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俺がいつの間にか異世界へと転移していた時の話
しおりを挟む思わず閉じていた目を開ける。
すると、目を疑うような風景が飛び込んできた。
あたり一面に広がる草原。獣耳が生えている少年少女達と敵対するスライム。
どうやら俺はすでに異世界にいたようで……本当にまじでいつの間に俺は異世界に転移したんだ?
「えいっ!」
犬のような耳と尻尾が生えている少年──所謂、半獣人という見た目だろう──が盾をスライムに振り落とす。すると先程までそこにいたはずのスライムが姿を消した。
「よし、倒したぞ!」
「ワンタすげえな!」
ワンタ、と呼ばれた犬のような耳と尻尾が生えた少年の周りに、鼠のような耳と尻尾が生えた男の子、兎のような耳と尻尾が生えた女の子、猫のような耳と尻尾が生えている女の子、狐のような耳と尻尾が生えている男の子と集まってきて、ワンタを褒め称える。
「いやー、そんなことないって。 これくらい普通普通。 戦利品もでねえような雑魚だし」
すました顔をしているものの、ワンタの尻尾がぶんぶんと揺れている。
周りから褒められ、まんざらでもなさそうだ。
「よーし、この調子で次も行くぞ!」
「おー!」
ワンタの周りにいた子達が一斉に各々スライムを追いかけ始めた。
「まてー!」
ワンタは盾を振りかざした状態でスライムを追いかけている。
盾ってこういう使い方をするもんだったか? いや、違うだろ。 ……まあいいか。
「行くよ、ウサミ!」
「う、うん」
ウサミ、と呼ばれた兎の半獣人の女の子が、手にしていた杖を両手で握りしめる。
「大地の精霊よ、我に力を! 《チェイン・グラス》!」
詠唱を終えると、スライムの周りの草が伸びはじめ、スライムに絡みつく。
すっげえ……!! 魔法だ!
やっぱり魔法は詠唱すると出るものなんだな。 この魔法……属性でいうと何属性なんだろうか? 土? 草? それとも……。
「よし」
ウサミの隣にいた猫の半獣人が、弓を引く。放った矢がきれいに放物線を描きながら、スライムの方に飛んでいくが、スライムに刺さることはなかった。
「もう一度!」
「ニャ、ニャンカ……」
ニャンカ、と呼ばれた猫の半獣人が「もう少し耐えて!」とウサミに投げかける。
「えいっ」
一本、二本、と追加で矢を放つが、スライムに当たることはない。
「むむむ」
「あっ……」
ニャンカが四本目の矢を射ようとした時、スライムを拘束していた草が消える。
「ご、ごめん……」
「んー、大丈夫! こっちこそ仕留められなくてごめん! ……よし、次だ次!」
「う、うん!」
「おー!」と声高々に走り出す二人から少し離れたところで、狐の半獣人と鼠の半獣人がスライムを挟み撃ちにしようとしていた。
短剣を片方で握り、もう片方の手で盾を持っている鼠の半獣と、ロングソードを両手で握りしめている狐の半獣人。
捕食される側とする側──ここではそうではないのだろうけれど──が共闘している絵面に、俺の脳がバグりそうになる。
「とりゃ!」
「それ!」
突き出した短剣と、振り下ろしたロングソードは残念ながら二人の間にいるスライムに命中することはなかった。
「全然あたんねー!」
「難しいね……」
なんだろう、この違和感。
「なんか違うんだよな」
思わず、声が出た。目の前で繰り広げられている戦闘があまりにもグダグダ過ぎて、思わず出てしまった。
俺の声が聞こえたのだろう。半獣人達が手を止めて、こちらを見る。
「なんだ、あいつ?」
「てか誰」
「さっきまで私達以外居なかったよね?」
ヒソヒソと呟いている彼らに俺は再び声をかける。
「なあ、君たちここでなにしてんの?」
俺の問いかけに驚いたのが、五人とも目をぱちくりさせている。
「冒険者になるために……ここでスライム狩りをしてるんだけど」
ワンタが俺の問に答えた。
「ふうん」
「な、なんだよ?」
「いや、別に。 なあ、どれぐらいスライム狩るの?」
またもや俺の問いに五人が目を見開いて、不思議そうに小首を傾げる。
「ス、スライム液を五つ手にするまで……」
「スライム液?」
どこかのゲームで聞いたことあるようなないような単語に、奥底に眠る記憶を手繰る。
スライム液、スライム液ね……。
俺の疑問にニャンカが答える。
「スライム液は……何度も溶かすことができる液体」
「何でも?」
「そう、何でも。 大抵はスライム液と薬草を使ってポーションを作るのよ」
「ポーション!」
ポーションという単語にテンションが上がる。
あれ? 一つの疑問が頭に浮かぶ。
「なあ、スライムを討伐したときにポーションが手に入ることってないの?」
俺の疑問に顔を見合わせる五人。
スライムが薬草を食べてたらポーションがスライムの中に出来ているんじゃないのか?と思ったのだ。
「な、なくはない、けど……ねえ?」
ニャンカがそういって、ウサミの方をみる。
「こ、ここには……や、薬草は……な、ないから……」
ここには薬草がない? なるほど。
この草原の草は全部ただの草なのか。
「そうなんだ」
「おまえ、そんなことも知らねえの?」
今まで何も発していなかった狐の半獣人が口を開く。それに対して「しっ失礼だよコンタくん!」と鼠の半獣人が注意する。
「君たち、全員一緒に討伐してるんだよな?」
「そうだけど……」
「全員でスライム液を五つ集めるの?」
「ひ、一人……五個ずつ……」
盾、剣、両手剣、弓、魔法。
バランスはいいと思う。前衛三人に後衛二人。
接近戦だけでなく、遠距離攻撃もできる。
「パーティー組まないの?」
俺の言葉に、五人が小首を傾げる。
「パーティーってなんだ?」
「しっしらない……」
「な、なんかの魔法かな?」
「武器の名前とか?」
どうやら、この子達にはパーティーを組むと言ってもピンとこないらしい。
もしかすると、この世界ではそもそもパーティーを組むという概念がないのかもしれないな。
「よし、俺が教えてやるよ!」
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