未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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30 おばさんの退院日

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 おばさんの退院はイブの日になった。しかし、前日から天気は大荒れ、滅多にない大雪に見舞われていた。

「あちゃー、明日は交通機関全滅。道路も通行止めで混雑してるみたいだね」

 夜、居間にて肩を落とすおじさん。テレビのニュースとスマホのネットニュースとで予報が変わるでもないのに、永遠と交互に睨めっこしてる。

「病院に電話して退院日を延ばしてもらえるよう交渉するか?」

 藤井がスマホに病院の番号を表示させ、おじさんに渡した。

「いや」
「父さん」

 おじさんは息子にスマホを返すが、藤井も引かない。

「どうすんの」

 冬次は口を挟んだ。のんびり眺めていられる時じゃないので、やきもきする。

「そうだねぇ。今年は家内も入れてクリスマスを過ごせると期待していたが仕方ないのかな」
「残念だけど諦めようよ。俺が電話する」

 淡白な藤井の態度に、おじさんが気の毒になる。南雲は意識的に藤井家の会話に入らないようにしているのか、出してもらったこたつでうたた寝しており、あてにできなかった。藤井が外で通話をしているうちにおじさんのそばにいってこっそり進言する。

「おじさんだけ病院行ってクリスマスおばさんと過ごしたらどうかな」
「ぜひ行きたいのはやまやまだけど、克己に怒られてしまうから」
「行ってあげなよ。克己さんは俺に任せてさ」
「でもねぇ」

 渋るおじさんの声が決めかねていると教えてくれる。

「克己さんがいない隙に行っちゃったら? 行っちゃったもん勝ちだよ」
「え」
「ほらほら」

 おじさんを立たせ、背中を押して歩かせた。居間から廊下を覗くと、玄関先で藤井が電話中。冬次は玄関を指差してからバツを作り、勝手口に指先を向け直してから頷く。

「わかった。冬次くんがそこまで言ってくれるなら」

 台所を経由してコートを引っ提げ、勝手口用のサンダルで出ていくおじさんを見送ると、いつのまにか南雲が背後に立っていた。

「君が克己くんに怒られるぞ」
「いーんだ。これで選択肢が狭まったし」
「選択肢?」

 南雲が腕を組みながら小首を傾げる。

「明日中には無理でも雪が止めばおじさんがおばさんを連れて帰ってきてくれる。強引にでもおじさんを行かせてしまえば、克己さんは家から出なくて済むでしょ」

 さっきの押し問答は、天候の回復後に今度は誰が迎えにいくかで再開されていたはずなのだ。雪が積もり凍った道路を、藤井なら自分が運転すると言い出しかねない。
 おばさんが寂しくないようにって思ったのも本心だけど。

「俺たちは今から事故が起こるとされる日が過ぎるまで克己さんを監視するんだよ!」
「するんだよって意気込まれてもねぇ、家中くっついてまわるつもり?」
「そのとおり。とにかく家の中にいれば安全だ、そうでしょ?」

 南雲の顔にはそう簡単にいかないだろうと書いてあるが、何がなんでも藤井を死ぬ運命から遠ざけるんだ。
 その時、廊下で足音を聞きつけた。居間のドアが開かれ、冷たい隙間風が流れ込む。不自然な場所に立っている冬次と南雲に、藤井がすぐさま顔をしかめた。

「退院日は無理をお願いして延ばしてもらえたんだけど、父さんは?」

 冬次と南雲は、揃って目を泳がせる。

「俺は何もしないでくれって頼んだよな」

 きつい言い方。詰るように「な?」と語尾を強調して繰り返された。冬次は唇を引き結ぶ。

「するよ。なんだってする」

 そう呟いてから、ニッと唇をほどいた。

「一緒に過ごすだけじゃん」

 藤井が言い返せないのを悟り、冬次は笑みを深める。

「てことで、今日から二十六日が終わるまでみっちり俺らとクリスマスね」
「勘弁してくれよ」

 声の響きで観念したとわかる。

「南雲さんと俺で交互に買い出しして」
「やぁだよ。最初が冬次くんで、次も冬次くん」

 こたつに潜り、間延びした声で猫みたいに寝転んだ南雲を見て笑う。

「よっしゃ、楽しくてあっという間だよ」

 そうあれ、と自分に願った。

「でも明日にしような。何時だと思ってるんだ。俺は父さんが無事ついたか連絡待って寝るから」
「じゃ俺も。南雲さん・・・・・・はもう寝てるか」

 冬次は藤井を待っているあいだに眠ってしまった。明け方に一度目を覚ますと、藤井はソファで寝息を立てている。
 寝返りを打つと、こたつの中では南雲と足が触れ合う。よかった。二人とも自室に戻らないで、いてくれた。今少しの幸せを感じながら眠った。
 朝になり、カーテンを開ける冬次の目に飛び込んできたのは冬の嵐。ホワイトアウトした窓の外は太陽の光が届かず暗くて、ホワイトクリスマスと謳うには無理があった。横殴りの吹雪が視界を塞ぎ、雪慣れしていない家屋の窓壁を軋ませている。

「おじさんは大丈夫だって?」

 後ろを振り向き、朝のニュースを眺めている藤井に訊く。

「ああ。時間も時間だったから、この前使ったホテルで一泊して病院に行くって」
「そっか、あとでテレビ電話したいって言われそうだね」
「だな」
「冬次くん、買い出しがんばって」

 天候は最悪だが室内は暖かく、不安要素も消え、まったり気分に浸っていたのに、朝食を運んできた南雲にぶち壊される。絶対わざとだ。

「猛吹雪の中を俺に行かせる気?」
「イブとクリスマスとおじさんが張り切って二日連続でケーキ予約しちゃってるし。取りに行かなきゃケーキ屋に申しわけない」
「きっと吹雪で臨時休業だよ」
「いいや、ホームページに通常営業って書いてある」
「ちゃっかり確認してんなよ」
「残念だったな」

 南雲が冬次の前にトーストの皿を置く。憐れみ笑みつきで。藤井の前にはコーヒーを置いた。南雲の顔を見て、藤井がつられ笑いをこらえている。

「ガキが二人いるみたいで騒がしい。俺が行くか?」
「克己さんは駄目でしょ。俺が行く」

 声に出してから気づいた。言わされた。

「よろしく~」

 冬次の前に置かれたオレンジジュース。南雲は彼自身の分にコーヒーを新しく淹れる。なんで俺だけオレンジジュースなんだと、冬次はコップを鷲掴むと、一気に飲み干した。

「南雲さん、俺にもコーヒー」
「飲めるの?」
「気合い」

 藤井はそんな二人の様子をどこか面映そうに眺めていた。
 その後、午前中は雪かきをし、吹雪いているので掻いたそばからどんどん降り積もってしまうが、歩く道を確保しないと家から出られないのだ。昼の時間まで藤井と協力してがんばった。
 昼から豪勢な料理とはならず、簡単な食事を済ませて、出かける支度をする。セーターの上におじさんのだというダウンを借りて着込み、靴下を二枚ばきして長靴を履いた。見た目がどうのこうのと言っていられる積雪量じゃないため、着ぶくれ上等だ。
 玄関からいってきますと声をかける。

「夕方には止むそうだ」

 藤井がスマホを手にしている。
 戸を引き、冬次は外の白さに目を細めた。

「風が弱くなってる」

 灰色の雲の隙間にわずかな青空ができ、雪はちらちらと舞う程度になっている。多少不便だが、歩いていけるだろう。

「ケーキ屋の場所はわかるな? 雪が溶けてくると滑るから足元に気をつけてな」
「うん、いってきます」


 ◆


 雪が弱まったこともあり、ケーキ屋は混み合っていた。並んでいる最中に南雲から追加のおつかいをお願いされ、予約のケーキを受け取ってからスーパーに寄り道する。両腕に重たいエコバッグを下げて帰宅した。

「ただいまー。くっそ重かった。助けてー」

 せっかく大変な買い出し役を担ってあげたのに、労いどこかおかえりすら返ってこない。

「はっ、まさか」
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