脇役ほいほい

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断章-ソードラント国編

マインと少女の短い旅の始まり-3

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結局、昨日はあれから何も食べないまま、ましてや夜も更けていた為、海岸付近の平原でマインと少女は野宿をした。
持たされた荷物の中に、幸いなことに毛布が二つ入っていたのだ。それにくるまり、朝を待つ。
マイン自身はいつもこんな生活をしていた為、野宿は日常茶飯事だが、少女はどうなのだろう。
しかし、牢屋に入れられていたのなら、こうして星空の下、眠る方がマシなのだろうか。

冷たい何かが頬に当たり、マインは飛び起きた。辺りは薄暗く、時間がわからない。ただ、

「ぎゃっ!やべー!雨だ!!」

小雨の為、降り出したばかりだろう。くるまっていた毛布を慌てて丸め、隣でまだ寝ている少女を見る。

「おいっ、雨だぞ!起きろって!」

眠る少女の肩を揺さぶれば、少女は無言で起き上がる。寝起きだというのに、眠そうな顔はしておらず、相変わらずボーッとした無表情で。
ポツポツと雨に打たれているのに何も気にしてはいない。
マインは少女の毛布を剥ぎ取り、それも丸めてリュックサックの中に押し込む。
それから走ってついて来るよう促したが、少女はその場にボーッと突っ立ったままで、

「だーもーくそっ!また置いてっちゃうことになるだろ!?」

昨日みたいなことはごめんだし、やっぱりなと笑うエーネンの顔が浮かび、マインは少女の手をしっかりと握り、走り出した。


「はぁぁぁぁ‥‥結局こうなんのかよぉ」

だらんと肩を落とし、マインは深いため息を吐く。

マインが目指した場所は、昨日素通りした村だった。
先に進むどころか、振り出しに戻ったのである。

(くそーっ‥‥今日か明日にはニルハガイって国に到着する予定が‥‥)

そう思うも、びしょびしょに濡れた服が重く、気持ち悪い。いつも身軽な服に身を包んでいたので、宛がわれたこの服はあまりにも動きにくかった。

(こういう時はどうするんだっけ?宿屋に泊まるもんなのか?)

小さな村、ましてや雨の為、外を歩いている人はいない。宿屋と書かれた看板を見つけ、そこを目指した。
中に入れば、暇そうにした中年男性が受付テーブルに頬杖をつきながら新聞を読んでいて‥‥
中に入って来たびしょ濡れのマインと少女の姿を面倒くさそうに見る。

「こんな朝っぱらから子供二人がなんだ?見たことないが、迷子かぁ?」

なんて言われ、

「ちがう。泊まりに来たんだ。半日ぐらい」

マインが言えば、

「んー‥‥ああ、なるほどな。祭りに来たのか。だが、子供だけで来させるとか、随分と自由な親だな。しかも、国じゃなく、国境からも少し離れた村でなぁ」

店主が何か納得するように言い、半日分の宿代をマインに提示した。
他に客はいないらしく、お風呂も部屋の中に設備されている広い二人部屋を貸してくれた。
食事のサービスはないので、村にある飲食店で食べろと言われる。
昨日から何も食べておらず、空腹が酷いが、まずはお風呂に入ることにした。
マインは少女に先に入るよう促す。
言葉が通じたのか、少女はお風呂場へ向かった。

リュックサックには替えの衣類と元々着ていた服が綺麗に洗濯されて入れられている。
少女がお風呂に入っている間に、替えの衣類を風呂場の前に置いてやった。

その間、一室にあるテーブルの上に、何やらカラフルなチラシがあることにマインは気づく。
それは『雪祭り』に関するチラシだった。
先ほど店主が祭りがどうの言っていたことを思い出す。
目的地である国境の村から少し離れた場所に位置する町で、雪祭りが開催されているらしい。

(雪祭り‥‥聞いたことはあるけどなんなのかは知らねーな。まっ、関係ない)

そう思い、少女が風呂に入っている間、ふかふかのソファーに寝転がった。
ーーそして。
宿を出て食事を済ませ、すっかり雨も上がった夕刻。

(‥‥関係ない。関係ないんだけど)

マインはそう思い、少女と共に大きな町の前に立っていた。
それは、雪祭りが開催されているという町だった。
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