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14、インテリと子犬 その1

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「おい、あまり部屋の隅に行くんじゃない。ホコリがあるかもしれん」
「そこは書類や本が沢山あって危ないからこっちに来なさい」
「まだ腹は減らないか?減ったならミルクを貰ってくるぞ?」

(……ほっといてよ)

 私が部屋の中を動き回るごとに、何かと声をかけてくるチェイスさんは、私を構いたいんでしょうか。……いえ、そんな筈はありません。だって、チラッと気づかれないように盗み見たとき、私をすごい眼力で、睨みつけるに近い状態で見つめていたのですから。

(これで本当は構いたいってことだったら、笑わせものだよね)

 のほほんと考えていると、いつの間にかチェイスさんが私の目と鼻の先に居ました。

『ふぎゃぁっ!』
「っ!」

 思わず叫んでひっくり返ってしまいました。チェイスさんも、驚き、目を見開き固まります。手は私の方へ伸ばされていました。恐らく、私をどこかに連れていこうとしたのでしょう。

(声をかけてよ)

 視線で訴えかけてみますが、なかなかショックが抜けないのか固まったままです。

(仕方ないなぁ)

 私はトコトコと近寄り、ポスッという音をたてながらチェイスさんのお腹に突撃しました。

「ふぁっ!?」

 すると、思ったよりも可愛い声がチェイスさんの口から聞こえました。
 しかし私はそのまま、ぐりぐりと頭や体でチェイスさんに全力で擦り寄ります。

(これでどうだっ。出血大サービス!)

 嬉しくないかもしれないけど、止めません。
 ぐりぐり、ぐりぐりとしていると、頭上から「くっ、ふっ…くぅぅ!」なにやら抑えこんなだような声がします。いったん擦り寄るのをやめて、見上げてみました。
 そこには……

「かっ、かわっ……うぅぅっ!」

 耳まで顔を真っ赤にしたチェイスさんがいました。……正直、誰かと疑うほど可愛いです。
 こてんと、首を傾げてチェイスさんを見つめました。チェイスさんの顔はますます赤くなります。

『大丈夫?』
「あっ、あぁ」

 一度手で顔面を覆って、「はぁぁ…」と溜息をつき、一瞬で冷静さを取り戻したようです。

『何かの病気?』
「いや、病気じゃない。大丈夫だ。病気の類ではないんだ」
『そっか』
(それはよかった……って、え?まっ、待ってよ。私の言葉通じてる?)

 おかしい。ほかの人達には通じなかったのに、チェイスさんには通じています。いえ、まぐれの可能性も…。

『わたしの言葉、わかるの?』
「あぁ、何を当たり前のことを……って、そういえばなぜだ?」

 チェイスさんも不思議に思っています。どういう事でしょうか。

「私は動物の言葉は分からないはず。分かるのは幻獣や精霊、妖精…あとは、高い知力と魔力を持った魔獣のフェンリル…だ…け……」

 そこまで言い終えて、私を凝視しました。……えぇ、私もそれを聞いて納得しました。

(だって、私、フェンリルの赤ちゃんだもんね)

 私が口に出さず、そう思っているなか。チェイスさんは口を開け、ワナワナと震えていました。
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