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しおりを挟むしばらく道なりに進むと、前方に暗がりながらも、大きなリボンでまとめた薄桃色のお団子頭が見えた。ヒーラー幼女のユリの後ろ姿だ。目の前の壁を指差して何かを叫んでいる。
近くには聖なる巫女のネロと、リッドも居た。
ネロは遠い地で別行動をとっていたはずだが、おおかた昨夜のアヤトの行動を嗅ぎつけて世界の果てから飛んできたのだろう。なにせあのアヤト狂信者軍団の一員なのだから、それぐらいのこと朝飯前だろう。
私が走る速さを緩めてゆっくりと歩み寄ると、ネロがギョッとこちらを振り返った。
「うわっテセラ、なんで生きてるの!?20人分の睡眠薬をお茶に仕込んでたのに!!」
「んなこたァどうでも良いんだよネロ…問題はそうじゃねェんだよォ…!!」
「お、落ち着けテセラ!口調が俺みてェになってっぞ!!!大丈夫だ、何もヤベェことにはなってねェから安心しろ!」
そういうリッドに私は怒鳴る。
「うるさい黙れ!…アイツはどこだ!アヤトはどこだ!!アヤトを出せぇえ!!」
「落ち着けっつーの!大丈夫だ、さっきアヤトがそこの壁に触れた途端、いきなり壁が光り出して変な紋様が刻まれて、アヤトがそこに呑み込まれた以外何も起きてねェから!」
「起きてるじゃん!思いっきり起きてるじゃないの!」
私はアヤトが消えたという壁に張り付くと、ばこばこ表面を叩き始めた。
「うおおおおお!出て来いアヤト!今すぐ出て来ーい!!!」
「ぎゃー!よせって、ヤメロって!テセラの馬鹿力で遺跡ごと壊れる!」
「壊してやる!」
すぐさまリッドに引き剥がされるが、私は杖を構え、超分解魔法の詠唱の準備に入る。
だが、詠唱の中途、壁も流石に危機を感じたのか、硬い表面を水面のように波打たせ、長い波紋を残して光を放ち始めた。
「これは……………」
思わず私を抱えて退いたリッドの目前で、壁はひときわ強く波打った後、光の粒を吐き出し始めた。
刹那、光粒の渦から人の手が突き出される。プハッと水面から顔を突き出すように、アヤトが中から現れた。
「な……………!?」
呆然とする仲間をよそに、アヤトは壁から這い出すと、華麗に地面に降り立ってみせた。
ーーーー隣には、知らない女を伴って。
………………このパーティ、抜けようかなぁ。
突如として現れたアヤトに、真っ先に反応したのは巫女のネロだった。
「アッ、アヤト!?大丈夫だったの…じゃなくて、べっ、別に心配なんてしてないんだからねっ!」
私がこの世で最も嫌悪するクソツンデレ言葉を吐いた後、ネロは慌てて彼に駆け寄った。
そんな彼女の心配に、アヤトは片手を上げることで答える。
「ああ。悪かったなネロ、皆。心配かけた。なんかこの壁に触れた途端、吸い込まれちまってさ。どうやら勇者にだけ反応する遺物だったっぽい。それに…って、げっ!!テセラ!?なんでここに!おい!ユリとネロ、ちゃんと止めといてくれって約束しただろ!!」
「ごめん、アヤト。言われた通り息の根を止めようと思ったけど、全然ダメだったわ。ご覧の通りピンピンしてるわね」
「うん…てへぺろ」
しかしユリはすぐに目を瞬かせると、アヤトの隣立つ少女に興味を示した。
「ていうか…隣にいるのはなあに…?アヤトの新しいオンナ?」
「オンッ…おい、そういう言い方は寄せよ!」
…あ゛?
ユリの失言をリッドが慌ててたしなめるが、時すでに遅し。
私はすでに臨時体制に入っていた。
オ゛ンナァ゛?
しかし少女はユリの言葉も意に介さず、少女はゆったりと首をかしげて見せる。
それどころか今にも溶けてしまいそうなほど、蕩けきった微笑を浮かべて目を細めた。
「ふふ、そうです。私は彼の忠実なるしもべなのです。彼のどんなことでも受け入れる、下僕になってしまったのです」
「「「えっ」」」
あぁ゛?
少女の爆弾発言に、全員の目が見開かれる。
「はあ!?し、しもべってどういうことだよ!」
「そうよ!!一体どういうわけっ!?」
驚いたリッドとネロに詰め寄られても、少女は笑顔を崩さず、逆にうっとりとした表情で、迷惑そうな顔をするアヤトにすり寄った。彼の手を握り、豊満に実った胸部に押し付ける。
「ええ、私、もう既にアヤト様にあんなことやこんなことをされてしまったのです。アヤト様には責任を取って私を娶っていただくことになりました」
「「「ええ~~~っ!!」」」」
よし!この女、殺そう!
…昔からこうだ。
何故かこの男は、おかしなものばかり引き寄せる。まるで強力な磁場を伴った電磁石のように、片っ端から対極の女を引き寄せる。
「わたしはミルカ。数千万年前から、この神殿を守り続けていた守護者。そして、かの有名なオキシドール博士により作られた、少女兵器の5体のうちの1体です」
なんだその二酸化マンガンぶち込みたくなる名前。
「オキシドール博士って、あ、あの有名な!?かつて世界の大改変をもたらしたっつー、伝説の発明家のことかよ!?」
意外なことに、一番大きな反応を見せたリッドにミルカは艶然と微笑えむと、長い金髪を揺らして両手をアヤトの腕に絡ませた。
「ええ。その通りです。そしてつい先ほど、神の落とし子であるアヤト様によって、数千万年の眠りから解き放たれたのです。言い換えれば、私を封印から救ってくださった救世主様なのです」
「ちょっと、どういう事なのアヤト!?それでどうしてこの女があんたのしもべになってるの?一体何が起きたのよ!!」
そう言って取り乱すネロは、今にもアヤトに掴みかからん形相だ。凄まじい勢いでアヤトに肉薄し、迫り寄った。
「えーと、これはですねその、色々とありまして…」
「色々じゃわかんないのよ!何、そんなに人に言えないことをやったの!?」
「そうなのです。彼は封印が解けたばかりの、意識の朦朧とした、裸で無抵抗の私にあんなことやこんなことを…」
「ちょーっとあんたは黙ろうか」
「ふふ、承知しました。けれど、先ほど言った言葉は嘘ではありませんよ?全裸の私の体を弄ったことは…」
あくまで笑みも供述も崩さないミルカに、途端に場に寂寞のとばりが降りてくる。
長い間の後、皆がじーっと物言いたげな目線でアヤトを見やった。
全員に非難と軽蔑の紛錯する視線を当てられて、アヤトは慌てて顔を紅潮させながら手を振って見せる。
「ちっ、違うんだ。ほら、見ての通りミルカさんって肌とか真っ白だしさ、もしかしたら死んでいるのかもって思って、それで呼吸とか心音を確認しようとしただけで…け、決してやましい気持ちは無いというか…」
「ふふふ、そうでしたね。確認と称して体を隅々まで舐るように触り倒したこと、ちゃんと覚えていますよ」
「ハァア!?」
「わーーー!だから違うって!」
そんなくだらない会話を聞き流しながら、私は静かに思考を馳せていた。
さて、どうしようか。
…一見隙だらけだが、先ほど少女は自分のことを少女兵器と言っていた。
なら動体視力や反射神経にも優れているかもしれない。警戒したほうが良さそうだ。
さて、どこから開こうか。
お腹をかっさばこうとも思ったが、鋼鉄かなんらかの武器仕込まれてる可能性もある。となるとやっぱり狙うのは首だろうか。
だが、首だと確実に頸動脈を仕留めなければならない上、出血量が多くて処理が大変だ。それに、証拠隠滅のために、地面に埋めた際、バレてしまうかもしれない。
いや待てよ…兵器なら、そもそも生身の体ではない可能性も否めない。つまり、全身が機械やそれ専用の部品で出来ている可能性もある。ということは、生半可な武器では傷一つつけられないということだ。
なら、いっそ爆裂系統の魔法で木っ端微塵にするか。それなら地面に埋める必要もない。
いやいや…兵器は魔法に強い耐性があると聞くから、うーん、どうしようか。
「おい。おい、テセラ」
やっぱり電気ショックが一番効くのかしらん。
「なんなの、リッド」
「おい、テセラ。…お前さんがなァに考えてるか、当ててやろうか」
「…今晩の夕食にはネジが入るかもしれないけれど、許してもらえると嬉しいの」
「やっぱりなァ!そんなことだろうと思ったよ!やめろ!やめろ!」
「あっでも機械油とか浮きそうね…いろんな意味で嫌だしやっぱり粒子レベルまで分解して塵も残さず抹消した方が良いの。ねえ、リッド?」
「逆に何故そこで話を俺に振る?っつーか、 お前さんもお前さんでそんな調子だから、今でもアヤトと微妙な距離感なんだよ!」
決めた。今夜の晩飯はリッドの八つ裂き味噌煮込みだ。
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