ミミは生涯の番と別れられるか?

みづきかやの

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34話 国都の年末年始

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 国都では年末から年明けまで行事が目白押にあるのだが、とくに年の終わりには、いちばん大きな式典が待っている。

 名誉国都民賞の授賞式だ。

 毎年、一年の終わりに赤レンガ通りの大広場で大々的に行われる式典を、国都の住民たちは楽しみにしていた。

「うーん、見えないわね……」

 来るのが遅すぎたようで、ミミとサージュは大広場に集まっている人の群れを後ろのほうから眺めていた。

「もう発表されたのかしら?」

 受賞者はその日の当日に政庁の職員たちからこの大広場に連れてこられて、はじめて自分だと知るらしい。ミミなら頭が真っ白になるような出来事だ。

 前に行くのを諦めて背伸びをしていたミミに、前のほうにいたご婦人が答えを教えてくれた。

「今年の受賞者は新種の野菜を開発した河馬かば獣人の学者さんよ」
「新種の野菜!」

 素晴らしい研究にミミは心の中で拍手を送った。

「望みに研究に使う土地がほしいと言って、領主様たちは土地を無料で貸し出すとおっしゃったそうよ」

 伝言ゲームのように前のほうから式典で見たことが人づてで伝わってくるのだ。まわりを見ればみんな同じように人から人へ話しをしていた。

「去年はどんな人が受賞したんだろう……」

 ミミのつぶやきを、サージュは聞き逃さなかった。

「健康体操を国都に広めた猫獣人の女の人だったよ」
「健康……体操!? もしかして、ナッチュさんが朝にやってる運動のこと?」

 サージュはそうだと頷いた。

「望みはたしか……人間の国で踊りを学びたいって言って、留学の支援をお願いしてた」
「望みは、なんでもいいのね……」

 一応、本人の希望にそったものにはなるらしく、国都民は自分が選ばれたらどうしよう……と一度は何を望もうか考えるらしい。

 ミミも考えてみたのだが、何も思いつかなかった。

「その前は、船から落ちて川で溺れていた子どもたちを助けたわに獣人のお爺さんだった。望みは大きな風呂がほしいって言って、湯屋の無料券を一年分貰っていたよ」
「湯屋の無料券! なんて羨ましいの!」

 ミミもできることなら毎日お風呂に入りたい。

 今年最大の式典が終わると、来年は自分かもと国都民たちは胸を少しだけ弾ませて帰っていくのだった。





 一年の最大のイベントが終わればすぐに新しい年がやってくる。

 冷え切った快晴の空に、新年を知らせる号砲花火の音で国都の一日がはじまった。国都の新年もまた、年末に負けまいと盛大な祭で幕が開くのだ。

 とくに赤レンガ通りは各領地でも有名なほど華やかで、貴族も平民も集まってくる。ミミたちも店を開けずに早めに参加した。

 屋台や催し物を目的にした人々で左右前後どこを向いても混雑している。ミミは人の多さに酔ってしまい、早々とその場を離れてしまったのだが、人々の熱気は離れた静かな場所にまで届いてくる。ミミはその熱気を肌で感じながら、サージュと一緒に静かな道を散歩していた。

「凄く混んでいたわね。もっといろいろと見たかったんだけど、これだけだったわ……」

 ごめんね、とミミがサージュにフルーツ飴を渡すと、サージュは小さく微笑んで受け取った。

「おれも人が多いの苦手だから……。でも大きくなったらミミを抱っこして見てまわれるよ」

 なんと頼もしい言葉だろうか。

 ミミもサージュも小さいので、群衆の中に埋まると前にいる人の服しか見えなくなってしまうのだ。視線が高くなれば気分もだいぶ変わるだろう。

「嬉しいわ! そのときは、お願いね!」

 ミミの言葉にサージュは頬を染めて力強く頷いた。

「ここはやっぱり、雪が降らないのかしら」

 空気は冷え、空は曇っていた。

 領地ではとっくに雪が降り、いちめんが真っ白に覆われているだろう。毎年、新年のはじめに神殿へ祈りに行くのが恒例だったのだが、ミミはまだ、国都にある神殿には足を運んだことがない。

 祈りは届かなかった――。

 今でも失望と疑念が心の奥でひっそりと渦巻いていて、何を祈ればいいのかもわからなくなっていた。

「今年は降る気がする」

 サージュはミミの手を力強く握りながらそう言った。

 手袋ごしから伝わる熱が、ミミの冷えた指先を温めている。

 ミミは隣で一緒に歩くサージュを見た。目線が以前よりも近づいていると感じるのは気のせいだろうか。大きめだった服も、裾の折り数が減っている気がしていた。

 近くにいると、見逃してしまう小さな変化がある。できることなら全部に気づいて知っておきたいと思ってしまうのはなぜだろうか。

 言葉にするには難しい感情が、ミミの心の中できらきらと光っていた。



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