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第4章 ユリン編・弐
68 対抗戦の行方——宝さがし③
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迷宮路を走りながらユリンは記憶を整理した。
(最後の日に放っていたねずみは誰だった?)
初日はあの兄弟ねずみの弟。屋敷までの道案内が必要だったからだ。しばらくはその子を連れていて、リュウホンが馬車を寄越すようになったあとは、順番に入れ替えながら連れて行っていた。
そして最後は、ユリンは思い出して唇を緩めた。最悪な日だったあの日に唯ひとつだけ救われたこと。あの日は兄弟ねずみの、兄の順番だった。
(ならば弟ねずみであれば、きっと兄の居場所を見つけてくれる)
あの子がいちばんに、この場所に慣れている。
即刻、ユリンは弟ねずみを呼びつける合図を送った。
瞬間移動が可能であれば便利だが、さすがに不可能だ。今いる場所からねずみの脚で到着できるまでの時間は待ちになる。
そのあいだにシャオレイとシャオルに合流できないだろうかと、ユリンは周囲を見回してみた。
個人で動かねばならないという約束ごとはなかったのだから、ユリンはてっきり行動を共にすると予想していた。前日の作戦会議は口裏を合わせてくれていただけだったのだろうか。
霧よりはましだが、目くらまし術の幻影のなかをひとりで彷徨うのは危ない。シャオルの鳩の目があれば、ずいぶんと救われると思うのに。
(乗り越えてみるか)
と、ユリンは両脇の赤い壁に触れた。歩いた先に終わりがある保証はない。
「あっさり・・・・・・」
と壁をよじのぼり、腕で身体を持ち上げ、向こう側を覗いた第一声がこぼれる。
「なわけない。そうきたか」
壁の向こうもまた、迷宮路だった。飛び降りてむかいの壁をよじのぼると、そこもまた。
攻撃性の高い罠ではないので身体への実害はないが、脱出は困難。ねずみ到着までじっとしているか、道に沿って進むしかなさそうだ。
ユリンに迷いはなかった。ぼやぼやしてはいられない。黙って待っているだけでは気もそぞろになって落ち着かないのだ。
そう決断して進もうとしたそのとき、身体の自由を一瞬奪われた。
靴の上に漬物石を乗せられたような重みが一瞬、脚が絡まり、前に進もうとしていた上半身が前方に投げ出されてよろける。
「・・・・・・うわっ、うっ」
掴まれる物もなく、ユリンは転倒した。膝をしたたかに打ちつけ、痛みに呻きながら立ち上がると、たった今飛び越えてきた壁がユリンを阻んで燃え上がった。
赤い壁の一部が炎に包まれ、かがり火のように点々と燃え広がっていく。
炎の方向に顔を向ければ、そこにリュウ家の導術師が腕を組んでニヤついていた。
「よく誤認されがちなんだけどさ、魔導力に恵まれた僕たちの身体は呪いやまじない術に耐えられうる、だけであって、効果はある。銀餡亭がまさにその例。ね?」
首をこてんと傾げる若い彼。
「貴方は、リュウジー殿の御子息?」
リュウジーはリュウホンの叔父だった。その子どもである彼は、シャオルに調査させて判明したリュウ家新星の有能株。
名はリュウウ。
「そうだよ。あんたは邪魔だから消えてほしいんだってさ? どさくさに紛れて殺してこいって頼まれちゃった」
ごくりと、ユリンの喉が鳴る。
「それはリュウホン殿下の指示でしょうか?」
「あははっ、まさか。父上はあのひとも邪魔なんだって~。ご心配なく、あんたが終わったらちゃんと始末するよ」
リュウホンの後ろで仏頂面をしていたリュウウ。不機嫌そうだったのはリュウホンの後ろに立たされていたからだ。
リュウ家はこの機会を狙って不都合な人物の抹消をするつもりなのだろう。それが目的でランライの提案を受け入れたと考えられる。
このお子さまに構っている暇はないのだが、リュウウのうるさい口は止まらなかった。
「僕たちはお宝なんてどうでもいいんだ。こっちが負けるはずがないし。そちらの丞相も関係してるみたいだけど、あれは完全に父上の嫌がらせだね」
「・・・・・・はあ」
どうにか上手くいなして進みたい。戦闘を避けるために、ユリンは会話を引き伸ばした。
「リュウウ殿はお宝役の青年をご存知で?」
「直接見たことはないよ。父の話から耳にするだけ。そんなことより、はやくやろう。楽しませてよ」
声色が興奮気味に上がっていく。
「ふぅ、これは遊びじゃないんだが?」
「丞相は遊びだって言ってたよ!」
声高に叫ぶ。懐に手を入れたリュウウに、ユリンはため息をついて抵抗せずに両手を挙げた。
「なんだぁ、もう降参か?!」
「いいえ、ひとつ教えて差し上げます。うちの丞相はそういった意味で『遊び』と言ったのではないと思いますよ?」
微笑んだユリンの視線は彼の肩越しに後方へ向けられていた。
(最後の日に放っていたねずみは誰だった?)
初日はあの兄弟ねずみの弟。屋敷までの道案内が必要だったからだ。しばらくはその子を連れていて、リュウホンが馬車を寄越すようになったあとは、順番に入れ替えながら連れて行っていた。
そして最後は、ユリンは思い出して唇を緩めた。最悪な日だったあの日に唯ひとつだけ救われたこと。あの日は兄弟ねずみの、兄の順番だった。
(ならば弟ねずみであれば、きっと兄の居場所を見つけてくれる)
あの子がいちばんに、この場所に慣れている。
即刻、ユリンは弟ねずみを呼びつける合図を送った。
瞬間移動が可能であれば便利だが、さすがに不可能だ。今いる場所からねずみの脚で到着できるまでの時間は待ちになる。
そのあいだにシャオレイとシャオルに合流できないだろうかと、ユリンは周囲を見回してみた。
個人で動かねばならないという約束ごとはなかったのだから、ユリンはてっきり行動を共にすると予想していた。前日の作戦会議は口裏を合わせてくれていただけだったのだろうか。
霧よりはましだが、目くらまし術の幻影のなかをひとりで彷徨うのは危ない。シャオルの鳩の目があれば、ずいぶんと救われると思うのに。
(乗り越えてみるか)
と、ユリンは両脇の赤い壁に触れた。歩いた先に終わりがある保証はない。
「あっさり・・・・・・」
と壁をよじのぼり、腕で身体を持ち上げ、向こう側を覗いた第一声がこぼれる。
「なわけない。そうきたか」
壁の向こうもまた、迷宮路だった。飛び降りてむかいの壁をよじのぼると、そこもまた。
攻撃性の高い罠ではないので身体への実害はないが、脱出は困難。ねずみ到着までじっとしているか、道に沿って進むしかなさそうだ。
ユリンに迷いはなかった。ぼやぼやしてはいられない。黙って待っているだけでは気もそぞろになって落ち着かないのだ。
そう決断して進もうとしたそのとき、身体の自由を一瞬奪われた。
靴の上に漬物石を乗せられたような重みが一瞬、脚が絡まり、前に進もうとしていた上半身が前方に投げ出されてよろける。
「・・・・・・うわっ、うっ」
掴まれる物もなく、ユリンは転倒した。膝をしたたかに打ちつけ、痛みに呻きながら立ち上がると、たった今飛び越えてきた壁がユリンを阻んで燃え上がった。
赤い壁の一部が炎に包まれ、かがり火のように点々と燃え広がっていく。
炎の方向に顔を向ければ、そこにリュウ家の導術師が腕を組んでニヤついていた。
「よく誤認されがちなんだけどさ、魔導力に恵まれた僕たちの身体は呪いやまじない術に耐えられうる、だけであって、効果はある。銀餡亭がまさにその例。ね?」
首をこてんと傾げる若い彼。
「貴方は、リュウジー殿の御子息?」
リュウジーはリュウホンの叔父だった。その子どもである彼は、シャオルに調査させて判明したリュウ家新星の有能株。
名はリュウウ。
「そうだよ。あんたは邪魔だから消えてほしいんだってさ? どさくさに紛れて殺してこいって頼まれちゃった」
ごくりと、ユリンの喉が鳴る。
「それはリュウホン殿下の指示でしょうか?」
「あははっ、まさか。父上はあのひとも邪魔なんだって~。ご心配なく、あんたが終わったらちゃんと始末するよ」
リュウホンの後ろで仏頂面をしていたリュウウ。不機嫌そうだったのはリュウホンの後ろに立たされていたからだ。
リュウ家はこの機会を狙って不都合な人物の抹消をするつもりなのだろう。それが目的でランライの提案を受け入れたと考えられる。
このお子さまに構っている暇はないのだが、リュウウのうるさい口は止まらなかった。
「僕たちはお宝なんてどうでもいいんだ。こっちが負けるはずがないし。そちらの丞相も関係してるみたいだけど、あれは完全に父上の嫌がらせだね」
「・・・・・・はあ」
どうにか上手くいなして進みたい。戦闘を避けるために、ユリンは会話を引き伸ばした。
「リュウウ殿はお宝役の青年をご存知で?」
「直接見たことはないよ。父の話から耳にするだけ。そんなことより、はやくやろう。楽しませてよ」
声色が興奮気味に上がっていく。
「ふぅ、これは遊びじゃないんだが?」
「丞相は遊びだって言ってたよ!」
声高に叫ぶ。懐に手を入れたリュウウに、ユリンはため息をついて抵抗せずに両手を挙げた。
「なんだぁ、もう降参か?!」
「いいえ、ひとつ教えて差し上げます。うちの丞相はそういった意味で『遊び』と言ったのではないと思いますよ?」
微笑んだユリンの視線は彼の肩越しに後方へ向けられていた。
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