雨の日に君が踊れば

星本きらり

文字の大きさ
13 / 14
熱情

12

しおりを挟む





 馬車に乗り込んだベルーナ王妃の様子、あの異様な様子を思えばシドの胸はざわざわと音を立てた。
 (レイン、大丈夫かレイン)
 シドは急いで東の塔の階段を駆け上った。


「シド様!どういたしましたか?」

 レインの部屋の扉の前で、兵士二人が不思議そうにシドを見た。

「今朝、王妃がここへ来ただろう」
「いえ、私達は存じ上げませんが……」
「隠さなくてもわかっているんだ。王の大事な者になにかあれば大変だろう。私が中の奴隷に話を聞いておく。そこを開けなさい」
「い……いえ、奴隷は何もされておりません、王妃は少し会話をされると足早に出て行きましたから……私達はこの部屋に誰も通すなと王様から言いつけられておりますので……」
「私はこの城の王子なのだぞ?それでも開けられぬと言うのか!!」

 兵士たちは頑なに通そうとはせず、シドが声を荒げるとあろうことか剣を抜き二人はそれをクロスさせ、シドの前を塞いだ。

「お許し下さいシド様。私達は例え王族の者でもここを通してはいけないと命ぜられております。万が一強行突破しようとするものなら、切り殺せとまで言いつけられております。王様のご命令です。どうかご退足を」

 なるほど、王は相当レインに入れ込んでいるようだ。まるで国宝のような扱いだな―。
 シドは怒りに燃えていたが、拳を握り耐え忍んだ。

「そうか、ならば私の出る幕ではなかったようだ」

 この扉一枚の向うにレインの姿がある―そう思えば胸がはち切れそうに痛む。
 ベルーナ王妃がここへやってくるほど、王の態度が今までとは違うのだろう。レインへの入れ込みようがそこまでとは……。

 シドは、そこにあるのにまるで手の届かない月のように思え、ただ狂おしく心は叫んだ。
 ―お願いだ天よ、雨を降らせてくれ―
 『そんなに雨の日に踊るのが好きならば雨の日意外は庭に出てはならぬ』これも王に命ぜられたとレインが言っていた。どうしても雨の日に外に出たがった対価だろう。


 今日も空は晴天だった。
 夜、レインは空を見上げ、丸く輝く月を見ては手を伸ばした。
 シドも同じく、月を見ては手を伸ばした。

「何をしてらっしゃるの、あなた」

 シドの背中からルビーは腕を回しそう言った。

「今夜は掴めそうなほど大きな満月だ……今夜なら……掴めるんじゃないかと思ってね」
「ふふ。ロマンチックな旦那様だわ。そうね……月も星も、手を伸ばせば掴めそう。けどそれは、こんなに遠くにいるからなのよ。どんなに汗を流し頑張って手にしようと近づいたって、今度は大きすぎて掴めない……決して掴めないものほど、美しく輝くのだわ」

 背中に顔を埋めながら、ルビーはそう言った。
 シドは月を見つめながら、「そうだね」と呟いて、ルビーの手をそっと離した。

「愛しいルビー。今夜はもうおやすみ」

 そう言って額にキスをすると、シドは寝室から出て行った。
 ルビーの心は、孤独に染まっていった。



◇◆◇◆



 次の日、二人の願いが届いたかのように、雨が降り注いでいた。
 レインは目が覚めると窓を叩く水滴を見て顔がほころび、嬉しさに思わずくるくると踊った。
 (ああ、やっと逢えるかもしれない、シド様に……!!)
 どうかずっと止まないで、そう願った。

 シドも自室のベットで目が覚め、窓を見ては喜びに震えた。
 レインに逢える、そう思うだけで真っ暗な世界に光が差したようだった。



 夜―。

 
「レイン!」
「シド様!」

 二人はいつものように噴水に隠れ顔を見るなり抱きしめあった。
 
「ああ、愛しいレイン。このぬくもりをどんなに求めていたか……!」
「僕もですシド様……」

 雨に打たれながら、激しく口づけを交わした。
 
「ん……っ……ん」

 初めてキスを交わしてから逢えない時間、互いを求めていた想いが滝のように溢れ出て、それは形になる。互いを食べ尽くしてしまいそうなほど激しく唇を重ね夢中で求めた。熱い舌が激しく絡み合い、お互い気づけば夢中で服を脱がし合っていた。

「はぁはぁ」

 雨に打たれながら裸になった二人は、抱きしめ合い転がりながら口づけを交わし続けた。
 体中で求め合い、二人の体は熱を帯びて―。



 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...