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新説、沖田総司
◯新説、沖田総司
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陸奥白河藩の下級武士の家に生まれた沖田総司は、家督を継ぐ筈だった。だが、時代は彼を平凡な侍で止める事は無かった。総司が両親に恵まれなかった偶然が、新撰組の貴重な戦力を生む結果になる。
「宗次郎、試衛館に行っても、沖田家の誇りを忘れてはいけません。お父様は立派な方でした。あなたも立派な武士になるのです」
白河藩江戸屋敷では、みつが弟の総司(宗次郎)に言い聞かせていた。沖田家は、代々江戸詰めで、白河藩藩士、阿部氏に仕える身分だった。
総司は、「足軽小頭って、立派なのかな」などと疑問に思っていたが、幼い時も長じてからも、心の内を見せない性格だったので、笑顔を見せて相手を安心させる。
「姉さん、大丈夫ですよ」
沖田家は、母が亡くなり、総司を育てたのは姉のみつだった。その後、父が他界し、家の相続が問題になった。そこで、みつが婿を貰い、家督を継ぐ事に決まった。本来、長男の総司が継ぐべきだが、まだ九歳では差し障りが出る。仕方なく、家から出して独り立ちして貰う事になった。
お寺、商家などの候補もあったが、江戸の剣術道場に決まった。今日から内弟子として入る事になる。行き先は、天然理心流を学べる試衛館だった。
総司は、姉に連れられて道場を訪ねた。柳町にある道場は、なかなか立派な造りだった。総司は、門を通る時に、これからの試練を想像して緊張した。
「試衛館へようこそ」
玄関先で対応したのは、体の大きな門弟だった。まだ若い。顔が角張っていて、口が大きい。はっきり言って強面だったが、人の良い笑顔を見せる。この食い違いが、好印象を与える。総司もみつも、まずは安心した。
ところで、みつは、目の前の男が三十歳くらいかと思っていたが、実際は十九歳だと知る。名は、近藤勇と名乗った。
みつは、苗字から正体を察した。
「天然理心流の四代目でいらっしゃるの?」
「正式な襲名はまだ先です」
勇は、控えめな声で返事をする。
座敷で三代目宗家の近藤周助と引き合わされる。勇、周助、共に豪農の出だが、士分ではない。総司は、武士の身分を乞われて内弟子になった。周助の目論見では、総司に才能が有れば五代目候補になるし、無くても養子として迎える気でいた。
「宗次郎、これからは沖田総司と名乗り、新たな気持ちで精進しなさい。それから、私の事は父と思い、勇の事は兄と思って欲しい。宜しく頼みますよ」
総司は、周助の言葉を心に刻む。
次の日、総司は稽古着姿で道場へ向かう。屋敷の回廊を歩くと、雨戸は既に開けてあった。試衛館には下働きが居ない筈だし、周助の奥方はそんな事をする人ではない。もう一人、古くからの内弟子で、井上源三郎と言う人が居たが、いまは出稽古で留守にしている。そうなると、消去法で勇になる。
総司が道場に入ると、勇が既に居た。黒い稽古着には髑髏の刺繍が入っていた。兄弟子は、神棚を向いて正座していた。
「総司、早起きだな。稽古するか」
勇に言われるまでもなく、総司はそのつもりだった。腕を上げて認めて貰うのが、彼に課せられた目標になる。
勇は、道場の床に雑巾がけをする所から始める。
「雑巾がけとは言え、気を抜いてやっても意味はない。足腰を鍛え、力を込めて行う。総司、日々何事も修行だと思え」
二人で雑巾がけが始まる。若いので、競争になったりする。総司は、勇にはとても勝てない。
「宗次郎、試衛館に行っても、沖田家の誇りを忘れてはいけません。お父様は立派な方でした。あなたも立派な武士になるのです」
白河藩江戸屋敷では、みつが弟の総司(宗次郎)に言い聞かせていた。沖田家は、代々江戸詰めで、白河藩藩士、阿部氏に仕える身分だった。
総司は、「足軽小頭って、立派なのかな」などと疑問に思っていたが、幼い時も長じてからも、心の内を見せない性格だったので、笑顔を見せて相手を安心させる。
「姉さん、大丈夫ですよ」
沖田家は、母が亡くなり、総司を育てたのは姉のみつだった。その後、父が他界し、家の相続が問題になった。そこで、みつが婿を貰い、家督を継ぐ事に決まった。本来、長男の総司が継ぐべきだが、まだ九歳では差し障りが出る。仕方なく、家から出して独り立ちして貰う事になった。
お寺、商家などの候補もあったが、江戸の剣術道場に決まった。今日から内弟子として入る事になる。行き先は、天然理心流を学べる試衛館だった。
総司は、姉に連れられて道場を訪ねた。柳町にある道場は、なかなか立派な造りだった。総司は、門を通る時に、これからの試練を想像して緊張した。
「試衛館へようこそ」
玄関先で対応したのは、体の大きな門弟だった。まだ若い。顔が角張っていて、口が大きい。はっきり言って強面だったが、人の良い笑顔を見せる。この食い違いが、好印象を与える。総司もみつも、まずは安心した。
ところで、みつは、目の前の男が三十歳くらいかと思っていたが、実際は十九歳だと知る。名は、近藤勇と名乗った。
みつは、苗字から正体を察した。
「天然理心流の四代目でいらっしゃるの?」
「正式な襲名はまだ先です」
勇は、控えめな声で返事をする。
座敷で三代目宗家の近藤周助と引き合わされる。勇、周助、共に豪農の出だが、士分ではない。総司は、武士の身分を乞われて内弟子になった。周助の目論見では、総司に才能が有れば五代目候補になるし、無くても養子として迎える気でいた。
「宗次郎、これからは沖田総司と名乗り、新たな気持ちで精進しなさい。それから、私の事は父と思い、勇の事は兄と思って欲しい。宜しく頼みますよ」
総司は、周助の言葉を心に刻む。
次の日、総司は稽古着姿で道場へ向かう。屋敷の回廊を歩くと、雨戸は既に開けてあった。試衛館には下働きが居ない筈だし、周助の奥方はそんな事をする人ではない。もう一人、古くからの内弟子で、井上源三郎と言う人が居たが、いまは出稽古で留守にしている。そうなると、消去法で勇になる。
総司が道場に入ると、勇が既に居た。黒い稽古着には髑髏の刺繍が入っていた。兄弟子は、神棚を向いて正座していた。
「総司、早起きだな。稽古するか」
勇に言われるまでもなく、総司はそのつもりだった。腕を上げて認めて貰うのが、彼に課せられた目標になる。
勇は、道場の床に雑巾がけをする所から始める。
「雑巾がけとは言え、気を抜いてやっても意味はない。足腰を鍛え、力を込めて行う。総司、日々何事も修行だと思え」
二人で雑巾がけが始まる。若いので、競争になったりする。総司は、勇にはとても勝てない。
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