Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

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第二章『召喚された少年と禁忌の魔法術』

45 芽吹いてしまったら

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(早急に場所を移さないと大変なことになる)

 遠目に見てもわかる発汗、触れば高温になっているだろう体、抑えているが苦しそうな呼吸。
 琥太郎はプレ・ヒートを起こしていた。

「ちょっとちょっと途中で邪魔しちゃルール違反だよ」

 席に戻れと、店員がジョエルの肩を掴む。

「そんなことを言っている場合では。中止してくださ」
「ジョエル」

 琥太郎が名前を呼ぶ声が重なった。

「もう食い終わった。これで俺の勝ちだな?」

 呼吸は荒いままの琥太郎の気迫に、店主が呆気に取られて頷く。

「あ、ああ、好きなとこを使え。鍵が開いてりゃ空室だ。金は用意しておく」
「金はいらねぇから、今夜からしばらく客を泊めないでくれ。部屋は全部、俺が借りる」

 琥太郎は言い残し、ジョエルに目配せする。  
 汗だくの手でジョエルは導かれ、一階の店から階段を上がった。宿は二階と三階が宿泊用になっている。廊下を突き当りまで進み三階に上がる。
 できるだけひとの気配から離れようとしているのがわかった。
 琥太郎は一番奥まった部屋に入る。ここまで爆進してきた琥太郎だが、ドアと鍵を閉めるとやっと切羽詰まった顔で振り返った。

「は、やべ・・・・・・あっちぃ」

 それでもまだ痩せ我慢して笑う。

「汗流してくるわ」

 琥太郎がシャワールームへ消えると、ジョエルはベッドに腰を落とした。
 フェロモンが強い。百人ぶんのオメガのフェロモンを集めて凝縮したような濃さだ。息が詰まる。呼吸が苦しい。部屋に入った途端に琥太郎の体から際限なく一気に開放された。
 部屋にたどり着くまでよく堪えてくれた。間に合って良かった。
 しかし、これは。

(プレ・・・・・・だよね?)

 ジョエルの体がじっとりと汗をかいている。
 影響を受けているのか下腹が疼き、うなじから背中にかけて逆撫でされたようにザワザワした。

「ごめん、汗流したらさっぱりした」

 とてもそうは思えない顔で琥太郎が戻ってくる。
 全力疾走後のようだった早い呼吸はわりかし落ち着いているので、心臓を握りつぶされるがごとき苦しみが別のものにすでに取ってかわったということだ。

「いつから?」

 ジョエルは琥太郎をまっすぐ見つめ、偽りのない返答を乞う。

「いつからって?」
「しらばっくれないで」
「別に、俺は別に」
「べつに何?」

 火照った顔はシャワーの湯のせいじゃないよねと問い詰めると、琥太郎がなおも濁そうとする。

「お前が考えてるものじゃない」

 話が前に進まず、ジョエルはため息をつきたくなった。

「コタロー、それはヒートだよ。だいぶ前から完全な発情を起こす予兆があったんでしょう?」
「ちげぇよ・・・くそ」

 琥太郎は涙ぐんでいた。

「まだ認めたくないんだね」
「お前、最低」

 泣きそうな顔に皺が寄る。しかし喧嘩できる体力がないのか、諦めたようにドアに向かう背中をジョエルは追う。

「どこ行くの?」
「隣の部屋で寝るんだよっ、ついてくんな」

 言葉尻強めに言い放たれ、ジョエルの伸びかけた腕が下りた。旅の連れが出て行ってしまった部屋にはジョエルと、虚しさを助長させる甘い残り香が置き去りにされた。

(学園にいた頃はいつも同じ部屋で眠ってたのに)

 あの頃と変わらず琥太郎を自分のことのように心配している。
 なのに。何故? 
 その頃と今の違いがジョエルにはわからなかった。

 すんと残り香を嗅ぐと、琥太郎のフェロモンに感化されて熱が溜まった。歪になった心と体を、発情期でもないのにジョエルは初めて慰めた。
 オメガのヒートは慣れてしまえば怖くない。疼きも熱も永遠でなく必ず終わりが来るのだ。
 
(ちゃんと教えてあげたいな。怖くないよ大丈夫だよって言ってあげたい)

 そうしたら琥太郎も楽になると、ジョエルは信じて疑わなかった。
 その後、自慰の余韻で気だるくなったまま眠ってしまい、翌朝シャワーを浴びてから隣の部屋のドアを叩いた。

「コタロー? おはよう、起きてる?」

 今日の予定はどうするのかと言葉を続けたが、室内からなかなか返事がない。
 フェロモンが暴発して外に漏れ出ていれば嗅覚で感知できるが、それもない。眠っているのだろうか。

(きっとすごく疲れてるよね・・・・・・)

 ジョエルは試しにノブを回してみて内から間違いなく施錠されていることを確認すると、ドアの前から立ち去った。
 一階に降りたジョエルは昨夜とは打って変わった芳ばしい小麦の香りと優しいスープの香りに腹を鳴らす。

「美味しそうな香りですね」

 ジョエルが話しかけるとカウンターの中の店主が顔を上げる。

「おう、これでも昼間は普通の宿屋やってるからな。食事は宿泊費込みだ」
「しかし今は僕らしかいないのでは」
「俺の負けは負けだからな。ありゃ正式なゲーム、ルールどおりにしねぇと俺が気持ち悪りぃんだ。そういやあの兄ちゃん食い過ぎで寝込んでんだろ? 医者を呼ぶか?」
「平気ですよ」

 丁重に首を横に振ると、ぐつぐつと鍋で煮られたスープが出された。

「食いな。必要になった時は言え。腕のいい医者を知ってる」
「ありがとうございます」

 ジョエルはテーブルにつき、ひと口飲んで、スプーンを置く。

「口に合わなかったか?」
「いいえ。美味しいです。そうではなくて、僕たちを怪しいと思われないんですか」
「ワケありなんだろうなとは思うけどな。宿には色んな事情抱えた奴が来る。けど泊めていい奴と泊めちゃ危ねぇ奴を見分けるそういう目だけは肥えてんのよ。ま、深くは聞かねぇよ」
「そうですか、助かります」

 ジョエルは会話をやめ、スープを口に運んだ。香辛料が雑多に使われている俗な味つけだが、作り手の顔を見ながら食べると親しみ深く旨みを感じられる。

「・・・・・・あのさ、綺麗な兄ちゃんよぉ、すまんが夜になったら飲み屋だけは開けてもいいか」

 誰が聞いているわけでもないのに声をひそめて訊ねてくる店主は、今度はジョエルのためにパンを切り分けてくれている。
 たった二人の客では商売人として心許ないのだろう。迷惑をかけるのも申しわけなく、ジョエルは「ええ。構いません」と返事をした。
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