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第1章 ダオ編・壱
1 日常の瓦解①
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皇帝、大王、国王、大公。国の強さの序列は、もっとも権力をもつ者の呼びかたで変わる。ぼくの暮らす国には大王さまがいらっしゃいます。上から二番、富と武力ともに優れた大国に名を連ねる栄えた国でした。
そんなウォン国の外れのフーハン村に知らせが届いたのは、予想だにしていなかった出来事。まどろみのなかで浮いていたような日々が、突然にパンと弾けてしまったかの衝撃でした。
知らせは鳩が運んできた。主に使われる伝達手段です。しかしその日は見た覚えのない色の鳩だったらしく、村人が口々に不審な声を漏らしていたのをぼくは黙って聴いていました。
ちょうど旦那さまを含めた村の若者が戦に出かけており、詳しく教えてくれる相手がいなかったこともあります。
そのとき、誰かが文の内容を読み上げた。声色で村長だと気づき、耳を傾ける。
「えぇと、こたびの知らせは戦の勝利を告げるものである」
読み上げている途中だというのに、村人たちはいっせいに歓声をあげた。
見慣れない色だという鳩は軍の所有物だったらしい。ぼくはきゅっと唇をむすぶ。勝敗も大事だけれど、もっと知りたいのは戦に出かけた男たちの無事だ。それとも国外れの下級兵士の安否に、わざわざ文を飛ばしたりしないのだろうか。
ぼくの期待とは裏腹に、文の内容は思いもよらない方向へ進んでしまった。
「ひいては怪我の手当てのためウォン国軍兵士いく数名がそちらに寄るうえ、直ちに準備に取りかかられたし」
とたんに周囲が慌ただしくなる。準備とは何だろうと首を捻るぼくは背中を押され、肩をぶつけられ、ぼやっと立っている場合ではないのだと理解をする。
「あんた、そう、あんただよ、ユリンのとこの。はやくうちに戻んなさい。あんたは、そうね、軍人さんらが帰るまでは出てこないほうがいいわ」
おもむろに頭上から声がふってきた。ユリンとは旦那さまの名前です。
「どうしてでしょうか? お手伝いできることがあれば・・・・・・」
「危険だって言ってるのよ」
意味がわからなかった。目が見えないせいで使いものにならないのなら、そう言ってくれたらいいのに。それとも見た目が醜いからだろうか。
「わからないならいいのよ。はやく帰んなさい」
ぼくはその声の剣幕に押されてうなずき、家までの道を辿った。森のなかに旦那さまが建てたささやかな小屋。ぼくが触って確認できるようにと、通り道の木々の所々に印が彫られていた。
近くまで行けば中間で待っていたラオルが走ってきてくれ、足もとにまとわりつきながら帰り道をともにするのだ。
そして夜、通達どおり、ウォン国軍兵士が小さなフーハン村にお見えになった。いつもは真っ暗になるという時間帯にも関わらず松明を燃やす音が鳴りつづけ、それなのにやけに静かに思える夜だった。
見えない窓の外の様子に胸騒ぎがする。
旦那さまが無事に帰ってきてくれることを願い、ぼくはそっと窓を閉めました。
そんなウォン国の外れのフーハン村に知らせが届いたのは、予想だにしていなかった出来事。まどろみのなかで浮いていたような日々が、突然にパンと弾けてしまったかの衝撃でした。
知らせは鳩が運んできた。主に使われる伝達手段です。しかしその日は見た覚えのない色の鳩だったらしく、村人が口々に不審な声を漏らしていたのをぼくは黙って聴いていました。
ちょうど旦那さまを含めた村の若者が戦に出かけており、詳しく教えてくれる相手がいなかったこともあります。
そのとき、誰かが文の内容を読み上げた。声色で村長だと気づき、耳を傾ける。
「えぇと、こたびの知らせは戦の勝利を告げるものである」
読み上げている途中だというのに、村人たちはいっせいに歓声をあげた。
見慣れない色だという鳩は軍の所有物だったらしい。ぼくはきゅっと唇をむすぶ。勝敗も大事だけれど、もっと知りたいのは戦に出かけた男たちの無事だ。それとも国外れの下級兵士の安否に、わざわざ文を飛ばしたりしないのだろうか。
ぼくの期待とは裏腹に、文の内容は思いもよらない方向へ進んでしまった。
「ひいては怪我の手当てのためウォン国軍兵士いく数名がそちらに寄るうえ、直ちに準備に取りかかられたし」
とたんに周囲が慌ただしくなる。準備とは何だろうと首を捻るぼくは背中を押され、肩をぶつけられ、ぼやっと立っている場合ではないのだと理解をする。
「あんた、そう、あんただよ、ユリンのとこの。はやくうちに戻んなさい。あんたは、そうね、軍人さんらが帰るまでは出てこないほうがいいわ」
おもむろに頭上から声がふってきた。ユリンとは旦那さまの名前です。
「どうしてでしょうか? お手伝いできることがあれば・・・・・・」
「危険だって言ってるのよ」
意味がわからなかった。目が見えないせいで使いものにならないのなら、そう言ってくれたらいいのに。それとも見た目が醜いからだろうか。
「わからないならいいのよ。はやく帰んなさい」
ぼくはその声の剣幕に押されてうなずき、家までの道を辿った。森のなかに旦那さまが建てたささやかな小屋。ぼくが触って確認できるようにと、通り道の木々の所々に印が彫られていた。
近くまで行けば中間で待っていたラオルが走ってきてくれ、足もとにまとわりつきながら帰り道をともにするのだ。
そして夜、通達どおり、ウォン国軍兵士が小さなフーハン村にお見えになった。いつもは真っ暗になるという時間帯にも関わらず松明を燃やす音が鳴りつづけ、それなのにやけに静かに思える夜だった。
見えない窓の外の様子に胸騒ぎがする。
旦那さまが無事に帰ってきてくれることを願い、ぼくはそっと窓を閉めました。
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