一筋の光あらんことを

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六章【道標】

6-14 一段落

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「クリュミケールくーん」

先程、正体がバレてからずっと、ハトネはクリュミケールにべたべたとくっついていた。

一同は再びラズの家で話をすることとなり、五年前のこと、それ以前のこと‥‥それらをアドルやキャンドル達にもわかるように、色々と話した。

「こうなったらもう、シュイア様を追うべきかしら」

フィレアがため息混じりに言い、

「そうだな。シュイアさんとサジャエル‥‥ロナス」

クリュミケールは深い息を吐く。

「五年前、ロナスと共にフードを被った三人組に会った。サジャエルの手下らしい。全員、魔術を使える。リオラの器であるオレを連れて行こうとしたんだ」

次に、アドルとキャンドルを見つめ、

「ニキータ村の件は、あれは恐らく、その四人組の一人‥‥ロナスという悪魔が使う炎だ」

それを聞いたアドルとキャンドルは大きく目を見開かせ、

「じゃあ、ニキータ村の件は‥‥」

ハトネはそこまで言い、はっと自らの口を押さえる。しかしクリュミケールは頷き、

「そう。たぶん、オレがいたからだ。オレは器として必要なのだろうけど、もう生かして捕える必要がない‥‥ということかもしれない。だから、遅くなってごめん、すぐに言えなくてごめん。ニキータ村の件はオレのせ‥‥」
「クリュミケールさんは何も悪くないよ」

アドルはクリュミケールの言葉を遮り、

「だって、悪いのはそのロナスって奴なんでしょ!サジャエルとかいう人なんでしょ?クリュミケールさんは、被害者なんだよ!そうやって自分のせいとか言って自分を追い込むんじゃなくて、もっと悲しんでいいんだよ!辛いって言っていいんだよ」

アドルは真剣な顔で言った。クリュミケールは目を丸くし、

「‥‥被害者?オレが?」
「うん‥‥!器の件も、ニキータ村の件も、クリュミケールさんは被害者じゃないか!だから、これからはおれも戦う‥‥」

アドルは父の形見である短剣を見つめ、

「おれがクリュミケールさんを守るよ!家族として!」

ーー守る。
その言葉が木霊する。
それは、リオが、クリュミケールがよく口にしてきた言葉だから。
リオとクリュミケールは、守る為に戦ってきたのだから。

だが、面と向かってこんなにはっきりと、自らにその言葉が投げ掛けられたことがあっただろうか?

クリュミケールは不思議な気持ちになった。

「ねえ、クリュミケールさんは、ニキータ村、好きだった?」

ふと、アドルに聞かれ、勿論だとクリュミケールは頷く。

「うん。おれもだよ。だから、同じだよ。だから、今のクリュミケールさんの気持ち、凄く分かるんだよ」

アドルはそう言った。

アドルは昨日、住んでいた村と、知り合いだった人、母親を、あの一瞬で失ったのだ。
そしてその悲しみを、リオとシュイアのこととアドルは重ねているのだ。

(そうだな‥‥オレは、取り戻したい。家族の絆を取り戻したい。今ならわかる。家族‥‥シュイアさんは、オレの家族なんだ)

クリュミケールはそう感じる。
それから、もう一つの家族を想い、

「いつか‥‥フォード国の時みたいに、ニキータ村も再建したいなぁ」

ぽつりとクリュミケールは言い、

「でも、フォード国の時は国の人達がたくさんいて、その人達の力や資金でなんとかなったからなぁ‥‥」

そう言えば、

「故郷なんかなくていいよ」

アドルは微笑み、

「ニキータ村は大事な場所だけど、クリュミケールさんやキャンドル兄ちゃんがいれば、それだけでいい。もう、誰もいなくならないでほしい。それにーー‥‥」

アドルは一同を見つめ、

「ラズさんにハトネさん、カシルさんにフィレアさん。こんなにたくさん友達が出来たんだ!おれは、寂しくないよ」

なんて、アドルは言う。そんな彼に、

「友達‥‥ふふ、照れ臭いな」

ラズが言い、

「私も私も!クリュミケール君の友達は私の友達だもんっ」

ハトネも明るく笑う。

「そうね。出会ったばかりだけど、私はかつて出会ったばかりだったリオちゃんやハトネちゃんともすぐに仲間になれた。だからアドルにキャンドルーーきっとあなた達とも良い仲間になれるわ」

フィレアが言い、彼女はそのまま肘でカシルをつついた。カシルは嫌な顔をするだけである。

それでもアドルは嬉しそうに笑い、クリュミケールに向き直り、

「初めまして、リオさん」

なんて、いきなりそう言ってクリュミケールに笑顔で手を差し出した。クリュミケールは戸惑ったが、

「えっと‥‥?初めまして、アドル‥‥」

困ったように笑い、アドルの手を握り返す。

「そして、さよならリオさん。今、おれの目の前にいるのはクリュミケールさんだよ」

アドルはそう言って、リオと出会い、リオと別れ、クリュミケールの存在を肯定した。

「‥‥アドル。これからも、今まで通りでいてくれるのか?五年間、オレは‥‥」
「もう、この話は終わりだよ!まあ、クリュミケールさんが女の子だったのにはビックリしたけど!一緒に暮らしてたのにぜんぜん気づかなかったよー」

笑顔のままのアドルに言われ、クリュミケールは静かに目を閉じ、小さく感謝の言葉を彼に伝え、

(知られたくなかった。アドルだけは、巻き込みたくなかった。キャンドルも‥‥でも結局、巻き込んでしまった‥‥)

心の中で、罪悪感みたいなものを感じてしまう。

「目的は果たしたんだ、俺はもう行くぞ」

急にカシルがそう言うので、

「ええ!?また!?どうして!?」

ハトネは声を張り上げる。

「小僧を捜す為に俺を頼ったんだろ。ならもう終わりだ」
「まっ、まあそうだけど‥‥」

ラズは口ごもった。
クリュミケールは相変わらずの彼を見つめ、それからシュイアとカシルが百年も生きているという話を思い出す。
やはりろくな会話もしないまま、彼は転移魔術で姿を消してしまった。

「はあ‥‥ほんと、変わらないわねー」

フィレアは深くため息を吐く。


◆◆◆◆◆

もう一晩だけラズの家に泊まり、明日からはサジャエル達の足取りを追おうとクリュミケールは思った。
寝る前に町で準備を整えようと一人歩いていると、満天の星空の下、静寂に包まれたレイラフォードで、

「生きていたか」

と、落ち着いた男の声が背後から掛けられ、クリュミケールは振り向いた。
そこにいたのは、フードを被った男ーーロナス達、四人組の一人。
しかし、クリュミケールは剣を構えはしなかった。

夜風が吹き、男のフードが揺れ、ちらりと赤い左目が宵闇に光る。

「‥‥あの時は、ありがとう」

クリュミケールは男に礼を言い、

「あなたのお陰で、こうして生きている」

そう言った。

「そういえば、クリュミケールという名前は、大昔の小さな国の王様の名前なんだってね」

ラズがそう言っていたことをクリュミケールは思い出す。

「‥‥平民の努力劇の物語。お前は、本を読むのが好きだろう?」
「ああ、本は好き‥‥ん?あれ‥‥?そう、だっけ?」

男に言われ、クリュミケールは頭の中に靄がかかるような気がした。


ーー五年前のあの日。
ロナス達がリオに向けて魔術を放った時、この男は唯一、リオに転移魔術を唱えていた。
気づかれないよう、他三人の魔術を少し食らった後に転移した為、あの日、リオは負傷してしまったが、それでも無事に他の場所に転移していた。
三人分の魔術をその身に受けた為、リオは見知らぬ草原に倒れ、動けずにいた。

数分後、一人のフードの男がその場にやって来たのだ。

ーー近くに村があると。きっと誰かに助けられるだろうと。
できるだけ長く身を隠し、名前など偽れるものは偽れと。

クリュミケールという名前も、このフードの男が与えてくれた。
身を隠す為、性別も偽った。

唯一、アドルの父と母だけはクリュミケールが女であると知っていたが、理由も聞かず、隠してくれた‥‥

だが、わからない。なぜ、このフードの男はあの日、自分を助けてくれたのかが、わからない。

「でも、どうして助けてくれたんだ?あなたは、サジャエルの手下じゃないのか‥‥?」

クリュミケールの言葉の後で、シュンッ‥‥と、男の隣に、すでにフードを取ったリウスーーカナリアが転移してきた。
燃え盛るアドルの家の中で、

『あんたを監視する為、私はこの村に忍び込んだ。このことは私とあの人しか知らない‥‥はずだった』

彼女がそう言っていたのを思い出す。この二人は協力関係にあるということだろう。

「クリュミケール。不死鳥の山の小屋に行くんだ。多くで行けば気づかれる。一人で向かえ」
「えっ?」

ただ一言そう言い、男は姿を消してしまった。
カナリアも姿を消そうとするので、

「リウスちゃん!アドルが‥‥君を心配している、とても、心配してるよ」

クリュミケールの言葉を聞き、カナリアは僅かに目を細め、男を追うように姿を消した。
クリュミケールは二人が姿を消した場所を数秒見つめ、

(彼は‥‥誰なんだろう)

酷く胸がざわついた。

(‥‥不死鳥の山の小屋へ、一人で‥‥か。何があるんだ?)

だが、恐らく重要な何かがあるのだろう。クリュミケールはそう感じた。


~第六章~道標~〈完〉
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