雨の日に君が踊れば

星本きらり

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プロローグ

淡い炎

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 シド・ローレン

 彼は幼き頃から王族の騎士として育てられ、冷徹無比かつ冷血な凄腕剣士として恐れられていた。

 けれどその端正な顔立ちから女達は色めき立ち、なんとか自分のものにしようと必死になっては着飾り近寄って、結局は数回はけ口に使われると簡単に捨てられ涙する者ばかりだった。

 シドが十八の歳になった時、王が彼を呼びつけると、こう言った。

「シドよ、私の末娘と結婚しなさい」

 末娘のルビーと結婚しろと言うのだ。

「……はい、陛下、喜んでそのご縁お受けいたします」

 シドは心の中で喜んでいた。
 王の4人いる娘の旦那どもは皆頭が悪い。次期の王の座は――。



 その夜、雨が降っていた。
 酒場で喜びの杯を交わした後、雨の中馬に乗り帰路を急いでいたシドは、その雨の中に影を見つける。
 ―こんな時間に何をしている―?
 密かに近づいてみるとそこには、薄いベールを纏い、暗い街灯が灯る噴水の側で踊っている者がいた。

 そのしなやかで艶やかな踊りに、シドは釘付けになってしまった。
 何か胸の奥が、ぎしぎし音を立て始めた気がした。

 気がつくと、馬に乗ったまま近づいたシドは、その者の腕を掴んでいた。

 驚いて見上げるその顔を見て、シドは驚いた。

 ――男――!?

 色白で華奢で、女のように美しい顔をしていたが、シドにはすぐにわかった。
 これは男だ。

 さっきの胸の燻りはなんだったのだ。シドは自分を嘲笑い、掴んだ腕を突き放すと、何も言わずに帰っていった。



 その三日後――

 その男は、王専属の踊り子として城にやってきて、シドの目の前に現れた。
 彼は隣国から来た奴隷、あの雨の夜は逃げ出していたらしい。

 女のようなレースのドレスとヴェールに包まれた男は目の前で踊った。

 シドの胸の奥にその時、何か淡い炎が生まれたのを、シドは確かに感じていた――。







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