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第5章 ユリン編・参
80 決着、別れの決意③
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(ごめんな、ダオ。俺がひとを傷つけるのはこれが最初で最後だ)
ユリンはたじろいているリュウホンと素早く距離を詰めると、足を払って転倒させ、うつぶせになった背中に乗りかかった。
そしてすかさず手首を後ろに捻って押さえつけ、身動きを封じた。
「ぐ・・・・・・」
リュウホンが呻いた。
「貴方の呻き声を聞くのは初めてですね」
ユリンはこと楽しげに常備してきた形代を取り出す。
「これは貴方が使用したような特別な拷問用の人形じゃないんですけど、上手くやれば同じことができるんですよ。呪印を記すのに何を使ったかわかりませんが、こうする方法があることを知っていますか?」
ユリンは指先に魔導力を溜めて爪のように硬化させ、リュウホンの腕に突き刺した。ひくっと息を呑んだ声を聞きながら、肌上に呪印を刻む。尖った指先が皮膚を焦がし、刻まれた文字から細い煙が立った。
リュウホンはたった一度呻いたきり、黙って耐えていた。ユリンは両腕を終えると上の衣をはだけさせ、背中にも爪を突き立てた。
「強情ですね。さすがは大将軍さまだ。では、こっちはどうでしょう」
ユリンの指はリュウホンの首筋を捉える。いきなり突き刺しはせず、引っ掻くように肌をなぞると、リュウホンは唾を吐き、さらには
「情けなどいらぬ、さっさとやれ」
と、汗をびっしょりとかきながらも高慢な口をきく。
「ふ、本番はここからですよ。ちなみにですが、俺は形代と人間を完全に同化させることができるんです。俺がこれを燃やせば、貴方も燃える。わかるかな? 感覚だけじゃないってことだ」
「・・・・・・は? ちっ、それなら余計な真似をしないで最初から火で炙ればよかったではないか・・・・・・っ」
「それだと、ダオと同じように痛みを受けたことにはならないだろう?」
そう言って首を掴み、ユリンは喉笛に指先を突き立てた。
「俺は徹底的にやりたいんだ」
リュウホンの喉から血が滲み出る。
ひゅるひゅると鳴っている喉仏。ユリンは顔を近づけて囁いた。
「忘れてくれるなよ。お前ごときの力などいつでも叩き潰せるんだということを肝に銘じておけ。二度とダオに近寄ろうなんて思うな」
わずかな時間ののち、呪いの刻印は首を一周した。リュウホン自身が自力では消せない首枷を肉に深く刻んでやり、痛みと恐怖で屈辱を吐き出せない憐れな男の顔を見下ろした。
「じゃ、仕上げ」
ユリンは形代をリュウホンの顔の前に掲げる。
声にならない悲鳴をあげ、目が見開かれた。
「そこまでよ」
ユリンを止めた女の声。よりいっそう驚いた声をあげたのはリュウホンだった。
「・・・・・・メイメイ?! 田舎に帰るからと暇をやったのに、そこでなにをしている」
著しく混乱しているのがわかる口ぶり。
ユリンは顔を伏せたまま、ちらりと視線を上げる。
「シャオレイはきっと実名ではないだろうと思っていましたけど、メイメイという名前だったんですか?」
「どちらでもありませんし、どちらでもいいです。フェンさんはその物騒な形代をはやくしまってください」
私情を入れないよう淡々と話す彼女にむかってユリンは眉を顰めた。
「大事なところです」
「いいえ、もうじゅうぶんでは? 死んでしまいます」
「そのつもりで・・・・・・」
「いけません。ダオさんに悲鳴が聴こえてしまいますよ」
「ダオは、え?」
彼女の言葉を呑み込めず、形代を取り落とす。———あり得ない。ユリンが狼狽えながら立ち上がると、灰と瓦礫にまみれた街並みのなかにダオの姿があった。
肩にはユリンのねずみの兄弟と、鳩姿のシャオルがのっている。
視覚的情報がないダオはこの状況をどこまで理解しているのだろうと思う。すると、シャオルが飛び立ち、ユリン目掛けて飛んできた。途中で子ども姿のシャオルに戻ると、走ってきた勢いに任せてユリンの頬を強く張った。
「ユリンの馬鹿!! 俺が話せないからってひとりで勝手に喋りまくって、勝手に納得するなよっ!!」
びんたをされた挙げ句、怒鳴られたことにユリンは頬を押さえてポカンとする。
「声・・・・・・シャオル」
「最初に気にすることかよ。ったくもう、あれに入ってた薬草だよ」
シャオルは振り返ってダオが持っている巾着袋を指差した。
「あの薬草か・・・・・・! あれには効果があったのか」
「天国にいるほうのお師匠さまに失礼だぞっ」
「そうだな、すまない、それで声が復活してダオになにを言ったんだ? どうしてダオを連れて行ってくれなかった?」
「だからっ、勝手に話を進めるな」
ついにシャオルは瞼に涙を溜めはじめた。
ユリンはたじろいているリュウホンと素早く距離を詰めると、足を払って転倒させ、うつぶせになった背中に乗りかかった。
そしてすかさず手首を後ろに捻って押さえつけ、身動きを封じた。
「ぐ・・・・・・」
リュウホンが呻いた。
「貴方の呻き声を聞くのは初めてですね」
ユリンはこと楽しげに常備してきた形代を取り出す。
「これは貴方が使用したような特別な拷問用の人形じゃないんですけど、上手くやれば同じことができるんですよ。呪印を記すのに何を使ったかわかりませんが、こうする方法があることを知っていますか?」
ユリンは指先に魔導力を溜めて爪のように硬化させ、リュウホンの腕に突き刺した。ひくっと息を呑んだ声を聞きながら、肌上に呪印を刻む。尖った指先が皮膚を焦がし、刻まれた文字から細い煙が立った。
リュウホンはたった一度呻いたきり、黙って耐えていた。ユリンは両腕を終えると上の衣をはだけさせ、背中にも爪を突き立てた。
「強情ですね。さすがは大将軍さまだ。では、こっちはどうでしょう」
ユリンの指はリュウホンの首筋を捉える。いきなり突き刺しはせず、引っ掻くように肌をなぞると、リュウホンは唾を吐き、さらには
「情けなどいらぬ、さっさとやれ」
と、汗をびっしょりとかきながらも高慢な口をきく。
「ふ、本番はここからですよ。ちなみにですが、俺は形代と人間を完全に同化させることができるんです。俺がこれを燃やせば、貴方も燃える。わかるかな? 感覚だけじゃないってことだ」
「・・・・・・は? ちっ、それなら余計な真似をしないで最初から火で炙ればよかったではないか・・・・・・っ」
「それだと、ダオと同じように痛みを受けたことにはならないだろう?」
そう言って首を掴み、ユリンは喉笛に指先を突き立てた。
「俺は徹底的にやりたいんだ」
リュウホンの喉から血が滲み出る。
ひゅるひゅると鳴っている喉仏。ユリンは顔を近づけて囁いた。
「忘れてくれるなよ。お前ごときの力などいつでも叩き潰せるんだということを肝に銘じておけ。二度とダオに近寄ろうなんて思うな」
わずかな時間ののち、呪いの刻印は首を一周した。リュウホン自身が自力では消せない首枷を肉に深く刻んでやり、痛みと恐怖で屈辱を吐き出せない憐れな男の顔を見下ろした。
「じゃ、仕上げ」
ユリンは形代をリュウホンの顔の前に掲げる。
声にならない悲鳴をあげ、目が見開かれた。
「そこまでよ」
ユリンを止めた女の声。よりいっそう驚いた声をあげたのはリュウホンだった。
「・・・・・・メイメイ?! 田舎に帰るからと暇をやったのに、そこでなにをしている」
著しく混乱しているのがわかる口ぶり。
ユリンは顔を伏せたまま、ちらりと視線を上げる。
「シャオレイはきっと実名ではないだろうと思っていましたけど、メイメイという名前だったんですか?」
「どちらでもありませんし、どちらでもいいです。フェンさんはその物騒な形代をはやくしまってください」
私情を入れないよう淡々と話す彼女にむかってユリンは眉を顰めた。
「大事なところです」
「いいえ、もうじゅうぶんでは? 死んでしまいます」
「そのつもりで・・・・・・」
「いけません。ダオさんに悲鳴が聴こえてしまいますよ」
「ダオは、え?」
彼女の言葉を呑み込めず、形代を取り落とす。———あり得ない。ユリンが狼狽えながら立ち上がると、灰と瓦礫にまみれた街並みのなかにダオの姿があった。
肩にはユリンのねずみの兄弟と、鳩姿のシャオルがのっている。
視覚的情報がないダオはこの状況をどこまで理解しているのだろうと思う。すると、シャオルが飛び立ち、ユリン目掛けて飛んできた。途中で子ども姿のシャオルに戻ると、走ってきた勢いに任せてユリンの頬を強く張った。
「ユリンの馬鹿!! 俺が話せないからってひとりで勝手に喋りまくって、勝手に納得するなよっ!!」
びんたをされた挙げ句、怒鳴られたことにユリンは頬を押さえてポカンとする。
「声・・・・・・シャオル」
「最初に気にすることかよ。ったくもう、あれに入ってた薬草だよ」
シャオルは振り返ってダオが持っている巾着袋を指差した。
「あの薬草か・・・・・・! あれには効果があったのか」
「天国にいるほうのお師匠さまに失礼だぞっ」
「そうだな、すまない、それで声が復活してダオになにを言ったんだ? どうしてダオを連れて行ってくれなかった?」
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ついにシャオルは瞼に涙を溜めはじめた。
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