梁国復興記——美貌の男子たちが亡き国を復興するまで

武州人也

文字の大きさ
5 / 50

第五話 厭夜

 田管は、灯りのついている屋敷へと運ばれた。むしろの上に、その体が横たえられる。
「お前ら……何をするつもりだ」
「お前、やっぱり女みてぇな顔してんなぁ……俺ら溜まってるしちょっと相手してくれねぇか」
 中にいる四人の男たちは、下卑た視線をこの美貌の将に向けている。その彼らの表情を見て、田管は全てを察した。
「長いこと隊商の護衛とかやってきたがよぉ、武陽の城内にもこれに勝てる美女はいやしねぇですぜ大将」
「ああ。その通りだ」
 四人の内の中央にいる、大将と呼ばれた男の目が俄かにぎらつく。
「初めに言っておくがな、俺はこの軍の副将を務めている。余計な真似をすればお前の首一つ簡単に飛ばせるということを忘れるなよ」
 言いながら、大将と呼ばれたその男は、履き物を脱ぎ、自らの矛を露出させた。それを見た田管は、全てを諦めた。
「さて、じゃあまずは口でしてもらおうか」
 熱を持った矛が、口腔内を侵犯してくる。田管は抵抗する素振りを一切見せず、ただただ忍従の姿勢を取ったのであった。

 それから、幾日も、田管は男たちに呼びつけられては、彼らの慰みものとして使われ続けた。最初は四人であった男たちも、次第に五人、六人と増えていき、その男の数だけ、自らの肉体に粘ついた欲望を浴びせられる。
 そのような日々を送って、十二日程が過ぎた頃であった。
「そうだ。今日こそやっちまうか」
 大将と呼ばれる男――呉同ごどうという名前らしい――が、陰気な笑いを浮かべながら言い放った。それにつられて、周りの男たちもにやりと笑い始める。
 呉同は油を右手の指に塗りつけると、その指を田管の後庭に侵入させた。
「なっ、何を……」
「おい、暴れるな」
 言いようもない妙な感触から逃れようと、田管は身を捩ったが、呉同の左腕にその動きを制された。自身の体の内側で、男の指が蛇のようにのたうち回る悍ましい感触に、美貌の将は甚だ嫌悪感を覚えたが、さりとて逃れることもできず、目を瞑って耐え忍ぶより他はない。
「よし、こんなもんでいいだろ」
 呉同は侵入させていた指を引き抜いた。指から解放された田管は、少しく安堵した。
「さて、それじゃあ……」
 その呉子明は、履き物を脱いで矛を取り出した。そして、先程の油を、それに塗りつけ始めた。さながら、刀剣の手入れの様のようである。
「よし、じゃあお前、俺に跨れ」
 寝台の上に仰向けになった呉子明は、田管に向けて言った。その矛は、天を仰ぎ見るように屹立きつりつしている。
 田管は、目の前の男が何を意図しているのか、分からなかった。いや、分からなかったというよりは、敢えて分かろうとしなかったという方が正しい。男の考えていることを理解などしたくなかったからだ。
「おめぇ分からねぇのか。こういうことだよ」
 呉同の配下の男の一人に耳打ちされると、田管の顔はさっと青ざめた。
 ――こんな非道が、許されようものか
 田管はすぐさま、この場から逃げ出したくなった。が、それはできない。今の自分は囚われの身に過ぎず、今ここで彼らに叛意を見せれば自分自身のみならず他にここに移送された幕僚十数名の首も危うくなる。
 こんなことになるなら、いっそ夷門関を枕に討ち死にでもしていた方がよかったのではないか……そう思ったが、今更嘆いたとて、詮方せんかたないことである。
 田管は、天を仰ぐ矛を握り、それを後庭に突き入れるようにして、腰を落とした。この時、田管は、その身に雷が落ちたかのような衝撃を受けた。一刻も早く逃げ出したかったが、それは叶わない。恍惚とした表情をしている呉同とは引き換えに、田管のそれは引きつっていて、嫌悪感がはっきりと表出しているが、その意を酌んでくれる者は誰もないのである。
 突き上げられる度に、田管は必死に歯を食いしばって耐えた。今の彼にできることは、ただ早く終われと祈ることのみである。
 やがて、この美貌の将の内側に、熱いものが放たれた。この時の田管は、男の欲望をその身に注がれた屈辱よりも、寧ろこれで終わったという安堵の方が大きかった。
「よし、じゃあ今度は俺の相手をしろ」
 横合いから声が聞こえた。その夜は、田管にとってこれまで以上に屈辱的なものとなった。

 昼の間、田管は情報集めに終始した。とにかく、何時までもここに留まるつもりはなかった。田管自身、すでに呉子明のことは見限っていた。呉同の如き男に副将の地位を授けるような男である。このような者の率いる軍に、未来などあるものか。そう考えていたのである。
 その結果、興味深い情報を得ることができた。宋商は呉子明の他に二人の男に将軍の位を与えてそれぞれ中部地域と南部地域へ向かわせているのだが、その内で中部地方を平定せんとしている反乱軍の総大将は、張石ちょうせきという男であることが分かった。その男の素性も、はっきりと掴むことができた。彼は梁国の人間であり、先祖は代々梁の武官であったという。人望も厚く、軍の統率にも長けているという話だ。
「もしやすれば、梁国を復興してくれるやも知れぬ」
 田管はそう思った。普の支配を打ち破った後のことを、田管自身、考え始めている。普が破られれば、中原は往時のように、幾つかの国に分かれるであろう。その時に自分が身を寄せるべき国は、梁以外には有り得ない。そも、呉子明が如き男が梁王などとは片腹痛い。梁王にはもっと然るべき人間が立つべきである。取り敢えず、その張石なる男に会ってみたくなった。
 
 この頃、田管に想いを寄せる、一人の女人にょにんがいた。名を孟桃もうとうという者で、寿延の町娘である。彼女は田管の麗しい容貌に一目惚れし、度々彼の屋敷の近くに姿を現すようになっていた。
 最初は田管も、特段彼女を相手にしなかった。けれども、呉同一味の蛮行によって傷ついた心を潤そうと思って、あからさまに自らに懸想けそうしているこの女人と何かと会話を交わすようになっていたのである。
「それで……頼み事というのは」
 孟桃は、円らな瞳を田管の方に向けて問う。
「ああ、それなのだが……」
 田管はそっと耳打ちして、問いかけに答えた。耳に想い人の吐息を浴びた孟桃の頬が、朱色に染まり始める。
「引き受けてくれるか」
「はい……田管さまの為であれば……」
 孟桃は想い人を直視できなくなったようで、頬を朱に染めながら俯いた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。