異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

井上いるは

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第五章

フォルディアの街

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その時、馬車が静かに停まった。
コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
私は急いでリックさんの腕から離れた。

「はい。」

リックさんが返事をすると、御者の声が外から響いた。

「オルデン様、フォルディアに着きました。只今通用門にて順番待ちです。通行証のご提示をお願いします。」

「わかった。」

リックさんは胸元から銀色のプレートのようなものを取り出した。
それを見た瞬間、その未知のものに目を奪われた。

「これは身分証にもなる魔道具だよ。帝国では身分が認められた者は、このカードが発行される。お金を預けたり、通行税や仕事の報酬の支払いもこれでできる。」

マイナンバーカードと銀行カードを合わせたようなものかな?と考えた。

私たちの番が来て、鎧を着た兵士が馬車のドアを開けた。
リックさんがプレートを渡すと、兵士は門の外にある小さな建物に入っていった。
砂埃が舞い、兵士の足元に絡みつく。

しばらくして兵士が戻ってくると、さっきとは違った、緊張した声で話しかけてきた。

「オルデン様、ようこそフォルディアへ。ご同行の方はどなたでしょうか。」

リックさんは落ち着いて答えた。

「私の婚約者だ。」

「確認いたしました。どうぞお通りください。」

こうして無事に門を通過した。

「私は身分証出さなくて良いのね。」

私は少し驚いて尋ねた。

「ああ、あんなの建前なんだ。貴族は優遇されてるんだよ。」

リックさんは肩をすくめながら答えた。

「へえー。」

私は感心して、門を通る様子を見ていた。

街は高い煉瓦の壁に囲まれ、その威圧感が街の重厚さを物語っていた。
ここが祖父が滞在している街、フォルディアだと思うと、心が弾む。

しかし、門をくぐると、予想していた活気とは違い、張り詰めた空気が漂っていた。
石畳の道の両側には色とりどりの屋根を持つ家々が並んでいるが、市場では怒りの声が飛び交っている。

「こんな高値で野菜を売るなんて、どうかしてるわ!」

「仕方ないんだよ、戦争の影響で供給が減ってるんだから!」

「でも、これじゃあ家族が食べていけないよ!」

市場には『品薄』の看板が並び、人々の声が響いている。
年配の男性が価格に抗議し、店主が「仕入れが少ないから仕方ないの!」と反論する。
母親が泣く赤ん坊をあやしながら、買い物袋の中を確認している。

市場には少ない野菜や果物が並び、どれも新鮮さを欠いている。
その辺りでは、顧客と商人が声を潜めて交渉している。
「これでは三日分の食料にならない」と、ある女性が商人に訴えると、商人は困ったような笑みを浮かべて「戦争で仕入れ値が高く、私もギリギリなんですよ」と答える。
別の店先で、年配の男性が顔を赤くして叫び、隣の女性が肩を落として嘆いている。

この光景に、胸に緊張が走る。
リヴェール王国とは全然違う……。
穏やかな笑顔と市場の活気を思い出し、寂しさがこみ上げる。

「サラ、これが帝国の現状なんだよ。ここはまだ良い方だが、この国の未来が少しでも明るくなるようにと願ってる。」

リックさんの言葉には、深い苦悩と現実への強い重いが込められていた。
彼の言葉が単なる理想論ではなく、人々の苦しみを見据えた希望だと改めて理解する。
彼の横顔に、寂しげな影が差していた。

リックさんの真剣な言葉に、私もこの国の未来に希望を抱きたいと思った。
『私にもできることがあるはず…』と心で誓った。

「私も、リックさんと同じ気持ちでいたいの。だから、たくさんのことを教えてほしい。もっと深く、知りたい。」

リックさんは一瞬息を飲んで目を見開いた。
驚きが消え、表情が柔らかくなった。
その笑顔に勇気づけられた気がした。

「ありがとう、サラ。君と一緒なら、俺も頑張れる。」

リックさんの言葉に、胸の奥がじんわりと温まるように感じた。
彼と歩む未来を思い描くと、心の重みが少し和らいだ。

ふと祖父のことが頭をよぎり、重い空気を払拭するように明るく言った。

「もうすぐおじいちゃんに会えるのね。」

その言葉にリックさんも微笑みを返し、二人の間にまた穏やかな空気が流れた。


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