17 / 105
二章【トモダチ】
2-9 差別色の憎しみ
しおりを挟む
「え!?城に行くの!?」
フィレアが大きな声でリオに聞けば、
「行くと言いますか、その‥‥レイラちゃんが女王様に私を会わせたいって言って‥‥」
「女王様に‥‥?」
フィレアはなぜか、複雑そうな顔をする。
「すごいすごーい!リオ君、女王様に会えるの?凄いね!!」
対照的に、ハトネは感心していて。
「リオちゃん、本当に会うんだったら気を付けてね」
フィレアが真剣な声でそう言うので、リオは首を傾げた。
「女王様はね、王女様と違って‥‥」
◆◆◆◆◆
リオは街中を歩いていた。
待ち合わせをしたわけではないが、街中にいれば、レイラと会えるかもしれないから。
リオは先刻、フィレアから聞かされたことを思い出す。
この国の女王ーーシャネラ・フォード。
彼女は貧乏人と余所者が好きじゃないらしい。
(じゃあ、アイムさん達‥‥貧困街に住む人達は?女王が治めるこのフォード国の同じ国の人じゃないの?でもまあ、実際に会ってみないとどんな人かなんてわからないよね‥‥)
リオは小さく息を吐き、ふと前を見た。
「貧乏人のくせに街中ウロウロするんじゃねえよ、汚ならしい!」
「ーー!?」
どこからかそんな声が聞こえてきて、まさか自分のことだろうかと、リオはきょろきょろと辺りを見回す。
しかし、人だかりができているところを見つけ、自然と足を向けてしまった。
何か揉めているようだが‥‥
広場の方で、一人の男が立っていた。
その側には、頭を抱え、震えながら地面にしゃがみこむ少年の姿があった。
それを取り囲むように、野次馬ができている。
「でっ、でも‥‥薬を、買わないと‥‥」
その少年が弱々しい声で言うと、
「薬だぁ?貧乏人に売るような薬はねぇよ!」
男が荒々しく言い放った。
(‥‥なっ、あれはなんなの!?)
リオはこの光景に目を疑う。
この国にもう何週間もいるが、こんな事態を見たのは初めてだ。
「おっ‥‥お願いします‥‥母さんが、母さんが‥‥」
俯いていた少年が、ばっ‥‥と顔を上げ、男の顔を見て懇願する。
少年の顔には、何発か殴られたり蹴られたりした痕が残っていて‥‥
どがっーー!!と、男は少年の顔を足で蹴りつけた。
「しつけえんだよ!女王様も言ってるだろ!貧乏人にくれてやるものは何もねえんだよ!」
荒々しい男の言動を、誰も止めない、みんな見ているだけ。
「ひっ‥‥ひどい」
リオは小さく、誰にも聞こえないような掠れた声で言う。
しかし、男はまだ何かするつもりだ。
再び、理不尽に少年の頭を蹴りつけようとして‥‥
「危ないーー!!」
ーーどかっ‥‥!!と、鈍い音がして、しんと、辺りは静まりかえる。
「うぐっ‥‥」
とっさに、リオは少年の前に飛び出していた。
そして少年を庇って、代わりにリオの頭に男の蹴りが入った。
じんじんと、頭が痛む。
脳がぐらぐら揺れて、頭が麻痺した感覚だ。
当然、蹴った本人である男も、野次馬のように集まる民衆も、傷だらけの少年も、驚いて目を見開かせていた。
「なっ‥‥なんだテメェは!いっ、いきなり飛び出してきやがって!飛び出してきたテメェが悪いんだぜ!?」
男はリオを見ながら言うが、
「‥‥っ、だっ、大丈夫ですか?」
リオは蹴られた痛みを堪えながら、少年に優しく笑いかけ、そう聞いた。
少年は大きな目を更に大きく開かせている。
近くで見た少年の顔。
耳の下まで伸びた綺麗な銀髪。
涙のたまっている綺麗な金色の瞳。
ボロボロになって汚れていたり破れたりしている服‥‥
リオより少し年下であろう、とても綺麗な少年。
顔には殴られた痕が残っており、口元から軽く血が流れ出ている。
そんな少年の姿を見て、
「どうしてこんな‥‥酷いことをするんですか!?」
リオは、怒りのようなものを感じた。
「どうしてだぁ?そうか、なるほど。お前は余所者だな?」
男はリオを指差しながら言って、
「そうですけど‥‥」
答えながら、リオは思い出す。
フィレアが話していた、女王は貧乏人と余所者が好きじゃないという話。
(じゃあ、今のこの現状‥‥もしかして、国の人達もそうなの?)
リオは一気に顔が青ざめた。
「嫌だわ‥‥」
野次馬の内の、一人の女性が言って、
「あぁ‥‥本当に」
それに同意するように、周りの人々がざわざわと何かを話し始めているので、リオは疑問の表情を浮かべる。
「あぁ嫌だ。なんだって今日は余所者と貧乏人なんかを見てしまったのかしら」
「今日は厄日だな」
「こんな奴らとっとと追い出すべきだろうに」
聞こえてきた言葉は、そんな非難の言葉で。
リオはわけがわからなかった。
ぐいっーーと、リオは急に腕を引っ張られる。
「なっ、なんですか?」
それは、後ろでしゃがみこんでいた少年だった。
「お姉さん‥‥逃げないと!」
そう言って少年は立ち上がり、リオの腕を引いたまま走り出す。
「え‥‥!?」
リオはわけがわからず、引っ張られるがまま走った。
「待て!逃がすか!今日こそ白黒つけてやる!」
そう言って、先程の男と野次馬たちがリオと少年を追い掛けて来て‥‥
「いっ、一体なんなんですか!?」
リオは走りながら少年に聞くと、
「今はとりあえずあの人達を撒こう!今は走ることだけを考えて!」
少年のその言葉に、とりあえずリオは頷いて走り続ける。
しばらく走り続けたところで、
「お待ちなさい」
ーーと。
呼び止めるような凛とした、どこか冷たい女性の声が聞こえた。
少年は走るのを止め、ばっ‥‥と、声のした方向を見る。
いきなり少年が止まるので、リオは自分より少し背の低い少年の背中にぶつかった。
少年は冷や汗を流し、驚いた顔をしていて、リオも目の前の人物を見て絶句する。
「ーー女王様!」
リオ達に追い付いた男がそう叫んだ。
一度だけ、パレードで遠目から見た姿。
レイラと同じ、紫の髪に赤い目。
だが、彼女と違い、どこか冷たい雰囲気の漂う女性だ。
「そこの少年は貧困街の者ですね。そしてあなたはーー余所者ですね?」
女王は少年とリオを見て、冷たい声で言う。
「女王様!今、こいつらを追い出そうとしていたところです!すっ、すぐに追い出しますから!」
慌てるように男が言えば、
「そうですか。では、早急に‥‥」
「まっ、待って!」
女王の言葉の途中で、今度は止めるような声が入る。リオはその声の主を確認し、
(れ、レイラちゃん!)
と、心の中で叫んだ。
レイラは状況に驚きながら女王のもとに駆け寄った。
その後ろには、やはりカシルがいる。
「お母様!彼女は余所者ですが、私の友人なのです!」
レイラが女王に言えば、
「友人?この少女がですか?」
女王は横目でリオを見た。
まるで、汚いものを見るような目で見られ、リオは女王から目を逸らす。
「はっ、はい‥‥!ですからっ‥‥」
パシッーーと、そんな音に、レイラの言葉は止められた。
女王がレイラの頬を叩き、レイラは叩かれた頬を手で押さえ、目を見開かせている。
「あなたはこの国の次期女王となる身なのですよ?それなのに余所者が友?いけませんレイラ。この者とはもう会わぬようになさい」
女王の言葉に、レイラは言葉を返せない。
「さてーー」
と、女王は少年とリオに視線を戻した。
「余所者と貧困街の者が国内で揉め事を起こした場合、処罰が下ります」
女王がそんなことを言い、リオはびくっと肩を震わせる。
「複数ある処罰の中、好きな処罰を決める権利は与えますーーレイラ、言ってごらんなさい?処罰を」
促されたレイラは戸惑いつつも、
「一つは‥‥この国を出ること。二つ目は、死刑。三つ目は‥‥貧困街の取り潰し‥‥この三つのどれかを‥‥」
そこまで言って、レイラは口を止める。わずかに体を震わせて‥‥
「なっ‥‥死刑!?貧困街の取り潰し!?」
国から出て行けと言うのも酷だが、それが一番マシな選択肢ではある。
だが、リオは他の二つに耳を疑った。
「意味がわからないーーと言う顔ですね」
女王はくすりと笑い、
「あなた方は私達に害をもたらす存在なのです。さあ、選びなさい。死か、住む場所を失うか、この国を出るか」
「まっ‥‥待って下さい!このお姉さんは関係ありません!僕です、問題を起こしたのは僕です!」
銀髪の少年がリオの前に立ち、庇うように言うので、
「ちょっ‥‥ちょっと君‥‥!」
リオは焦った。
これ以上、この少年を危険な目に合わせるわけにはいかないと感じる。
「この少年は何も悪くありません!どう考えても、悪いのはあの男の人です!」
リオは少年に汚い言葉を浴びせ、少年を何度も蹴ったり危険な目に合わせた男を指差しながら言った。
「何をっ‥‥俺はただ、貧乏人になんぞに売る薬はねえって注意しただけだ!」
「それだけじゃなく、この子を蹴ったりしたくせに‥‥最低だ!」
いつもは穏やかなリオだが、さすがのリオもこれには怒りが込み上げてくる。
「これ以上変なことを言ってみろ!今度は蹴りじゃすまねえぞ!」
男はそう言ってリオを脅すが、
「別に構いません!私はおかしいことをおかしいって言ってるだけです!この子に何もしないと言うのなら、好きなだけ私を蹴ればいいじゃない!」
リオは真っ直ぐに男の目を睨み付けた。
「じゃあ‥‥死刑でもいいってか!?」
男は笑いながら言ってきて、それにリオは悔しそうにしたが、
「わっ‥‥私一人の命で誰かを救えるのなら!好きにすればいいよ!!」
まるで、十二歳の子供とは思えない台詞だった。
「くっ‥‥ははは!聞きましたか、女王様!このガキ、死刑でもいいと言っていますよ!」
「ええ。それでは、その少年の代わりにあなたに処罰をーー」
「やっ‥‥!」
レイラはやめさせようと叫ぼうとしたが、
「ちっ‥‥馬鹿なことを‥‥」
隣にいたカシルが舌打ちしながらリオを見て言うので、そのカシルの怒っているような顔にレイラは驚いた。
すると、その時、
「ーーやめてよ!!」
「待って下さい!」
と、止める声が二つ。
それにリオは目を大きく開けて、
「はっ‥‥ハトネさん!フィレアさん!」
ハトネとフィレアがこの場に駆け付けた。
「リオ君!助けに来たよ!リオ君はぜったいぜったい悪くない!死刑だなんてやめてよ、女王様!」
ハトネはリオの側へ行き、必死で女王に言う。
「私も‥‥間違っていると思います。国王がお亡くなりになってからのこの制度ーー‥‥おかしいわ」
フィレアは真剣に言った。
ーー今思えば、この時代、この国に来たのは間違いだったのかもしれない。
だが、この少年に出会えたのは‥‥確かに奇跡だったのだろう。
フィレアが大きな声でリオに聞けば、
「行くと言いますか、その‥‥レイラちゃんが女王様に私を会わせたいって言って‥‥」
「女王様に‥‥?」
フィレアはなぜか、複雑そうな顔をする。
「すごいすごーい!リオ君、女王様に会えるの?凄いね!!」
対照的に、ハトネは感心していて。
「リオちゃん、本当に会うんだったら気を付けてね」
フィレアが真剣な声でそう言うので、リオは首を傾げた。
「女王様はね、王女様と違って‥‥」
◆◆◆◆◆
リオは街中を歩いていた。
待ち合わせをしたわけではないが、街中にいれば、レイラと会えるかもしれないから。
リオは先刻、フィレアから聞かされたことを思い出す。
この国の女王ーーシャネラ・フォード。
彼女は貧乏人と余所者が好きじゃないらしい。
(じゃあ、アイムさん達‥‥貧困街に住む人達は?女王が治めるこのフォード国の同じ国の人じゃないの?でもまあ、実際に会ってみないとどんな人かなんてわからないよね‥‥)
リオは小さく息を吐き、ふと前を見た。
「貧乏人のくせに街中ウロウロするんじゃねえよ、汚ならしい!」
「ーー!?」
どこからかそんな声が聞こえてきて、まさか自分のことだろうかと、リオはきょろきょろと辺りを見回す。
しかし、人だかりができているところを見つけ、自然と足を向けてしまった。
何か揉めているようだが‥‥
広場の方で、一人の男が立っていた。
その側には、頭を抱え、震えながら地面にしゃがみこむ少年の姿があった。
それを取り囲むように、野次馬ができている。
「でっ、でも‥‥薬を、買わないと‥‥」
その少年が弱々しい声で言うと、
「薬だぁ?貧乏人に売るような薬はねぇよ!」
男が荒々しく言い放った。
(‥‥なっ、あれはなんなの!?)
リオはこの光景に目を疑う。
この国にもう何週間もいるが、こんな事態を見たのは初めてだ。
「おっ‥‥お願いします‥‥母さんが、母さんが‥‥」
俯いていた少年が、ばっ‥‥と顔を上げ、男の顔を見て懇願する。
少年の顔には、何発か殴られたり蹴られたりした痕が残っていて‥‥
どがっーー!!と、男は少年の顔を足で蹴りつけた。
「しつけえんだよ!女王様も言ってるだろ!貧乏人にくれてやるものは何もねえんだよ!」
荒々しい男の言動を、誰も止めない、みんな見ているだけ。
「ひっ‥‥ひどい」
リオは小さく、誰にも聞こえないような掠れた声で言う。
しかし、男はまだ何かするつもりだ。
再び、理不尽に少年の頭を蹴りつけようとして‥‥
「危ないーー!!」
ーーどかっ‥‥!!と、鈍い音がして、しんと、辺りは静まりかえる。
「うぐっ‥‥」
とっさに、リオは少年の前に飛び出していた。
そして少年を庇って、代わりにリオの頭に男の蹴りが入った。
じんじんと、頭が痛む。
脳がぐらぐら揺れて、頭が麻痺した感覚だ。
当然、蹴った本人である男も、野次馬のように集まる民衆も、傷だらけの少年も、驚いて目を見開かせていた。
「なっ‥‥なんだテメェは!いっ、いきなり飛び出してきやがって!飛び出してきたテメェが悪いんだぜ!?」
男はリオを見ながら言うが、
「‥‥っ、だっ、大丈夫ですか?」
リオは蹴られた痛みを堪えながら、少年に優しく笑いかけ、そう聞いた。
少年は大きな目を更に大きく開かせている。
近くで見た少年の顔。
耳の下まで伸びた綺麗な銀髪。
涙のたまっている綺麗な金色の瞳。
ボロボロになって汚れていたり破れたりしている服‥‥
リオより少し年下であろう、とても綺麗な少年。
顔には殴られた痕が残っており、口元から軽く血が流れ出ている。
そんな少年の姿を見て、
「どうしてこんな‥‥酷いことをするんですか!?」
リオは、怒りのようなものを感じた。
「どうしてだぁ?そうか、なるほど。お前は余所者だな?」
男はリオを指差しながら言って、
「そうですけど‥‥」
答えながら、リオは思い出す。
フィレアが話していた、女王は貧乏人と余所者が好きじゃないという話。
(じゃあ、今のこの現状‥‥もしかして、国の人達もそうなの?)
リオは一気に顔が青ざめた。
「嫌だわ‥‥」
野次馬の内の、一人の女性が言って、
「あぁ‥‥本当に」
それに同意するように、周りの人々がざわざわと何かを話し始めているので、リオは疑問の表情を浮かべる。
「あぁ嫌だ。なんだって今日は余所者と貧乏人なんかを見てしまったのかしら」
「今日は厄日だな」
「こんな奴らとっとと追い出すべきだろうに」
聞こえてきた言葉は、そんな非難の言葉で。
リオはわけがわからなかった。
ぐいっーーと、リオは急に腕を引っ張られる。
「なっ、なんですか?」
それは、後ろでしゃがみこんでいた少年だった。
「お姉さん‥‥逃げないと!」
そう言って少年は立ち上がり、リオの腕を引いたまま走り出す。
「え‥‥!?」
リオはわけがわからず、引っ張られるがまま走った。
「待て!逃がすか!今日こそ白黒つけてやる!」
そう言って、先程の男と野次馬たちがリオと少年を追い掛けて来て‥‥
「いっ、一体なんなんですか!?」
リオは走りながら少年に聞くと、
「今はとりあえずあの人達を撒こう!今は走ることだけを考えて!」
少年のその言葉に、とりあえずリオは頷いて走り続ける。
しばらく走り続けたところで、
「お待ちなさい」
ーーと。
呼び止めるような凛とした、どこか冷たい女性の声が聞こえた。
少年は走るのを止め、ばっ‥‥と、声のした方向を見る。
いきなり少年が止まるので、リオは自分より少し背の低い少年の背中にぶつかった。
少年は冷や汗を流し、驚いた顔をしていて、リオも目の前の人物を見て絶句する。
「ーー女王様!」
リオ達に追い付いた男がそう叫んだ。
一度だけ、パレードで遠目から見た姿。
レイラと同じ、紫の髪に赤い目。
だが、彼女と違い、どこか冷たい雰囲気の漂う女性だ。
「そこの少年は貧困街の者ですね。そしてあなたはーー余所者ですね?」
女王は少年とリオを見て、冷たい声で言う。
「女王様!今、こいつらを追い出そうとしていたところです!すっ、すぐに追い出しますから!」
慌てるように男が言えば、
「そうですか。では、早急に‥‥」
「まっ、待って!」
女王の言葉の途中で、今度は止めるような声が入る。リオはその声の主を確認し、
(れ、レイラちゃん!)
と、心の中で叫んだ。
レイラは状況に驚きながら女王のもとに駆け寄った。
その後ろには、やはりカシルがいる。
「お母様!彼女は余所者ですが、私の友人なのです!」
レイラが女王に言えば、
「友人?この少女がですか?」
女王は横目でリオを見た。
まるで、汚いものを見るような目で見られ、リオは女王から目を逸らす。
「はっ、はい‥‥!ですからっ‥‥」
パシッーーと、そんな音に、レイラの言葉は止められた。
女王がレイラの頬を叩き、レイラは叩かれた頬を手で押さえ、目を見開かせている。
「あなたはこの国の次期女王となる身なのですよ?それなのに余所者が友?いけませんレイラ。この者とはもう会わぬようになさい」
女王の言葉に、レイラは言葉を返せない。
「さてーー」
と、女王は少年とリオに視線を戻した。
「余所者と貧困街の者が国内で揉め事を起こした場合、処罰が下ります」
女王がそんなことを言い、リオはびくっと肩を震わせる。
「複数ある処罰の中、好きな処罰を決める権利は与えますーーレイラ、言ってごらんなさい?処罰を」
促されたレイラは戸惑いつつも、
「一つは‥‥この国を出ること。二つ目は、死刑。三つ目は‥‥貧困街の取り潰し‥‥この三つのどれかを‥‥」
そこまで言って、レイラは口を止める。わずかに体を震わせて‥‥
「なっ‥‥死刑!?貧困街の取り潰し!?」
国から出て行けと言うのも酷だが、それが一番マシな選択肢ではある。
だが、リオは他の二つに耳を疑った。
「意味がわからないーーと言う顔ですね」
女王はくすりと笑い、
「あなた方は私達に害をもたらす存在なのです。さあ、選びなさい。死か、住む場所を失うか、この国を出るか」
「まっ‥‥待って下さい!このお姉さんは関係ありません!僕です、問題を起こしたのは僕です!」
銀髪の少年がリオの前に立ち、庇うように言うので、
「ちょっ‥‥ちょっと君‥‥!」
リオは焦った。
これ以上、この少年を危険な目に合わせるわけにはいかないと感じる。
「この少年は何も悪くありません!どう考えても、悪いのはあの男の人です!」
リオは少年に汚い言葉を浴びせ、少年を何度も蹴ったり危険な目に合わせた男を指差しながら言った。
「何をっ‥‥俺はただ、貧乏人になんぞに売る薬はねえって注意しただけだ!」
「それだけじゃなく、この子を蹴ったりしたくせに‥‥最低だ!」
いつもは穏やかなリオだが、さすがのリオもこれには怒りが込み上げてくる。
「これ以上変なことを言ってみろ!今度は蹴りじゃすまねえぞ!」
男はそう言ってリオを脅すが、
「別に構いません!私はおかしいことをおかしいって言ってるだけです!この子に何もしないと言うのなら、好きなだけ私を蹴ればいいじゃない!」
リオは真っ直ぐに男の目を睨み付けた。
「じゃあ‥‥死刑でもいいってか!?」
男は笑いながら言ってきて、それにリオは悔しそうにしたが、
「わっ‥‥私一人の命で誰かを救えるのなら!好きにすればいいよ!!」
まるで、十二歳の子供とは思えない台詞だった。
「くっ‥‥ははは!聞きましたか、女王様!このガキ、死刑でもいいと言っていますよ!」
「ええ。それでは、その少年の代わりにあなたに処罰をーー」
「やっ‥‥!」
レイラはやめさせようと叫ぼうとしたが、
「ちっ‥‥馬鹿なことを‥‥」
隣にいたカシルが舌打ちしながらリオを見て言うので、そのカシルの怒っているような顔にレイラは驚いた。
すると、その時、
「ーーやめてよ!!」
「待って下さい!」
と、止める声が二つ。
それにリオは目を大きく開けて、
「はっ‥‥ハトネさん!フィレアさん!」
ハトネとフィレアがこの場に駆け付けた。
「リオ君!助けに来たよ!リオ君はぜったいぜったい悪くない!死刑だなんてやめてよ、女王様!」
ハトネはリオの側へ行き、必死で女王に言う。
「私も‥‥間違っていると思います。国王がお亡くなりになってからのこの制度ーー‥‥おかしいわ」
フィレアは真剣に言った。
ーー今思えば、この時代、この国に来たのは間違いだったのかもしれない。
だが、この少年に出会えたのは‥‥確かに奇跡だったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる