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熱情
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しおりを挟む馬車に乗り込んだベルーナ王妃の様子、あの異様な様子を思えばシドの胸はざわざわと音を立てた。
(レイン、大丈夫かレイン)
シドは急いで東の塔の階段を駆け上った。
「シド様!どういたしましたか?」
レインの部屋の扉の前で、兵士二人が不思議そうにシドを見た。
「今朝、王妃がここへ来ただろう」
「いえ、私達は存じ上げませんが……」
「隠さなくてもわかっているんだ。王の大事な者になにかあれば大変だろう。私が中の奴隷に話を聞いておく。そこを開けなさい」
「い……いえ、奴隷は何もされておりません、王妃は少し会話をされると足早に出て行きましたから……私達はこの部屋に誰も通すなと王様から言いつけられておりますので……」
「私はこの城の王子なのだぞ?それでも開けられぬと言うのか!!」
兵士たちは頑なに通そうとはせず、シドが声を荒げるとあろうことか剣を抜き二人はそれをクロスさせ、シドの前を塞いだ。
「お許し下さいシド様。私達は例え王族の者でもここを通してはいけないと命ぜられております。万が一強行突破しようとするものなら、切り殺せとまで言いつけられております。王様のご命令です。どうかご退足を」
なるほど、王は相当レインに入れ込んでいるようだ。まるで国宝のような扱いだな―。
シドは怒りに燃えていたが、拳を握り耐え忍んだ。
「そうか、ならば私の出る幕ではなかったようだ」
この扉一枚の向うにレインの姿がある―そう思えば胸がはち切れそうに痛む。
ベルーナ王妃がここへやってくるほど、王の態度が今までとは違うのだろう。レインへの入れ込みようがそこまでとは……。
シドは、そこにあるのにまるで手の届かない月のように思え、ただ狂おしく心は叫んだ。
―お願いだ天よ、雨を降らせてくれ―
『そんなに雨の日に踊るのが好きならば雨の日意外は庭に出てはならぬ』これも王に命ぜられたとレインが言っていた。どうしても雨の日に外に出たがった対価だろう。
今日も空は晴天だった。
夜、レインは空を見上げ、丸く輝く月を見ては手を伸ばした。
シドも同じく、月を見ては手を伸ばした。
「何をしてらっしゃるの、あなた」
シドの背中からルビーは腕を回しそう言った。
「今夜は掴めそうなほど大きな満月だ……今夜なら……掴めるんじゃないかと思ってね」
「ふふ。ロマンチックな旦那様だわ。そうね……月も星も、手を伸ばせば掴めそう。けどそれは、こんなに遠くにいるからなのよ。どんなに汗を流し頑張って手にしようと近づいたって、今度は大きすぎて掴めない……決して掴めないものほど、美しく輝くのだわ」
背中に顔を埋めながら、ルビーはそう言った。
シドは月を見つめながら、「そうだね」と呟いて、ルビーの手をそっと離した。
「愛しいルビー。今夜はもうおやすみ」
そう言って額にキスをすると、シドは寝室から出て行った。
ルビーの心は、孤独に染まっていった。
◇◆◇◆
次の日、二人の願いが届いたかのように、雨が降り注いでいた。
レインは目が覚めると窓を叩く水滴を見て顔がほころび、嬉しさに思わずくるくると踊った。
(ああ、やっと逢えるかもしれない、シド様に……!!)
どうかずっと止まないで、そう願った。
シドも自室のベットで目が覚め、窓を見ては喜びに震えた。
レインに逢える、そう思うだけで真っ暗な世界に光が差したようだった。
夜―。
「レイン!」
「シド様!」
二人はいつものように噴水に隠れ顔を見るなり抱きしめあった。
「ああ、愛しいレイン。このぬくもりをどんなに求めていたか……!」
「僕もですシド様……」
雨に打たれながら、激しく口づけを交わした。
「ん……っ……ん」
初めてキスを交わしてから逢えない時間、互いを求めていた想いが滝のように溢れ出て、それは形になる。互いを食べ尽くしてしまいそうなほど激しく唇を重ね夢中で求めた。熱い舌が激しく絡み合い、お互い気づけば夢中で服を脱がし合っていた。
「はぁはぁ」
雨に打たれながら裸になった二人は、抱きしめ合い転がりながら口づけを交わし続けた。
体中で求め合い、二人の体は熱を帯びて―。
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