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第三章【破滅へと至る者】
3―15
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バサバサと、曇り空の中へレッドドラゴンが消えていくのを、銅鉱山の入り口からシーカーは見送った。
シーカー自身が隠れ家として使っている銅鉱山は、昔はトレジャーハンターが多く訪れた場所である。この鉱山で命を落とした者や、昔この付近にあった村で亡くなった者を弔う場所でもあったが、人々は大地に新たな町や村を作り、この辺りに人が訪れることは少なくなった。その為、鉱山内にある墓標へと訪れる者もいなくなってしまい、ある意味で心霊スポットと噂され、放置された場所である。
王であるルベリア、王妃であるリーシェルの首を火葬し、こんな場所で申し訳ありませんーーと、この墓標に丁重に葬った。
シーカーは話す。初代ロンギング王、レイルの為に、自分はウィシェ・ロンギングを助けたのだと。シーカーはレイル王と知り合いだった。彼が築き上げた国を、混沌へと誘うわけにはいかなかったと。
ーー数分前、シーカーはノルマル達を銅鉱山の隠し地下通路へと案内した。
そこは、もはや鉱山とは関係ない。いくつかの生活感のある部屋や、実験室、温泉まであるのだ。こんな場所に生活感のある奇妙な空間‥‥一同は驚くしかない。
かつて英雄と呼ばれた男が、その英雄を愛した女性と、一人の少年の魂と過ごした場所だとシーカーは語った。
そして、誰も訪れないここならば、身を潜め、安全に過ごせるであろうと。
リダとルヴィリには教えたくなかったが、ノルマルにウェザ、アリアの為には仕方がなかった。
ここには医療道具もあり、ウェザはアリアの折れた左腕に治癒術を掛け、ギプスで固定し、包帯で巻いてやる。
「折れた骨を治癒術で繋げることもできるけど、ちょっと時間が掛かるから、あたくしが本調子になったら実行するわ。神経と骨は麻痺させたから、しばらく痛みは大丈夫なはずよ」
と、ウェザは言った。彼女自身もレンジロウの攻撃で腹部を刺され、あの場では応急処置として簡易な治癒しか出来ていなかった為、今は長時間の治癒術は無理なのだろう。もちろん構わないとアリアは頷き、しばらく安静にした方がいいと、一室にあるベッドに横になった。
「さてーー今後のことですね」
と、シーカーが切り出す。
「ソートゥ様達がどこへ行ったのかはわかりません。しかし、今は身を隠しても、いつかはロンギング城に戻って来るはずです。ヨミは死に、マータも裏切り、貴方達二人もここにいる。シックスギアなんてものはもうガタガタですが‥‥お二人はどうされますか?」
ルヴィリとリダに聞けば、
「私はソートゥを殺す。その為の力を貸すとあなたは言ったわ。なら、あなた達の微々たる力、利用させてもらうだけよ」
ルヴィリはそう言い放つ。
「あなたはなぜ、ソートゥ様を殺したいんですの?」
ウェザが聞けば、ルヴィリは黙りこんでしまい、
「まあ、話したくないこともあるでしょう。しかし、協力関係になる以上、いつか話して下されば結構です」
と、シーカーは言い、理由を追及しない彼に、ノルマルとウェザは不服そうにした。
「次に、リダ。あなたはーー」
「俺は奴等に恨みなんてねーんでな。元々、頼まれたから付き合ってやっただけだ。義理も何もねーよ。だからと言って、お前らに付き合う理由もない。協力しろと言われたのは、あの城での間だけだしな」
そう言われ、シーカーは頷き、
「まあ、貴方は仕方ないですか‥‥どうせまた、今まで通り生きるんでしょう。一生捕まらない賞金首として。シックスギアなんてものがなくなった今、貴方が私達の邪魔をすることもないでしょうし。我々は弱いので、力を貸して頂けたら、それはそれで大助かりですが」
そう続ける。
「‥‥地上は今、どうなってるのかしら」
ノルマルは俯きながら言い、マータの実験体達が城下町と同じように人々を襲っているのではと危惧した。一番に、アイスビレッジ。ロンギング国からは遠いが、オウルにリグレット、シイナは無事だろうか‥‥と。
「それにーーエクス。エクスは‥‥どうなるの?あんな状態になって、元のエクスは取り戻せるの?」
「わかりません。ですが、恐らくヨミがエクスを守っています。エクスの背に現れた片翼が、それを示しています」
だから、捕縛魔法で囚われたエクスの心を取り戻せる可能性はゼロではないとシーカーは断言する。
「さてーーウェザさんにアリアさんにも確認しておきましょう。お二人はどうしますか?貴女達はエクスに協力していた身。彼がいない今、今後どうするかはお二人の自由です」
言われて、ウェザはため息を吐き、
「アリアにも言ったけど、ここまで来たら運命共同体よ!それに、眼鏡様がおばあ様達の敵だったとしても、最終的には協力したって聞いちゃったから、そこも見過ごせない点ですのよ。おばあ様達の知り合いを助けるのは孫として当然。それに、あなた達といれば、もしかしたらまた、おじ様に会えるかもしれない」
ウェザは右手を握りしめ、
「あたくしの美しい肌に傷をつけて‥‥!一発ぶん殴ってやらないと気が済まないんですのよ!」
そう言いながら、シーカーとノルマルに笑い掛けた。強がりな、精一杯な笑顔だろう。そんな会話を、ベッドで横になりながらアリアは聞き、
「自分の体なのによくわかりませんが‥‥シーカーさんと居ればちょっとは長生きできるんですよね。なら、協力しとかないとマズイですよねぇ」
ため息混じりに言う。
「そういえば、アリアは結局なんなの?病気なの?」
ノルマルが聞けば、
「幼い頃から一ヶ月に数回、発作が起きるそうで、年々心臓が弱っているそうですが、アリアさんの体内にはドラゴンの血が流れていて、その血がアリアさんの命を繋いでるんです。不治の病のようですが、そのドラゴンの血の作用に普通の医者は気づくことは出来ませんから医者はお手上げ状態というわけです。今できることは、ドラゴンの血を飲めば発作は抑えられることだけです」
アリアの代わりにシーカーが詳しく答えた。
「それがわかんないんですよねぇ。ドラゴンの血なんて、いつ飲んだのやら」
アリアはそう言い、
「そんな‥‥じゃあ、アリアは治療の為にお金が必要でしたの!?ごめんなさい‥‥あたくし、金の亡者なんて言って‥‥」
申し訳なさそうにウェザが言えば、
「あはは、違いますってばぁ。命は惜しくないんです。治療の術はないんですよ?私は生きてる間にどうしても欲しいものがあるんです。それを手に入れるにはかなりの額が必要で。その為に稼いで生きてるだけですよ。それが手に入れば、あとは死を待つだけです。だから、それまでは生きたいんですよね」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
理由を聞いたウェザは叫び、
「アリアよぉ、俺との戦いはどーするつもりだァ?まさか、すっぽかすわきゃねーよな?」
リダに言われ、
「今は無理ですが、万全になればもちろん戦ってあげますよ。あなたを倒さなければ、シェリーが浮かばれない」
それに、顔も覚えていない両親も。
「はぁ?なんなのよそれ!そんなのアリアが負けるに決まってるでしょ!ロリコンのくせにロクデナシ男ね!!あたくし、あなたはアリアのこと好きなんだって思ってたわ!」
「んだとこの鳥女ァ」
ウェザとリダが睨み合い、
「リダは強い相手が好きなんです。ウェザさんが思うような、男女の恋や愛じゃないんですよ。だから、例えばシーカーさんが私より強くなれば、リダはシーカーさんが好きになります!ですよね」
アリアは誇らしげにピースサインを送りながらリダに言うので、
「んだよつれねーなぁ?俺はお前を愛してるぜぇ?」
「薄っぺらい、出直し!」
「ああん!?」
「ちょっと!アリアは怪我人なんだから近寄らないでよね!ロリコン!ロクデナシ!」
アリアに近づこうとするリダをウェザは阻止した。
馬鹿げた光景にルヴィリは肩を竦め、一室から出て行こうとする。
「どこへ行くんです?」
シーカーが聞けば、
「私も疲れたわ。別の部屋のベッドで少し休ませてもらうから。起こさないでよね」
そう言って出て行った。
「あたしも少し、この中を見て回ってもいい?」
ノルマルが言って、シーカーは頷く。彼女は恐らく、一人で考え事がしたいのだろう。ノルマルが出て行くと、
「あっ!ノルマルに聞きたいことがあったのに!」
と、ウェザが声を上げ、彼女が『何億も繰り返す日々を生きた魔女』と言っていたことを思い出した。
「その話は、きっと近い内にノルマルさん自身が話してくれます。ですから、待ってあげて下さい」
と、シーカーが言い、
「なら、おじい様やおばあ様が若かった頃の話とか、二人の仲間の話とか聞かせてほしいですわ!」
「構いませんよ。では、別の部屋で話しましょうか。リダはアリアさんと話があるでしょうし」
それを聞き、
「いやいや待って下さいリダと二人にしないで下さい!」
アリアは慌ててベッドから起き上がり、ウェザも同意したが、
「さっきからリダは、我々がいては邪魔だという目をしてるんですよ。さあ、行きましょう」
シーカーはそう言い、ウェザの腕を引きながら出て行ってしまった。背後から「人でなしぃぃぃぃ」と叫ぶアリアの声がしたが、振り返らない。
「ちょっと眼鏡様!いいんですの!?」
「大丈夫ですよ。負傷していてもアリアさんはお強いですから。さてーー何から話しましょうかね‥‥」
「話は聞きたいけど、アリアが可哀想じゃない!あの男、何するかわからないわよ!」
「私の憶測ですが、恐らくアリアさんにドラゴンの血を飲ませたのは彼です。アリアさん曰く、記憶にはないそうですが、昔、二人は出会っているそうですからね」
「???」
ウェザは首を傾げた。「リダは我々とまともに話すつもりはなさそうですからね」と、シーカーは額に指をあて、
「そうですね。ウェザさんがお好きそうな運命の出会いの話からにしましょうか。英雄と呼ばれた人間の男と、占術士の末裔である女性がこの銅鉱山で出会った運命を」
「確かにその話、気になるけどぉ‥‥」
銅鉱山の地下をシーカーの後に続きながら、どんどん離れて行くアリアが居る部屋を心配そうに振り返った。
◆◆◆◆◆
「‥‥」
無機質な実験室。遥か昔、ここで英雄にまつわる実験が行われたのだろう。寝台の上には手書きのレポートが積み重なり、テーブルの上には整理整頓された器具が並んでいる。
何かを作ったこともあるのだろうか。今は何も入っていない大きな培養槽がいくつか壁際に設置されていた。
ノルマルは壁に沿いながらゆっくりと部屋を一周し、特に何もないなと出口に行こうとした時だった。壁に触れていた指が何かのボタンを押してしまう。
ーーゴゴゴゴゴゴ‥‥と、重たい音を立てながら、壁だと思われたものは隠し扉だったようで、新たな部屋への道が現れた。
(この銅鉱山、隠し部屋だらけね。大昔の技術なのに、凄いじゃない)
素直に感心しながら、臆することなく現れた部屋に入ってみる。
「えっ?」
しかし、入った瞬間、それはすぐに目に入った。
培養槽ではなく、大きな結晶体が眼前に立てられている。
その中には、人が入っていた。
桃色に近い赤髪に、尖った耳、黒い翼。真っ白なワンピースに身を包んだ、美しい魔族の女性が眠っている。いや、生きているのかどうかはわからない。
結晶体の横に小さな机があり、そこには古びたノートと封筒が置いてあった。
「光へ導く?」
意味はわからないが、ノートの表紙にはそう書かれている。
「‥‥?」
なぜか、ノルマルは涙を流した。
『エクスーー!あなたに与えたその金の目は、救いです!瞳に、少女が映るはずです、光へと導く少女の姿が!』
あの時のシーカーの叫びが脳裏に過ったからだ。
過ごした短い時間の中、エクスから聞いたことがある。時々、夢の中に魔族の少女が現れて、自分ではない誰かに「行ってらっしゃい」と笑顔で言うんだと。もしかしたら、この目の持ち主の知り合いなのかもと。
恐ろしい夢の中、最後に必ずその少女が現れて、夢から救ってくれるのだと。
目の前の人は少女ではなく、美しい女性だが、直感が働く。ノルマルは両手を組み、願うように魔族の女性を見つめた。
(どうか‥‥どうか、エクスを守ってあげて‥‥あなたが誰かは知らない。けど、どうかヨミと一緒に。あたし達が彼を救いに行くまで、お願い‥‥)
名も知らない、目覚めることもないであろう人にノルマルは願う。
ーーエクスは、ウィシェ・ロンギングは優しい人だ。きっと、素晴らしい王になる。
悲しみや苦しみを受けても乗り越えようとして‥‥
だが、そんな彼はとうとう立てなくなってしまっていた。
妹の裏切りに。父と母の無惨な姿に。レンジロウの裏切りに。ヨミの死に。
涙を流し、小さな子供のように踞り、全身を震わせ、全てに絶望した。
その姿を思い返すだけで、ノルマルは辛くなる。
彼は、幸せを奪われた。だから、必ず救い出して、次は自分が言ってあげるんだ。エクスが言ってくれたように、『幸せになれないなら、これから幸せになれるよう生きたらいい』と。
(貰ってばかりだったあたしが今、初めて、誰かを幸せにしてあげたいと思った。そう思えるほど‥‥随分と時間が経ち、この心は癒えてきたのね)
胸に手をあて、ノルマルは魔族の女性をもう一度見つめ、机に置かれたノートと封筒に手を伸ばした。この女性はきっと、エクスを救う鍵になる。
シーカー自身が隠れ家として使っている銅鉱山は、昔はトレジャーハンターが多く訪れた場所である。この鉱山で命を落とした者や、昔この付近にあった村で亡くなった者を弔う場所でもあったが、人々は大地に新たな町や村を作り、この辺りに人が訪れることは少なくなった。その為、鉱山内にある墓標へと訪れる者もいなくなってしまい、ある意味で心霊スポットと噂され、放置された場所である。
王であるルベリア、王妃であるリーシェルの首を火葬し、こんな場所で申し訳ありませんーーと、この墓標に丁重に葬った。
シーカーは話す。初代ロンギング王、レイルの為に、自分はウィシェ・ロンギングを助けたのだと。シーカーはレイル王と知り合いだった。彼が築き上げた国を、混沌へと誘うわけにはいかなかったと。
ーー数分前、シーカーはノルマル達を銅鉱山の隠し地下通路へと案内した。
そこは、もはや鉱山とは関係ない。いくつかの生活感のある部屋や、実験室、温泉まであるのだ。こんな場所に生活感のある奇妙な空間‥‥一同は驚くしかない。
かつて英雄と呼ばれた男が、その英雄を愛した女性と、一人の少年の魂と過ごした場所だとシーカーは語った。
そして、誰も訪れないここならば、身を潜め、安全に過ごせるであろうと。
リダとルヴィリには教えたくなかったが、ノルマルにウェザ、アリアの為には仕方がなかった。
ここには医療道具もあり、ウェザはアリアの折れた左腕に治癒術を掛け、ギプスで固定し、包帯で巻いてやる。
「折れた骨を治癒術で繋げることもできるけど、ちょっと時間が掛かるから、あたくしが本調子になったら実行するわ。神経と骨は麻痺させたから、しばらく痛みは大丈夫なはずよ」
と、ウェザは言った。彼女自身もレンジロウの攻撃で腹部を刺され、あの場では応急処置として簡易な治癒しか出来ていなかった為、今は長時間の治癒術は無理なのだろう。もちろん構わないとアリアは頷き、しばらく安静にした方がいいと、一室にあるベッドに横になった。
「さてーー今後のことですね」
と、シーカーが切り出す。
「ソートゥ様達がどこへ行ったのかはわかりません。しかし、今は身を隠しても、いつかはロンギング城に戻って来るはずです。ヨミは死に、マータも裏切り、貴方達二人もここにいる。シックスギアなんてものはもうガタガタですが‥‥お二人はどうされますか?」
ルヴィリとリダに聞けば、
「私はソートゥを殺す。その為の力を貸すとあなたは言ったわ。なら、あなた達の微々たる力、利用させてもらうだけよ」
ルヴィリはそう言い放つ。
「あなたはなぜ、ソートゥ様を殺したいんですの?」
ウェザが聞けば、ルヴィリは黙りこんでしまい、
「まあ、話したくないこともあるでしょう。しかし、協力関係になる以上、いつか話して下されば結構です」
と、シーカーは言い、理由を追及しない彼に、ノルマルとウェザは不服そうにした。
「次に、リダ。あなたはーー」
「俺は奴等に恨みなんてねーんでな。元々、頼まれたから付き合ってやっただけだ。義理も何もねーよ。だからと言って、お前らに付き合う理由もない。協力しろと言われたのは、あの城での間だけだしな」
そう言われ、シーカーは頷き、
「まあ、貴方は仕方ないですか‥‥どうせまた、今まで通り生きるんでしょう。一生捕まらない賞金首として。シックスギアなんてものがなくなった今、貴方が私達の邪魔をすることもないでしょうし。我々は弱いので、力を貸して頂けたら、それはそれで大助かりですが」
そう続ける。
「‥‥地上は今、どうなってるのかしら」
ノルマルは俯きながら言い、マータの実験体達が城下町と同じように人々を襲っているのではと危惧した。一番に、アイスビレッジ。ロンギング国からは遠いが、オウルにリグレット、シイナは無事だろうか‥‥と。
「それにーーエクス。エクスは‥‥どうなるの?あんな状態になって、元のエクスは取り戻せるの?」
「わかりません。ですが、恐らくヨミがエクスを守っています。エクスの背に現れた片翼が、それを示しています」
だから、捕縛魔法で囚われたエクスの心を取り戻せる可能性はゼロではないとシーカーは断言する。
「さてーーウェザさんにアリアさんにも確認しておきましょう。お二人はどうしますか?貴女達はエクスに協力していた身。彼がいない今、今後どうするかはお二人の自由です」
言われて、ウェザはため息を吐き、
「アリアにも言ったけど、ここまで来たら運命共同体よ!それに、眼鏡様がおばあ様達の敵だったとしても、最終的には協力したって聞いちゃったから、そこも見過ごせない点ですのよ。おばあ様達の知り合いを助けるのは孫として当然。それに、あなた達といれば、もしかしたらまた、おじ様に会えるかもしれない」
ウェザは右手を握りしめ、
「あたくしの美しい肌に傷をつけて‥‥!一発ぶん殴ってやらないと気が済まないんですのよ!」
そう言いながら、シーカーとノルマルに笑い掛けた。強がりな、精一杯な笑顔だろう。そんな会話を、ベッドで横になりながらアリアは聞き、
「自分の体なのによくわかりませんが‥‥シーカーさんと居ればちょっとは長生きできるんですよね。なら、協力しとかないとマズイですよねぇ」
ため息混じりに言う。
「そういえば、アリアは結局なんなの?病気なの?」
ノルマルが聞けば、
「幼い頃から一ヶ月に数回、発作が起きるそうで、年々心臓が弱っているそうですが、アリアさんの体内にはドラゴンの血が流れていて、その血がアリアさんの命を繋いでるんです。不治の病のようですが、そのドラゴンの血の作用に普通の医者は気づくことは出来ませんから医者はお手上げ状態というわけです。今できることは、ドラゴンの血を飲めば発作は抑えられることだけです」
アリアの代わりにシーカーが詳しく答えた。
「それがわかんないんですよねぇ。ドラゴンの血なんて、いつ飲んだのやら」
アリアはそう言い、
「そんな‥‥じゃあ、アリアは治療の為にお金が必要でしたの!?ごめんなさい‥‥あたくし、金の亡者なんて言って‥‥」
申し訳なさそうにウェザが言えば、
「あはは、違いますってばぁ。命は惜しくないんです。治療の術はないんですよ?私は生きてる間にどうしても欲しいものがあるんです。それを手に入れるにはかなりの額が必要で。その為に稼いで生きてるだけですよ。それが手に入れば、あとは死を待つだけです。だから、それまでは生きたいんですよね」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
理由を聞いたウェザは叫び、
「アリアよぉ、俺との戦いはどーするつもりだァ?まさか、すっぽかすわきゃねーよな?」
リダに言われ、
「今は無理ですが、万全になればもちろん戦ってあげますよ。あなたを倒さなければ、シェリーが浮かばれない」
それに、顔も覚えていない両親も。
「はぁ?なんなのよそれ!そんなのアリアが負けるに決まってるでしょ!ロリコンのくせにロクデナシ男ね!!あたくし、あなたはアリアのこと好きなんだって思ってたわ!」
「んだとこの鳥女ァ」
ウェザとリダが睨み合い、
「リダは強い相手が好きなんです。ウェザさんが思うような、男女の恋や愛じゃないんですよ。だから、例えばシーカーさんが私より強くなれば、リダはシーカーさんが好きになります!ですよね」
アリアは誇らしげにピースサインを送りながらリダに言うので、
「んだよつれねーなぁ?俺はお前を愛してるぜぇ?」
「薄っぺらい、出直し!」
「ああん!?」
「ちょっと!アリアは怪我人なんだから近寄らないでよね!ロリコン!ロクデナシ!」
アリアに近づこうとするリダをウェザは阻止した。
馬鹿げた光景にルヴィリは肩を竦め、一室から出て行こうとする。
「どこへ行くんです?」
シーカーが聞けば、
「私も疲れたわ。別の部屋のベッドで少し休ませてもらうから。起こさないでよね」
そう言って出て行った。
「あたしも少し、この中を見て回ってもいい?」
ノルマルが言って、シーカーは頷く。彼女は恐らく、一人で考え事がしたいのだろう。ノルマルが出て行くと、
「あっ!ノルマルに聞きたいことがあったのに!」
と、ウェザが声を上げ、彼女が『何億も繰り返す日々を生きた魔女』と言っていたことを思い出した。
「その話は、きっと近い内にノルマルさん自身が話してくれます。ですから、待ってあげて下さい」
と、シーカーが言い、
「なら、おじい様やおばあ様が若かった頃の話とか、二人の仲間の話とか聞かせてほしいですわ!」
「構いませんよ。では、別の部屋で話しましょうか。リダはアリアさんと話があるでしょうし」
それを聞き、
「いやいや待って下さいリダと二人にしないで下さい!」
アリアは慌ててベッドから起き上がり、ウェザも同意したが、
「さっきからリダは、我々がいては邪魔だという目をしてるんですよ。さあ、行きましょう」
シーカーはそう言い、ウェザの腕を引きながら出て行ってしまった。背後から「人でなしぃぃぃぃ」と叫ぶアリアの声がしたが、振り返らない。
「ちょっと眼鏡様!いいんですの!?」
「大丈夫ですよ。負傷していてもアリアさんはお強いですから。さてーー何から話しましょうかね‥‥」
「話は聞きたいけど、アリアが可哀想じゃない!あの男、何するかわからないわよ!」
「私の憶測ですが、恐らくアリアさんにドラゴンの血を飲ませたのは彼です。アリアさん曰く、記憶にはないそうですが、昔、二人は出会っているそうですからね」
「???」
ウェザは首を傾げた。「リダは我々とまともに話すつもりはなさそうですからね」と、シーカーは額に指をあて、
「そうですね。ウェザさんがお好きそうな運命の出会いの話からにしましょうか。英雄と呼ばれた人間の男と、占術士の末裔である女性がこの銅鉱山で出会った運命を」
「確かにその話、気になるけどぉ‥‥」
銅鉱山の地下をシーカーの後に続きながら、どんどん離れて行くアリアが居る部屋を心配そうに振り返った。
◆◆◆◆◆
「‥‥」
無機質な実験室。遥か昔、ここで英雄にまつわる実験が行われたのだろう。寝台の上には手書きのレポートが積み重なり、テーブルの上には整理整頓された器具が並んでいる。
何かを作ったこともあるのだろうか。今は何も入っていない大きな培養槽がいくつか壁際に設置されていた。
ノルマルは壁に沿いながらゆっくりと部屋を一周し、特に何もないなと出口に行こうとした時だった。壁に触れていた指が何かのボタンを押してしまう。
ーーゴゴゴゴゴゴ‥‥と、重たい音を立てながら、壁だと思われたものは隠し扉だったようで、新たな部屋への道が現れた。
(この銅鉱山、隠し部屋だらけね。大昔の技術なのに、凄いじゃない)
素直に感心しながら、臆することなく現れた部屋に入ってみる。
「えっ?」
しかし、入った瞬間、それはすぐに目に入った。
培養槽ではなく、大きな結晶体が眼前に立てられている。
その中には、人が入っていた。
桃色に近い赤髪に、尖った耳、黒い翼。真っ白なワンピースに身を包んだ、美しい魔族の女性が眠っている。いや、生きているのかどうかはわからない。
結晶体の横に小さな机があり、そこには古びたノートと封筒が置いてあった。
「光へ導く?」
意味はわからないが、ノートの表紙にはそう書かれている。
「‥‥?」
なぜか、ノルマルは涙を流した。
『エクスーー!あなたに与えたその金の目は、救いです!瞳に、少女が映るはずです、光へと導く少女の姿が!』
あの時のシーカーの叫びが脳裏に過ったからだ。
過ごした短い時間の中、エクスから聞いたことがある。時々、夢の中に魔族の少女が現れて、自分ではない誰かに「行ってらっしゃい」と笑顔で言うんだと。もしかしたら、この目の持ち主の知り合いなのかもと。
恐ろしい夢の中、最後に必ずその少女が現れて、夢から救ってくれるのだと。
目の前の人は少女ではなく、美しい女性だが、直感が働く。ノルマルは両手を組み、願うように魔族の女性を見つめた。
(どうか‥‥どうか、エクスを守ってあげて‥‥あなたが誰かは知らない。けど、どうかヨミと一緒に。あたし達が彼を救いに行くまで、お願い‥‥)
名も知らない、目覚めることもないであろう人にノルマルは願う。
ーーエクスは、ウィシェ・ロンギングは優しい人だ。きっと、素晴らしい王になる。
悲しみや苦しみを受けても乗り越えようとして‥‥
だが、そんな彼はとうとう立てなくなってしまっていた。
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涙を流し、小さな子供のように踞り、全身を震わせ、全てに絶望した。
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彼は、幸せを奪われた。だから、必ず救い出して、次は自分が言ってあげるんだ。エクスが言ってくれたように、『幸せになれないなら、これから幸せになれるよう生きたらいい』と。
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