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【最終】第6章 ダオ編・参
88 今のぼくも、過去のぼくも②
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その当日のうちに、旦那さまが帰宅しました。
シャオルには言い出せなかったことなのですが、ぼくはひとつの決意を固めていました。
旦那さまは疲れているだろうに、真っ先にシャオルの置いていった薬草を処理してくれ、あらかじめ乾燥させていたぶんで今夜飲む薬を調剤してくれます。
「お待たせ、熱いから気をつけて」
「ありがとうございます。ぼくの薬なんてあとからでもいいんですよ?」
飲みやすいように作られた薬湯を受け取りながらぼくが言うと、旦那さまはポンとぼくの頭に手をのせました。
「俺が、ダオのことをいちばんにしてやりたいと思うんだよ。それにこの薬はとても大事なものだろう」
特別扱いをしてもらい、ぽわっと頬が熱を持ちます。もしも変な顔をしていたら困ってしまう。ぼくは誤魔化すために、薬湯を口に含みました。
飲みやすく改良してくれたとはいえ、もとの苦味が強すぎるせいで、舌が壊れるのではといつも思う。
顔を顰めていたのか、旦那さまがフッと吐息をこぼしました。
「・・・・・・記憶はどう?」
問いかけられたので、ぼくは素直に首を横に降ります。
「そう、まあ、気長にね」
「はい、ごめんなさい」
「ダオが謝ることじゃない」
旦那さまはぼくの頭を引き寄せ、抱きしめてくれました。
リュウホンさまに使われた魔導具の葉巻。それによって薄れてしまった旦那さまとの記憶。葉巻はリュウホンさまが闇市で仕入れてきた古い骨董品だったため、安易に解くことができませんでした。葉巻には稀有なまじない術の痕跡が見られたのです。
長い時間をかけて刷り込まれた影響もありました。
今のところ効果がありそうなのは、シャオルの亡くなったお師匠さま直伝の苦い乾燥薬草のみ。
今はその薬を飲みながら、記憶が戻ってくるのを待っているのです。
けれども、ぼくはあまり悲観していません。
この生活に、不満はないのですから。
薬湯で身体があたたかくなり、旦那さまに抱きしめられ、ぼくは頭がぼうとしてきました。
「旦那さま・・・・・・」
「ん?」
優しい相槌。急激に心臓が高鳴りました。
「あ、えとっ、今日ねシャオルが帰るときに」
「ダオ、今はシャオルの話はなしだ」
話を逸らしたぼくの手を自身の腰に回させ、拗ねたように旦那さまが言います。その口調が別れ際のシャオルにそっくりでした。
「ふふふ」
「おかしかったか?」
「・・・・・・ええ、今すごく幸せだなって思ったのです」
するとぼくの身体は抱きしめられたまま掬い上げられ、寝台のうえに仰向けに寝かされました。
「ダオ、最後に自分でしたのはいつだった?」
問いの意味がわからず口ごもります。旦那さまはぼくの内腿を褲子越しに撫でながら、徐々に指先を股のほうへ移動させていく。
「あ・・・・・・」
「なかなか一緒にいてやれなかったから困ったんじゃないのか?」
「え?」
カッと頬が火照りました。意味を理解したぼくはすかさず旦那さまの手を押しとどめます。
「・・・・・・すまなかった。やめておこう」
旦那さまの声に、ぼくはハッとしました。
「あ、ちがうんです、ごめんなさい。びっくりしただけで、嫌だと感じたのではありません」
「いや、急くつもりはなかったんだ。ダオの気持ちが曖昧な状態ですべきではなかった。ここでの生活のことも、俺のことも、・・・・・・家族のことも思い出せるときを待てばいい」
おもむろに『家族』を引き合いに出され、ぐっと言葉に詰まります。
「そういえば便りが来ていたがどうだった? シャオルに読んでもらったか?」
「まだ開けられていません」
会話の流れが熱っぽい方向から、日常のそれに変わっていく予兆。
旦那さまは「ゆっくりでいい」と、ぼくの背を起こしました。
「あの、旦那さま」
ついては離れていく旦那さまの心。
やってしまいました。これこそが、ぼくたちの間にあるわだかまり。
こんなとき、凝らせばよく見える目がほしいと思うけれど、目は自分のせいで失ってしまったのです。
他のだれのせいでもない。
二人目のぼくに対して旦那さまは、間違った形で関係を飛び越えてしまったから、三人目のぼくに対しても躊躇っている。
だから、決意をした。
今度はぼくが飛び越えるのです。
旦那さまと一緒にいたいと、だれでもなく、ぼく自身が望んでいることだと伝えたい。
シャオルには言い出せなかったことなのですが、ぼくはひとつの決意を固めていました。
旦那さまは疲れているだろうに、真っ先にシャオルの置いていった薬草を処理してくれ、あらかじめ乾燥させていたぶんで今夜飲む薬を調剤してくれます。
「お待たせ、熱いから気をつけて」
「ありがとうございます。ぼくの薬なんてあとからでもいいんですよ?」
飲みやすいように作られた薬湯を受け取りながらぼくが言うと、旦那さまはポンとぼくの頭に手をのせました。
「俺が、ダオのことをいちばんにしてやりたいと思うんだよ。それにこの薬はとても大事なものだろう」
特別扱いをしてもらい、ぽわっと頬が熱を持ちます。もしも変な顔をしていたら困ってしまう。ぼくは誤魔化すために、薬湯を口に含みました。
飲みやすく改良してくれたとはいえ、もとの苦味が強すぎるせいで、舌が壊れるのではといつも思う。
顔を顰めていたのか、旦那さまがフッと吐息をこぼしました。
「・・・・・・記憶はどう?」
問いかけられたので、ぼくは素直に首を横に降ります。
「そう、まあ、気長にね」
「はい、ごめんなさい」
「ダオが謝ることじゃない」
旦那さまはぼくの頭を引き寄せ、抱きしめてくれました。
リュウホンさまに使われた魔導具の葉巻。それによって薄れてしまった旦那さまとの記憶。葉巻はリュウホンさまが闇市で仕入れてきた古い骨董品だったため、安易に解くことができませんでした。葉巻には稀有なまじない術の痕跡が見られたのです。
長い時間をかけて刷り込まれた影響もありました。
今のところ効果がありそうなのは、シャオルの亡くなったお師匠さま直伝の苦い乾燥薬草のみ。
今はその薬を飲みながら、記憶が戻ってくるのを待っているのです。
けれども、ぼくはあまり悲観していません。
この生活に、不満はないのですから。
薬湯で身体があたたかくなり、旦那さまに抱きしめられ、ぼくは頭がぼうとしてきました。
「旦那さま・・・・・・」
「ん?」
優しい相槌。急激に心臓が高鳴りました。
「あ、えとっ、今日ねシャオルが帰るときに」
「ダオ、今はシャオルの話はなしだ」
話を逸らしたぼくの手を自身の腰に回させ、拗ねたように旦那さまが言います。その口調が別れ際のシャオルにそっくりでした。
「ふふふ」
「おかしかったか?」
「・・・・・・ええ、今すごく幸せだなって思ったのです」
するとぼくの身体は抱きしめられたまま掬い上げられ、寝台のうえに仰向けに寝かされました。
「ダオ、最後に自分でしたのはいつだった?」
問いの意味がわからず口ごもります。旦那さまはぼくの内腿を褲子越しに撫でながら、徐々に指先を股のほうへ移動させていく。
「あ・・・・・・」
「なかなか一緒にいてやれなかったから困ったんじゃないのか?」
「え?」
カッと頬が火照りました。意味を理解したぼくはすかさず旦那さまの手を押しとどめます。
「・・・・・・すまなかった。やめておこう」
旦那さまの声に、ぼくはハッとしました。
「あ、ちがうんです、ごめんなさい。びっくりしただけで、嫌だと感じたのではありません」
「いや、急くつもりはなかったんだ。ダオの気持ちが曖昧な状態ですべきではなかった。ここでの生活のことも、俺のことも、・・・・・・家族のことも思い出せるときを待てばいい」
おもむろに『家族』を引き合いに出され、ぐっと言葉に詰まります。
「そういえば便りが来ていたがどうだった? シャオルに読んでもらったか?」
「まだ開けられていません」
会話の流れが熱っぽい方向から、日常のそれに変わっていく予兆。
旦那さまは「ゆっくりでいい」と、ぼくの背を起こしました。
「あの、旦那さま」
ついては離れていく旦那さまの心。
やってしまいました。これこそが、ぼくたちの間にあるわだかまり。
こんなとき、凝らせばよく見える目がほしいと思うけれど、目は自分のせいで失ってしまったのです。
他のだれのせいでもない。
二人目のぼくに対して旦那さまは、間違った形で関係を飛び越えてしまったから、三人目のぼくに対しても躊躇っている。
だから、決意をした。
今度はぼくが飛び越えるのです。
旦那さまと一緒にいたいと、だれでもなく、ぼく自身が望んでいることだと伝えたい。
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