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その八十八
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※※※
「はあ、良かったあ。まさか日向さんに見つかっちゃうなんて思ってなかった。ビックリした。……でもなんで日向さん、行かせてくれたんだろ?」
電車に乗り込み、ふう、と一息つく私。上杉さんも追いかけてくると言われ、私は急いで日向さんと別れた後、最寄り駅から電車に乗った。そして待ち合わせ場所に向かいつつ、そんな事をふと考えてしまう。
今まで一度として恩田さんに逆らった事のない日向さんが、ああやって味方してくれた事が不思議だったな。そう言えば私、あんなにはっきり日向さんに意見したの初めてかも。それが理由なのかな? ……そういえば日向さん、ウイッグの中にGPSが仕込まれてるって言って、確かに実際それらしき物を取り出してたけど、まさかそんなものが仕込まれていたなんて。ウイッグに取り付けてあったという事は、私が変装して移動してる間も動向をチェックしようとしてたのか。……そんなに信用ないんだ私。まあでも、実際こうやって抜け出してるわけだけど。
でももし、日向さんに会わなかったら、上杉さんに見つかって連れ戻されてたかも。ある意味あそこで日向さんに見つかってて良かったのかも知れない。
エアコンの効いた電車内。外の猛烈な暑さから開放された事もあってか、日向さんに見つかった事でビックリしてた気持ちも落ち着ついて、退屈しのぎに車窓を眺めながら、そんな事を考えてる私。
そしてそろそろ待ち合わせ場所の最寄り駅に到着した。私は電車を降り、急ぎ足でそこに向かう。まだ時間はあるというのに。
だって、待ちきれないから。勿論、武智君はまだ来てないだろうけど、それでも早く目的地に着きたい。だからつい、気が急いてしまう。
しかしさすが東京。人が物凄く多くて、しかもみんな歩くの早くて、時々ぶつかってしまってごめんなさいって言うんだけど、もうどっかに行っちゃってたり、無視されたり。これが大都会の日常なんだろうな。
そして待ち合わせ場所にたどり着いた。ふう、と私は一息つく。今日も東京は日差しが強く、午前中だと言うのに蒸し暑い。電車内のエアコンで一気に冷えた体も、すぐさま暑さを思い出したように汗が吹き出す。因みに待ち合わせ場所はハチ公前広場。だから降りた駅はJR渋谷駅。テレビとかで見た事あったから、一度ここで待ち合わせしたかったんだよね。武智君も快く了承してくれたし。
さて、そろそろスマホの電源を入れよう。武智君から連絡あるかもしれないし。……上杉さんからも連絡あったかな? とちょっとビクビクしながらスマホを見てみたけど、上杉さんからはlineで「危険なとこには行かないように」と一言あるだけだった。良かった、ホッとした。どう言ったか分からないけど、日向さん、うまく言ってくれたんだろうな。ありがとう、日向さん。
そう、心の中でお礼を言いながら、広場前で武智君を待つ私。ハチ公前広場では私以外にも沢山の人が待ち合わせしてる。何だかレトロな緑色の電車が置いてあるけどモニュメントかな? あそこ入っていいのかな? 日除け出来るし入りたいけど。でも、武智君が来ちゃって気づけなかったら困るし。だから暑いけどあえて我慢して外で待ってよう。
テレビで何度も観た事のあるスクランブル交差点を行き交う人々を見ながら、私は未だずっとドキドキが止まらない。
だってもうすぐ武智君に会えるから。片時も忘れる事がなかった。上杉さんに見つからないよう、スマホに保存してある二人で撮った写真を時々眺めたりして。ずっとずっと会いたくて、ずっとずっと今日を楽しみにしてた。ああ、会ったら何話そう? でも考えたら、まだ二週間くらいしか離れてないんだよね。私どれだけ、武智君が好きなんだろう?
ふと、そんな風に武智君の事を考えてる自分に気がついて、つい恥ずかしくなってしまう私。でもいいや。今日は武智君に沢山甘えよう。後悔しないように。
そしてそろそろ約束の時間が迫ってきて、そわそわしながら辺りを見回してみる。スマホで着いた? とか、今どこ? とか聞いてみようかな? でも時間分かってるし何だか催促してるみたいに思われちゃうかも? そう考えたら何だか気軽に連絡できない私。何の気なしに駅の方を見てみると……、いた! 武智君だ! こっちに向かって歩いてきてる!
つい私は声を上げ名前を呼ぼうとする。だけど、それをすぐ飲み込んでしまう。
……隣で武智君にくっついてる可愛い両おさげの女の子、誰?
※※※
「……」
「ほらほら先輩! そんな暗い顔しちゃダメでしょ! こーんな可愛い女の子がそばにいるんだから」
いや俺の顔が暗いって言うなら、それは完全に山本のせいだろ。
まさかついてくるとは思ってなかった。ちょうどお盆の真っ最中、俺は姉貴のアパートに泊まる予定で今東京に来てるんだけど、実は空手部はそのお盆の間、学校に泊まり込みで合宿をする事になってる。俺は事前に顧問に事情を話し、抜けさせて貰ってたんだが、それを聞いた山本が、何と適当に顧問に嘘言って休みをとったらしい。
勿論俺は雄介や安川さん、そして家族以外に今日東京に行く事話してなかったんだけど、まさか顧問から聞き出して、しかも駅で待ち伏せしてるなんて思ってなかった。
一応建前として東京の大学を見に行く予定だけど……。本当の目的は柊さんに会う事だから非常に困る。山本と一緒にいるとこ見られでもしたら、余計な誤解をされてしまうだろうし。
だから当然、ついて来られると困るから勘弁してくれ、実は彼女と会う約束してるからってぶっちゃけたんだけど、それでも邪魔しないからって言って半ば強引についてきた。何でも前から東京には行ってみたかったそうで。
なら一人で行くか友達と行けよって言ったんだけど、「今そんな友達いないし、寧ろ武智先輩くらいしか仲いい人いないし」と悪びれた様子もない。
そんな俺の不満を気にした素振りを見せず、ニコニコしながら電車の中で俺の横に遠慮なく座ってる山本。つか、前から思ってたけど最近塾に一緒に行ってるからか、距離感近いんだよな。何考えてんだか。遠慮なさすぎだろ。
「つーか山本、分かってんの? 俺今から彼女に会いに行くんだぞ? だから、その……」「わーかってますって! 彼女さん見たらそこで解散しますから」
「見たらって……。待ち合わせ場所まで来るつもりかよ?」「だって武智先輩の彼女さん、前はちゃんと見れなかったから、今回はもっとはっきり見たいなあって思ってますもん」
「何でだよ……」「だって興味ありますからねー」
ずっとニコニコしながらそう話す山本。なんで興味あるんだよ。関係ねーじゃねーか。
「はあ。もうここまで来ちゃったら追い返せないから仕方ないけど、余りくっつくなよ」「分かってますって」
「それに俺こっちで数日泊まる予定だから、山本はすぐ帰れよ」「えー、連れないなあ」
連れないって……。そもそも勝手についてきたんだろうが。
「これからすぐ会う予定だし、どっちにしても山本とはすぐお別れだぞ」「えーせっかく来たのにぃ。もうちょっと一緒にあちこち見て回りたかったなあ」
そう言ってつまんなーい、と不満そうに愚痴る山本。俺はそんな山本の様子を見てはあ~、と大きなため息をついてしまう。
とりあえず渋谷駅に到着し、柊さんが待ち合わせ場所にしてきたハチ公前広場に向かう。つか、今日も本当暑いな。そして人多すぎだろここ。よくテレビで見るスクランブル交差点も、実際見ると人だらけ。蟻の大群みたいだ。
山本もどうやら初めて来たみたいで、物珍しそうにキョロキョロしてる。
何にせよもうすぐ柊さんに会える。まだ離れて二週間くらいだけど、時々電話やlineはしてたけど、それでも久々なのは違いない。自ずとテンションが上がってくる。徐々に急ぎ足になってくる。待ち合わせの時間より少し早いけど、柊さんなら来てるかも。
「ちょ、ちょっと先輩、早い早……、きゃっ!」そこで急に山本が、急ぎ足の俺を追いかけ横に並んだところで、人にぶつかり俺にもたれかかる。ったく、危ないなあ、気をつけろよ。俺は呆れ顔で山本の腕を掴み、体勢を整えてやる。
そしてふと、視線を感じ顔を上げると、凍りつくような表情で固まってる、茶髪ボブで黒縁メガネの、柊さんが目に入った。
「はあ、良かったあ。まさか日向さんに見つかっちゃうなんて思ってなかった。ビックリした。……でもなんで日向さん、行かせてくれたんだろ?」
電車に乗り込み、ふう、と一息つく私。上杉さんも追いかけてくると言われ、私は急いで日向さんと別れた後、最寄り駅から電車に乗った。そして待ち合わせ場所に向かいつつ、そんな事をふと考えてしまう。
今まで一度として恩田さんに逆らった事のない日向さんが、ああやって味方してくれた事が不思議だったな。そう言えば私、あんなにはっきり日向さんに意見したの初めてかも。それが理由なのかな? ……そういえば日向さん、ウイッグの中にGPSが仕込まれてるって言って、確かに実際それらしき物を取り出してたけど、まさかそんなものが仕込まれていたなんて。ウイッグに取り付けてあったという事は、私が変装して移動してる間も動向をチェックしようとしてたのか。……そんなに信用ないんだ私。まあでも、実際こうやって抜け出してるわけだけど。
でももし、日向さんに会わなかったら、上杉さんに見つかって連れ戻されてたかも。ある意味あそこで日向さんに見つかってて良かったのかも知れない。
エアコンの効いた電車内。外の猛烈な暑さから開放された事もあってか、日向さんに見つかった事でビックリしてた気持ちも落ち着ついて、退屈しのぎに車窓を眺めながら、そんな事を考えてる私。
そしてそろそろ待ち合わせ場所の最寄り駅に到着した。私は電車を降り、急ぎ足でそこに向かう。まだ時間はあるというのに。
だって、待ちきれないから。勿論、武智君はまだ来てないだろうけど、それでも早く目的地に着きたい。だからつい、気が急いてしまう。
しかしさすが東京。人が物凄く多くて、しかもみんな歩くの早くて、時々ぶつかってしまってごめんなさいって言うんだけど、もうどっかに行っちゃってたり、無視されたり。これが大都会の日常なんだろうな。
そして待ち合わせ場所にたどり着いた。ふう、と私は一息つく。今日も東京は日差しが強く、午前中だと言うのに蒸し暑い。電車内のエアコンで一気に冷えた体も、すぐさま暑さを思い出したように汗が吹き出す。因みに待ち合わせ場所はハチ公前広場。だから降りた駅はJR渋谷駅。テレビとかで見た事あったから、一度ここで待ち合わせしたかったんだよね。武智君も快く了承してくれたし。
さて、そろそろスマホの電源を入れよう。武智君から連絡あるかもしれないし。……上杉さんからも連絡あったかな? とちょっとビクビクしながらスマホを見てみたけど、上杉さんからはlineで「危険なとこには行かないように」と一言あるだけだった。良かった、ホッとした。どう言ったか分からないけど、日向さん、うまく言ってくれたんだろうな。ありがとう、日向さん。
そう、心の中でお礼を言いながら、広場前で武智君を待つ私。ハチ公前広場では私以外にも沢山の人が待ち合わせしてる。何だかレトロな緑色の電車が置いてあるけどモニュメントかな? あそこ入っていいのかな? 日除け出来るし入りたいけど。でも、武智君が来ちゃって気づけなかったら困るし。だから暑いけどあえて我慢して外で待ってよう。
テレビで何度も観た事のあるスクランブル交差点を行き交う人々を見ながら、私は未だずっとドキドキが止まらない。
だってもうすぐ武智君に会えるから。片時も忘れる事がなかった。上杉さんに見つからないよう、スマホに保存してある二人で撮った写真を時々眺めたりして。ずっとずっと会いたくて、ずっとずっと今日を楽しみにしてた。ああ、会ったら何話そう? でも考えたら、まだ二週間くらいしか離れてないんだよね。私どれだけ、武智君が好きなんだろう?
ふと、そんな風に武智君の事を考えてる自分に気がついて、つい恥ずかしくなってしまう私。でもいいや。今日は武智君に沢山甘えよう。後悔しないように。
そしてそろそろ約束の時間が迫ってきて、そわそわしながら辺りを見回してみる。スマホで着いた? とか、今どこ? とか聞いてみようかな? でも時間分かってるし何だか催促してるみたいに思われちゃうかも? そう考えたら何だか気軽に連絡できない私。何の気なしに駅の方を見てみると……、いた! 武智君だ! こっちに向かって歩いてきてる!
つい私は声を上げ名前を呼ぼうとする。だけど、それをすぐ飲み込んでしまう。
……隣で武智君にくっついてる可愛い両おさげの女の子、誰?
※※※
「……」
「ほらほら先輩! そんな暗い顔しちゃダメでしょ! こーんな可愛い女の子がそばにいるんだから」
いや俺の顔が暗いって言うなら、それは完全に山本のせいだろ。
まさかついてくるとは思ってなかった。ちょうどお盆の真っ最中、俺は姉貴のアパートに泊まる予定で今東京に来てるんだけど、実は空手部はそのお盆の間、学校に泊まり込みで合宿をする事になってる。俺は事前に顧問に事情を話し、抜けさせて貰ってたんだが、それを聞いた山本が、何と適当に顧問に嘘言って休みをとったらしい。
勿論俺は雄介や安川さん、そして家族以外に今日東京に行く事話してなかったんだけど、まさか顧問から聞き出して、しかも駅で待ち伏せしてるなんて思ってなかった。
一応建前として東京の大学を見に行く予定だけど……。本当の目的は柊さんに会う事だから非常に困る。山本と一緒にいるとこ見られでもしたら、余計な誤解をされてしまうだろうし。
だから当然、ついて来られると困るから勘弁してくれ、実は彼女と会う約束してるからってぶっちゃけたんだけど、それでも邪魔しないからって言って半ば強引についてきた。何でも前から東京には行ってみたかったそうで。
なら一人で行くか友達と行けよって言ったんだけど、「今そんな友達いないし、寧ろ武智先輩くらいしか仲いい人いないし」と悪びれた様子もない。
そんな俺の不満を気にした素振りを見せず、ニコニコしながら電車の中で俺の横に遠慮なく座ってる山本。つか、前から思ってたけど最近塾に一緒に行ってるからか、距離感近いんだよな。何考えてんだか。遠慮なさすぎだろ。
「つーか山本、分かってんの? 俺今から彼女に会いに行くんだぞ? だから、その……」「わーかってますって! 彼女さん見たらそこで解散しますから」
「見たらって……。待ち合わせ場所まで来るつもりかよ?」「だって武智先輩の彼女さん、前はちゃんと見れなかったから、今回はもっとはっきり見たいなあって思ってますもん」
「何でだよ……」「だって興味ありますからねー」
ずっとニコニコしながらそう話す山本。なんで興味あるんだよ。関係ねーじゃねーか。
「はあ。もうここまで来ちゃったら追い返せないから仕方ないけど、余りくっつくなよ」「分かってますって」
「それに俺こっちで数日泊まる予定だから、山本はすぐ帰れよ」「えー、連れないなあ」
連れないって……。そもそも勝手についてきたんだろうが。
「これからすぐ会う予定だし、どっちにしても山本とはすぐお別れだぞ」「えーせっかく来たのにぃ。もうちょっと一緒にあちこち見て回りたかったなあ」
そう言ってつまんなーい、と不満そうに愚痴る山本。俺はそんな山本の様子を見てはあ~、と大きなため息をついてしまう。
とりあえず渋谷駅に到着し、柊さんが待ち合わせ場所にしてきたハチ公前広場に向かう。つか、今日も本当暑いな。そして人多すぎだろここ。よくテレビで見るスクランブル交差点も、実際見ると人だらけ。蟻の大群みたいだ。
山本もどうやら初めて来たみたいで、物珍しそうにキョロキョロしてる。
何にせよもうすぐ柊さんに会える。まだ離れて二週間くらいだけど、時々電話やlineはしてたけど、それでも久々なのは違いない。自ずとテンションが上がってくる。徐々に急ぎ足になってくる。待ち合わせの時間より少し早いけど、柊さんなら来てるかも。
「ちょ、ちょっと先輩、早い早……、きゃっ!」そこで急に山本が、急ぎ足の俺を追いかけ横に並んだところで、人にぶつかり俺にもたれかかる。ったく、危ないなあ、気をつけろよ。俺は呆れ顔で山本の腕を掴み、体勢を整えてやる。
そしてふと、視線を感じ顔を上げると、凍りつくような表情で固まってる、茶髪ボブで黒縁メガネの、柊さんが目に入った。
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