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断章-ソードラント国編
青一色
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荷物と青い色鉛筆を握り締め、マインはニルハガイ兵達を振り切り、城を後にした。
エーネンに言われた通り、ニルハガイ王に手紙を渡し、目的は達した。
恐らく、ニルハガイ国からソードラント国にマインの行動が伝えられるかもしれないが、どうでもいい。
(目的、か)
ふと、なんで自分はこんなことをしていたのかと冷静になる。
ソードラント国で毎日盗みに駆け回り、屋根のない場所で毎日を過ごしていた日々が酷く懐かしい。たった、数日前までの出来事なのに‥‥
路地裏で、異端者の少女を見つけたのが始まりだった。意味もわからず彼女を庇おうとしてこうなった。
人気のない暗がりの街道を歩き、宛がわれた小綺麗な衣服を脱ぎ捨て、元々着ていたボロボロのシャツとズボンをリュックから取り出し、着替える。
やはり、自分にはこの小汚ない格好が似合っていた。
そして、先刻、少女の為に買った青いワンピースが目に入る。結局、着せてやれなかった。着たかったかどうかはわからないが‥‥
彼女は、どうなってしまったのだろう。あの黒い霧は、なんだったんだろう。
寄り道をすることなく、マインはただ、ソードラント国を目指す。
(なんか、疲れた。早く国に帰って、オレの罪を裁いてもらおう。はは‥‥オレは、なんであんなに走り回ってまで生きようとしてたんだか‥‥もう、しんどい)
異端者は、人間扱いされない。
自分も同じだったんだとマインは理解した。
マインは‥‥異端者の少女を哀れんでいたことに気付く。自分は、哀れまれたことなんかない。
国の人々は、マインを疎ましい目で見るだけだった。小汚ないネズミを見るような目だった。
(オレも人間扱いされてなかったんだな)
同情はほしくない。されても鬱陶しいだけ。でも‥‥
無駄な思考を振り切り、明け方のソードラント国を見上げる。国を出て、まだ三日目なのに、やはり遠くまで行っていた気持ちになる。
街中に足を踏み入れれば、市場ではすでに、店主達が朝の仕込みをしていた。
店主達は三日振りに見るマインの姿をギョッとした顔で見る。何かヒソヒソ言われているが、興味ない。
今はただ、城へ‥‥エーネンの元へ行くだけだ。
城門を守る兵士が二人、市場の店主達と同じようにギョッとした顔でマインを見てくる。
「おっ、お前は、王がニルハガイに遣わせた‥‥」
「なっ、なんだ、それはっ」
兵士二人はマインの後ろを指差すが、後ろには何もない。今度はマインが不思議そうに兵士に顔を向けると、
「成る程、三日か。早い帰りだね」
兵士二人の間を通り、金の髪を朝日に照らしながら、ソードラント王、エーネンが姿を見せた。
「手紙は?」
「渡した」
「ふむ」
「おーさまよ、ニルハガイ国に行くには、通行証ってのが必要らしいじゃねーか‥‥なんで、言わなかった?」
「‥‥」
エーネンは小首を傾げ、
「手紙に君と彼女のことは書いたからね。あれが通行証だよ」
なんて言われ、
「っ‥‥ざけんなよ!」
マインは思わずエーネンに掴み掛かろうとしたが、兵士に止められる。
「それで、マインくん。彼女はどうしたんだい?守ってあげてって言ったけど‥‥やっぱり気持ちが変わった?三日間で、異端者に対する扱いを知れたのかな?」
平然とした顔で、なんの感情もない声音だ。
通行証がなかったせいで、少女と離れ離れになったというのに‥‥
それに、ニルハガイ王に宛てた手紙の最後には、マインと少女をどうするかはニルハガイ国に任せるなどと書いていたのだ。マインは唇を噛み締め、
「よーく、わかったぜ。人間は、すげー酷い生き物だってことがな」
マインのその言葉を聞き、エーネンは目を丸くする。
「ほらっ、おーさま。帰って来たらオレの悪事を裁けって言ったろ。とっとと牢屋にでも放り込めよ」
と、マインは両手を上に上げ、抵抗はしないと示した。
「‥‥」
しかし、エーネンは静かに笑い、
「私はそんな約束はしていない。君が勝手に言っただけだ。それに、君はお母様に言われてきたんじゃないか?何がなんでも生きろ‥‥ってね」
「‥‥?」
なぜ、エーネンの口からマインの母の話が出るのだろう。だが、しかし。
両親との思い出はあまりないマインだが、やはり母親が熱心に字の読み書きを教えてくれたことだけは覚えているのだ。そうだ、確か‥‥
『お前はたくさん勉強して、知識をつけて、誰よりも立派に生きるのよ』
呪いのように、執着のように、幼いマインにそう言い続けていた母の言葉を思い出した。
マインは疑問の目をエーネンに向ける。
「ああ、紛らわしかったね。君の母親は知らないよ。ただ、母親というのは、子供にそう言うものだからね」
それを聞き、マインは肩を竦めた。
「無事、期限内にニルハガイ王に手紙を届けてくれた。だから、君はまたいつも通りに生きればいい」
「‥‥あんたの国で、盗みを働きながら、か?」
「私は不思議なんだよ。君はなぜ、そうやって生きる?君の足なら、何処へでも行ける。なのに、なぜこの国で、狭い生き方をするんだい?」
「しらねーよ。生き方なんか、わかんねー‥‥食って寝る。それが、生きるってことじゃん」
「まあ、そうだが」
エーネンはうんうんと頷き、
「だったらどうだい?マインくん、城で働いてみないかい?騎士でもいい、雑用でもいい。生きるには、働くことも必要だ」
そんな提案をする王を、兵士二人は当然、驚くように見る。
「へっ‥‥窮屈だよ、んなの。ならよ、オレはもうあんたと関係ない、いつも通りなんだな?」
「そうなるよ」
「‥‥なら、オレは国を出る」
「生き方、わからないんだろう?」
「わかんねー。でも、変わらず生きるさ」
「‥‥」
マインの考えはわからないが、エーネンは「そう」と、短い相槌を打った。
「これ、返す」
と、旅立ちの前に渡されたリュックをエーネンに突き返せば、
「ニルハガイ王に手紙を届けてくれた礼として受け取ってくれて構わないよ。それだけあれば、しばらくは生きていけるさ」
エーネンはそう言って、マインにリュックを突き返した。
「‥‥」
「‥‥」
しばらくの沈黙が走り、
「マインくん。どんな場所であれ、ここは君の故郷だ。父上と母上が亡き今、私がこの国の王だ。だから、今度は一人で生きず、王である私を頼ればいい。君も、国民の一人なのだから」
ーー父上と母上が亡き今‥‥
そういえばそうだ。なぜ、こんな若いエーネンが王なのか。彼の父親と母親はいつ‥‥?
ずっと、だったか?
自国の王のことすら、本当に何も知らず、ただ毎日を生きていた。だが、
「‥‥じゃあな」
もう話すことは何もない。そう感じ、マインは踵を返して歩き出す。エーネンはその背中を静かに見送った。
「あの子供、最後まで無礼な‥‥」
「王、良かったのですか?子供といえど、犯罪者‥‥しかし、あれは一体‥‥なんと不気味な‥‥」
兵士二人はそう言い、構わないさとエーネンはくるりと城門に体を向け、城内へと戻って行く。
マインの背後には、黒い霧が彼の体を覆うように蠢いていた。あれが何かはわからない。
だが、マインに寄り添っているようにも見えたし、守っているようにも見えた。
(ふっ‥‥彼は妙なものに懐かれたようだね‥‥本当に、父上にそっくりだ)
エーネンは少しだけ寂しそうに笑い、だが、すぐに王としての顔に戻る。
来るべき、オルラド国の動きに備えて。
◆◆◆◆◆
ソードラント国を出て、なんとなく海沿いを歩いた。一昨日、初めて見た海。
いや‥‥潮の匂いは知っていた。もしかしたら、幼い頃に見たことがあるのかもしれない。
と言っても、本当に覚えていないが。
教育熱心だったかもしれない母親から文字を習ったことだけが鮮烈に残っていて、なぜか父親のことはあまり覚えていなかった。
ーー覚えていない、というよりは、一種の記憶障害なのかもしれない。
数年前にオルラド国が攻め込んできた日、マインが目を覚ましたのは、すでに荒れ果てた後であった。
いつからかはわからない。だが、気付いたらもう、この生き方をしていた。
(生きるには、働く、か。オレみたいな犯罪者を、おーさまはなんで見過ごして来たんだかな‥‥ははっ、オレも他人のこと言えねー、クズ人間だ)
自分を嘲笑い、波音に耳を澄ませる。少し荷物の整理をしようかと、自分の物になったリュックの中身を覗いてみる。すると、最後に見た時には入っていなかった紙切れがあることに気付いた。
無造作に入れられたのか、ぐしゃぐしゃになっている。なんだろうと取り出すと、何か絵が描かれていた。
それは、青一色。
子供が描いたような絵でぐちゃぐちゃだが、恐らく、背景は海。
小さな女の子と男の子が手を繋ぎ、周りにはマフラーを巻いた人と、剣を持った人、フライパンを持った人が立っていた。
きっと、あの少女が描いたのだろう。大事にしていた青色の色鉛筆で。
(家族‥‥か?)
わからないが、こんな絵が描けるのだ。彼女には、感情があったはずだ。
三年前にソードラント国に幽閉された少女。
何度も逃げ出しては連れ戻されたとエーネンは言っていた。
もしかしたら、この絵に描かれた家族を捜していたのだろうか?
静かに息を吐き、少女との短い時間を思い返す。何もなかった。何も。
けれど、自分も、周りの人間も、愚かなのだと知れた。
これからどうすればいいのかはわからない。
盗みを働きながら生きて来た自分には、今更どんな生き方があるのだろう。
野垂れ死ぬだけかもしれない。
背後に黒い霧を纏いながら、マインは青空の下を歩いた。
世界中が今、黒い霧に覆われていることはまだ知らない。
エーネンに言われた通り、ニルハガイ王に手紙を渡し、目的は達した。
恐らく、ニルハガイ国からソードラント国にマインの行動が伝えられるかもしれないが、どうでもいい。
(目的、か)
ふと、なんで自分はこんなことをしていたのかと冷静になる。
ソードラント国で毎日盗みに駆け回り、屋根のない場所で毎日を過ごしていた日々が酷く懐かしい。たった、数日前までの出来事なのに‥‥
路地裏で、異端者の少女を見つけたのが始まりだった。意味もわからず彼女を庇おうとしてこうなった。
人気のない暗がりの街道を歩き、宛がわれた小綺麗な衣服を脱ぎ捨て、元々着ていたボロボロのシャツとズボンをリュックから取り出し、着替える。
やはり、自分にはこの小汚ない格好が似合っていた。
そして、先刻、少女の為に買った青いワンピースが目に入る。結局、着せてやれなかった。着たかったかどうかはわからないが‥‥
彼女は、どうなってしまったのだろう。あの黒い霧は、なんだったんだろう。
寄り道をすることなく、マインはただ、ソードラント国を目指す。
(なんか、疲れた。早く国に帰って、オレの罪を裁いてもらおう。はは‥‥オレは、なんであんなに走り回ってまで生きようとしてたんだか‥‥もう、しんどい)
異端者は、人間扱いされない。
自分も同じだったんだとマインは理解した。
マインは‥‥異端者の少女を哀れんでいたことに気付く。自分は、哀れまれたことなんかない。
国の人々は、マインを疎ましい目で見るだけだった。小汚ないネズミを見るような目だった。
(オレも人間扱いされてなかったんだな)
同情はほしくない。されても鬱陶しいだけ。でも‥‥
無駄な思考を振り切り、明け方のソードラント国を見上げる。国を出て、まだ三日目なのに、やはり遠くまで行っていた気持ちになる。
街中に足を踏み入れれば、市場ではすでに、店主達が朝の仕込みをしていた。
店主達は三日振りに見るマインの姿をギョッとした顔で見る。何かヒソヒソ言われているが、興味ない。
今はただ、城へ‥‥エーネンの元へ行くだけだ。
城門を守る兵士が二人、市場の店主達と同じようにギョッとした顔でマインを見てくる。
「おっ、お前は、王がニルハガイに遣わせた‥‥」
「なっ、なんだ、それはっ」
兵士二人はマインの後ろを指差すが、後ろには何もない。今度はマインが不思議そうに兵士に顔を向けると、
「成る程、三日か。早い帰りだね」
兵士二人の間を通り、金の髪を朝日に照らしながら、ソードラント王、エーネンが姿を見せた。
「手紙は?」
「渡した」
「ふむ」
「おーさまよ、ニルハガイ国に行くには、通行証ってのが必要らしいじゃねーか‥‥なんで、言わなかった?」
「‥‥」
エーネンは小首を傾げ、
「手紙に君と彼女のことは書いたからね。あれが通行証だよ」
なんて言われ、
「っ‥‥ざけんなよ!」
マインは思わずエーネンに掴み掛かろうとしたが、兵士に止められる。
「それで、マインくん。彼女はどうしたんだい?守ってあげてって言ったけど‥‥やっぱり気持ちが変わった?三日間で、異端者に対する扱いを知れたのかな?」
平然とした顔で、なんの感情もない声音だ。
通行証がなかったせいで、少女と離れ離れになったというのに‥‥
それに、ニルハガイ王に宛てた手紙の最後には、マインと少女をどうするかはニルハガイ国に任せるなどと書いていたのだ。マインは唇を噛み締め、
「よーく、わかったぜ。人間は、すげー酷い生き物だってことがな」
マインのその言葉を聞き、エーネンは目を丸くする。
「ほらっ、おーさま。帰って来たらオレの悪事を裁けって言ったろ。とっとと牢屋にでも放り込めよ」
と、マインは両手を上に上げ、抵抗はしないと示した。
「‥‥」
しかし、エーネンは静かに笑い、
「私はそんな約束はしていない。君が勝手に言っただけだ。それに、君はお母様に言われてきたんじゃないか?何がなんでも生きろ‥‥ってね」
「‥‥?」
なぜ、エーネンの口からマインの母の話が出るのだろう。だが、しかし。
両親との思い出はあまりないマインだが、やはり母親が熱心に字の読み書きを教えてくれたことだけは覚えているのだ。そうだ、確か‥‥
『お前はたくさん勉強して、知識をつけて、誰よりも立派に生きるのよ』
呪いのように、執着のように、幼いマインにそう言い続けていた母の言葉を思い出した。
マインは疑問の目をエーネンに向ける。
「ああ、紛らわしかったね。君の母親は知らないよ。ただ、母親というのは、子供にそう言うものだからね」
それを聞き、マインは肩を竦めた。
「無事、期限内にニルハガイ王に手紙を届けてくれた。だから、君はまたいつも通りに生きればいい」
「‥‥あんたの国で、盗みを働きながら、か?」
「私は不思議なんだよ。君はなぜ、そうやって生きる?君の足なら、何処へでも行ける。なのに、なぜこの国で、狭い生き方をするんだい?」
「しらねーよ。生き方なんか、わかんねー‥‥食って寝る。それが、生きるってことじゃん」
「まあ、そうだが」
エーネンはうんうんと頷き、
「だったらどうだい?マインくん、城で働いてみないかい?騎士でもいい、雑用でもいい。生きるには、働くことも必要だ」
そんな提案をする王を、兵士二人は当然、驚くように見る。
「へっ‥‥窮屈だよ、んなの。ならよ、オレはもうあんたと関係ない、いつも通りなんだな?」
「そうなるよ」
「‥‥なら、オレは国を出る」
「生き方、わからないんだろう?」
「わかんねー。でも、変わらず生きるさ」
「‥‥」
マインの考えはわからないが、エーネンは「そう」と、短い相槌を打った。
「これ、返す」
と、旅立ちの前に渡されたリュックをエーネンに突き返せば、
「ニルハガイ王に手紙を届けてくれた礼として受け取ってくれて構わないよ。それだけあれば、しばらくは生きていけるさ」
エーネンはそう言って、マインにリュックを突き返した。
「‥‥」
「‥‥」
しばらくの沈黙が走り、
「マインくん。どんな場所であれ、ここは君の故郷だ。父上と母上が亡き今、私がこの国の王だ。だから、今度は一人で生きず、王である私を頼ればいい。君も、国民の一人なのだから」
ーー父上と母上が亡き今‥‥
そういえばそうだ。なぜ、こんな若いエーネンが王なのか。彼の父親と母親はいつ‥‥?
ずっと、だったか?
自国の王のことすら、本当に何も知らず、ただ毎日を生きていた。だが、
「‥‥じゃあな」
もう話すことは何もない。そう感じ、マインは踵を返して歩き出す。エーネンはその背中を静かに見送った。
「あの子供、最後まで無礼な‥‥」
「王、良かったのですか?子供といえど、犯罪者‥‥しかし、あれは一体‥‥なんと不気味な‥‥」
兵士二人はそう言い、構わないさとエーネンはくるりと城門に体を向け、城内へと戻って行く。
マインの背後には、黒い霧が彼の体を覆うように蠢いていた。あれが何かはわからない。
だが、マインに寄り添っているようにも見えたし、守っているようにも見えた。
(ふっ‥‥彼は妙なものに懐かれたようだね‥‥本当に、父上にそっくりだ)
エーネンは少しだけ寂しそうに笑い、だが、すぐに王としての顔に戻る。
来るべき、オルラド国の動きに備えて。
◆◆◆◆◆
ソードラント国を出て、なんとなく海沿いを歩いた。一昨日、初めて見た海。
いや‥‥潮の匂いは知っていた。もしかしたら、幼い頃に見たことがあるのかもしれない。
と言っても、本当に覚えていないが。
教育熱心だったかもしれない母親から文字を習ったことだけが鮮烈に残っていて、なぜか父親のことはあまり覚えていなかった。
ーー覚えていない、というよりは、一種の記憶障害なのかもしれない。
数年前にオルラド国が攻め込んできた日、マインが目を覚ましたのは、すでに荒れ果てた後であった。
いつからかはわからない。だが、気付いたらもう、この生き方をしていた。
(生きるには、働く、か。オレみたいな犯罪者を、おーさまはなんで見過ごして来たんだかな‥‥ははっ、オレも他人のこと言えねー、クズ人間だ)
自分を嘲笑い、波音に耳を澄ませる。少し荷物の整理をしようかと、自分の物になったリュックの中身を覗いてみる。すると、最後に見た時には入っていなかった紙切れがあることに気付いた。
無造作に入れられたのか、ぐしゃぐしゃになっている。なんだろうと取り出すと、何か絵が描かれていた。
それは、青一色。
子供が描いたような絵でぐちゃぐちゃだが、恐らく、背景は海。
小さな女の子と男の子が手を繋ぎ、周りにはマフラーを巻いた人と、剣を持った人、フライパンを持った人が立っていた。
きっと、あの少女が描いたのだろう。大事にしていた青色の色鉛筆で。
(家族‥‥か?)
わからないが、こんな絵が描けるのだ。彼女には、感情があったはずだ。
三年前にソードラント国に幽閉された少女。
何度も逃げ出しては連れ戻されたとエーネンは言っていた。
もしかしたら、この絵に描かれた家族を捜していたのだろうか?
静かに息を吐き、少女との短い時間を思い返す。何もなかった。何も。
けれど、自分も、周りの人間も、愚かなのだと知れた。
これからどうすればいいのかはわからない。
盗みを働きながら生きて来た自分には、今更どんな生き方があるのだろう。
野垂れ死ぬだけかもしれない。
背後に黒い霧を纏いながら、マインは青空の下を歩いた。
世界中が今、黒い霧に覆われていることはまだ知らない。
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