未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

文字の大きさ
131 / 139

131 南雲が見つけたこと

しおりを挟む
「どこに行けばいいの?」
「涼くんの研究室にいる」
「おーけー」

 二重に嬉しい成果をえられた。久しぶりに涼くんに会える許可をもらった冬次は礼儀正しく秘書に受話器を返した。
 涼くんがいる邸宅は今やガードマンに護られており、兄貴の名前を使って中へ入ると、もとは座間と家政婦しかいなかった空間で研究員たちが机を並べて仕事をしている。リビングだった場所に見慣れない器具や設備が運び込まれ、研究施設に様変わりだ。
 兄貴は涼くんと地下室にいるのだろう。冬次が地下階段をおりると、ドアがあけ放たれていたのだから驚いた。閉じ込められていた頃のホラーじみた陰気な地下の雰囲気から、活気が生まれている。
 涼くんはおのれのテリトリーにも人を招きいれて研究活動に邁進しているようだ。しかし何やら地下室内を行き交う声がどれも荒っぽい。議論がヒートアップしているのはいいが、喧嘩沙汰にまで発展していては大変だ。慌てて室内を覗いたので、ちょうどドア付近に立っていた兄貴の肩に衝突した。
 兄貴は目を見ひらいてふり返り、すぐ人差し指を口に当てるジェスチャーで冬次を黙らせる。そして階段に移動して、兄貴の方から事情を説明してきた。

「ここ最近の研究はずっとこんな感じだ。実は完成したと思われた試作品の作成方法に穴があると判明した。最後のピースがどうにも見つからないらしい」
「安全試験開始の予定は?」
「完成しなければ延期せざるえなくなるだろう」

 声を荒げる研究員ほどではないが、兄貴も相当に苛立っている。

「で、お前の話はなんだ」

 冬次は自分の話を言えなくなった。兄貴たちは急を要する事態に陥っている。冬次の仮説は確証のない思いつきだ。こちらも同じくらいに急を要するが、仮説が外れた時のことを無視できない。労力を割かせて涼くんの足をひっぱりたくない。

「いいや。自分で解決するよ」
「そうか。涼くんを呼んでくるか?」
「それもいい。がんばれって伝えて」

 本当は顔を見たかったが、冬次は踵をかえす。場違いな自分が長居しても邪魔をするだけなので、存在感を消し、すみを移動して外へ出た。
 夜遅くに帰宅すると、寝室のライトだけをつけて南雲は本を読んでいた。いつもどおり「ただいま」と言った冬次を見つめ、ベッドからおりてくると、冬次の頰を両手ではさみ粘土のようにグニグニと捏ねまわした。

「んに、なぐもひゃ?」

 冬次のほっぺは指で摘まれて引き伸ばされる。地味に痛いんだが新手のプレイか?

「元気ない顔」
「え?」
「何かあった顔してる」

 玄関の前で気持ちを切り替えてきたはずだったが、南雲に見破られるほど顔に出ていたのか・・・・・・。冬次は迂闊な自分
を心で叱責しつつ、南雲が気づいてくれたことにニヤニヤが止まらなくなる。

「南雲さん好き。もう大丈夫になったよ」

 愛の力は偉大だ。今ならなんでもできる。スーパーマンにもなれる。
 さっそく可愛い恋人を押し倒しにかかり、指先にコツンと触れた本に視線をやった。
 南雲がサッとわきへ避ける。

「谷峨くらげの小説。いらないのに谷峨がくれるからいっぱいあるんだよね」
「うん。知ってる。本棚にいっぱいあったもんね。面白かった?」
「僕にはさっぱり」

 主に女性向けの恋愛小説は南雲には宇宙レベルの謎だろう。
 冬次がクスッと笑うと、南雲が少しムキになる。

「内容に興味があったんじゃないから。おかげでわかったことがあるよ」
「へぇ、教えてよ」
「こっちを続ける? 先に僕の話を聞く?」
 南雲はのしかかった冬次を見上げる。冬次はわざとらしく考えてから答えた。

「うーん。聞かせてもらおうかな」
「よろしい」

 ノリよく返事した南雲はサイドボードからタブレットを手にとり、メールをひらいた。新しい通知が冬次の目に飛び込んでくる。

「返信の途絶えた時点から日付をさかのぼってメールを送っていったら、ある時点からやり取りが可能になった。そこが未来の分岐点だね」

 冬次はじぃっと南雲を見つめた。

「え、何。どうでもいいことだったならそう言いなよ」
「・・・・・・感動してる。俺が気にしてたから調べてくれたんだよね」
「鼻息荒くしないで。続き聞く?」
「もちろん」

 そう返しながらも冬次は見つめる視線を外さなかった。南雲は顔の前にタブレットを持ちあげ、うるさい視線を遮った。液晶画面を冬次に強制的に見せ、受信メールの開閉操作をブラインドタッチで行う。新しいものから順番に目を通させると、タブレットの後ろから顔を出して問う。

「すごく変じゃない?」

 だが冬次にはその変な具合がわからなかった。キョトンとする冬次に、南雲は不満そうに眉間にしわを寄せた。

「ちゃんと見て。やり取りをくり返しているうちに僕は谷峨のメールにすごく違和感を感じた。まるで二人の人物が一人を演じてやり取りしてるみたいな気持ち悪さを感じる」

 もう一度メールに順番に目を通したが、やはり冬次の目では見分けがつかない。

「ごめん。わかんないや」

 冬次は首を横に振りながらこう続ける。

「谷峨先輩の仲間が返事を返してきたのかも」
「そういうんじゃないんだよ。別人なら代筆してるって言えばいい。まちがいなくメールを打ったのは谷峨本人だよ」
「待って・・・・・・矛盾してない?」

 さっき南雲は〝二人の人物が一人を演じて〟と言ったばかりじゃないか。
 南雲が冬次の疑問にうなずく。みんなの前で黒板に正解の答えを書けた小学生を褒めるような笑顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

再会した男は、彼女と結婚したと言った

拓海のり
BL
高校時代、森と園部は部活も一緒で仲が良かったが、副部長の菜南子と園部の噂が立ち、森は二人から遠ざかった。大学を卒業して森は園部と再会するが、その指には結婚指輪があった。 昔書いたお話です。ほとんど直していません。お読みになる際はタグをご確認の上ご覧ください。一万五千字くらいの短編です。

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

処理中です...