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第二章『召喚された少年と禁忌の魔法術』
67 禁忌の術
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心労からか実年齢よりも年老いて見える魔術師は、国王陛下の側近という名誉に心惹かれたわけではなかった。
「私は師と見つけたあの手記の全貌をどうしてもこの目で見たかった」
ギュンターはモーリッツと共に古代王朝の遺跡を調査して全体の約三分の二にあたるページを発見している。ジョエルと琥太郎がシーレハウス学園で見せてもらった、最初に召喚魔法術を用いて呼び寄せられた渡来者について記された誰かの直筆の記録。
「半端なあれを目にしてから私の心は取り憑かれてしまったのだろう。師はそんな私を諌め、私から手記を取り上げ決別を告げて去った。私は当初は怒りに震え、ベータである師には魔法術の素晴らしさ尊さがわからないのだと思っていた。しかし大きな間違いであった。師は、その唯一無二の神秘性に気がついていたのだ。いかに超自然的な危険が孕むのかも」
だが後悔と失敗を得た今でこそ思えるのであって、簡単に思い直せなかったと、ギュンターは衰えない探究心を加速させていた若さと行動力、無謀な野望、それからかつての師に対し抱いていた反抗心を省みる。
愚かだった若き魔術師は、この頃に接近してきたロンダール王国の王の配下に加わる。国王は言葉たくみにギュンターを口説き、ギュンターが喉から手が出るほど欲していた手記の残りの後方ページを見せた。
何故、目の前の王の手元にそれがあるのか・・・?
気になりはしたが、一国の王に「お前に魔術師としての最高位の称号を与え、魔法術の管理を一任したい」と命じられたならば、「王命とあらば喜んで」と返事をするしかない。
アルファといえど魔術師の職についている限り肩身の狭い思いをたくさんしてきた。存分に研究を行う金と権力を手に入れた男は人生で最高に有頂天だった。
そして、
「国王側近魔術師に就任してからまもなく、国王陛下様に呼ばれると、手記に記されていた禁忌の魔法術を『試してみてほしい』と頼まれた」
ジョエルたちにそう言ったギュンターは、今まさに恐ろしいものを見ているかのように両瞼を手で覆う。
「先生、あれは・・・でも」
咄嗟に反応してしまったが、ジョエルは言い淀んだ。
「アルトリアくんの言いたいことはわかっているよ」
「なんだよ」
続きを口にすることを躊躇するギュンターに、琥太郎が早く言えと急かした。
「・・・・・・私が頭を悩ませた最大の懸念は魔法術を発動させるのに生贄が必要だったこと。オメガ一人分の命と引き換えにしなければ術式が成立しなかったのだ。様々な性別の人間で試してみたがどれも発動せず、オメガ一人を生贄にして試みても失敗を重ねるばかりだった」
「何それ、ガチの話?」
琥太郎は真っ青になってジョエルに問う。
「うん。この国にオメガがいないのって召喚魔法術のために使い尽くしてしまったからですよね」
ジョエルはギュンターに借りた手記を琥太郎と洋に見せる前に、一番上のページに残されていた魔法術式に目を通していた。
「え、つか、お前なんで平気な顔してられんの?」
琥太郎は苦しそうな顔で胸元を握りしめる。
「俺と引き換えにオメガが一人死んだってことじゃねぇか」
「多分だけど、コタローとヨウの時はそうじゃなかったんだと思う。僕、こっそりお世話してくれる官人に聞いたんだよね。そしたらその彼はオメガの世話をするのは数年ぶりだって口を滑らせてたから」
ジョエルの証言にギュンターは苦虫を噛んだように笑い声をあげた。
「さすが勘が鋭いな。他国からオメガを攫うことだけはしたくなかったが、自国のオメガが底をつき、反対するにも手立てがなくなっていた。この頃には私は憔悴し切っていて、もう辞めさせてほしいと願い出ようかと考えていた時だった。血迷っていたのだろうね、私は最後に私自身を生贄に捧げようと思った」
「で、先生は成功したのですね」
「そうだ。なんとも驚いたさ。これまでの努力はなんだったんだと思うだろう?」
アルファの人間の魔法術が発動し、そいつは生きているのに異世界から少年が現れたんだからと、ギュンターは自分自身を嘲笑った。
× × ×
ジョエルたち四人は聞き取りを終えて、食堂用の広間に集まっている。テーブルにはビスケットなどの軽食とティーカップが並んでいるものの、誰も手をつけない。ジョエルはギュンターの話を頭の中で処理するので手一杯だ。
最初に茶をひと口すすったのはセスだった。
「でも殿下、すでに魔術師様をお許しになっていますよね」
「そうなのかよ」と声色を低くしたのは琥太郎。
セスは肩をすくめる。
「彼に木枷を嵌めても拘束にならない」
くふふと、ハワードの唇が引き上がる。
「ええ、燃やしてしまおうと思えば赤子の手をひねるより容易いでしょう。けれど外さないで大人しく拘束されているあたり猛省していると思えます」
「それだけで許すのかよ」
「コタローさん、グレッツェル氏に全責任を押しつけて責めるのは筋違いなのですよ」
「はぁ?」
礼儀を欠いた琥太郎の物言いにセスが眉を寄せた。ジョエルは居た堪れず琥太郎に向けて口を開きかける。
「宜しいですよ」
ハワードは今気にしている問題はそこではないと、手でひらりと制した。
「理由を答えましょうコタローさん。何故なら彼が成し得たことではないからです」
コタローと共にジョエルはぽかんとする。
「グレッツェル氏がモーリッツ氏と最初に手記の一部を発見したことは彼等の手柄だったのでしょう。だがそのことが始まりでした。見つけてはならなかった。永遠に人目に晒されぬよう手記の作成者は自らの手であの書物を分断し別々に隠していたのに」
「燃やすなりなんなりすれば良かったんじゃ」
ジョエルは問うが、ハワードはかぶりを振る。
「できなかったのです。手記は存在し続ける必要がありました。あれは、あれ単体が魔法術の結晶。アルトリアさんは魔法術の知識がありますね?」
「はい」
「では、言霊について聞いたことは?」
「ありません」
「呪文、魔法を発動させる術式、魔法陣からみられるように魔法術において文字と言葉は大きな意味を持ちます。この世の万物全てに命が宿りますが、文字や言葉というのは個人の手や口を介して生み出されるため、最もフェロモンを込めやすく、個人に従う性質があるのです」
それが言霊になるのだとジョエルは理解した。
「フェロモン操作に疎い者、フェロモンを持たない者の言霊であれ、少なからず影響力があります。魔法術に秀でた魔術師が行えば嘘も真実にすることが可能とまで云われています」
「思わず否定したくなっちゃうくらいの話ですね・・・・・・」
しかしジョエルは否定し切れないほどの力を目の当たりにしたばかりだ。
「ええ、あの手記は大半こそ実際に起こった出来事でしたが、後半にかけては未来を記した予言。グレッツェル氏は言霊による予言の力で召喚を成功させたのです」
「信じられるかよ」
ジョエルほど魔法術に畏怖も憧れもない琥太郎が夢のないことを吐き捨てる。
「ハワード・・・様に、大昔の人間のことがわかんだよ」
セスにじろっと睨まれて名前の呼び方は改善された。それでも反抗的な声音だった。
「コタロー、怒ってるの?」
「怒ってるよ。長々と聞いてりゃジョエルはまったく関係ないよな。何がしたくてこいつを巻き込んだんだよ!」
琥太郎は噛みつきそうな剣幕で吠える。
怒ってくれるのは嬉しいがジョエルは複雑な気持ちで下を向いた。
「わかりませんよ。関係あるのかもしれません」
ハワードの声は淡々としている。
「適当なこと言わないでくださいますかね?」
「いいえ覚えていませんか? グレッツェル氏の告白の中で気になる点があったのです。モーリッツ氏は禁忌の召喚魔法術の解明に消極的だったと、変ですよね?」
「変だぁ?」
いよいよもって生意気な口調を一度叱らなければならないか。ジョエルは腕を組んで顎をそらせる琥太郎の脇をこづいて、「あっ」と声を上げる。琥太郎は「ああ?」と怪訝そうに首を捻った。
「変です。変だよ!」
ジョエルはハワードと琥太郎の二人にそれぞれ丸くした目を向けた。
「何が」
「考えてもごらんコタロー。僕たちにロンダール王国に行ってごらんと目を輝かせて話してくれたのはモーリッツ先生じゃないか! わざわざ元助手に手紙を送ってくれてさ」
手記の一部を持っていたのだから言霊に操られていたと考えてもいい。最初からだ。・・・いつからなのだろう。
手紙を送った当初、ギュンターは手記の中身を教えることを断っている。関わるなと警告し、かつての師を心配したのはギュンターの良心が働いていたか、操られている可能性を考慮していたとも考えられる。
ギュンターは魔術師の能力と知識に長けているので言霊の支配に抗えたが、一般人のモーリッツには無理だ。操られていると認識する前に支配されている。
「そりゃ・・・やたら協力的だったなって思うけど、俺の世話役にジョエルを指名したのはハワード様じゃねぇの」
始まりはそっからだろうよと、琥太郎が不貞腐れた顔をする。
「アルトリアさんに世話役を頼んだことには私の個人的な事情がありました」
ジョエルは口に手の甲を押し当て思案した。
「・・・・・・うん、そうだよ、僕がシスターを目指していたからそのための」
「んな都合良いことあるかよ。モーリッツ先生の授業をたまたま受けてて、たまたまシスター目指しててってか?」
するとハワードがしごく深刻な声で言う。
「そこがあれの恐ろしいところなのです。未来の記載どおりに誰も気がつかないままに現実を変えられてしまう」
どちら側の予言なのかが気がかりでと、声が小さくなる。無意識の呟きに近い声だった。
「聞こえないからはっきり言えよ」
「コタロー失礼でしょ!」
「とにかくです。アルトリアさんに危険が及ぶかもしれないと懸念して、コタローさんとシーレハウス学園から離れてもらったのです。ロンダールに向かってくれるならセスがいて私の目が届きますから」
ハワードはティーカップを口に運んだ。強制的に会話を切るための仕草であるとジョエルは感じた。釣られて同じように取っ手に指をかけると、琥太郎は眉を寄せながらビスケットを摘んだ。
カチャ、しゃく、会話が途絶えたテーブルに音が響く。
セスが席を立つと、窓辺に寄りかかった。飲み食いする以外の音が鳴ったおかげで張りつめて重たかった空気が和らいだ。
「あ、えっと」
「これから」
ジョエルと琥太郎の声が被った。目を見合わせて照れてから、これから何をすべきなのかという話題が続いた。
「私は師と見つけたあの手記の全貌をどうしてもこの目で見たかった」
ギュンターはモーリッツと共に古代王朝の遺跡を調査して全体の約三分の二にあたるページを発見している。ジョエルと琥太郎がシーレハウス学園で見せてもらった、最初に召喚魔法術を用いて呼び寄せられた渡来者について記された誰かの直筆の記録。
「半端なあれを目にしてから私の心は取り憑かれてしまったのだろう。師はそんな私を諌め、私から手記を取り上げ決別を告げて去った。私は当初は怒りに震え、ベータである師には魔法術の素晴らしさ尊さがわからないのだと思っていた。しかし大きな間違いであった。師は、その唯一無二の神秘性に気がついていたのだ。いかに超自然的な危険が孕むのかも」
だが後悔と失敗を得た今でこそ思えるのであって、簡単に思い直せなかったと、ギュンターは衰えない探究心を加速させていた若さと行動力、無謀な野望、それからかつての師に対し抱いていた反抗心を省みる。
愚かだった若き魔術師は、この頃に接近してきたロンダール王国の王の配下に加わる。国王は言葉たくみにギュンターを口説き、ギュンターが喉から手が出るほど欲していた手記の残りの後方ページを見せた。
何故、目の前の王の手元にそれがあるのか・・・?
気になりはしたが、一国の王に「お前に魔術師としての最高位の称号を与え、魔法術の管理を一任したい」と命じられたならば、「王命とあらば喜んで」と返事をするしかない。
アルファといえど魔術師の職についている限り肩身の狭い思いをたくさんしてきた。存分に研究を行う金と権力を手に入れた男は人生で最高に有頂天だった。
そして、
「国王側近魔術師に就任してからまもなく、国王陛下様に呼ばれると、手記に記されていた禁忌の魔法術を『試してみてほしい』と頼まれた」
ジョエルたちにそう言ったギュンターは、今まさに恐ろしいものを見ているかのように両瞼を手で覆う。
「先生、あれは・・・でも」
咄嗟に反応してしまったが、ジョエルは言い淀んだ。
「アルトリアくんの言いたいことはわかっているよ」
「なんだよ」
続きを口にすることを躊躇するギュンターに、琥太郎が早く言えと急かした。
「・・・・・・私が頭を悩ませた最大の懸念は魔法術を発動させるのに生贄が必要だったこと。オメガ一人分の命と引き換えにしなければ術式が成立しなかったのだ。様々な性別の人間で試してみたがどれも発動せず、オメガ一人を生贄にして試みても失敗を重ねるばかりだった」
「何それ、ガチの話?」
琥太郎は真っ青になってジョエルに問う。
「うん。この国にオメガがいないのって召喚魔法術のために使い尽くしてしまったからですよね」
ジョエルはギュンターに借りた手記を琥太郎と洋に見せる前に、一番上のページに残されていた魔法術式に目を通していた。
「え、つか、お前なんで平気な顔してられんの?」
琥太郎は苦しそうな顔で胸元を握りしめる。
「俺と引き換えにオメガが一人死んだってことじゃねぇか」
「多分だけど、コタローとヨウの時はそうじゃなかったんだと思う。僕、こっそりお世話してくれる官人に聞いたんだよね。そしたらその彼はオメガの世話をするのは数年ぶりだって口を滑らせてたから」
ジョエルの証言にギュンターは苦虫を噛んだように笑い声をあげた。
「さすが勘が鋭いな。他国からオメガを攫うことだけはしたくなかったが、自国のオメガが底をつき、反対するにも手立てがなくなっていた。この頃には私は憔悴し切っていて、もう辞めさせてほしいと願い出ようかと考えていた時だった。血迷っていたのだろうね、私は最後に私自身を生贄に捧げようと思った」
「で、先生は成功したのですね」
「そうだ。なんとも驚いたさ。これまでの努力はなんだったんだと思うだろう?」
アルファの人間の魔法術が発動し、そいつは生きているのに異世界から少年が現れたんだからと、ギュンターは自分自身を嘲笑った。
× × ×
ジョエルたち四人は聞き取りを終えて、食堂用の広間に集まっている。テーブルにはビスケットなどの軽食とティーカップが並んでいるものの、誰も手をつけない。ジョエルはギュンターの話を頭の中で処理するので手一杯だ。
最初に茶をひと口すすったのはセスだった。
「でも殿下、すでに魔術師様をお許しになっていますよね」
「そうなのかよ」と声色を低くしたのは琥太郎。
セスは肩をすくめる。
「彼に木枷を嵌めても拘束にならない」
くふふと、ハワードの唇が引き上がる。
「ええ、燃やしてしまおうと思えば赤子の手をひねるより容易いでしょう。けれど外さないで大人しく拘束されているあたり猛省していると思えます」
「それだけで許すのかよ」
「コタローさん、グレッツェル氏に全責任を押しつけて責めるのは筋違いなのですよ」
「はぁ?」
礼儀を欠いた琥太郎の物言いにセスが眉を寄せた。ジョエルは居た堪れず琥太郎に向けて口を開きかける。
「宜しいですよ」
ハワードは今気にしている問題はそこではないと、手でひらりと制した。
「理由を答えましょうコタローさん。何故なら彼が成し得たことではないからです」
コタローと共にジョエルはぽかんとする。
「グレッツェル氏がモーリッツ氏と最初に手記の一部を発見したことは彼等の手柄だったのでしょう。だがそのことが始まりでした。見つけてはならなかった。永遠に人目に晒されぬよう手記の作成者は自らの手であの書物を分断し別々に隠していたのに」
「燃やすなりなんなりすれば良かったんじゃ」
ジョエルは問うが、ハワードはかぶりを振る。
「できなかったのです。手記は存在し続ける必要がありました。あれは、あれ単体が魔法術の結晶。アルトリアさんは魔法術の知識がありますね?」
「はい」
「では、言霊について聞いたことは?」
「ありません」
「呪文、魔法を発動させる術式、魔法陣からみられるように魔法術において文字と言葉は大きな意味を持ちます。この世の万物全てに命が宿りますが、文字や言葉というのは個人の手や口を介して生み出されるため、最もフェロモンを込めやすく、個人に従う性質があるのです」
それが言霊になるのだとジョエルは理解した。
「フェロモン操作に疎い者、フェロモンを持たない者の言霊であれ、少なからず影響力があります。魔法術に秀でた魔術師が行えば嘘も真実にすることが可能とまで云われています」
「思わず否定したくなっちゃうくらいの話ですね・・・・・・」
しかしジョエルは否定し切れないほどの力を目の当たりにしたばかりだ。
「ええ、あの手記は大半こそ実際に起こった出来事でしたが、後半にかけては未来を記した予言。グレッツェル氏は言霊による予言の力で召喚を成功させたのです」
「信じられるかよ」
ジョエルほど魔法術に畏怖も憧れもない琥太郎が夢のないことを吐き捨てる。
「ハワード・・・様に、大昔の人間のことがわかんだよ」
セスにじろっと睨まれて名前の呼び方は改善された。それでも反抗的な声音だった。
「コタロー、怒ってるの?」
「怒ってるよ。長々と聞いてりゃジョエルはまったく関係ないよな。何がしたくてこいつを巻き込んだんだよ!」
琥太郎は噛みつきそうな剣幕で吠える。
怒ってくれるのは嬉しいがジョエルは複雑な気持ちで下を向いた。
「わかりませんよ。関係あるのかもしれません」
ハワードの声は淡々としている。
「適当なこと言わないでくださいますかね?」
「いいえ覚えていませんか? グレッツェル氏の告白の中で気になる点があったのです。モーリッツ氏は禁忌の召喚魔法術の解明に消極的だったと、変ですよね?」
「変だぁ?」
いよいよもって生意気な口調を一度叱らなければならないか。ジョエルは腕を組んで顎をそらせる琥太郎の脇をこづいて、「あっ」と声を上げる。琥太郎は「ああ?」と怪訝そうに首を捻った。
「変です。変だよ!」
ジョエルはハワードと琥太郎の二人にそれぞれ丸くした目を向けた。
「何が」
「考えてもごらんコタロー。僕たちにロンダール王国に行ってごらんと目を輝かせて話してくれたのはモーリッツ先生じゃないか! わざわざ元助手に手紙を送ってくれてさ」
手記の一部を持っていたのだから言霊に操られていたと考えてもいい。最初からだ。・・・いつからなのだろう。
手紙を送った当初、ギュンターは手記の中身を教えることを断っている。関わるなと警告し、かつての師を心配したのはギュンターの良心が働いていたか、操られている可能性を考慮していたとも考えられる。
ギュンターは魔術師の能力と知識に長けているので言霊の支配に抗えたが、一般人のモーリッツには無理だ。操られていると認識する前に支配されている。
「そりゃ・・・やたら協力的だったなって思うけど、俺の世話役にジョエルを指名したのはハワード様じゃねぇの」
始まりはそっからだろうよと、琥太郎が不貞腐れた顔をする。
「アルトリアさんに世話役を頼んだことには私の個人的な事情がありました」
ジョエルは口に手の甲を押し当て思案した。
「・・・・・・うん、そうだよ、僕がシスターを目指していたからそのための」
「んな都合良いことあるかよ。モーリッツ先生の授業をたまたま受けてて、たまたまシスター目指しててってか?」
するとハワードがしごく深刻な声で言う。
「そこがあれの恐ろしいところなのです。未来の記載どおりに誰も気がつかないままに現実を変えられてしまう」
どちら側の予言なのかが気がかりでと、声が小さくなる。無意識の呟きに近い声だった。
「聞こえないからはっきり言えよ」
「コタロー失礼でしょ!」
「とにかくです。アルトリアさんに危険が及ぶかもしれないと懸念して、コタローさんとシーレハウス学園から離れてもらったのです。ロンダールに向かってくれるならセスがいて私の目が届きますから」
ハワードはティーカップを口に運んだ。強制的に会話を切るための仕草であるとジョエルは感じた。釣られて同じように取っ手に指をかけると、琥太郎は眉を寄せながらビスケットを摘んだ。
カチャ、しゃく、会話が途絶えたテーブルに音が響く。
セスが席を立つと、窓辺に寄りかかった。飲み食いする以外の音が鳴ったおかげで張りつめて重たかった空気が和らいだ。
「あ、えっと」
「これから」
ジョエルと琥太郎の声が被った。目を見合わせて照れてから、これから何をすべきなのかという話題が続いた。
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