未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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133 人質

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 翌朝、南雲はベッドから出てこなかった。起きているのかもしれなかったが、冬次は南雲に時間をあげると決めたので、メモを残して家を出た。
『仕事が終わったら涼くんの研究室に寄ってくるよ。待ってるから来て』
 メモにはそう書き残してきた。あとは南雲の決断を待つしかない。冬次はただ信じて待ち、他のできることをしておく腹づもりだ。
 この日は定時で仕事を切り上げると、座間に会いにいった。電話もメッセージも無視されるのでソノちゃんにお願いして同行してもらいドアをあけさせる方法をとる。

「騙したのか⋯⋯!」

 冬次は閉められる前にドアを押さえた。

「じゃあね頑張って」
「ソノちゃんありがとう」

 大事な機会を作ってくれたソノちゃんに感謝を伝え、苦虫を噛みつぶしている座間に向きなおる。しばらく力の押し合いをしたが、冬次は絶対に負けなかった。やがて座間が冬次を閉め出すことを諦めて、後ろに下がる。冬次は素早く部屋にあがり、ドアを閉めた。

「元気そうじゃん」

 座間は冬次が心配したほど荒れてはいなかった。部屋はしっかり片づいていて、身なりもちゃんとしている。清潔な服を着て、ひげの剃り残しすらない。少し痩せたかなと思えるが、思い詰めて体調を崩していると聞いていたほどではない。
 落ち込んでどうしようもなくなっている友人を見るよりも喜ばしいことだが、無視され続けた苛立ちがわずかに頭をもたげた。

「お前を責めたことを俺はずっと謝りたかったんだぜ。メッセージ読んでたよな?」
「ごめん。返事しようと思ってたけどできなかった。だからってソノちゃん使って騙して押しかけるなよな」
「はぁ、お前に会って話さなきゃいけないことがあんだよ」

 冬次は整理された部屋を見まわした。

「谷峨先輩が蕾会のメンバーを誘拐して消えた」

 座間のリアクションを見ると、驚いた表情を忘れなかったようだが、ワンテンポ遅く不自然だった。

「あの人のことは知らない。俺には関係ない」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃない」
「嘘でしょ。な、座間。お前変だもん。挙動不審でバレバレ」

 冬次がそう煽ると、座間は目をキョロキョロ泳がせて本当に・・・挙動不審になる。

「大好きな谷峨先輩がいなくなったってのに立ち直るのが早いよね」

 冬次の言葉に座間が赤くなった顔を手で隠した。

「俺なら引きこもっていられないよ。大きな事件に巻き込まれてるかもしれないし、大勢の罪のない人を巻き込もうとしてる側かもしれない。決して許されない犯罪に手を染めようとしているなら止めなくちゃって思うんだけどな」
「帯人くんはちがう! 勝手に犯罪者にするな!」
「それなら教えろよ。お前は今もう自滅したんだぞ。そんなふうにがんばる意味はあるのかよ。谷峨先輩が死のうとしてるかもって考えないの?」

 座間は唇を噛み、一瞬泣きそうな顔になる。だが首を横にふった。

「まさか死にたい谷峨先輩を止めなかったのかよ」
「⋯⋯止めたかったに決まってるだろう。でもボロボロで見てられなかったんだよ。いつも余裕そうでかっこいい帯人くんが最後に俺を頼ってくれたんだから黙ってそうしてあげるしかないじゃん」

 冬次は思わず失笑した。

「情けないな」

 殴られる覚悟で口にしたが、座間はふっきれた様子で煽り文句をクールに受け止める。

「どうとでも言え。帯人くんから奈良林に話すなと口止めされてんだ。お前のお節介はウザいな」
「おう。諦めて話してくれるといいんだけどな。こっちも知り合いが何人もいなくなって譲れないんだ。克己さんとこに善光くんを無事に帰してあげたいんだよ。せめて知っているなら彼らが連れていかれた場所を教えてくれないか」

 効果があると踏んだとおり、七草の名前を出した途端に座間が神経質に腕をさすった。谷峨に関しては鉄壁の護りでも、角度を変えて攻めるだけで簡単にほころびる。平凡な心の持ち主は知っている人間に情をかけてしまうものだ。
「場所は教えられない」

 座間の声は小さい。

「おいっ」
「でも! 誘拐された人たちは大丈夫だ。失踪と偽って保護してる。ほとぼりが冷めてバース性抹消薬が完成したら、彼らに薬を処方してから解放するようにって帯人くんから頼まれてるんだ。本当だ」

 谷峨に遠慮しているのか、座間の声は尻すぼみにか細くなっていった。

「静かに終わらせてあげたいんだよ。余計なことはしないでくれ」
「わかったよ」

 だが冬次は言葉とは裏腹に舌打ちすると座間の手首を掴み、「来い」とひっぱる。玄関で靴につま先をつっこみ、目を丸くして抵抗する座間を裸足のまま外へ連れだし、後部座席に押しこむと素早く車を出した。

「車を戻せ!」
「やだよ」

 冬次はギャーギャーわめく座間に、外へ出る直前に玄関で適当に掴んできたサンダルをポイと投げる。

「くそっ、強引すぎだろ。わかったって言ったじゃねぇか」
「事情はわかったって意味。納得できるわけねぇだろ。お前が利かないことばっか言うから拉致することにしたから」
「は?」
「座間は谷峨先輩の弱みだ。人質みたいなもん」
「いやいや、俺が?」
「そうだよ。悪いけど俺と一緒にいてもらうからな。ついでに居場所も喋ってもらう」
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