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新説、沖田総司
◯その九
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数日後、総司は山南と共に壬生の屯所に戻った。すると、かなり慌ただしい事態になっていた。
聞くと、倒幕派の浪士の中でも大物が捕縛されたとの事だった。名を、古高俊太郎と言う。総司も名前だけは知っていた。不逞浪士の裏には、何時も付いて回る名前だが、実像を掴んでいない。それもその筈で、偽名を使って商家の主人に治まっていた。
古高俊太郎は、拷問を交えた厳しい詮議の末、京都を火の海にして、天子様を誘拐すると言う大胆な計画が明らかになった。数百名が武装蜂起すると言う。
「えらい計画ですね」
総司が感心する。
「ああ、新撰組だけでは対応できない事態だな」
勇の言葉に、皆が頷く。その場には、近藤勇の他、土方歳三、山南敬助、沖田総司が居た。
古高俊太郎の捕縛で、倒幕派の計画は変更を余儀なくされる筈で、必ずその為の会合が開かれると予想できた。今は、祇園祭の宵々山なので、大勢が集まって会合していても不自然ではない。新撰組では、この三日以内に集まると踏んでいた。
そして夜、祇園の会所に新撰組が集まっていた。
総司は、待ちくたびれていた。欠伸をし、床几を前後に揺らす。
「総司、落ち着きが無いぞ!」
勇が叱責する。そう言う本人も、膝を揺すって苛ついている。
「会津、桑名の藩兵はまだか!」
勇が怒鳴る。歳三が苦笑した。
「近藤さん、待っても無駄だぜ、お歴々は新撰組を信用していないらしい。捜索が空振りになるのが怖いのさ」
勇は、歳三の冷静な分析を聞いて、妙に落ち着いた。
「新撰組だけで捜索する」
勇の決断を聞き、歳三は班分けを始めた。当初は、隊士三十四名で各所を回る予定だったが、これを四つに割る。
近藤勇以下九名、土方歳三以下七名、井上源三郎以下七名、松原忠司以下七名。この人数で四条、三条を巡回する。
総司は、勇の班に配属されていた。皆、緊張した面持ちだが、この若者だけは通りを行き交う町民を眺めていた。浴衣姿が羨ましい。総司が着ている鎖帷子は、重量がかなり有る。しかも背中が痒い。
「近藤先生、背中が痒いです」
勇は、総司を細い目で睨むが、無言で要求に応えてあげる。
「かたじけない」
総司の言葉に、思わず笑みを浮かべる。
勇の班は、祇園町会所を出発し、四条大橋を目指す。四条大橋を渡り、鴨川沿いの先斗町通りを上がり、三条大橋を目指した。途中、旅籠や料亭に「御用改め」を掛ける。勇は、玄関先で怖い顔をして観察し、判断する。
「次へ行こう」
総司は、本当に解っているのか不思議だった。
さて、捜索は三条大橋を渡り、高瀬川に架かる小橋の旅籠、池田屋へと向かう。ここが最後の捜索場所になる。
他の店と同じく、「御用改め」を掛ける。
「次へ行こう」
店の外に出た。
総司は、今夜の捜索が空振りに終わったと思っていた。ところが、勇が皆を集める。
「周平、土方たちを呼びに行け。武田、一人連れて裏を固めろ。谷は二人を指揮して表を固めろ。中に斬り込むのは、私、総司、平助、永倉の四人だ」
総司は、明日は重い装備を付けて歩かなくて済みそうなので、喜んだ。
勇は、総司たちを連れて再び池田屋へ入る。
「御用改めである。二階を確認する」
勇は、慌てる亭主を突き飛ばし、二階へ駆け上がる。永倉新八が後に続いた。
総司は、藤堂平助と共に階下に居た。やがて、喧騒が始まり、狭い階段を降りて来る音がする。木の板が奏でる前奏に、総司の胸が高まる。
聞くと、倒幕派の浪士の中でも大物が捕縛されたとの事だった。名を、古高俊太郎と言う。総司も名前だけは知っていた。不逞浪士の裏には、何時も付いて回る名前だが、実像を掴んでいない。それもその筈で、偽名を使って商家の主人に治まっていた。
古高俊太郎は、拷問を交えた厳しい詮議の末、京都を火の海にして、天子様を誘拐すると言う大胆な計画が明らかになった。数百名が武装蜂起すると言う。
「えらい計画ですね」
総司が感心する。
「ああ、新撰組だけでは対応できない事態だな」
勇の言葉に、皆が頷く。その場には、近藤勇の他、土方歳三、山南敬助、沖田総司が居た。
古高俊太郎の捕縛で、倒幕派の計画は変更を余儀なくされる筈で、必ずその為の会合が開かれると予想できた。今は、祇園祭の宵々山なので、大勢が集まって会合していても不自然ではない。新撰組では、この三日以内に集まると踏んでいた。
そして夜、祇園の会所に新撰組が集まっていた。
総司は、待ちくたびれていた。欠伸をし、床几を前後に揺らす。
「総司、落ち着きが無いぞ!」
勇が叱責する。そう言う本人も、膝を揺すって苛ついている。
「会津、桑名の藩兵はまだか!」
勇が怒鳴る。歳三が苦笑した。
「近藤さん、待っても無駄だぜ、お歴々は新撰組を信用していないらしい。捜索が空振りになるのが怖いのさ」
勇は、歳三の冷静な分析を聞いて、妙に落ち着いた。
「新撰組だけで捜索する」
勇の決断を聞き、歳三は班分けを始めた。当初は、隊士三十四名で各所を回る予定だったが、これを四つに割る。
近藤勇以下九名、土方歳三以下七名、井上源三郎以下七名、松原忠司以下七名。この人数で四条、三条を巡回する。
総司は、勇の班に配属されていた。皆、緊張した面持ちだが、この若者だけは通りを行き交う町民を眺めていた。浴衣姿が羨ましい。総司が着ている鎖帷子は、重量がかなり有る。しかも背中が痒い。
「近藤先生、背中が痒いです」
勇は、総司を細い目で睨むが、無言で要求に応えてあげる。
「かたじけない」
総司の言葉に、思わず笑みを浮かべる。
勇の班は、祇園町会所を出発し、四条大橋を目指す。四条大橋を渡り、鴨川沿いの先斗町通りを上がり、三条大橋を目指した。途中、旅籠や料亭に「御用改め」を掛ける。勇は、玄関先で怖い顔をして観察し、判断する。
「次へ行こう」
総司は、本当に解っているのか不思議だった。
さて、捜索は三条大橋を渡り、高瀬川に架かる小橋の旅籠、池田屋へと向かう。ここが最後の捜索場所になる。
他の店と同じく、「御用改め」を掛ける。
「次へ行こう」
店の外に出た。
総司は、今夜の捜索が空振りに終わったと思っていた。ところが、勇が皆を集める。
「周平、土方たちを呼びに行け。武田、一人連れて裏を固めろ。谷は二人を指揮して表を固めろ。中に斬り込むのは、私、総司、平助、永倉の四人だ」
総司は、明日は重い装備を付けて歩かなくて済みそうなので、喜んだ。
勇は、総司たちを連れて再び池田屋へ入る。
「御用改めである。二階を確認する」
勇は、慌てる亭主を突き飛ばし、二階へ駆け上がる。永倉新八が後に続いた。
総司は、藤堂平助と共に階下に居た。やがて、喧騒が始まり、狭い階段を降りて来る音がする。木の板が奏でる前奏に、総司の胸が高まる。
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