一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
52 / 105
四章【何処かで】

4-19 救われた世界の物語

しおりを挟む
赤く染まり行く浜辺で、

「目覚めましたか、リオ」
「‥‥サジャエル」

急に現れたサジャエルに、リオは特に驚きを見せなかった。

「今、あなたはどのような気分ですか?リオ」
「どのようなって‥‥悲しいに決まっている。大切な友達が‥‥死んだんだぞ!私は‥‥彼女を守ることが、出来なかった‥‥」

リオはレイラを思い出し、 唇を噛み締める。

「それだけですか?」
「は?」

サジャエルが首を傾げながら聞いてきて、リオは彼女を見据えた。

「ふふ‥‥なんでもありませんよ」

物語の中の出来事をリオが忘れていることを確認し、サジャエルは微笑む。それから、

「シェイアード・フライシル」

ふと、サジャエルが発したその言葉に、リオは自らの肩を軽く揺らした。

「若き日に、よく読んでいた本の主人公の名前です」
「‥‥はぁ?」

いきなり何を言い出すんだと、リオは目を細める。
だが、内心リオは不思議な気分になっていた。なぜかは、わからないが。

「少し、話しましょうか。シェイアードは昔、家族を魔物に殺されたのです。父と母を。そして、弟も行方知れず‥‥」

サジャエルは物語を語りだした。

「それから何年か経ち、シェイアードは無口な青年に育ったそうです。

他者と関わらず、一人で。

彼の住む国には女王がいました。
名を、ルイナ・ファインライズ。まだ若い女王です。

その女王も同じく、主人公の家族を殺した魔物に父母を殺されているのです。

フライシル家とファインライズ家の者の血は、魔物の神ーー封印されしドラゴンを復活させることができるのです。

だから魔物は、フライシル家とファインライズ家の者を殺した。

けれどもまだ血は足りなかったようです。

シェイアードは運良く生き延び、ルイナは隠れていたので見つからなかったようです。

運良く生き延びたシェイアードでしたが、右目は負傷し、包帯を巻いています。

昔から、ルイナはシェイアードに恋をしていました。
けれどもシェイアードと違ってルイナは怪我もせず、一人生き残ったことにより、実の父母を殺したと噂されるようになったのです。

シェイアードもそんなルイナを疑問に思っていました。

愛する者に疑われ、ルイナは自らを殺し、女王命令で残虐な大会を開幕することにしました。

自分が悪になりきってしまえば、いっそ楽だと」

語り出したサジャエルは止まらない。
最初はどうでもよさげに聞いていたリオだったが、いつの間にか物語に興味を抱き、真剣に聞いてしまっていた。

「その大会にシェイアードも参加しました。

シェイアードは力を求めていたのです。自分の家族を殺した魔物を、いつか自らの手で殺せるような力をつける為に。

そしてその大会には、なんと死んだと思われていたシェイアードの弟ーードイルが出場していたのです
。名を、ナガと変えて。

そして大会の最中、フライシル家とファインライズ家の仇の魔物までもが現れたのです。

シェイアードは何故か魔物に見込まれ、仲間になれと誘われたのです。

力を求めたのか、何を考えたのか知りませんが、シェイアードは魔物と共に行ってしまいました。

そしてルイナは決意します。魔物の城に行き、シェイアードを助けると。

ナガも共に行くことになりました。

もう一人、大会参加者であり、騎士であり、ルイナに恋する少年ーーイリスも、ルイナを護る為だと言って同行することになりました。

魔物の城に乗り込む三人。

そこでは魔物の大群とシェイアードが待ち受けていました。

弟であるナガは、自ら兄と戦う決意をします。

戦いの末ーーナガが勝ちました。

けれどもシェイアードはなぜか手加減をしていたのです。

ドラゴン復活の為に必要な血は、あと二人分。
シェイアードは、ナガとルイナの片方だけでも護る為に自ら犠牲になったのです。

そして、仇の魔物が現れました。

圧倒的な魔物の力。
ルイナ、ナガ、イリスは成す術がありませんでした。

そしてルイナが決意したのです。

自らの命を賭けた、究極の魔術を使うと。

ナガもイリスも当然止めました。けれどもルイナの決意は固く‥‥魔術を放ってしまいました。

あれ程、歯が立たなかった魔物が、その魔術により一撃で消え去ったのです。

ルイナの、命と引き替えに‥‥

それから世界は何事もなく、平和だったそうです。

これで、終幕です」

そこまで聞き終えたリオは、どこか違和感を感じ、

「じゃあ、シェイアードとルイナは‥‥死んだの?」

困ったような顔をして聞いた。

「ええ。そうです。殺伐的な本なのですが、私は好きなのですよ、この物語が。忘れてしまいましたが、遠い昔に誰かに貰った本なのですよ。だから、本が手元になくとも、文章の一つ一つがこうして頭の中にあるのです」

サジャエルはそう言い、しかしリオは難しい顔をして、

「何か、引っ掛かるな‥‥」

そんなことを言っている。
その理由を今は、サジャエルだけが知っていた。

ーーなぜなら、リオはこの物語を書き換えたのだから。

シェイアードの心を優しく溶かし、彼の死を見看った。
他人との関わりを捨てた彼に恋をし、シェイアードもまた、リオに恋をした。

そして、死ぬ運命だったルイナを生かした。

少なからずとも、リオはこの物語を救ったのだから。
リオ自身は、それを知り得ないままだったけれど‥‥

サジャエルはリオを見つめ、

「これからどうするのですか?」
「‥‥ハトネ達の所に帰ろうかな。必ず戻ると約束したし‥‥」

そう言って、リオは大きく息を吸った。
風が吹き、金の髪がなびく。

「あれ?そういえば、髪が少し伸びてる?」

確か不死鳥の力を借りる時、炎に燃え、バッサリ短くなったはずなのにと思い出す。

「それに、そういえば不死鳥の気配を感じない‥‥?」
「あなたの中に同化したのでしょう。時間は掛かるでしょうが、いずれまた、話せる日が来ますよ」
「‥‥そう、なの?そんなの、聞いてないけど‥‥」

リオは手の平を見つめた。

「それではリオ、私は戻ります。あなたの旅を、これからも見守っていますよ」

そう言い、サジャエルは姿を消す。
リオはしばらく無言で立ち尽くしていた。

(なんだろうか。何か大切なことを忘れてしまったような、やるべきことがあったような‥‥)

リオは胸に手をあて、

(シェイアード。懐かしいような‥‥感じがする名前だ)

優しかった時間の記憶を失くし、代わりにこの先に続く悲しく苦しい現実を選んだ。

それはリオの運命。
リオのこれからの人生。


「あれ?」

ズボンのポケットから何かが落ち、リオは不思議そうにそれを拾い上げる。

「綺麗‥‥これ、誰の?」

それは、見覚えのないエメラルド色のリボンだった。
自分の目の色に、似ている。

誰かが、目の色に似ていると、綺麗だと‥‥
そんなことを言ってくれたような気がする。

なんだか、胸が締め付けられるような切ない気持ちになったが、このリボンを見つめていると、少しだけそれが和らいだ気がした。

(シェイアード・フライシル‥‥か)

夕空を見上げ、リボンを大事そうにポケットに入れ直し、リオは踵を返した。


~第四章~何処かで~〈完〉 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...