【中華BL】明天《めいてん》の恋文〜ぼくはもう一度『旦那さま』に恋をする

豆ぱんダ

文字の大きさ
69 / 91
第4章 ユリン編・弐

68 対抗戦の行方——宝さがし③

しおりを挟む
 迷宮路を走りながらユリンは記憶を整理した。

(最後の日に放っていたねずみは誰だった?)

 初日はあの兄弟ねずみの弟。屋敷までの道案内が必要だったからだ。しばらくはその子を連れていて、リュウホンが馬車を寄越すようになったあとは、順番に入れ替えながら連れて行っていた。
 そして最後は、ユリンは思い出して唇を緩めた。最悪な日だったあの日に唯ひとつだけ救われたこと。あの日は兄弟ねずみの、兄の順番だった。

(ならば弟ねずみであれば、きっと兄の居場所を見つけてくれる)

 あの子がいちばんに、この場所に慣れている。
 即刻、ユリンは弟ねずみを呼びつける合図を送った。
 瞬間移動が可能であれば便利だが、さすがに不可能だ。今いる場所からねずみの脚で到着できるまでの時間は待ちになる。
 そのあいだにシャオレイとシャオルに合流できないだろうかと、ユリンは周囲を見回してみた。
 個人で動かねばならないという約束ごとはなかったのだから、ユリンはてっきり行動を共にすると予想していた。前日の作戦会議は口裏を合わせてくれていただけだったのだろうか。
 きりよりはましだが、目くらまし術の幻影のなかをひとりで彷徨うのは危ない。シャオルの鳩の目があれば、ずいぶんと救われると思うのに。
(乗り越えてみるか)
 と、ユリンは両脇の赤い壁に触れた。歩いた先に終わりがある保証はない。

「あっさり・・・・・・」

 と壁をよじのぼり、腕で身体を持ち上げ、向こう側を覗いた第一声がこぼれる。

「なわけない。そうきたか」

 壁の向こうもまた、迷宮路だった。飛び降りてむかいの壁をよじのぼると、そこもまた。
 攻撃性の高い罠ではないので身体への実害はないが、脱出は困難。ねずみ到着までじっとしているか、道に沿って進むしかなさそうだ。
 ユリンに迷いはなかった。ぼやぼやしてはいられない。黙って待っているだけでは気もそぞろになって落ち着かないのだ。
 そう決断して進もうとしたそのとき、身体の自由を奪われた。
 靴の上に漬物石を乗せられたような重みが一瞬、脚が絡まり、前に進もうとしていた上半身が前方に投げ出されてよろける。

「・・・・・・うわっ、うっ」

 掴まれる物もなく、ユリンは転倒した。膝をしたたかに打ちつけ、痛みに呻きながら立ち上がると、たった今飛び越えてきた壁がユリンを阻んで燃え上がった。
 赤い壁の一部が炎に包まれ、かがり火のように点々と燃え広がっていく。
 炎の方向に顔を向ければ、そこにリュウ家の導術師が腕を組んでニヤついていた。

「よく誤認されがちなんだけどさ、魔導力に恵まれた僕たちの身体は呪いやまじない術に耐えられうる、だけであって、効果はある。銀餡亭がまさにその例。ね?」

 首をこてんと傾げる若い彼。

「貴方は、リュウジー殿の御子息?」

 リュウジーはリュウホンの叔父だった。その子どもである彼は、シャオルに調査させて判明したリュウ家新星の有能株。
 名はリュウウ。

「そうだよ。あんたは邪魔だから消えてほしいんだってさ? どさくさに紛れて殺してこいって頼まれちゃった」

 ごくりと、ユリンの喉が鳴る。

「それはリュウホン殿下の指示でしょうか?」
「あははっ、まさか。父上はあのひとも邪魔なんだって~。ご心配なく、あんたが終わったらちゃんと始末するよ」

 リュウホンの後ろで仏頂面をしていたリュウウ。不機嫌そうだったのはリュウホンの後ろに立たされていたからだ。
 リュウ家はこの機会を狙って不都合な人物の抹消をするつもりなのだろう。それが目的でランライの提案を受け入れたと考えられる。
 このお子さまに構っている暇はないのだが、リュウウのうるさい口は止まらなかった。

「僕たちはお宝なんてどうでもいいんだ。こっちが負けるはずがないし。そちらの丞相も関係してるみたいだけど、あれは完全に父上の嫌がらせだね」
「・・・・・・はあ」

 どうにか上手くいなして進みたい。戦闘を避けるために、ユリンは会話を引き伸ばした。

「リュウウ殿はお宝役の青年をご存知で?」
「直接見たことはないよ。父の話から耳にするだけ。そんなことより、はやくやろう。楽しませてよ」

 声色が興奮気味に上がっていく。

「ふぅ、これは遊びじゃないんだが?」
「丞相は遊びだって言ってたよ!」

 声高に叫ぶ。懐に手を入れたリュウウに、ユリンはため息をついて抵抗せずに両手を挙げた。

「なんだぁ、もう降参か?!」
「いいえ、ひとつ教えて差し上げます。うちの丞相はそういった意味で『遊び』と言ったのではないと思いますよ?」

 微笑んだユリンの視線は彼の肩越しに後方へ向けられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~

大波小波
BL
 第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。  ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。  白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。  雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。  藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。  心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。  少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

処理中です...