Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

文字の大きさ
92 / 109
第三章『悪魔と天使のはざま』

92 礼拝の朝のパニック

しおりを挟む
 一、天使の卵たちを上手く利用するには。
 カーテンを閉めて薄明るくした室内で、ジョエルは瞑想していた。

「利用? 違いますよ。共に仲間を救うのです」
「え、ぁあ、ミリーくん。ごめんなさい声に出てましたか」

 若い学園生の風貌がすっかり馴染んだモーリッツを、偽名にくん付けで呼ぶことの違和感が薄れている。架空の学園生ミリー・ソルトはどう工面したのかルームメイトがいない部屋を用意して学園生活を楽しんでいた。

「まだコタローさんは戻ってないのかな?」

 琥太郎がヒートを起こした初日から換算して二クールが過ぎ、今日は休暇を利用してモーリッツに会いにきた。琥太郎は部屋に戻らず、カフェテリアや談話室にも姿を見せない。授業も欠席届けを出している。こっそり自分の当番日じゃない全ての日の使用チェック表を閲覧してみたが、名前はなかった。
 寮長部屋で匿われていることは風の精霊に教えてもらったものの、聞きたくないことも運んできた。

「コタローは病気というていになってる。でもコタローがそうしたいって望んだんだ」

 琥太郎の拒絶は耳が痛くなる。

「可哀想に、君は何も悪いことをしていないのに。まるで罪人扱いをしているんだろう。でも偉いね、天使信仰は広まりつつある。学園生の大半が君の味方だ。シスター長なんて敵じゃないよ。害をもたらす悪い花はさっさと摘んでしまおう」

 ミリーはジョエルの肩を抱いて、耳通りの良い声を聞かせる。カラカラに渇いている喉が潤されるように痛みを中和させられていくのが不気味であって心地いい。

「僕たちは対立すべきなのか迷っています」

 ジョエルは自らを抱く肩へ自然に頭を預けた。ジョエルの苦悩を心から理解してわかってくれるのはこの男しかいない。

「けれど結局は私の部屋に来てる」
「はい。どうしても足が向いてしまう」

 琥太郎のいない寮室は寂しかった。もう一方のベッドが空いていることに慣れない。

「そんなにコタローさんが好きなら、彼に似せたマスクを作ろうか? そうして添い寝してあげよう」

 腰を抱き寄せられ、指をかけられた顎が上に浮いた。
 アルファの芳香は消してあるが第二性のサガというものか、オメガのジョエルはミリーの瞳に吸い込まれそうになる。

「それはやめてください」

 嫌ですからと、ジョエルは視線を逸らした。

「アルトリアさんにとって彼は聖域で、あらゆることのスイッチになるようですね」

 ミリーは目を細める。

「ならば早く取り戻さなければねぇ。アルトリアさんはしっかりとシンボルを維持してくれるだけでいいですよ。お膳立ては私がしよう」
「いつ・・・?」
「休暇明けに。ちょうど不定期の早朝礼拝がある日です。学園生が教会付近にたくさん集まる。舞台は用意しますから」
「何をなさるんです?」
「当日のお楽しみにしておきます」

 瞑想気分に浸ったままジョエルはウラノス寮を出た。直後に駆け寄ってきたのはジェイコブだった。

「ジョエルっ、こんなとこで何してる」
「僕がここにいちゃいけないの?」
「いけないってことはないよ、でも」
「気になるの?」

 普通に返事をしただけだが、ジェイコブが当惑したように後ろに体を引いた。

「君は変わったな。あの夢を見ておかしくなったのか?」
「なんで? この前は僕が天使だったら支持するって言ってくれたのに。ジェイコブも天使を拒絶するの?」

 変わったというなら、ジェイコブの反応のほうが異様だ。

「用がないなら寮に戻るね。勉強したいから」
「ジョエル!」

 呼ばれるのを無視してジョエルは素通りした。
 何が変わったというのか。
 これまでだってジョエルは皆よりも少し高い羨望の先にいた。セラス寮に帰るまでの道のりだけでも、噂声と視線はやまない。
 それは寮に着いた後も続く。廊下を歩くジョエルに、「アルトリア様、ご機嫌よう」と挨拶する目は輝いている。
 変わらない。何も。

「———はぁ・・・ただいま」

 自室のドアを閉じると同時にため息がこぼれた。

(変わらない。何も。僕が不安に思うことは何もないんだ)

 少なくとも学園内は良いほうへ動いている。そして学園生に本当の変化がもたらされるのはこれからだ。
 ミリーの遂行しようとしている作戦がその分岐点となる。

(コタロー・・・君もわかってくれるよね?)

 ジョエルは床の上にくず折れ、ひとりきりで膝を抱いた。

 


 × × ×




 休暇明けの朝は、ゾッとするほど静けさを帯びて始まった。
 ジョエルが早く目覚めてしまったせいだ。
 時間になったらとにかく教会に来いと言われているが、巻き起こされる波乱を楽しみに待っていられる図太さは持ち合わせていない。
 今日のミリーの作戦でジョエルは堕天使たちの解放者としてついに人前でまつり上げられるのかもしれない。オメガにとって理想的な学園を作るためにジョエルを最上に崇め、邪魔な者は排除する。

「僕は本心でこうしたかったのかな」

 この後に及んでまだダラダラと気持ちを決められないでいるので、そんな自分にイライラする。
 いつまでも他人事でいるのは卑怯者だ。
 自分が今日という日を導いた天使なのだから。
 それでも間際まで毛布に包まって気怠い時間を過ごすと、起き上がり靴を履いた。クローゼットの中から真新しいブラウスを出して腕を通す。洗濯婦が置いていってくれた清潔な制服を着こむと、心持ちがしゃっきりした。

「行こう」

 早朝礼拝は強制参加ではないが、半数を超える学園生が教会付近に集まっていた。
 学園生たちは入り口で溜まっている?
 扉が中から施錠されていて入場できないようだ。

「いったい何が」

 ジョエルが入り口方向に歩み寄っていくと、——この時を見計らっていたのだ——、施錠が解除される音がした。ジョエルを招き入れるかのこどく扉は開かれ、聖職者の装いをしたミリー・ソルトが聖母像の下にいる。ある人物を跪かせて待っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

異世界唯一のオメガ、恋を選ぶまでの90日

秋月真鳥
BL
――異世界に「神子」として召喚されたのは、28歳の元高校球児、瀬尾夏輝。 男性でありながらオメガである彼は、オメガの存在すら知られていない異世界において、唯一無二の「神に選ばれし存在」として迎えられる。 番(つがい)を持たず、抑制剤もないまま、夏輝は神殿で生活を共にする五人のアルファ候補たちの中から、90日以内に「番」となる相手を選ばなければならない。 だがその日々は決して穏やかではなく、隣国の陰謀や偽の神子の襲撃、そして己の体に起きる変化――“ヒート”と呼ばれる本能の波に翻弄されていく。 無口で寡黙な軍人アルファ・ファウスト。 年下でまっすぐな王太子・ジェラルド。 優しく理知的な年上宰相・オルランド。 彼らが見せる愛情と執着に、心を揺らしながら、夏輝は己の運命と向き合っていく。 ――90日後、夏輝が選ぶのは、誰の「番」としての未来か。 神の奇跡と恋が交錯する異世界で、運命の愛が始まる――。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

王太子専属閨係の見る夢は

riiko
BL
男爵家のシンは、親に売られて王都に来た。 売られた先はこの国最大の相手!? 王子の閨係というお仕事に就いたのだった。 自分は王子が婚約者と結婚するまでの繋ぎの体だけの相手……だったはずなのに、閨係なのに一向に抱いてもらえない。そして王子にどんどん惹かれる自分に戸惑う。夢を見てはいけない。相手はこの国の王太子、自分はただの男娼。 それなのに、夢を見てしまった。 王太子アルファ×閨担当オメガ 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語、お楽しみいただけたら幸いです!

処理中です...