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19、行動力は凄まじい

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 昨日魔法を教えてもらった後、マルスさんはすぐにどこかへ消えてしまった。
 まさかとは思うけど、本当に遠征の話を持ってきたりしないだろうね…?
 ドキドキしながら、小さい獣姿のヒライを撫で回す。

《なぁ、もう少し優しくしてくれねぇか》

 ヒライからそんな声が聞こえたのは、毛がぐしゃぐしゃになってからだった。

「あわわ、ごめんね」
《何だ、なんか悩みでもあんのか?》

 す、鋭いな…。

「うん、悩みっていうか…心配事?」
《そんなもん俺がいれば解決してやるから悩んでも無駄だ。お前さんは、のほほんと気楽に過ごしたらいい》
「ありがとう」

 ヒライは心強い。というか、よく考えたら聖獣様が私なんかの所にいてもいいのだろうか。

「ヒライはなんで私のところにいるの?」
《なんでって言われてもなぁ、契約者の所にいるのは当たり前だろ》
「ふぇっ、契約?そんなのしてないよ?」
《あ、しまった。お前さんは寝てたんだった》
「どういうこと?」

 私が寝ている間に契約とは、意味がわからない。
 詐欺か、詐欺契約なのか!

《ちゃんと理由説明するから、そんな目するんじゃねぇ》

 どうやら無意識に胡乱気な目でヒライを見ていたようだ。

《俺が契約したのはお前さんが俺に自己紹介して眠ったあとだ。なんで契約したのかは俺にも分からん。だが、あの時俺はお前さんを守ってやりたいと思ったんだ。こんなに小さな身体なのにどこか普通の子どもとは違う雰囲気を持つお前さんが、どうしても気になったんだ。だから……》

 ヒライの言葉はそこで途切れた。

 ……ボフンッ

「だから、これからも側で守らせてくれよ…?お前さんに害をなすものなら、例えそれが国だって相手にしてやる。だから安心しろ」

 人型になったヒライは私を抱きしめ、そう言葉を続けた。

(国を相手に…か、私はここに来てどれだけ守られているのかな。返せてるかな、ちゃんと)

 ここに来てから出会ってきた人のことを考える。
 目つきは怖いけど優しい団長さん、キラキラして王子様みたいな…でもたまに変なレオンさん、ワンコみたいに元気がいい獣人のアルさん、他の団員さんたちも本当の家族のように接してくれる。

 そして、本当の私を受け入れてくれた。今の私にとって大切な人達だ。

「私は、私にとって出来ることをやってみるよ。どうしても無理な時は、ヒライに頼もうかな」
「おう!そうしろそうしろ」

 少し心がスッキリしたところに……

「それはいい心がけですね。私も微力ながら力を貸します」
「ありがとうございます…って、え?」
「こんにちは、ナナキさん。昨日ぶりですね」
「えっと、はい。こんにちは」

 マルスさんが現れた。

(え?なんで?なんでここにいるの?てか、いつ入ってきたの?)

「ふふふ、私がここにいる理由が分からないって顔をしてますね。そうですね、当ててみてください。ヒントは、昨日最後に話したことです」

 昨日…。まさか、遠征じゃないよね?一日で決まることじゃないしね、ちがうよね!
 予想が外れていることを祈りながら答えてみた。

「遠征…ですか?」
「ピンポン、大正解です」

 嘘だろ!?

「で、でも、昨日言ったばかりですよね」
「ふふっ、その通りです。ですが、貴方の力を王に伝えると興味を示されましてね、急遽きゅうきょ隣街の森へ遠征に行くことになりました。あ、理由は貴方だけではありませんよ。前々からその森へ調査にと思っていた所でしてね、あなたはそのついでと考えていただいていいですよ」
「はぁ、そうですか」
「ええ、ですから、これからカインに伝えに行くところです。ナナキさんも一緒にどうですか?」
「いえ、結構です」

 ついて行ってもいいこと無さそうだし…。二人きりになりたくないし。

「おや、それは残念です。それではまた、さようなら」
「さようなら」

 マルスさんは踵を返して私の部屋を出た後、執務室の方へ向かった。

「ふー」
「なんていうか、嵐のような男だったな」

 ヒライの意見に同意だ。

(というか、私とヒライの格好にツッコミを入れることなく話してたな…)

 ある意味尊敬に値する。私だったら絶対に何か言うと思う。

 それにしても…どうしてこの世界の男性は皆して、行動力があるのだろう。
 今の私にとってそれが一番の謎だ。

 その後、小さな獣姿に戻ったヒライを存分に撫で回した。
 それから晩ご飯を作り食べる際、団長さんが一週間後に遠征に行くことを発表した。
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