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131 南雲が見つけたこと
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「どこに行けばいいの?」
「涼くんの研究室にいる」
「おーけー」
二重に嬉しい成果をえられた。久しぶりに涼くんに会える許可をもらった冬次は礼儀正しく秘書に受話器を返した。
涼くんがいる邸宅は今やガードマンに護られており、兄貴の名前を使って中へ入ると、もとは座間と家政婦しかいなかった空間で研究員たちが机を並べて仕事をしている。リビングだった場所に見慣れない器具や設備が運び込まれ、研究施設に様変わりだ。
兄貴は涼くんと地下室にいるのだろう。冬次が地下階段をおりると、ドアがあけ放たれていたのだから驚いた。閉じ込められていた頃のホラーじみた陰気な地下の雰囲気から、活気が生まれている。
涼くんはおのれのテリトリーにも人を招きいれて研究活動に邁進しているようだ。しかし何やら地下室内を行き交う声がどれも荒っぽい。議論がヒートアップしているのはいいが、喧嘩沙汰にまで発展していては大変だ。慌てて室内を覗いたので、ちょうどドア付近に立っていた兄貴の肩に衝突した。
兄貴は目を見ひらいてふり返り、すぐ人差し指を口に当てるジェスチャーで冬次を黙らせる。そして階段に移動して、兄貴の方から事情を説明してきた。
「ここ最近の研究はずっとこんな感じだ。実は完成したと思われた試作品の作成方法に穴があると判明した。最後のピースがどうにも見つからないらしい」
「安全試験開始の予定は?」
「完成しなければ延期せざるえなくなるだろう」
声を荒げる研究員ほどではないが、兄貴も相当に苛立っている。
「で、お前の話はなんだ」
冬次は自分の話を言えなくなった。兄貴たちは急を要する事態に陥っている。冬次の仮説は確証のない思いつきだ。こちらも同じくらいに急を要するが、仮説が外れた時のことを無視できない。労力を割かせて涼くんの足をひっぱりたくない。
「いいや。自分で解決するよ」
「そうか。涼くんを呼んでくるか?」
「それもいい。がんばれって伝えて」
本当は顔を見たかったが、冬次は踵をかえす。場違いな自分が長居しても邪魔をするだけなので、存在感を消し、すみを移動して外へ出た。
夜遅くに帰宅すると、寝室のライトだけをつけて南雲は本を読んでいた。いつもどおり「ただいま」と言った冬次を見つめ、ベッドからおりてくると、冬次の頰を両手ではさみ粘土のようにグニグニと捏ねまわした。
「んに、なぐもひゃ?」
冬次のほっぺは指で摘まれて引き伸ばされる。地味に痛いんだが新手のプレイか?
「元気ない顔」
「え?」
「何かあった顔してる」
玄関の前で気持ちを切り替えてきたはずだったが、南雲に見破られるほど顔に出ていたのか・・・・・・。冬次は迂闊な自分
を心で叱責しつつ、南雲が気づいてくれたことにニヤニヤが止まらなくなる。
「南雲さん好き。もう大丈夫になったよ」
愛の力は偉大だ。今ならなんでもできる。スーパーマンにもなれる。
さっそく可愛い恋人を押し倒しにかかり、指先にコツンと触れた本に視線をやった。
南雲がサッとわきへ避ける。
「谷峨くらげの小説。いらないのに谷峨がくれるからいっぱいあるんだよね」
「うん。知ってる。本棚にいっぱいあったもんね。面白かった?」
「僕にはさっぱり」
主に女性向けの恋愛小説は南雲には宇宙レベルの謎だろう。
冬次がクスッと笑うと、南雲が少しムキになる。
「内容に興味があったんじゃないから。おかげでわかったことがあるよ」
「へぇ、教えてよ」
「こっちを続ける? 先に僕の話を聞く?」
南雲はのしかかった冬次を見上げる。冬次はわざとらしく考えてから答えた。
「うーん。聞かせてもらおうかな」
「よろしい」
ノリよく返事した南雲はサイドボードからタブレットを手にとり、メールをひらいた。新しい通知が冬次の目に飛び込んでくる。
「返信の途絶えた時点から日付をさかのぼってメールを送っていったら、ある時点からやり取りが可能になった。そこが未来の分岐点だね」
冬次はじぃっと南雲を見つめた。
「え、何。どうでもいいことだったならそう言いなよ」
「・・・・・・感動してる。俺が気にしてたから調べてくれたんだよね」
「鼻息荒くしないで。続き聞く?」
「もちろん」
そう返しながらも冬次は見つめる視線を外さなかった。南雲は顔の前にタブレットを持ちあげ、うるさい視線を遮った。液晶画面を冬次に強制的に見せ、受信メールの開閉操作をブラインドタッチで行う。新しいものから順番に目を通させると、タブレットの後ろから顔を出して問う。
「すごく変じゃない?」
だが冬次にはその変な具合がわからなかった。キョトンとする冬次に、南雲は不満そうに眉間にしわを寄せた。
「ちゃんと見て。やり取りをくり返しているうちに僕は谷峨のメールにすごく違和感を感じた。まるで二人の人物が一人を演じてやり取りしてるみたいな気持ち悪さを感じる」
もう一度メールに順番に目を通したが、やはり冬次の目では見分けがつかない。
「ごめん。わかんないや」
冬次は首を横に振りながらこう続ける。
「谷峨先輩の仲間が返事を返してきたのかも」
「そういうんじゃないんだよ。別人なら代筆してるって言えばいい。まちがいなくメールを打ったのは谷峨本人だよ」
「待って・・・・・・矛盾してない?」
さっき南雲は〝二人の人物が一人を演じて〟と言ったばかりじゃないか。
南雲が冬次の疑問にうなずく。みんなの前で黒板に正解の答えを書けた小学生を褒めるような笑顔だった。
「涼くんの研究室にいる」
「おーけー」
二重に嬉しい成果をえられた。久しぶりに涼くんに会える許可をもらった冬次は礼儀正しく秘書に受話器を返した。
涼くんがいる邸宅は今やガードマンに護られており、兄貴の名前を使って中へ入ると、もとは座間と家政婦しかいなかった空間で研究員たちが机を並べて仕事をしている。リビングだった場所に見慣れない器具や設備が運び込まれ、研究施設に様変わりだ。
兄貴は涼くんと地下室にいるのだろう。冬次が地下階段をおりると、ドアがあけ放たれていたのだから驚いた。閉じ込められていた頃のホラーじみた陰気な地下の雰囲気から、活気が生まれている。
涼くんはおのれのテリトリーにも人を招きいれて研究活動に邁進しているようだ。しかし何やら地下室内を行き交う声がどれも荒っぽい。議論がヒートアップしているのはいいが、喧嘩沙汰にまで発展していては大変だ。慌てて室内を覗いたので、ちょうどドア付近に立っていた兄貴の肩に衝突した。
兄貴は目を見ひらいてふり返り、すぐ人差し指を口に当てるジェスチャーで冬次を黙らせる。そして階段に移動して、兄貴の方から事情を説明してきた。
「ここ最近の研究はずっとこんな感じだ。実は完成したと思われた試作品の作成方法に穴があると判明した。最後のピースがどうにも見つからないらしい」
「安全試験開始の予定は?」
「完成しなければ延期せざるえなくなるだろう」
声を荒げる研究員ほどではないが、兄貴も相当に苛立っている。
「で、お前の話はなんだ」
冬次は自分の話を言えなくなった。兄貴たちは急を要する事態に陥っている。冬次の仮説は確証のない思いつきだ。こちらも同じくらいに急を要するが、仮説が外れた時のことを無視できない。労力を割かせて涼くんの足をひっぱりたくない。
「いいや。自分で解決するよ」
「そうか。涼くんを呼んでくるか?」
「それもいい。がんばれって伝えて」
本当は顔を見たかったが、冬次は踵をかえす。場違いな自分が長居しても邪魔をするだけなので、存在感を消し、すみを移動して外へ出た。
夜遅くに帰宅すると、寝室のライトだけをつけて南雲は本を読んでいた。いつもどおり「ただいま」と言った冬次を見つめ、ベッドからおりてくると、冬次の頰を両手ではさみ粘土のようにグニグニと捏ねまわした。
「んに、なぐもひゃ?」
冬次のほっぺは指で摘まれて引き伸ばされる。地味に痛いんだが新手のプレイか?
「元気ない顔」
「え?」
「何かあった顔してる」
玄関の前で気持ちを切り替えてきたはずだったが、南雲に見破られるほど顔に出ていたのか・・・・・・。冬次は迂闊な自分
を心で叱責しつつ、南雲が気づいてくれたことにニヤニヤが止まらなくなる。
「南雲さん好き。もう大丈夫になったよ」
愛の力は偉大だ。今ならなんでもできる。スーパーマンにもなれる。
さっそく可愛い恋人を押し倒しにかかり、指先にコツンと触れた本に視線をやった。
南雲がサッとわきへ避ける。
「谷峨くらげの小説。いらないのに谷峨がくれるからいっぱいあるんだよね」
「うん。知ってる。本棚にいっぱいあったもんね。面白かった?」
「僕にはさっぱり」
主に女性向けの恋愛小説は南雲には宇宙レベルの謎だろう。
冬次がクスッと笑うと、南雲が少しムキになる。
「内容に興味があったんじゃないから。おかげでわかったことがあるよ」
「へぇ、教えてよ」
「こっちを続ける? 先に僕の話を聞く?」
南雲はのしかかった冬次を見上げる。冬次はわざとらしく考えてから答えた。
「うーん。聞かせてもらおうかな」
「よろしい」
ノリよく返事した南雲はサイドボードからタブレットを手にとり、メールをひらいた。新しい通知が冬次の目に飛び込んでくる。
「返信の途絶えた時点から日付をさかのぼってメールを送っていったら、ある時点からやり取りが可能になった。そこが未来の分岐点だね」
冬次はじぃっと南雲を見つめた。
「え、何。どうでもいいことだったならそう言いなよ」
「・・・・・・感動してる。俺が気にしてたから調べてくれたんだよね」
「鼻息荒くしないで。続き聞く?」
「もちろん」
そう返しながらも冬次は見つめる視線を外さなかった。南雲は顔の前にタブレットを持ちあげ、うるさい視線を遮った。液晶画面を冬次に強制的に見せ、受信メールの開閉操作をブラインドタッチで行う。新しいものから順番に目を通させると、タブレットの後ろから顔を出して問う。
「すごく変じゃない?」
だが冬次にはその変な具合がわからなかった。キョトンとする冬次に、南雲は不満そうに眉間にしわを寄せた。
「ちゃんと見て。やり取りをくり返しているうちに僕は谷峨のメールにすごく違和感を感じた。まるで二人の人物が一人を演じてやり取りしてるみたいな気持ち悪さを感じる」
もう一度メールに順番に目を通したが、やはり冬次の目では見分けがつかない。
「ごめん。わかんないや」
冬次は首を横に振りながらこう続ける。
「谷峨先輩の仲間が返事を返してきたのかも」
「そういうんじゃないんだよ。別人なら代筆してるって言えばいい。まちがいなくメールを打ったのは谷峨本人だよ」
「待って・・・・・・矛盾してない?」
さっき南雲は〝二人の人物が一人を演じて〟と言ったばかりじゃないか。
南雲が冬次の疑問にうなずく。みんなの前で黒板に正解の答えを書けた小学生を褒めるような笑顔だった。
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