してやろう!





王太子が自分の教室へ戻り居なくなると、教師が見ていない所で、クラス全員での数々の嫌がらせ、無視、罵詈雑言の嵐、休憩時間には邪魔と言わんばかりにご主人様を小突き、わざとらしくぶつかり転ばせるなど……   


――下校時間までいじめは続いた……


公爵家は王家に連なる爵位だ。その公爵令嬢に対して喧嘩を売っている行為を俺は見過ごす訳にはいかない!が、

――何より、慈悲に満ちたご主人様を…… 自分の事よりもいじめをしている連中の家の事を考えているのだろう…… このいじめが表沙汰になったら大騒ぎになったらセトリック様とマリーヌ様の報復でヤツらの家がどうなるかわからない。もし、ご主人様を可愛がっている王族が絡んできたら貴族位の剥奪、財産没収、最悪、不敬罪で処罰されるだろう……


ご主人様はこんな学校生活を送って来たのだ。優しい両親、使用人にも言えず、自分の心につらい想いを飲み込んで来た気持ちを考えると………… 俺は……


――お前らの顔と魔力は覚えた! お前ら絶対に俺が許さん!……



学校が終わり王都にあるお屋敷に帰る。馬車の中ではレイニーと楽しく会話をしていたが、心の中はを考えると居た堪れない! ヤツらに目に物を見せてやる!


お屋敷に着き、急いでカバンから離れ、ご主人様の自室へ駆け込んだ。

しばらくするとご主人様が部屋へ入って来た。

「レイニー、久し振りの学校だったから疲れたみたい… 少し休みたいから一人にしてもらえるかしら?」

ご主人様は、レイニーさんに顔を背け、そう言うと目に涙を滲ませていた。

レイニーさんは何かを察したのか静かな声で

「わかりました。お嬢様、何かお悩みがあるのであれば何でも私にお話し下さい」

悲しそうな顔をしたレイニーさんは、そう言って静かに部屋を出て行った。
レイニーさんが部屋を出るとご主人様は、俺を抱きしめ、部屋の外に聞こえないよう声を殺して泣き出した。


「うぅわわわわわわん! 折角、魔法が出来るようになったのに……」

――ご主人様には、申し訳ないが、俺は冷静に魔法発動を禁止にしておいて良かったと考えていた。ご主人様の感情が乱れた状態で魔法を使えば魔力の暴発により学園全体が今頃、消滅して大惨事なっていただろう…… 
それだけ、ご主人様の魔力は膨大なのだ!  ――おそろしい子!

ご主人様が泣き止むと俺はある行動に出る。ご主人様の手から離れ、ベットの上に乗り仰向けになった。

「キュウー! キューウ! キュウーー! 『我をモフるが良い!』」

ご主人様は、俺の言っていることがわかるのか、俺の胸に顔を埋めた。激しいモフモフだった! 俺は堪らず声を上げた。

「キュウ! キュウ! キュウ~! 『もうやめろ! やめてくれ!』」

ご主人様の強烈なモフモフの洗礼を受け、グッタリとした。

「ハルタン、ありがとう! 悲しい時はハルタンのモフモフは最高の気分転換だわ!」

ご主人様の声は少しだが明るくなったような気がした。こんな俺でもご主人様の役に立てて良かった…… 毛並みはぐしゃぐしゃになってしまったが……


――あとは……

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