Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

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第三章『悪魔と天使のはざま』

88 sideハワード 尋問

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 犯人との対面は、尋問長が立ち会うという制限つきで許可された。
 交渉下手な王様にしてはよく頑張ってくれたほうだろう。
 拘置場所でない指定された部屋に出向くと、小綺麗な身なりの犯人が入ってきた。尋問長が苦虫を百匹くらい噛み潰したような顔をしていたのには胸のつかえが降りた気分だが、拘束力を疑う見せかけ程度の犯人の手縄と健康的な顔色には腑が煮えくりかえる。

「手短にお願いしますよ」

 ぞんざいに言い放つ尋問長にハワードは愛想笑いを返した。

「善処いたします」

 犯人が椅子に座るのを待つ。本音では地べたに両膝をつかせてやりたかった。
 尋問長は椅子の横に立った。
 苛立ちながらもゆっくりと準備が整うのを待ち、尋問を開始する。

「では貴殿の名前をお願いします」
「ゲルト」

 犯人は正面を見ようともせず答えた。

「家の名は?」
「・・・・・・」
「もう一度訊きますよ、あなたは何処のゲルトさんですか」

 再度問いかけた時、尋問長が舌打ちする。

「何処の誰でもどうでも良いだろう」

 ハワードはじっと尋問長とゲルトを見据えた。

「はっきり申しますと、貴殿がベッカー家の跡取り息子であることは判明しています」

 たるんでいた空気がザワっと動いた。ハワードの後ろで直立していたセスが、万が一に備えて、直ちに戦闘態勢を取れるよう片足を少し下げたのがわかった。

「ゲルト・ベッカー」

 ハワードは凛とした声を上げる。

「貴殿の顔を見れば、私の述べた名に、誤りがなかったことは明白です。ベッカー家が誰とどう親密であるかもですよ」
「ジョエルだろ・・・あの薄汚い淫乱オメガが俺のことを喋ったのか? 未来の夫に対して、身のほど知らずもここまで来ると可愛いじゃないか」

 ゲルトが初めてまともに言葉を発する。

「聞き捨てなりませんね。ヒート中にアルファを誘ってしまうのはオメガの意思ではありません。わかっていて踏み込むアルファが悪いのです。それより・・・貴殿とジョエル・アルトリアさんは以前から婚約者として面識があったのですか?」
「いいや、ない。依頼主からこの話があったのは捕まる日の前日だ。まぁ、俺はジョエルの顔を知ってたけど、あっちはどうかな、正式な場で顔を合わせたことはないな」
「ならば何故、アルトリアさんが我々に貴殿のことを話したと思ったのでしょう」
「あ? んなもんあの日に俺が喋ったからだよ」

 興に乗ったゲルトが「あれの父親の考えていることも」と口を滑らせると、尋問長に黙りなさいと叱責され、連れてこられた時よりも強引に席を立たされた。

「終わりだ」

 尋問長は一方的に宣言する。

「いいでしょう。連れてってください」

 ハワードが承諾すると、手縄を強く引かれてゲルトは部屋を出されたのだった。
 帰りの馬車では、ハワードの頭の中はジョエルが味方を騙していたという痛烈なショックでいっぱいになり閉口した。セスは無言でハワードの指示を待っているようだったが、やがて待ちきれず「戻りしだい彼を呼びますか」と口を開く。

「いえ、我々の胸にしまっておきましょう」
「お考えを訊いても?」

 他ならぬセスからの問いにハワードは声を落とした。

「父親のアルトリアさんへの行いは看過できないものがあります。真相を隠すために父を庇ったということは考えづらい。アルトリアさんの口を閉ざす、我々の思いもしない理由があったとするなら安直な動きは避けたいのです」
「そういうことなら、わかりました」

 セスが納得し顎を引く。ハワードは深く息を吐いた。

「それにですセス、実のところ私はアルトリアさんの父親に会った時点から不可解に感じていたことがあります。糸屑のようなあやふやな引っかかりだったので忘れるつもりでいたのですが、それがとても重要なことだったのではないかと思えてきました」

 セスの反応は予想どおりのぽかんとした顔だ。

「アルトリアさんが犯人を隠蔽していたこととは別の話ですよ? ちょっと耳を貸してください」
「はい」
 
 わざわざ二人きりでこう言ったのには、声をひそめたくなるほどの機密情報だと感じたからである。セスは素直に背中を屈めて、ハワードに耳を寄せた。

「お前はアルトリア邸で母親や兄妹たちとすれ違ったのを覚えていますか」
「ええ、もちろん」
「では顔立ちや特徴などを思い出せますか」
「え・・・えぇ確か・・・母君とその子どもたちは、あっ」

 セスがハッとする。

「わかりましたね。誰もアルトリアさんと似ていないんです。フローレス侯爵も似ていなかった。片親に似ていないくらいなら気にしていませんでしたが、両親共にそうでないのなら、あの家に金髪で青い目の人間はいないのかもしれない」
「・・・すぐに、親戚筋まで外見の特徴を調べさせます」
「そのほうがよろしいでしょうね」

 血の繋がらない子を養子に迎えること自体は貴族だろうと平民だろうと何処にでも転がっている話だ。
 血筋を重んじる家系ゆえの対策か?
 しかしだとすれば養子を迎え入れたことが疑問である。あの様子で家族に愛されているとは言いがたい。
 ハワードの脳裏に浮かび上がってくる第三の存在。
 
(養子じゃなく、片方の親とは血の繋がりがあるとしたら。それがもし父親の血だったら)
 
 注目すべきは、ジョエルを生んだとされる母親。
 彼女の身元を洗う必要があると、ハワードは冷たい汗を額に流した。
 順立てて言うならば、この日のあとにティコのお呼ばれがあった。そしてその間にジョエルが異国から密輸してきたオメガを母に持つことを知った。
 四国同盟の国のオメガは、もれなくシーレハウス学園に入学し管理されている。同盟国の外の国からオメガを出入りさせるのは基本禁止だ。仕事など、公式な会合で訪れる際には手続きがいる。
 結婚は当然に認められていない。

(これは侯爵の弱みだ。でも、・・・だけで終わりか? すっきりしないような気がするのは考えすぎだろうか)

 業務の傍らで、セラス寮の廊下にて思案に暮れていたハワードは急に肩を叩かれて悲鳴を上げてしまった。

「ひっ」

 振り返った場所に、にっこりと立っていたのはティコだ。

「ごめんなさい驚きました。どうしましたか?」
「もう三日も経つのにジェイコブが乗ってきませ~ん・・・!」

 ティコがえんえんと目をこする。ハワードは周囲にひとがいないことを確認してから、そっと部屋に行きましょうと促した。
 寮長部屋に移動し、話を再開させる。

「ふざけているわけではないですね?」
「当たり前ですとも。彼ったらひどいんです、『悪いがティコよりもジョエルが大事だ。友人と真っ直ぐ向き合えなくなるようなことはしたくないんだっ!』だって。まぁ、そうか、あの子てば朴訥というか堅物というか阿呆らし、オメガなのに」

 ティコはジェイコブの口真似をして話す。後半はほとんど悪言に聞こえるけれど、愛情を感じる物言いなのがティコの好ましいところだ。

「俺が見聞きしたことは誰にも言いませんと、ハワード様にお伝えしてくださいと言われたので伝えました」
「はい、確かに聞きました。頼もしい情報源だったので残念ですね」

 彼の働きを期待していたが、こうなれば別口で用意していたあちらの彼を積極的に動かすしかない。あまり気は進まないが。・・・・・・ハワードは琥太郎を呼び出した。
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