一筋の光あらんことを

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六章【道標】

6-12 久しい景色

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クリュミケールはフィレアと話を終え、城下町の花屋で一輪の花を買い、一人、国の外に出た。
青空を仰ぎながら、草原を歩く。辿り着いた場所は、広い海が見渡せ、かつてのフォード国ーーレイラフォードがよく見える崖の頂上。
そこには、五年前に友の為に建てた十字架がある。
きっと、自分しか知らない寂しい場所だ。

「久し振り」

十字架の前に片膝をつき、クリュミケールは目を細める。
先程、花屋で買った一輪の花を十字架の前に供えた。
ここに彼女は眠っていないが、彼女の髪色を思わせる、紫色の花弁をした花を選んだ。

「オレは今ね、クリュミケールって名乗ってる。五年前、色々あったんだ‥‥そうだ。カシルも今、レイラフォードに来てるよ。あの頃と、変わったな‥‥今のカシルと君が出会っていたら、どんなに良かったか‥‥どんなに、君は幸せになれたか‥‥」

悲しげな声でそう呟き、もう叶わない幻想を描く。しばらく、静かな時間が流れた。
風の音と、波の音だけが静かに流れる。
すると、ジャリッーー‥‥と、背後から砂を擦る音がして、クリュミケールは剣の柄に右手を当てながら、勢いよく振り向いた。

「わっ!?クリュミケールさん‥‥!?」

驚くように自分の名を呼ぶ声に、クリュミケールは拍子抜けし、

「あっ、アドル‥‥!?なんで、こんなところに‥‥」

ここは人が、ましてや初めてこの国に訪れた者が来るような場所ではない為、驚きと疑問しか浮かばない。しかし、困惑するクリュミケールをよそに、

「えっと、見晴らしの良さそうな場所を探してたら、ここを見つけて‥‥」

アドルは景色を見渡しながら言い、目の前に建つ十字架に視線を止めた。その視線の先にクリュミケールは気づき、

「‥‥墓だよ。オレの親友の」

微笑んでそう言う。それを聞いたアドルは目を見開かせ、何を言っていいかわからず、言葉を詰まらせる。しかし、

「でもね、遺体はないんだ。いろいろあって、遺体は行方不明なんだ」

クリュミケールは言葉を続けた。

「遺体はなくても、形だけでも墓を作ってやりたかった。ここはその子の故郷で、その子は広い世界に憧れていた。だから、その子が産まれ育った国と、その子が望んだ広い世界が見えるこの場所に、十字架を建てた‥‥ただのオレの、独りよがりだけどさ」

そう、寂しそうに話すクリュミケールの横顔をちらりと見つめ、アドルはただ静かに話を聞いていた。
家族を、故郷を失い、今は辛い気持ちしかないアドルだったが、そんな思いをしているのは自分だけではないと感じる。

「‥‥そういえばここ、ニキータ村の‥‥村一面を見渡せる場所に、似てるよな」

クリュミケールがそう言って、

「‥‥うん、そうだね。旅立ちの前日も、そこで話したよね。なんだか似てる気がして、ここを見つけたんだよ」

と、アドルは小さく笑んで頷いた。それから、

「そういえば、ハトネさんの魔術‥‥だっけ?びっくりしたなー!あんなの見たことないもん!」

そう話題を変え、アドルは笑顔で話す。クリュミケールはそんな彼の笑顔を見つめ、しかし先程のニキータ村の惨状を思い出した。
きっとこれは、空元気なんだろうなと感じる。

「そうだな‥‥さあ、そろそろラズの家に戻ろう。キャンドルが心配するよ」
「うん!」

二人は十字架に背を向けた。しかし、クリュミケールはアドルの両肩を掴み、「忘れてた」と言って、くるりと十字架に体を向け直す。
当然アドルは目を丸くした。

「紹介が遅れたね。この子は、オレの家族で親友の、アドルだよ」

と、クリュミケールは十字架に向かい、笑顔で言った。アドルはそんなクリュミケールの顔を見上げ、同じように笑った。

「アドル、この場所はオレとアドルの秘密の場所だからな!他の誰にも言うなよ」
「うん!わかってるよ!」

そう話しながら、二人は今度こそ、その場から立ち去る。

(レイラ‥‥オレは今度こそ、守る。大切な人を、守るよ)

隣に立つアドルを見つめ、静かに誓った。


◆◆◆◆◆

「あっ、二人とも、遅かったね」

ラズの家に戻ると、そう言って彼が迎え入れてくれた。

「母さんが帰って来てさ。ちょうど、母さんが夕食の準備を終えたところなんだ。皆で一緒に食べようか」

ラズの言葉に、

「わー!おれ、お腹ペコペコ!」

アドルはにっこりと、嬉しそうに言う。
でもやはり、その笑顔がまだ、クリュミケールには痛々しく見えた。


◆◆◆◆◆

夕食を終え、その晩、一行はラズとフィレアの家に泊まることとなる。
その夜にクリュミケールはラズを呼び出し、彼の家のベランダで星空を見上げていた。

「それで、話って?」

呼び出されたラズは不思議そうにクリュミケールに聞く。

「まだ、リオって子を捜すのか?」

星空を見上げたまま、クリュミケールはそう聞いた。それにラズな頷き、

「話したように、リオさんは恩人だから。彼女はとても強い人だった。けど時に、色々あって、崩れやすい人だった。心配だよ‥‥五年前にいなくなって、彼女は今、独りなのだろうか‥‥生きて、くれているだろうか。そればかり、考えていた」

その言葉を、クリュミケールは静かに聞いている。

「でも、良かった‥‥彼女は、独りじゃなかった。それどころか‥‥強いままだった。そうだよね、リオさん」

ラズは柔らかい声で言い、クリュミケールを見つめた。
クリュミケールはラズの顔を見ないまま、何も答えずやはり、星空を見上げている。

「やっぱり、隠しててもわかるよ‥‥あなたがリオさんだって、わかるよ」
「そっか。はは、実は、カシルとフィレアさんにももうバレてるんだ」

クリュミケールは笑い、やっとラズの顔を見た。すると彼は金の目を丸くし、

「えっ!フィレアさんはいいとしても、カシルの奴、何も‥‥あいつー!!‥‥って、じゃあハトネさんだけがまだ騙されたまま?」

ラズはそれに気づき、クリュミケールは頷く。

「なあ、シックライアでのハトネを覚えてるか?オレを見て『記憶の中の人』だとか『この格好で幼い頃のハトネの前に現れた』だとか‥‥妙だよな。オレがクリュミケールとして生き始めたのは五年前なのに」
「確かに‥‥」
「まあ、初めて会った時からハトネは謎だからなぁ。ハトネにもまたちゃんと話すよ」

クリュミケールはそう言った。

「僕も聞きたいことが多いよ。なんでそんな男の格好してるのかだとか‥‥名前とか‥‥なんで五年も‥‥」

ラズは聞きたいことだらけだが、クリュミケールがラズの頭に腕を伸ばし、ぽんぽんと頭を撫でてきて言葉を止める。

「でも、本当に大きくなったな、ラズ。五年前はオレより小さかったのにな」
「‥‥うっ」

そう言われ、ラズは照れ臭そうに頬を赤く染めた。

「でも‥‥フィレアさん‥‥魔術を使えるようになっちゃったんだな‥‥アイムさんも‥‥」

クリュミケールの言葉にラズは俯き、

「僕とフィレアさんと母さんで、アイムさんを看取ったよ‥‥フィレアさんの件も、僕は、反対したんだけどね‥‥でも、フィレアさんは今でも、シュイアさんを想っているから、止めきれなかった」

そう、小さく言った。

そうして、空白の五年間の話はまた、全員が揃った時に話そうと約束した。 
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